がんで腹水がたまる原因の多くは腹膜播種で、治療は利尿薬、腹水を抜く処置、CARTなどから、たまり方と体の状態に合わせて選びます。
腹水は、おなかの張りや息苦しさ、食欲の低下につながり、生活のつらさに直結します。この記事では、がんで腹水がたまる仕組み、症状と検査、治療の種類とガイドラインの推奨、腹水を抜くとどうなるか、そして利尿薬が効きやすい腹水と効きにくい腹水があることを、日本緩和医療学会のガイドラインと査読論文から整理します。
この記事の内容
腹水とは何ですか?
おなかの中の、胃や腸などの臓器が収まっている空間(腹腔)にたまった液体のことです。
がん情報サービスは、腹水を「腹腔(腹壁に囲まれ、胃や腸などの臓器が収まっている空間)内に溜まった液体」とし、通常は少量だが、がんや炎症などが原因で過剰にたまると、お腹の張りや膨らみ(腹部膨満感)などの症状が現れると説明しています(がん情報サービス「腹水」2026年)。
腹水の原因は、がんだけではありません。日本の緩和医療の医師らによる総説は、がんによる腹水(悪性腹水)は腹水全体の約10%で、最も多い原因は肝硬変(80%)だとしています(Ikegami T, et al. Ann Palliat Med 2024)。
がんで腹水がたまるのは、なぜですか?
最も多いのは、がんがおなかの中に散らばる腹膜播種によるものです。肝臓の腫瘍で肝臓の血流が滞ることや、リンパの流れがふさがることでもたまります。
同じ総説は、がんによる腹水の主な原因として次を挙げ、腹膜播種による腹水が53%を占めたという報告を紹介しています(Ikegami T, et al. 2024)。
- 腹膜播種(がん性腹膜炎):最も多い原因(53%)
- 肝臓の腫瘍(原発・転移を問わない)による門脈圧亢進:肝臓へ向かう血流が滞り、水がしみ出す
- 肝硬変に肝細胞がんが加わったもの
- がん細胞がリンパ管をふさぐことによるもの(とする説がある)
腹膜播種がどんな状態かは、腹膜播種とは何かを説明した記事で扱っています。
どんながんで、腹水はたまりやすいですか?
総説は、がんによる腹水は卵巣がんで最も多く、胃がん、子宮がん、乳がん、大腸がん、膵臓がんとあわせて全体の80%を占めるとしています(Ikegami T, et al. 2024)。
どんな症状が出ますか?
おなかの張りが中心で、腹痛、吐き気、食欲の低下、息苦しさ、すぐにおなかがいっぱいになる感じなどが出ます。腹水が増えるほど強くなります。
総説は、がんによる腹水がある人の約60%がつらい症状を経験しているとし、次の症状を挙げています(Ikegami T, et al. 2024)。
| 症状 | 内容 |
| おなかの張り・痛み | 腹水でおなかが膨らむ |
| 吐き気・嘔吐 | 胃や腸が押される |
| 食欲の低下、すぐにおなかがいっぱいになる | 胃が押されて広がりにくくなる |
| 息苦しさ | 横隔膜が押し上げられる |
| だるさ、胸やけ | — |
出典:Ikegami T, et al. Ann Palliat Med 2024。症状の起こるしくみの説明は、腹水がおなかの中の臓器を押すことからの一般的な説明。
こうした症状は、がんの進行に伴って腹水の量が増えるほど強くなるとされています。
腹水は、どうやって調べるのですか?
おなかに針を刺して腹水を少し取り、がん細胞があるか(細胞診)や、腹水の成分を調べます。
腹水の中にがん細胞が見つかれば、がんによる腹水と判断できます。ただし、細胞診は必ずがん細胞を見つけられるわけではありません。総説が紹介する膵臓がんの研究では、腹水の細胞診でがん細胞が見つかったのは58%でした。総説は、こうした検査は常に十分な精度があるわけではなく、繰り返して確かめる必要がある場合があるとしています(Ikegami T, et al. 2024)。
腹水の成分からは、血液と腹水のアルブミン(たんぱく質)の濃さの差(SAAG:血清-腹水アルブミン勾配)を計算します。差が1.1 g/dL以上なら「漏出性」、1.1 g/dL未満なら「滲出性」に分けられます。がんによる腹水は多くが滲出性ですが、原因によっては漏出性になります(Ikegami T, et al. 2024)。この区別は、あとで説明する利尿薬の効き方に関わります。
腹水の治療には、どんなものがありますか?
利尿薬、腹水を抜く処置(腹腔穿刺ドレナージ)、管を入れたままにする方法、CART、デンバーシャントがあります。どれも、おなかの張りなどのつらさを和らげるための治療です。
日本緩和医療学会のガイドラインは、がん患者の悪性腹水による腹部膨満感に対する治療を、次のように評価しています(日本緩和医療学会「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版」)。
| 治療 | 何をするか | ガイドラインの推奨 |
| 利尿薬(スピロノラクトン、フロセミド) | 尿を増やして体の水分を減らす | 行うことを提案する(2D:弱い推奨、とても弱い根拠) |
| 腹腔穿刺ドレナージ | おなかに針を刺して腹水を抜く | 行うことを提案する。穿刺が頻回になるならカテーテル留置を検討する(2C:弱い推奨、弱い根拠) |
| CART(腹水濾過濃縮再静注法) | 抜いた腹水をろ過・濃縮して、点滴で体に戻す | エビデンスが不足しているため、推奨を結論できない |
| 腹腔静脈シャント(デンバーシャント) | 管を体の中に埋め込み、腹水を静脈に流す | エビデンスが不足しているため、推奨を結論できない |
出典:日本緩和医療学会「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版」III章 推奨3 悪性腹水(CQ5〜8)。
原因になっているがん(腹膜播種など)そのものへの治療は、がんの種類によって違います。腹膜播種に対する治療の選択肢は、腹膜播種の記事で整理しています。
利尿薬
ガイドラインは、報告が多いのはスピロノラクトンとループ利尿薬(フロセミドなど)で、どちらがより有効かは明らかではないとしています。トルバプタンは重大な副作用(腎不全、血栓塞栓症、肝機能障害など)があり慎重な投与が必要で、がん患者の腹水に広く使われているわけではないとしています(日本緩和医療学会 2017年)。
腹腔穿刺ドレナージ
ガイドラインは、利尿薬などの薬が効かないこと、すぐに症状を和らげる必要があること、画像で腹部の膨らみの原因が腹水だと確かめられていることを条件に挙げ、本人の意向を確かめて十分に説明することが必要だとしています。重い合併症として、重い血圧の低下や感染性腹膜炎が報告されています(日本緩和医療学会 2017年)。
CART(腹水濾過濃縮再静注法)
CARTは、抜いた腹水からがん細胞や細菌などをろ過して取り除き、たんぱく質を濃縮して点滴で体に戻す治療です。総説は、腹水のたんぱく質を戻すことで血液の浸透圧を保つことが目的で、日本では1981年から健康保険の対象になっているとしています(Ikegami T, et al. 2024)。
副作用として多いのは発熱です。ガイドラインが紹介する前向きの研究では、グレード2の発熱が35%、悪寒戦慄が19%に起こり、全体の49%で何らかの有害事象がありましたが、重い有害事象の報告はありませんでした(日本緩和医療学会 2017年)。
デンバーシャント(腹腔静脈シャント)
ガイドラインは、合併症として急性心不全、肺水腫、食道静脈瘤の破裂、播種性血管内凝固(DIC)を挙げ、ある研究では60人(53.1%)でシャントが詰まるなどのシャント不全が起きたと紹介しています(日本緩和医療学会 2017年)。
腹水を抜くと、どうなりますか?
おなかの張りはすぐに楽になりますが、腹水はまたたまるため、繰り返し抜くことが多くなります。1回に抜く量は、体の状態に合わせて決めます。
総説は、腹水を抜く処置は症状を抑え続けるために頻繁に繰り返す必要があることが多いとしています。1回に抜く量について、ガイドラインの中には5Lまで認めるものがある一方、予後が限られた体力の弱い人では1〜3Lがつり合いのよい量だとする緩和ケアの専門家の意見を紹介しています(Ikegami T, et al. 2024)。日本緩和医療学会のガイドラインも、経験的には1〜3L程度で行われることが多いとしています(日本緩和医療学会 2017年)。
腹水を抜くと、腹水に含まれるたんぱく質も一緒に体の外に出ます。CARTは、このたんぱく質を体に戻すための方法です。
穿刺を何度も繰り返すことになる場合は、カテーテル(管)をおなかに入れたままにする方法が検討されます。総説は、この方法は腹水のコントロールに有効と報告されている一方、管を入れた場所の周りから腹水が漏れることが約20%で起きたとしています(Ikegami T, et al. 2024)。
利尿薬が効きやすい腹水と、効きにくい腹水があるのですか?
あります。肝臓の腫瘍で血流が滞ってたまる腹水には利尿薬が効きやすく、腹膜播種でたまる腹水には効きにくいとされています。
総説は、利尿薬は漏出性の腹水(SAAG 1.1 g/dL以上)で最も役に立つ一方、腹膜播種に典型的な滲出性の腹水ではほとんど役に立たないとしています(Ikegami T, et al. 2024)。
日本緩和医療学会のガイドラインが紹介する小さな研究(Pockrosら、1992年)では、腹水の主な原因が腹膜播種4人、巨大な肝転移3人、肝硬変9人の計16人に利尿薬を使い、巨大な肝転移のある3人では全員で腹水が減りました(日本緩和医療学会 2017年)。
同じ「がんの腹水」でも、たまる仕組みが違えば、利尿薬が効くかどうかも変わります。腹水の検査でSAAGが調べられていれば、その値は利尿薬を続けるかどうかを考える手がかりになります。
推奨が弱いことと、効かないことは別
腹水の治療は、利尿薬が「とても弱い根拠」、腹水を抜く処置が「弱い根拠」で、CARTとデンバーシャントは「結論できない」とされています。これは、比べた研究が少なく小さいという意味で、治療が効かないと示されたわけではありません。逆に、推奨の弱い治療を並べて、どれが一番よいかを決められる段階にもありません。症状と体の状態に合わせて、試しながら選ぶことになります。
2D
日本緩和医療学会のガイドラインで、がんの腹水に対する利尿薬の推奨の強さ。「弱い推奨、とても弱い根拠」を意味します。腹水を抜く処置は2C、CARTとデンバーシャントは推奨を結論できない、とされています。
出典:日本緩和医療学会「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版」CQ5〜8
がんで腹水がたまると、余命はどのくらいですか?
総説は、腹水がある人の生存期間の中央値を5〜7か月とする報告を挙げていますが、原因のがんや、腹水のたまり方によって違います。
総説が紹介する研究では、腹水がある人の生存期間の中央値は5〜7か月で、6か月より長く生きた人は11%でした。卵巣がんでは、平均の生存期間が32週と報告されています(Ikegami T, et al. 2024)。
ただし、これらは総説が引用する個別の研究の数字で、いつ、どんながんの、どんな治療を受けた人を、いつから数えたかは研究ごとに違います。腹膜播種の余命として示される数字が、数え方でどれほど変わるかは、腹膜播種の記事で4つの数字を並べて説明しています。
胸の中に水がたまる場合(胸水)は、胸膜播種とは何かを説明した記事で扱っています。
腹水がたまったら、何を確かめればよいですか?
腹水の原因(腹膜播種か、肝臓の腫瘍か、ほかの原因か)、細胞診と成分の検査の結果、そしてどの治療が自分の体の状態に合うかを確かめます。
説明を受けるときに確かめておくとよい項目は、次のとおりです。
- 腹水の原因は、腹膜播種か、肝臓の腫瘍か、ほかの原因か
- 腹水の細胞診でがん細胞は見つかったか
- SAAG(漏出性か滲出性か)は調べたか
- 利尿薬を使う場合、どのくらい様子を見て、効かなければ次に何をするか
- 腹水を抜く場合、1回にどのくらい抜き、どのくらいの間隔になりそうか
- CARTやカテーテル留置を受けられる病院か
- 原因になっているがんそのものの治療は、何を予定しているか
腹水の治療は、どれも「おなかの張りを楽にする」という同じ目的に向かっていますが、推奨の強さはどれも決め手になるほどではありません。だからこそ、自分の腹水がどの仕組みでたまっているのかを知ることが、治療を選ぶときのいちばん確かな手がかりになります。
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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腹水のつらさを和らげる治療は、がんの治療の段階を問わず受けられる緩和ケアの一つです。いつから、どこで受けられるのかを知っておくと、相談の窓口が増えます。
緩和ケアはいつから受けられる?「もう治療がない」と不安になる前に
緩和ケアをいつから受けるのかを、WHOの定義とがん対策基本法から確かめ、受けられる場所、費用、頼み方をまとめた記事です。
よくある質問
Qがんで腹水がたまるのはなぜですか?
最も多い原因は、がんがおなかの中に散らばる腹膜播種で、がんによる腹水の53%を占めたという報告があります。ほかに、肝臓の腫瘍で肝臓へ向かう血流が滞ることや、肝硬変に肝細胞がんが加わったこと、がん細胞がリンパ管をふさぐことでもたまるとされています。
Q腹水は抜いたほうが楽になりますか?
おなかの張りはすぐに楽になりますが、腹水はまたたまるため、繰り返し抜くことが多くなります。日本緩和医療学会のガイドラインは、薬が効かず、すぐに症状を和らげる必要がある場合に腹腔穿刺ドレナージを行うことを提案しています(弱い推奨)。1回に抜く量は経験的に1〜3L程度で行われることが多いとされています。
QCARTとは何ですか?
腹水濾過濃縮再静注法のことで、抜いた腹水をろ過・濃縮して、たんぱく質を点滴で体に戻す治療です。日本では1981年から健康保険の対象です。発熱などの副作用があり、日本緩和医療学会のガイドラインは、エビデンスが不足しているため推奨を結論できないとしています。
Q利尿薬は腹水に効きますか?
腹水のたまり方によって違います。肝臓の腫瘍で血流が滞ってたまる漏出性の腹水には効きやすく、腹膜播種による滲出性の腹水にはほとんど効かないとされています。日本緩和医療学会のガイドラインは、利尿薬の投与を弱く提案しています(とても弱い根拠)。
Q腹水がたまると余命はどのくらいですか?
総説は、腹水がある人の生存期間の中央値を5〜7か月とする報告を挙げています。ただし、原因のがんや治療、数え始めの時点は研究ごとに違い、一人ひとりの見通しとしてそのまま当てはまる数字ではありません。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「腹水」(2026年3月6日更新・2026年10月25日確認)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/fukusui.html - 日本緩和医療学会「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン 2017年版」III章 推奨3 悪性腹水
https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2017/03_03.pdf - Ikegami T, Ishiki H, Kadono T, Ito T, Yokomichi N. Narrative review of malignant ascites: epidemiology, pathophysiology, assessment, and treatment. Ann Palliat Med. 2024;13(4):842-857.
https://doi.org/10.21037/apm-23-554 - Pockros PJ, Esrason KT, Nguyen C, et al. Mobilization of malignant ascites with diuretics is dependent on ascitic fluid characteristics. Gastroenterology. 1992;103:1302-1306.





