緩和ケアはいつから受けられる?「もう治療がない」と不安になる前に

緩和ケアは、がんと診断されたときから受けられます。治療が終わってから始めるものではありません。

この記事では、緩和ケアを始める時期の決まりと、その根拠を一次資料から確認します。あわせて、受けられる場所、費用、頼み方をまとめました。「緩和ケアを勧められた」と言われたときに、何を確かめればよいかも書いています。

緩和ケアはいつから受けられますか?

がんと診断されたときからです。手術や抗がん剤などの治療と並行して受けられます。

緩和ケアはいつから受けるかを示す模式図。がんと診断されたときから治療と並行して始まり、治療を終えたあとも続く。緩和ケア病棟は主に人生の最終段階で使われる

この時期は、国際的な定義と日本の法律の両方で示されています。

WHO(世界保健機関)が2002年に示した緩和ケアの定義には、次の一文があります。日本緩和医療学会などが作った日本語の定訳から引きます(日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)の緩和ケアの定義(2002年)」定訳)。

「病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む」

日本では、がん対策基本法が2016年12月に改正され、第17条に「緩和ケアが診断の時から適切に提供されるようにすること」が国と地方公共団体の務めとして書き込まれました(厚生労働省「がん対策基本法一部改正と第3期がん対策推進基本計画の検討状況について」)。2023年3月28日に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画も、がんの診断時から適切な緩和ケアが提供される体制を求めています(厚生労働省「がん対策推進基本計画」)。

国立がん研究センターのがん情報サービスも、「緩和ケアは、がんが進行してから始めるものではありません」と書いています(がん情報サービス「緩和ケア」2020年8月26日更新)。

したがって「いつから」に、待つべき条件はありません。治療中の痛み、吐き気、食欲不振、気分の落ち込みも、緩和ケアの対象です。

緩和ケアとは、何をするものですか?

病気に伴う体と心のつらさを早めに見つけて和らげ、患者さんと家族の生活の質(QOL)を保つための医療とケアです。

WHOの定義(2002年、日本語定訳)の本文は次のとおりです。

「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」

対象は「痛み」だけではありません。定義が挙げているつらさを、具体例と並べると次のようになります。

つらさの種類 例
身体的なつらさ 痛み、吐き気、食欲不振など
心理的なつらさ 気分の落ち込み、将来への不安など
社会的なつらさ 仕事のこと、生活のことなど
スピリチュアルなつらさ WHOの定義が、身体・心理社会と並べて挙げている問題

WHOの定義では、心理的なつらさと社会的なつらさをまとめて「心理社会的」と書いています。例はがん情報サービス「緩和ケア」(2020年)から。

定訳はこのあとに9つの項目を続けています。この記事に関係するのは次の4つです。

  • 痛みやその他のつらい症状を和らげる
  • 死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
  • 患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
  • 患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う

緩和ケアチームや緩和ケア外来のことか、緩和ケア病棟のことかで、意味が大きく違います。

「緩和ケア」という同じ言葉が、性格の違う複数の場に使われています。

緩和ケアチームや緩和ケア外来は、がんの治療を続けながら利用するものです。入院中に緩和ケアチームが診療したときの診療報酬(緩和ケア診療加算)の対象は、一般病床に入院している悪性腫瘍などの患者さんのうち、痛みや倦怠感などの体の症状、不安や抑うつなどの心の症状がある人です。がんの病期による限定は書かれていません(2026年6月施行の診療報酬点数表の通知)。

一方、緩和ケア病棟は、がんを治すための治療ではなく、つらさを和らげることを目的とした病棟です(がん情報サービス「緩和ケア」2020年)。主な対象は、がんを治すことを目指す治療が難しくなった人や、そうした治療を希望しない人です。

治療が続いている時期に「緩和ケアも受けましょう」と言われた場合と、治療の終わりを告げられた場面で「緩和ケアへ」と言われた場合とでは、指しているものが違うことがあります。言われたときは、次の3点を担当医に確かめると、受け取り違いを防げます。

  • 今の治療を続けたまま受けるものか
  • 受ける場所はどこか(今の病院の外来、入院中の病棟、別の病院の緩和ケア病棟、自宅)
  • どのつらさを和らげることが目的か

緩和ケアは、どこで受けられますか?

通院、入院、自宅の3つの場で受けられます。

全国のがん診療連携拠点病院であれば、どこでも緩和ケアを受けられます。拠点病院以外でも受けられる場合があります(がん情報サービス「緩和ケア」2020年)。

場 誰が担当するか がんの治療との関係
通院(担当医の外来) 担当医と看護師 治療と並行
通院(緩和ケア外来) 緩和ケアの専門的な知識をもつ医師と看護師 治療と並行。退院後も通える
入院(一般病棟) 担当医と、必要に応じて緩和ケアチーム 治療と並行
入院(緩和ケア病棟) 緩和ケア病棟の医療チーム がんを治す治療は行わない
自宅(在宅緩和ケア) 訪問診療医、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーなど 病院の担当医とのつながりも続けられる

出典:がん情報サービス「緩和ケア」(2020年8月26日更新)、同「がんの療養と緩和ケア」(2015年7月17日更新)。

緩和ケアチームには、どんな職種がいますか?

医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、心理士、栄養士などが関わります。緩和ケアチームが加わっても、担当医は変わりません。全国のがん診療連携拠点病院には、すべて緩和ケアチームがあります(がん情報サービス「がんの療養と緩和ケア」2015年)。

緩和ケア外来がない病院では受けられませんか?

緩和ケア外来がない施設もあります。その場合は、ほかの施設の緩和ケア外来を受診できます(がん情報サービス「緩和ケア」2020年)。

緩和ケア病棟とホスピスは違うのですか?

目的の言い表し方が少し違います。がん情報サービスは、緩和ケア病棟を「つらさをコントロールして、できる限り普段通りに生活する」場、ホスピスを「最期まで希望通りに生きる」場と説明しています。そのうえで、国の基準の上ではケアの内容と費用に大きな違いはないとしています。緩和ケア病棟は病院の中にある場合と、独立したホスピスや緩和ケア病院の場合があります。

入院まで待つ施設もあるため、がん情報サービスは早めに担当医へ相談するよう勧めています。

自宅でも、病院と同じ緩和ケアを受けられますか?

訪問診療、訪問看護、訪問介護、訪問入浴などのサービスを組み合わせれば、自宅で緩和ケアを受けられます。一人暮らしでも可能です。介護する家族が休むための短期間の入院(レスパイト入院)もあります。在宅への移行は、入院中の病院が訪問診療医や訪問看護ステーションに連絡して調整します(がん情報サービス「緩和ケア」2020年)。

早く始めると、何が変わるのですか?

診断の直後から緩和ケアを加えた人のほうが、生活の質が保たれたという試験があります。この試験が確かめようとしたのは、寿命ではなく生活の質です。

「早期からの緩和ケア」の根拠として最もよく引用されるのは、2010年に米国の医学誌New England Journal of Medicineに載った試験です(Temel JS, et al. N Engl J Med. 2010;363(8):733-742)。

  • 対象:転移のある非小細胞肺がんと診断されて8週以内の151人
  • 比べたもの:通常のがん治療に早期の緩和ケアを加える群と、通常のがん治療だけの群
  • 早期緩和ケアの中身:登録から3週以内に緩和ケアチームの外来を受け、その後は少なくとも月1回受診
  • 主要評価項目:12週時点での生活の質(QOL)の変化

結果は次のとおりです。

項目 早期緩和ケア群 通常治療のみの群
12週時点のQOLの点数(FACT-L、0〜136点) 98.0点 91.5点(P=0.03)
抑うつ症状のある人の割合 16% 38%(P=0.01)
人生の最終段階に積極的な治療を受けた人の割合 33% 54%(P=0.05)
生存期間の中央値 11.6か月 8.9か月(P=0.02)

出典:Temel JS, et al. N Engl J Med. 2010;363(8):733-742。

早期緩和ケア群は、人生の最終段階での積極的な治療が少なかったにもかかわらず、生存期間の中央値は長くなっていました。この数字は「緩和ケアを受けると長生きする」という形で広まることがあります。

生存期間の差は、この試験が確かめようとした項目ではない

この試験の主要評価項目は、12週時点の生活の質の変化です。生存期間は、それとは別に報告された結果です。対象は米国の1つの医療機関で治療を受けた、転移のある非小細胞肺がんの人に限られます。どちらの群に入ったかは、患者さんにも医療者にもわかる形で行われています。

WHOの定義も、緩和ケアを「死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない」としています。この1本の試験から「早く始めれば長生きできる」とは言えません。言えるのは、早く始めても寿命が縮んだという結果ではなく、生活の質と気分の落ち込みには差が出た、ということです。

151人

「早期からの緩和ケア」の根拠として最もよく引用される試験の参加者数。
1施設で、転移のある非小細胞肺がんの人だけを対象にしています。

Temel JS, et al. N Engl J Med. 2010;363(8):733-742

緩和ケアの費用はどのくらいかかりますか?

緩和ケアには公的医療保険が使えます。緩和ケア病棟の入院料は、1日あたりの定額です。

費用は診療報酬で決まっています。現在の点数は、2026年6月1日に施行された令和8年度の診療報酬改定によるものです(厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」)。1点は10円です。窓口で払うのは、この額に自己負担の割合(多くの人は3割)をかけた額です。

緩和ケア病棟の入院料

入院した日数 緩和ケア病棟入院料1(1日) 緩和ケア病棟入院料2(1日)
30日以内 5,277点(52,770円) 5,025点(50,250円)
31日以上60日以内 4,724点(47,240円) 4,555点(45,550円)
61日以上 3,515点(35,150円) 3,449点(34,490円)

円は自己負担割合をかける前の額。入院料1と2のどちらになるかは病棟の届け出によります。出典:診療報酬点数表 A310 緩和ケア病棟入院料(令和8年度改定)。

入院中の診療にかかる費用は、原則としてこの入院料に含まれます。食事の費用は別にかかります。個室などの室料差額がかかるかどうかは施設によります。

一般病棟で緩和ケアチームの診療を受けるとき

国に届け出をしている病院で緩和ケアチームが診療した日は、入院費に緩和ケア診療加算として1日390点(3,900円)が加わります。これにも自己負担の割合がかかります(診療報酬点数表 A226-2、令和8年度改定)。

月の負担が大きくなったとき

1か月の医療費の自己負担が上限を超えた分は、高額療養費制度で払い戻されます。上限額は年齢や所得に応じて決まっています(厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」)。

自宅で受けるとき

在宅緩和ケアにも公的医療保険が使えます。緩和ケア病棟に入院するより費用が安くなることがあります。訪問診療の交通費は自己負担になるのが一般的です(がん情報サービス「緩和ケア」2020年)。

介護用ベッドの貸与などには、介護保険が使えます。介護保険は原則65歳以上が対象ですが、がんは40〜64歳でも使える「特定疾病」に含まれています。ただし「医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る」とされ、要介護認定が必要です(厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」)。

緩和ケアを受けたいときは、誰に何を伝えればよいですか?

まず担当医か看護師に伝えます。患者さんや家族の側から希望してかまいません。

緩和ケアチームの診療は、担当医が勧めるのを待つ必要はありません。患者さんや家族から希望できます(がん情報サービス「がんの療養と緩和ケア」2015年)。

担当医に言い出しにくいときは、がん診療連携拠点病院にある「がん相談支援センター」に相談できます。その病院にかかっていない人や家族も、無料で相談できます(がん情報サービス「緩和ケア」2020年)。緩和ケア病棟や地域の在宅医療の情報も、ここで得られます。

つらさは、どう伝えればよいですか?

つらさを長く我慢しないことが前提です。がん情報サービスは、次の点を具体的に伝えるよう勧めています。

  • いつから
  • どこが
  • どのくらい
  • 生活にどう影響しているか

症状を日記のように書き留めて受診時に見せると、伝え漏れが減ります。

痛みの治療と医療用麻薬の使い方は、がんの痛みの治療と医療用麻薬の記事で説明しています。

これからの過ごし方も、話し合っておけますか?

治療を受けている間から、今後の治療や過ごす場所について、家族や医療者と希望を話し合っておくことが勧められています。厚生労働省はこの話し合いを「人生会議」と呼んでいます(がん情報サービス「緩和ケア」2020年)。

家族も緩和ケアを受けられますか?

受けられます。WHOの定義は、緩和ケアの対象を「患者とその家族」としています。

家族は、心の負担と生活の負担の両方を抱えるため、「第二の患者」と呼ばれることがあります(がん情報サービス「緩和ケア」2020年)。家族は医療チームやがん相談支援センターに相談できます。施設によっては、家族のための外来や、亡くなったあとの遺族のケアを行っているところもあります。

WHOの定義には「患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する」とあります。緩和ケアは、患者さんが亡くなったところで終わるものとしては定義されていません。

「緩和ケア」という同じ言葉が、診断の日から受けられるケアにも、人生の最終段階を過ごす病棟にも使われています。勧められたときは、どちらの意味なのかを確かめることから始められます。

「緩和医療に行ってください」という言葉を、僕はこう聞いています

緩和医療は、外科治療、放射線治療、そして抗がん剤治療に並んで、がん治療の4本柱とも言われます。緩和医療は終末期だけにお世話になるというよりも、がんの治療早期からサポートをお願いする傾向にあります。

ですから、緩和医療専門医が常勤でいることは、がん治療を受ける病院の必須要件だと考えています。日本緩和医療学会の専門医とその所属施設は、「緩和医療学会専門医一覧」などと検索すれば表示されます。長くお世話になる主治医も、緩和医療の経験がある人がベターでしょう。

一方で、ガイドラインに沿った治療の札がなくなると「緩和医療に行ってください!」と冷たく告げる医師がいます。そのとき「緩和医療も延命治療のひとつ」といった説明をされても、患者さんには無益に聞こえます。患者さんは最期まで希望を持ちたいのです。

新見正則医院院長 新見正則

新見正則(にいみ まさのり)

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年英国オックスフォード大学医学博士(移植免疫学)。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。

2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)

詳しいプロフィール

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よくある質問

緩和ケアは抗がん剤治療中でも受けられますか?

受けられます。WHOの定義(2002年)は、緩和ケアを病の早い時期から化学療法や放射線療法と組み合わせて行えるものとしています。がん対策基本法も、緩和ケアを診断の時から提供するよう定めています。

緩和ケアを受けると寿命が短くなりますか?

寿命が短くなったという結果は、早期緩和ケアの代表的な試験(Temel、2010年)では出ていません。この試験では早期緩和ケア群の生存期間の中央値が11.6か月、通常治療のみの群が8.9か月でした。ただし主要評価項目は生活の質で、生存期間はそれとは別の結果です。WHOの定義は、緩和ケアを死を早めも遅らせもしないものとしています。

緩和ケア病棟ではがんの治療は受けられないのですか?

緩和ケア病棟は、がんを治すための治療ではなく、つらさを和らげることを目的とした病棟です。治療を続けながら緩和ケアを受けたいときは、緩和ケア外来や、一般病棟での緩和ケアチームの診療を利用します。

緩和ケアは自分から頼めますか?

頼めます。担当医か看護師に、つらさの内容を伝えて希望してください。言い出しにくいときは、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに相談できます。家族からの相談もできます。

緩和ケア病棟の費用は1日いくらですか?

2026年6月施行の診療報酬では、緩和ケア病棟入院料1の場合、入院30日以内は1日5,277点(52,770円)です。ここに自己負担の割合がかかり、高額療養費制度の対象にもなります。食事代と室料差額は別です。

参考文献

  1. 日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)の緩和ケアの定義(2002年)」定訳(大坂巌ほか, Palliative Care Research, 14(2), 61-66, 2019)
    https://www.jspm.ne.jp/information/WHO/index.html
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」(2020年8月26日更新)
    https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/relaxation/index.html
  3. 国立がん研究センター がん情報サービス「がんの療養と緩和ケア」(2015年7月17日更新)
    https://ganjoho.jp/public/support/relaxation/palliative_care.html
  4. 厚生労働省「がん対策基本法一部改正と第3期がん対策推進基本計画の検討状況について」(2016年12月改正)
    https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000168737.pdf
  5. 厚生労働省「がん対策推進基本計画」(第4期、2023年3月28日閣議決定)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000018776.html
  6. Temel JS, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010;363(8):733-742.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20818875/
  7. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
  8. 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
    https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo3.html

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