抗がん剤による口内炎は、通常の治療で30〜40%の人に起こり、多くは2〜3週間で治ります。
口内炎が出やすい時期と、起こしやすい薬・起こりやすい人を、厚生労働省のマニュアルをもとに整理します。予防のうがいや歯みがき、氷で口を冷やす方法が、国際的な指針でどこまで確かめられているかも確かめます。痛くて食べられないときの対処と、連絡の目安もまとめました。
この記事の内容
抗がん剤で口内炎ができるのは、なぜですか?
薬が口の粘膜に直接働いて傷つけることと、抵抗力が落ちて口の中に細菌が感染することの、2つが原因です。
口の粘膜の細胞は、入れ替わりが速い細胞です。抗がん剤はこうした細胞にも働くため、粘膜が薄くなり、ただれや潰瘍ができます。抗がん剤で抵抗力(白血球)が落ちると、口の中の細菌による感染も加わります(厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎」平成21年5月・令和4年2月時点修正)。
医学の言葉では「口腔粘膜炎」とも呼ばれます。同じマニュアルは、気をつける症状として次のものを挙げています(同マニュアル 患者向け)。
- 口の中の痛み、出血
- 熱いものや冷たいものがしみる
- 口の中の乾燥、赤み、腫れ
- 口が動かしにくい、飲み込みにくい
- 味の変化
痛みで食事や会話がつらくなり、体力が落ちたり、いらいらや眠れないといった心の負担につながったりすることもあります(同)。
口内炎は、どのくらいの人に、いつ起こりますか?
通常の抗がん剤治療では30〜40%の人に起こり、投与後数日から10日目ごろに出やすく、多くは2〜3週間で治ります。
起こる割合は、治療の強さと組み合わせで大きく変わります。
| 治療 | 口内炎が起こる割合 |
| 通常の抗がん剤治療 | 30〜40% |
| 造血幹細胞移植(大量の抗がん剤を使う) | 70〜90% |
| 頭頸部への放射線治療と抗がん剤の併用 | ほぼ100% |
出典:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎」(平成21年5月、令和4年2月時点修正)。
時期は、抗がん剤を投与してから数日〜10日目ごろが多く、多くは2〜3週間かけて少しずつよくなります(同)。
ほかの副作用も含めた、出る時期と続く期間の一覧は、抗がん剤の副作用はいつから、いつまで続くかの記事にまとめています。
起こしやすい薬と、起こりやすい人
厚生労働省のマニュアルは、口内炎を起こす頻度が高い薬として次のものを挙げています。
- フッ化ピリミジン系(5-FU、S-1、UFTなど)
- メトトレキサート
- アントラサイクリン系
国に報告された副作用では、令和元年度の口内炎の報告290件のうち、メトトレキサート、エベロリムス、ベバシズマブ、オキサリプラチン、パルボシクリブなどが多くを占めていました(同マニュアル 参考資料)。ただし使われている量が薬ごとに違うため、件数で薬どうしを比べることはできません。
起こりやすくする条件は次のとおりです(同)。
- 虫歯、歯周病、合わない入れ歯など、口の中の衛生が悪い
- 高齢、ステロイドの使用、糖尿病などで抵抗力が落ちている
- 栄養状態がよくない
- 放射線治療を併用している
- たばこを吸う
- 抗がん剤を何種類も組み合わせる、量が多い、長時間続けて投与する
口内炎は、どうすれば予防できますか?
治療の前から口の中を整え、歯みがきとうがい、保湿で、口の中を清潔に、潤った状態に保つのが基本です。
厚生労働省のマニュアルは、予防として次のことを挙げています(厚生労働省 令和4年2月時点修正)。
- 歯ブラシなどで汚れを落とす口腔ケアを、1日4回を目安に行う。治療を始める前から始めるのが望ましい
- 1日7〜8回を目安に、うがいをする
- 口の乾燥を防ぐ保湿剤や保湿ジェルを使う
- たばこをやめる
- 氷のかけらを口に含んで粘膜を冷やす(口腔クライオセラピー)
国立がん研究センター中央病院は、口が乾いているときは1日3回いつも以上に丁寧に歯をみがくこと、刺激の少ないアルコールを含まない洗口液や保湿ジェルで粘膜を潤すこと、加湿器やマスクを使うことを勧めています(国立がん研究センター中央病院「口の中の乾燥、口内炎を軽減するには」)。
虫歯や歯周病、合わない入れ歯は、治療が始まる前に歯科で治しておけます。手術前に口の中を整える意味は、がんの手術前に準備することの記事でも扱っています。
予防法の効果は、どこまで確かめられていますか?
国際的な指針が「推奨」まで出しているのは、5-FUを急速静注で受ける人が30分間、氷で口を冷やす方法などに限られます。
国際がんサポーティブケア学会と国際口腔腫瘍学会(MASCC/ISOO)は、口内炎の予防と治療の方法を、試験の結果をもとに「推奨」「提案」「指針を作れない」などに分けています(Elad S, et al. Cancer. 2020;126:4423-4431)。抗がん剤を受ける人についての判断は次のとおりです。
| 方法 | 指針の判断(抗がん剤を受ける人) |
| 氷で口を30分冷やす(クライオセラピー) | 5-FUの急速静注を受ける人の予防に推奨 |
| 氷で口を冷やす(クライオセラピー) | 大量のメルファランを使う自家造血幹細胞移植の予防に推奨 |
| 複数の方法を組み合わせた口腔ケア | 予防に役立つと提案 |
| 歯科医師や歯科衛生士による専門的な口腔ケア | 指針を作れない |
| 生理食塩水や重曹(炭酸水素ナトリウム)のうがい | 指針を作れない |
| スクラルファート(口内炎の痛みの治療) | 固形がんの人には勧めない |
出典:Elad S, et al. Cancer 2020(MASCC/ISOO 2020年版)、メルファランの行は Correa ME, et al. Support Care Cancer 2020。
この表のうち、効果の大きさがはっきりしているのは氷で冷やす方法です。比較試験をまとめたコクランのレビューでは、5-FUを使う抗がん剤を受けた人で、冷やした群は冷やさなかった群に比べ、重い口内炎が起こる割合が0.40倍でした(リスク比0.40、5試験・444人、確かさは中程度)。程度を問わない口内炎では0.61倍でした(Cochrane Database Syst Rev 2015, CD011552)。
氷を使う前に、担当医に確かめること
推奨の対象は、5-FUを急速静注(短い時間で注射する方法)で受ける場合です。自分の治療に急速静注の5-FUが含まれているかは、担当医か薬剤師に聞けばわかります。
オキサリプラチンを使う治療では、注意が要ります。オキサリプラチンの患者向けの説明書は、冷たいものにふれると手足やのどのしびれが出やすくなるため、治療期間中は冷たい食べ物や飲み物を避けるよう求めています(オキサリプラチン 患者向医薬品ガイド 2023年9月更新)。氷を口に含むかどうかは、自分で決めずに担当医に相談します。
「指針を作れない」と「効かない」は同じではない
うがいや専門的な口腔ケアが「指針を作れない」とされたのは、比べた試験が少ない、または結果がそろわないためです。指針は、試験が1本だけでは判断を出さないと決めています。効かないことが確かめられたわけではありません。また「勧めない」という判断は、効果がないという結果に基づくもので、害があるという意味ではないとされています(Elad S, et al. 2020)。日本のマニュアルが勧める1日7〜8回のうがいは、口の中を清潔に保ち、乾燥を防ぐ基本のケアとして続けられています。
444人
5-FUを使う抗がん剤で、氷で口を冷やす方法を比べた試験5本の合計人数。抗がん剤の口内炎の予防で、国際指針が「推奨」まで出せた方法の根拠は、この規模にとどまります。
出典:Cochrane Database Syst Rev 2015, CD011552
口内炎ができてしまったら、どうすればよいですか?
口の中を清潔に保ちながら、痛み止めと食事の工夫で、治るまでの期間をしのぎます。
厚生労働省のマニュアルは、口内炎そのものを治す確立した方法はなく、症状を和らげる治療が中心だとしています(厚生労働省 令和4年2月時点修正)。
- うがいと口腔ケアを続ける
- 痛みには、局所麻酔薬(リドカインなど)を混ぜたうがい薬を使う
- 飲み薬の痛み止め(アセトアミノフェン、NSAIDs)を使い、痛みが強いときは医療用麻薬(オピオイド)も使う
- 粘膜を保護する薬、低出力のレーザー治療を組み合わせる
- 口から食べられないときは、管からの栄養や点滴を考える
食事の工夫
国立がん研究センター中央病院は、次のような工夫を挙げています(国立がん研究センター中央病院)。
- 熱いもの、冷たいもの、辛いものを避ける
- ゼリーやおかゆなど、やわらかいものを選ぶ
- しみにくい飲み物として、人肌に温めた生理食塩水(水1Lに食塩9g)を使う
冷たいものを避けるのは、しみるためです。前の節のオキサリプラチンの注意とあわせて、冷たいものの扱いは担当医に確かめておきます。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は効きますか?
半夏瀉心湯は、口内炎に使われることがある漢方薬です。日本で、大腸がんの抗がん剤(FOLFOX、FOLFIRI、XELOX)で口内炎が出た93人を、半夏瀉心湯のうがいと偽薬のうがいに分けた二重盲検の比較試験があります(Matsuda C, et al. Cancer Chemother Pharmacol. 2015;76:97-103)。
| 項目 | 半夏瀉心湯 | 偽薬 |
| 中等度以上(グレード2以上)の口内炎が起きた割合 | 48.8%(43人中21人) | 57.4%(47人中27人) |
| 中等度以上の口内炎が続いた日数(中央値) | 5.5日 | 10.5日 |
出典:Matsuda C, et al. Cancer Chemother Pharmacol 2015。1日7.5gを水に溶かしてうがいに使い、14日間続けた。
起きた割合の差は統計的にはっきりせず(p=0.41)、試験は主要な目標を達成できませんでした。続いた日数は短くなりました(p=0.018)。著者らは、より大きな試験が必要だとしています。使うかどうかは、担当医に相談して決めます。
どんなときに、早めに連絡すればよいですか?
痛みで食事や水分がとれないとき、熱が出たときは、次の受診日を待たずに連絡します。
国立がん研究センター中央病院は、口内炎に気づいたら我慢せず、早めに担当医か看護師に相談するよう勧めています(国立がん研究センター中央病院)。口から食べられない状態が続くと、栄養をとる別の方法が必要になることがあります(厚生労働省 令和4年2月時点修正)。
口内炎は、抵抗力が落ちて口の中に細菌が感染することでも起こります。熱が出たときの連絡の目安は、抗がん剤で免疫力が下がったときの感染症の記事で説明しています。
連絡するときは、次のことを伝えると状況が伝わりやすくなります。
- 口のどこが、いつから痛いか
- 食事と水分を、どのくらいとれているか
- 痛み止めやうがい薬を使って、どのくらい楽になるか
- 熱があるか
副作用を予防し、和らげる治療全体(支持療法)は、支持療法とは何かを説明した記事で扱っています。味の変わり方は、抗がん剤の味覚障害の記事にまとめています。
口内炎の予防でできることの多くは、歯みがき、うがい、保湿という毎日の手入れです。そのうえで、氷を使うかどうか、どの痛み止めを使うかは、受けている薬と投与のしかたで答えが変わります。自分の治療の名前と、5-FUの急速静注やオキサリプラチンが含まれているかを、一度確かめておくと相談が具体的になります。
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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口内炎がこじれる理由のひとつは、抵抗力が落ちる時期と重なることです。その時期がいつなのかを知っておくと、熱が出たときに迷わずに済みます。
抗がん剤で免疫力低下、感染症が怖い。危ない時期と何度で病院へ?
抗がん剤で白血球(好中球)が減る時期の目安と、病院に連絡する体温の日本の基準を説明した記事です。熱のほかに症状が少なくても連絡が必要な理由と、白血球を増やす薬が使われる場面も書いています。
よくある質問
Q抗がん剤の口内炎は、いつ治りますか?
厚生労働省のマニュアルでは、抗がん剤による口内炎は投与後数日〜10日目ごろに起こりやすく、多くは2〜3週間かけて少しずつよくなるとされています。
Q抗がん剤の口内炎を予防する方法はありますか?
治療の前から歯科で口の中を整え、歯みがき、うがい、保湿で清潔と潤いを保つのが基本です。国際的な指針は、5-FUを急速静注で受ける人に、30分間氷で口を冷やす方法を推奨しています。オキサリプラチンを使う治療では冷たいものを避けるよう求められているため、氷を使うかは担当医に確認します。
Q口内炎が痛くて食べられないときは、どうすればいいですか?
熱いもの、冷たいもの、辛いものを避け、ゼリーやおかゆなどやわらかいものを選びます。局所麻酔薬入りのうがい薬や痛み止めを使えるので、我慢せず担当医か看護師に相談してください。食事や水分がとれない状態が続くときは、早めに連絡します。
Q半夏瀉心湯は抗がん剤の口内炎に効きますか?
大腸がんの抗がん剤で口内炎が出た93人の比較試験では、中等度以上の口内炎が起きた割合は偽薬と統計的な差がありませんでしたが、続いた日数の中央値は5.5日と10.5日で短くなりました。より大きな試験で確かめる必要があるとされています。
参考文献
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎」平成21年5月(令和4年2月時点修正)
https://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm2203023.pdf - 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎」患者の皆様へ(医薬品医療機器総合機構 掲載)
https://www.pmda.go.jp/files/000252190.pdf - 国立がん研究センター中央病院「口の中の乾燥、口内炎を軽減するには」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/nursing/power/010/070/index.html - Elad S, Cheng KKF, Lalla RV, et al. MASCC/ISOO clinical practice guidelines for the management of mucositis secondary to cancer therapy. Cancer. 2020;126:4423-4431.
https://doi.org/10.1002/cncr.33100 - Correa ME, Cheng KKF, Chiang K, et al. Systematic review of oral cryotherapy for the management of oral mucositis in cancer patients and clinical practice guidelines. Support Care Cancer. 2020;28(5):2449-2456.
https://doi.org/10.1007/s00520-019-05217-x - Interventions for preventing oral mucositis in patients with cancer receiving treatment: oral cryotherapy. Cochrane Database Syst Rev. 2015, CD011552.
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD011552.pub2/abstract/en - Matsuda C, Munemoto Y, Mishima H, et al. Double-blind, placebo-controlled, randomized phase II study of TJ-14 (Hangeshashinto) for infusional fluorinated-pyrimidine-based colorectal cancer chemotherapy-induced oral mucositis. Cancer Chemother Pharmacol. 2015;76:97-103.
https://doi.org/10.1007/s00280-015-2767-y - オキサリプラチン点滴静注液「NK」患者向医薬品ガイド 2023年9月更新
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/530191_4291410A1096_1_01G.pdf





