乳がんステージ4の余命は?転移先別の治療と長く付き合う考え方

ピンクリボンと空を見上げる女性。乳がんステージ4の余命と治療を説明する記事

乳がんステージ4の余命は一つの数字では言えません。ホルモン受容体とHER2で分かれるサブタイプによって、使える薬も、臨床試験で示された生存期間も大きく違うからです。

乳がんステージ4とは、どんな状態ですか?

乳がんステージ4(IV期)は、骨・肝臓・肺・脳など乳房から離れた臓器に転移(遠隔転移)がある状態です。

病期(ステージ)は、しこりの大きさ、リンパ節転移、遠隔転移の3つで決まります。日本乳癌学会の乳癌取扱い規約第18版(2018年)では、IV期を「がんの大きさやリンパ節転移の有無に関わらず、他の臓器への遠隔転移がある」状態としています(がん情報サービス 乳がん 治療)。

つまり、しこりが小さくても遠隔転移があればIV期です。反対に、しこりが大きくリンパ節に広がっていても、遠隔転移がなければIV期にはなりません。

IV期には2つの入り方があります。最初に乳がんと診断されたときからIV期の場合と、手術などの治療後に遠隔転移として再発した場合です。治療の考え方はどちらも同じで、肝臓や肺に転移しても乳がんとして治療します(がん情報サービス、2025年6月19日更新)。

ステージの数え方そのものは、がんのステージはいくつまであるかで解説しています。

乳がんステージ4の生存率は何%ですか?

2014〜2015年に診断された乳がんIV期の5年生存率は、ネット・サバイバルで39.8%、実測生存率で38.6%でした。

出典は国立がん研究センターの院内がん登録生存率集計です(2023年3月公表、院内がん登録生存率最新集計値)。全国のがん診療連携拠点病院などで診断・治療を受けた人のデータです。

病期 症例数 5年 実測生存率 5年 ネット・サバイバル 10年 実測生存率 10年 ネット・サバイバル
I期 38,996 95.2% 98.9% 88.1% 93.7%
II期 30,931 90.9% 94.6% 80.5% 85.4%
III期 10,127 77.3% 80.6% 60.1% 63.8%
IV期 4,941 38.6% 39.8% 16.1% 17.0%
全体 85,403 88.1% 91.6% 77.7% 82.5%

出典:国立がん研究センター 院内がん登録生存率最新集計値。5年は2014〜2015年診断(2023年3月公表)、10年は2012年診断(2025年3月公表)。症例数は5年生存率の集計対象。10年生存率のIV期は1,916例

実測生存率は、がん以外の原因による死亡も含めて数えた割合です。ネット・サバイバルは、がんだけが死因となる状況を仮定して計算した割合です。今回の集計から、それまでの相対生存率に代えて、国際標準のネット・サバイバルが使われています(院内がん登録 2014-2015年5年生存率集計 報告書)。

乳がんではこの2つの差は小さく、IV期の5年で1.2ポイント、10年で0.9ポイントです。IV期の数字の大部分は、乳がんそのものの影響を表していると読めます。

部位ごとの数字の並べ方や、5年と10年の違いはがんの生存率の記事にまとめています。

乳がんステージ4の生存率は、誰を数えた数字ですか?

この生存率は、最初の診断時にIV期だった人の数字です。手術のあとに遠隔転移として再発した人は、原則として含まれていません。

院内がん登録の生存率集計は、原則として、その病院で初回治療を始めた人(症例区分2と3)を分析対象にしています。再発後に受診した人(症例区分4)は分析対象の中心ではありません(院内がん登録 2014-2015年5年生存率集計 報告書、2023年3月)。

ステージは、手術をした人では術後の病理学的ステージを、それがない人では治療前のステージを使い、UICC TNM分類第7版に準拠した総合ステージとして集計されています(同報告書)。

この表が答えていないこと

再発してIV期と同じ状態になった人の生存率は、この表からは読めません。再発までの期間や、それまでに受けた治療によって、使える薬も経過も変わるためです。また2014〜2015年に診断された人の数字なので、その後に承認された薬の効果は反映されていません。

17.0%

2012年に乳がんIV期と診断された1,916例の、10年ネット・サバイバル。
10年の数字は、診断から10年以上前に治療を始めた人の結果です。

出典:国立がん研究センター 院内がん登録生存率最新集計値(2025年3月公表)

乳がんステージ4の余命は、サブタイプで違いますか?

違います。サブタイプごとに使える薬が違い、臨床試験で示された生存期間の中央値にも大きな差があります。

サブタイプは、ホルモン受容体(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体)とHER2の有無で分けます。代表的な臨床試験の結果は次のとおりです。

サブタイプ 臨床試験(発表年) 対象 全生存期間の中央値
ホルモン受容体陽性・HER2陰性 PALOMA-2(2024年) 閉経後で、進行乳がんへの治療歴がない666例 パルボシクリブ+レトロゾール53.9か月、プラセボ+レトロゾール51.2か月(ハザード比0.96、有意差なし)
ホルモン受容体陽性・HER2陰性 MONALEESA-2(2022年) 閉経後で、進行乳がんへの治療歴がない668例 リボシクリブ+レトロゾール63.9か月、プラセボ+レトロゾール51.4か月(ハザード比0.76)
HER2陽性 CLEOPATRA(2020年) 転移に対する化学療法・抗HER2療法の治療歴がない808例 ペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル57.1か月、プラセボ群40.8か月(ハザード比0.69)
HER2低発現(88.7%がホルモン受容体陽性) DESTINY-Breast04(2022年) 化学療法を1〜2回受けた557例 トラスツズマブ デルクステカン23.4か月、主治医選択の化学療法16.8か月(ハザード比0.64)
トリプルネガティブ(PD-L1 CPS10以上) KEYNOTE-355(2022年) 局所再発で手術不能または転移があり、治療歴がない人 ペムブロリズマブ+化学療法23.0か月、プラセボ+化学療法16.1か月(ハザード比0.73)

出典:各試験の論文抄録(PubMed)。中央値は、半数の人がそれより長く生きた時点を指す

中央値は平均ではありません。生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中の人の期間です。半数の人は、表の数字より長く生きています。

HER2陽性のCLEOPATRA試験では、8年時点の全生存率がペルツズマブ群37%、プラセボ群23%でした(Lancet Oncology、2020年)。追跡期間の中央値は、ペルツズマブ群で99.9か月です。

同じCDK4/6阻害薬でも、MONALEESA-2では全生存期間の延長が示され、PALOMA-2では統計学的な差が示されませんでした。PALOMA-2では、生存状況が分からない人の割合が両群で13.3%と21.2%と偏り、結果の解釈が限られると論文自身が書いています。なお、リボシクリブは厚生労働省の資料(2020年4月30日時点)で国内開発断念とされています(厚生労働省 未承認薬リスト)。

試験の数字を自分に当てはめる前に

表の試験は、それぞれ対象の条件が違います。たとえばCLEOPATRA試験の対象は、全身状態(ECOG PS)が0か1の人でした。試験どうしの中央値を並べて、どのサブタイプが何か月長いと比べることはできません。

薬が今ほどなかった時代のデータもあります。1986〜1992年に早期乳がんと診断されたカナダの3,726例では、遠隔転移後の生存期間の中央値がルミナルA 2.2年、ルミナルB 1.6年、ルミナル/HER2 1.3年、HER2エンリッチ 0.7年、basal-like 0.5年でした(Journal of Clinical Oncology、2010年)。サブタイプで経過が違うこと自体は、薬が増える前から観察されていました。

トリプルネガティブの治療の詳細はトリプルネガティブ乳がんの記事にまとめています。

ステージ4の治療は、何を目指すのですか?

日本乳癌学会の患者向けガイドラインは、転移・再発乳がんの治療で生活の質(QOL)を保ち、よりよくすることを大切にしています。

患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版は、治療効果とQOL、利益と不利益のバランスを考えて治療を決めるとしています(Q42 転移・再発の薬物療法)。

進め方の基本は、一つの治療が効いている間は続け、効かなくなったら別の治療に変えるというものです(同Q42)。薬を順番に使い継いでいくため、最初の治療だけで全体の経過が決まるわけではありません。

薬を選ぶときは、次の3つを合わせて考えます(同Q42)。

  • がん細胞の性質(ホルモン受容体、HER2など)
  • からだの状態(転移の状況、症状、閉経の状況、臓器の働き)
  • 本人の希望

痛みや息苦しさを和らげる治療は、薬物療法と並行して受けられます。緩和ケアはいつから受けられるかで詳しく解説しています。

サブタイプごとに、どんな薬を使いますか?

ホルモン受容体陽性はホルモン療法、HER2陽性は抗HER2薬と抗がん薬、トリプルネガティブは抗がん薬が基本です。

ホルモン受容体陽性・HER2陰性

症状がなく、生命の危険が差し迫っていない場合は、ホルモン療法から始めます。広い範囲の肝転移や肺転移で症状があり、生命の危険が差し迫っている場合は、抗がん薬から始めます(患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 Q42)。

ホルモン療法には、分子標的薬のCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ、アベマシクリブ)を併用することがあります(同ガイドライン Q16)。ホルモン療法の副作用はホルモン療法の副作用の記事で解説しています。

HER2陽性

抗HER2薬(トラスツズマブ、ペルツズマブなど)と抗がん薬の併用が基本です。併用で生存期間が延びることが報告されています(同ガイドライン Q42)。抗体薬物複合体のトラスツズマブ エムタンシン、トラスツズマブ デルクステカンも使われます(同Q16)。

トリプルネガティブ

抗がん薬が基本です。PD-L1の発現を調べ、免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ)との併用を検討します。BRCA1/2に病的バリアントがある場合は、PARP阻害薬のオラパリブを使います(同ガイドライン Q42、Q16)。

分子標的薬と抗がん剤の違いは分子標的薬とはで解説しています。

転移した場所によって、治療は変わりますか?

全身への薬物療法が中心であることは変わりません。そのうえで、転移した場所の症状に合わせた治療を加えます。

がん情報サービス(2025年6月19日更新)は、転移先ごとの治療を次のように説明しています。

転移した場所 主な治療
骨 強い痛みには鎮痛薬や放射線治療。骨折の恐れがあれば、骨折を防ぐ整形外科の手術。痛みや骨折のリスクを減らす薬を使うこともある
肝臓・肺 基本は薬物療法。乳がんの転移か新しいがんか区別がつかないときは、診断のために切除や生検をすることがある
脳 主に放射線治療。転移が1つで手術しやすい場所なら手術で取り除くこともある。症状を改善するためにステロイドなどを使うこともある

出典:国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」(2025年6月19日更新)

転移しやすい場所はサブタイプで違います。前述のカナダの3,726例では、basal-likeを除くすべてのサブタイプで骨が最も多い転移先でした。HER2陽性系は脳・肝臓・肺への転移が、basal-likeは脳・肺への転移が多い傾向でした(Journal of Clinical Oncology、2010年)。

骨転移の痛みと急いで受診すべき症状は骨転移の痛みの記事にまとめています。

乳房のしこりは手術しないのですか?

診断時からIV期の乳がんで、乳房の手術を加えても生存期間は延びなかったという臨床試験があります。

インドで行われたランダム化比較試験では、最初の化学療法が効いた人などを、乳房と腋の局所治療を加える群と加えない群に分けました。全生存期間の中央値は19.2か月と20.5か月で、差はありませんでした(ハザード比1.04、Lancet Oncology、2015年)。

この試験は65歳以下で、2005〜2013年に登録された350例が対象です。試験の主な評価項目は全生存期間で、しこりの症状を抑える効果を調べた試験ではありません。

ステージ4で手術が選ばれる例外はステージ4はなぜ手術できないのかで解説しています。

主治医には、何を確かめればよいですか?

自分のサブタイプと、いまの治療が何番目の治療で、効かなくなったら次に何があるかを確かめます。

  • ホルモン受容体、HER2(低発現かどうかも含む)の結果
  • PD-L1、BRCA1/2の検査を受けたか、受ける予定があるか
  • いまの治療の目的(症状を抑える、進行を遅らせるなど)と効果の判定方法
  • 副作用がつらいときに、量を減らす・休むという選択肢があるか
  • 転移した場所で、急いで受診すべき症状は何か

初めてIV期と診断されたのか、再発なのかも確認しておきます。前に書いたとおり、公表されている生存率の表は、診断時からIV期だった人の数字だからです。

「余命」と言われた数字の意味と幅は、余命宣告はいつされるかで解説しています。

新見正則医院院長 新見正則

監修

新見正則(にいみ まさのり)

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。

日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)

詳しいプロフィール

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よくある質問

Q乳がんステージ4で10年生きる人はいますか?

います。2012年に診断されたIV期1,916例の10年生存率は、実測生存率16.1%、ネット・サバイバル17.0%でした(国立がん研究センター 院内がん登録、2025年3月公表)。ただし2012年診断の数字なので、その後に使えるようになった薬の効果は反映されていません。

Q乳がんステージ4の余命はサブタイプで違いますか?

違います。臨床試験の全生存期間の中央値は、HER2陽性で57.1か月(CLEOPATRA試験、2020年)、PD-L1陽性(CPS10以上)のトリプルネガティブで23.0か月(KEYNOTE-355試験、2022年)など、サブタイプごとに大きく異なります。試験ごとに対象が違うため、数字どうしを直接は比べられません。

Q乳がんステージ4で乳房の手術はしますか?

診断時から遠隔転移がある乳がんで、薬が効いた人に乳房と腋の手術を加えても、全生存期間の中央値は19.2か月と20.5か月で差がありませんでした(Lancet Oncology、2015年)。65歳以下の350例を対象にした試験です。

Q乳がんステージ4の生存率は、いつのデータですか?

国立がん研究センターが公表している最新の5年生存率は、2014〜2015年に診断された人の数字です(2023年3月公表)。10年生存率は2012年に診断された人の数字です(2025年3月公表)。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「院内がん登録生存率最新集計値」(5年:2014〜2015年診断・2023年3月公表/10年:2012年診断・2025年3月公表)
    https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/latest.html
  2. 国立がん研究センター「院内がん登録 2014-2015年5年生存率集計 報告書」(2023年3月)
    https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/pdf/hosp_c_reg_surv_2014-2015.pdf
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」(2025年6月19日更新)
    https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html
  4. 日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」Q42 転移・再発の薬物療法について教えてください
    https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/006-2/q42/
  5. 日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」Q16 乳がん治療に使われる薬剤にはどのようなものがありますか
    https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/30-2/q16/
  6. Slamon DJ, et al. Overall Survival With Palbociclib Plus Letrozole in Advanced Breast Cancer. J Clin Oncol. 2024;42(9):994-1000.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38252901/
  7. Hortobagyi GN, et al. Overall Survival with Ribociclib plus Letrozole in Advanced Breast Cancer. N Engl J Med. 2022;386(10):942-950.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35263519/
  8. Swain SM, et al. Pertuzumab, trastuzumab, and docetaxel for HER2-positive metastatic breast cancer (CLEOPATRA): end-of-study results. Lancet Oncol. 2020;21(4):519-530.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32171426/
  9. Modi S, et al. Trastuzumab Deruxtecan in Previously Treated HER2-Low Advanced Breast Cancer. N Engl J Med. 2022;387(1):9-20.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35665782/
  10. Cortes J, et al. Pembrolizumab plus Chemotherapy in Advanced Triple-Negative Breast Cancer. N Engl J Med. 2022;387(3):217-226.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35857659/
  11. Kennecke H, et al. Metastatic behavior of breast cancer subtypes. J Clin Oncol. 2010;28(20):3271-7.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20498394/
  12. Badwe R, et al. Locoregional treatment versus no treatment of the primary tumour in metastatic breast cancer. Lancet Oncol. 2015;16(13):1380-8.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26363985/
  13. 厚生労働省「国内で未承認又は適応外の医薬品のリスト」(2020年4月30日時点)
    https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/hoken/iryokiki/dl/kokunai_list.pdf

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