抗がん剤の味覚障害は、投与の数日後に強く出て、次の投与までに軽くなる波をくり返すことが多い変化です。
味覚障害が起こる理由、どのくらいの人に起こるか、いつ戻るかを、研究の数字で確かめます。味がしない、苦い、甘すぎるといった変わり方ごとの食事の工夫と、よく勧められる亜鉛がどこまで確かめられているかもまとめました。
この記事の内容
抗がん剤で味が変わるのは、なぜですか?
味を感じる細胞や神経が傷つくこと、唾液が減ること、亜鉛が不足することなどが重なって起こります。
国立がん研究センター東病院の栄養管理室は、抗がん剤で正常な細胞が傷つくことによる原因として、次の3つを挙げています(国立がんセンター東病院 栄養管理室「味覚が変わってきたとき」)。
- 舌にある味を感じる細胞(味細胞)や、味を伝える神経が傷つく
- 唾液が減り、味の成分を味細胞に運ぶ働きが弱くなる
- 食事の量が減ったり、亜鉛の吸収を妨げる薬を使ったりして、亜鉛が足りなくなる
口内炎があると、しみる、痛いといった症状に加えて、味の感じ方も変わります(厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎」患者向け)。口の中の荒れについては、抗がん剤の口内炎の記事で扱っています。
においの感じ方が変わることもあります。抗がん剤を受けている人の味とにおいの変化を調べた試験では、2つの変化は強く結びついていました(Lyckholm L, et al. J Pain Palliat Care Pharmacother. 2012)。
味覚障害は、どのくらいの人に起こりますか?
研究によって幅がありますが、がんの治療を受ける人の半数から4分の3に起こると報告されています。
がんの治療による味覚の変化を調べた論文をまとめたレビューは、起こる割合を、治療の種類によって56〜76%としています(Hovan AJ, et al. Support Care Cancer. 2010;18(8):1081-1087)。同じレビューは、報告される割合の幅が広いことも指摘しています。抗がん剤、放射線治療、その両方のどれでもよく起こり、生活の質を下げることが多いとしています。
味の変わり方には、いくつかの型があります。国立がん研究センター東病院の栄養管理室は、次の3つに分けています(国立がんセンター東病院 栄養管理室)。
| 変わり方の型 | 例 |
| 本来と違う味に感じる | 苦い、金属のような味がする |
| 味を強く感じる | 何でも甘い、極端にしょっぱい |
| 味を弱く感じる | 味がよくわからない、何かに包まれているような感じがする |
出典:国立がんセンター東病院 栄養管理室「抗がん剤治療中の簡単・お助けレシピ 味覚が変わってきたとき」。
味覚障害は、いつ戻りますか?
1回の投与の中では数日後に強く出て次の投与までに軽くなり、治療が終わってからはおよそ2か月で戻ったという研究があります。
味覚の変化は、治療が終わるまでずっと同じ強さで続くとは限りません。投与のたびに強まり、次の投与までに軽くなる波をくり返すことが、2つの研究で示されています。
| 研究 | 対象 | わかったこと |
| 日本(東海大学病院など) | 乳がんでEC療法(エピルビシンとシクロホスファミド)を受けた41人 | 自分で味の変化を感じた人は、投与4日目の平均で53%。次の投与の直前には約9.0%まで減った |
| オーストラリア(3施設) | 早期乳がんで手術後の抗がん剤を受けた女性52人 | 5つの基本の味をすべて言い当てられた人の割合は、各サイクルの前半で下がり、後半には戻った。治療終了から約2か月後の検査では、治療前と差がなかった |
出典:Denda Y, et al. Breast Cancer 2020/Boltong A, et al. PLoS One 2014。
日本の研究は、各サイクルの投与4日目と次の投与の直前に、質問票とろ紙を使った味の検査で調べています(Denda Y, et al. Breast Cancer. 2020;27(5):954-962)。オーストラリアの研究は、治療前、3回目のサイクルの前半・中ごろ・後半、最後のサイクル、治療終了後に、味の検査をくり返しました(Boltong A, et al. PLoS One. 2014;9(7):e103512)。
食欲も、味と同じように各サイクルの前半で落ちていました(Boltong A, et al. 2014)。投与の直後の数日がいちばん食べにくく、次の投与の前は比較的食べやすい、という見通しを持っておくと、食事の計画が立てやすくなります。
「2か月で戻った」が当てはまる範囲
2つの研究はどちらも、乳がんの人が受けた特定の抗がん剤での結果で、人数は41人と52人です。頭や首に放射線治療を受けた人や、ほかの抗がん剤、長く治療が続く進行がんで、同じ時期に戻るかはわかりません。また、検査で味を言い当てられることと、食事をおいしく感じられることは同じではありません。日本の研究では、本人の感じ方と検査の結果がはっきり一致したのは、5つの基本の味のうち塩味だけでした(Denda Y, et al. 2020)。
52人
治療が終わって約2か月で、味の検査が治療前と変わらなくなったことを示した研究の人数。早期乳がんで手術後の抗がん剤を受けた女性に限られ、ほかのがんや治療にそのまま当てはまる数字ではありません。
出典:Boltong A, et al. PLoS One. 2014;9(7):e103512
ほかの副作用も含めた、出る時期と続く期間の目安は、抗がん剤の副作用はいつから、いつまで続くかの記事にまとめています。
味が変わったとき、食事はどう工夫すればよいですか?
変わり方の型に合わせて、味付けを足したり引いたりします。決まった正解はないので、食べられるものを試しながら探します。
国立がん研究センター東病院の栄養管理室は、型ごとに次の工夫を挙げています(国立がんセンター東病院 栄養管理室)。
| 変わり方の型 | 工夫の例 |
| 本来と違う味に感じる(苦い、金属の味) | 苦みを感じやすい塩味や醤油味を控える。だしのうまみ、柑橘類、薬味の香りで風味を補う。合わなければ調味料を減らした薄味を試す |
| 味を強く感じる(何でも甘い、しょっぱい) | 強く感じる味の食材や調味料を控える。甘味が強ければ塩味や酸味を、塩味が強ければうまみや甘味を加える |
| 味を弱く感じる(味がわからない) | 味を濃いめにつける。人肌くらいの温度にすると味を感じやすい |
出典:国立がんセンター東病院 栄養管理室「味覚が変わってきたとき」。
同じ資料は、味付けを食べるときに自分で選べる料理(クレープ、オムレツ、ポタージュなど)を勧めています。家族と同じ料理を作り、取り分けてから本人が味を足す形にすると、作る手間も増えません。
国立がん研究センター中央病院の看護部は、食欲がわかないときの工夫として、自分に合った味付けや温度を見つけること、盛り付けを少なめにして品数を増やすこと、食べられるときに少しずつ分けて食べること、栄養補助食品を使うことを挙げています(国立がん研究センター中央病院 看護部「食欲がわかない・食べられない」2025年5月)。
唾液が減ると味が伝わりにくくなるので、口の乾きを防ぐことも味の助けになります。口の保湿の方法は、口内炎の記事で紹介しています。
亜鉛を飲めば、味覚障害は治りますか?
抗がん剤による味覚障害では、亜鉛の効果は比較試験で確かめられていません。亜鉛が足りないかどうかは、血液検査でわかります。
亜鉛不足は、味覚が変わる原因のひとつです(国立がんセンター東病院 栄養管理室)。ただし、抗がん剤による味覚障害が亜鉛を飲めば治るかどうかは、別の問いです。
抗がん剤を受けて味やにおいが変わった人を、亜鉛(1日2回、3か月間)と偽薬に分けた二重盲検の比較試験では、味とにおいはどちらの群でも時間とともによくなり、2つの群の間に差はありませんでした。著者らは、この目的での亜鉛は勧めないとしています(Lyckholm L, et al. 2012)。この試験は小規模で途中でやめた人も多く、これだけで結論を出せるものではありません。
がんの治療による味覚の変化を調べた論文のレビューも、亜鉛(硫酸亜鉛)を予防として飲む方法の効果は限られていたとし、今ある研究からは、味覚障害を確実に防ぐ方法も治す方法もないとまとめています(Hovan AJ, et al. 2010)。
亜鉛不足は、血液検査で確かめられる
日本臨床栄養学会の「亜鉛欠乏症の診療指針2018」は、血液中の亜鉛の値で次のように分けています(医薬品医療機器総合機構 掲載の医薬品リスク管理計画書(ヒスチジン亜鉛水和物)による)。
| 血清亜鉛の値 | 区分 |
| 60µg/dL未満 | 亜鉛欠乏症 |
| 60〜80µg/dL未満 | 潜在性亜鉛欠乏 |
出典:日本臨床栄養学会「亜鉛欠乏症の診療指針2018」(医薬品リスク管理計画書に引用されたもの)。
日本には、低亜鉛血症を効能とする亜鉛の薬があります(同)。亜鉛が足りないとわかれば、薬で補う方法があります。足りていない状態で飲むことと、足りているのに飲むことは、効き目の見込みが違います。サプリメントで足す前に、亜鉛の値を測ってもらえるか担当医に聞いてみてください。
どんなときに、担当医に相談すればよいですか?
食事の量が減り続けているとき、体重が落ちてきたときは、味覚障害そのものより栄養の問題として早めに相談します。
レビューは、栄養の相談(栄養指導)が症状を軽くするのに役立つ人もいるとしています(Hovan AJ, et al. 2010)。病院の管理栄養士に、味の変わり方に合わせた献立を相談できる場合があります。
相談のときは、次のことを伝えると話が具体的になります。
- どの味が、どう変わったか(苦い、甘すぎる、わからないなど)
- 投与から何日目ごろに強く、いつ軽くなるか
- 食事の量と体重の変わり方
- 口内炎や口の乾きがあるか
副作用を予防し、和らげる治療全体(支持療法)については、支持療法とは何かを説明した記事で扱っています。
味の変わり方は人ごとに違い、同じ人でも投与からの日数で変わります。いまの味が、波の中のどのあたりなのかを記録しておくと、食べやすい日を選んで好きなものを食べる、という工夫ができるようになります。
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Q抗がん剤の味覚障害は、いつ治りますか?
乳がんの手術後に抗がん剤を受けた女性52人の研究では、治療が終わって約2か月後の味の検査で、治療前と差がありませんでした。治療中も、投与の数日後に強く出て、次の投与までに軽くなる波をくり返すことが報告されています。ほかのがんや治療で同じ時期に戻るかはわかっていません。
Q抗がん剤で何を食べても味がしないときは、どうすればいいですか?
味を濃いめにつけ、人肌くらいの温度にすると味を感じやすくなります。苦い・金属の味がするときは塩味や醤油味を控えてだしや柑橘の香りで補い、何でも甘く感じるときは塩味や酸味を加えます。
Q抗がん剤の味覚障害に亜鉛は効きますか?
抗がん剤を受けて味やにおいが変わった人を亜鉛と偽薬に分けた比較試験では、2つの群の間に差はありませんでした。亜鉛不足は血液検査でわかり、足りなければ薬で補う方法があります。サプリメントを飲む前に、担当医に相談してください。
Q抗がん剤の味覚障害は、どのくらいの人に起こりますか?
論文をまとめたレビューでは、治療の種類によって56〜76%と報告されています。研究によって幅があります。
参考文献
- 国立がんセンター東病院 栄養管理室「抗がん剤治療中の簡単・お助けレシピ 第3回 味覚が変わってきたとき」
https://pod.ncc.go.jp/jp/ncce/division/nutrition_management/info/seminar/recipe/recipe003.pdf - 国立がん研究センター中央病院 看護部「食欲がわかない・食べられない」2025年5月
https://pod.ncc.go.jp/jp/ncch/division/nursing/division/support_card/19.pdf - Hovan AJ, Williams PM, Stevenson-Moore P, et al. A systematic review of dysgeusia induced by cancer therapies. Support Care Cancer. 2010;18(8):1081-1087.
https://doi.org/10.1007/s00520-010-0902-1 - Denda Y, Niikura N, Satoh-Kuriwada S, et al. Taste alterations in patients with breast cancer following chemotherapy: a cohort study. Breast Cancer. 2020;27(5):954-962.
https://doi.org/10.1007/s12282-020-01089-w - Boltong A, Aranda S, Keast R, et al. A prospective cohort study of the effects of adjuvant breast cancer chemotherapy on taste function, food liking, appetite and associated nutritional outcomes. PLoS One. 2014;9(7):e103512.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0103512 - Lyckholm L, et al. A randomized, placebo controlled trial of oral zinc for chemotherapy-related taste and smell disorders. J Pain Palliat Care Pharmacother. 2012.
https://doi.org/10.3109/15360288.2012.676618 - 医薬品医療機器総合機構 医薬品リスク管理計画書(ヒスチジン亜鉛水和物)。日本臨床栄養学会「亜鉛欠乏症の診療指針2018」の診断基準を引用
https://www.pmda.go.jp/RMP/www/620095/c7f52673-ab2d-40f7-bc14-a46c4ab5b307/620095_32290A2F1021_01_001RMPm.pdf




