抗がん剤のやめどきに、全員に共通する一つの基準はありません。効き目、副作用、体の状態、本人の希望を合わせて決めます。
抗がん剤を減らす、休む、変える、やめるのは、どんなときなのかを整理します。中止の目安に使われる体の状態の物差し(パフォーマンスステータス)と、米国臨床腫瘍学会が示した条件を確かめます。そのうえで、「体調がよいうちは続けたほうがよい」という考え方を、研究の数字で見直します。やめたあとのケアと、担当医との話し方もまとめました。
この記事の内容
抗がん剤をやめる、または変えるのは、どんなときですか?
効き目が見られなくなったとき、副作用が強いとき、体の状態が落ちたとき、本人が望むときの、大きく4つです。
抗がん剤の量やスケジュールは標準的なものが決められていますが、ひとりひとりの状態にあわせて調整することもあります(がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年)。「やめる」は、いきなり全部をやめることだけを指すわけではありません。
| きっかけ | 何で判断するか | 考えられる対応 |
| 効き目が見られない | CTなどの画像検査で、がんが大きくなっていないか | 別の薬に変える、やめる |
| 副作用が強い | 副作用の種類と程度 | 量を減らす、休む、別の薬に変える、やめる |
| 体の状態が落ちた | 日常生活がどのくらいできるか(パフォーマンスステータス) | 量を減らす、やめる |
| 本人が望む | 本人の価値観、治療に使う時間と生活のつり合い | 休む、やめる |
画像検査で効き目をどう判定するかは、抗がん剤の効果判定の記事で説明しています。今の薬が効かなくなったあと、次の薬があるかどうかは、がんの種類と薬の種類によって違います。抗がん剤が効きにくいがんの記事で扱っています。
体の状態は、どうやって測るのですか?
パフォーマンスステータス(PS)という物差しで、日常生活がどのくらい制限されているかを0から4の5段階で表します。
PSは米国の腫瘍学の研究グループ(ECOG)が決めた指標で、日本では日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の日本語訳が使われています(がん情報サービス「パフォーマンスステータス」)。
| PS | 状態 |
| 0 | まったく問題なく活動できる。病気になる前と同じように、制限なく日常生活を送れる |
| 1 | 激しい運動は制限されるが、歩くことができ、軽い家事や事務作業はできる |
| 2 | 歩くことができ、身の回りのことはすべてできるが、作業はできない。日中の半分以上はベッドの外で過ごす |
| 3 | 身の回りのことがある程度しかできない。日中の半分以上をベッドか椅子で過ごす |
| 4 | まったく動けない。身の回りのこともまったくできない。一日中ベッドか椅子で過ごす |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「パフォーマンスステータス」(ECOGの指標をJCOGが日本語に訳したもの)。表の文はがん情報サービスの説明を要約した。
担当医が「PS」や「全身状態」という言葉を使ったときは、この表のどこにあたるかを聞いておくと、話が具体的になります。
中止の目安は、どう示されていますか?
米国臨床腫瘍学会は、PSが3か4で、ほかの3つの条件もそろう固形がんの人には、がんに対する治療を行わないよう求めています。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)は2012年、がん医療で見直すべき5つの項目(Top Five List)の1つ目に、次の条件の固形がんの人にがんに対する治療を行わないことを挙げました(Schnipper LE, et al. J Clin Oncol. 2012)。
- PSが低い(3または4)
- これまでの根拠のある治療で効果が得られなかった
- 臨床試験(治験)の対象にならない
- さらに治療を続ける意味を強く示す根拠がない
この4つは「どれか1つ」ではなく、そろったときの条件です。同じ文書は、例外も書いています。
- がん以外の病気のためにPSが下がっている人
- 遺伝子変異など、治療がよく効く見込みが高い特徴をもつがんの人
そして、治療をやめる場合は、適切な緩和ケアと支持療法をあわせて行うべきだとしています(Schnipper LE, et al. 2012)。
同じ文書は、根拠の限界も認めています。PSが低い人を対象にした新しい薬の試験は少なく、抗がん剤と、症状を和らげるケアだけの場合とを比べた比較試験もないとしています。この項目は、比較試験の結果というより、手に入る研究から導いた目安です。
体調がよければ、続けたほうがよいのですか?
そうとは限りません。体調がよい人ほど、最期の時期の抗がん剤で生活の質が下がっていたという研究があります。
米国の6つの外来施設で、転移があって進行しているがんの人を、亡くなるまで追った研究があります(Prigerson HG, et al. JAMA Oncol. 2015;1(6):778-784)。対象は、すでに1種類以上の抗がん剤を受けた312人で、2002年から2008年に参加しました。研究に参加した時点で抗がん剤を受けていた人は158人(50.6%)でした。
亡くなる前の1週間の生活の質を、いちばん近くにいた家族などに、体と心のつらさについて答えてもらいました。参加した時点のPSごとに、抗がん剤を受けていた人と受けていなかった人を比べた結果が次の表です。
| 参加時点のPS | 抗がん剤を受けていた人の、最期の1週間の生活の質(受けていなかった人と比べたオッズ比) | 統計的な差 |
| 1(よい) | 0.35(95%信頼区間 0.17〜0.75) | あり(p=.01) |
| 2(中くらい) | 1.06(0.51〜2.21) | なし(p=.87) |
| 3(悪い) | 1.34(0.46〜3.89) | なし(p=.59) |
出典:Prigerson HG, et al. JAMA Oncol 2015。オッズ比が1より小さいほど、最期の1週間の生活の質がよかった人が少ないことを示す。
PSが1の人では、抗がん剤を受けていた人のほうが、最期の1週間の生活の質がよかった人が少なくなっていました。PSが2と3の人では、差がありませんでした。PSと施設の違いをそろえた解析では、抗がん剤を受けていたかどうかと、生きた期間との間に関係は見られませんでした。著者らは、亡くなる時期に近い抗がん剤は最期の生活の質を改善せず、悪くすることもあると結論しています。
PSは、治療を「続けられるか」を測る物差しです。この研究は、「続けられる」ことと、それが最期の時期の生活にとって「よい」ことが、同じではない場合があることを示しています。
この研究から言えないこと
この研究は、くじ引きで治療を分けた比較試験ではなく、観察研究です。抗がん剤を受けるかどうかは、担当医と本人が決めていたので、受けた人と受けなかった人では、もともとの状態や考え方が違っていた可能性があります。対象は、転移があって進行し、すでに抗がん剤を受けたことのあるがんの人で、2002〜2008年の米国のデータです。生活の質は本人ではなく、亡くなったあとに家族などが答えています。手術のあとの再発予防の抗がん剤や、効いている治療を続けるかどうかには当てはまりません。
0.35
PSがよい(1)人で、抗がん剤を受けていた人が、最期の1週間の生活の質がよかったとされるオッズは、受けていなかった人の0.35倍でした。PSが2と3の人では差がありませんでした。
出典:Prigerson HG, et al. JAMA Oncol. 2015;1(6):778-784(米国の312人の観察研究)
抗がん剤をやめたら、すぐに悪くなるのですか?
やめたあとの経過は、がんの状態によって大きく違い、一律には言えません。やめても、症状を和らげる医療は続きます。
前の節の研究では、抗がん剤を受けていたかどうかと、生きた期間との関係は見られませんでした(Prigerson HG, et al. 2015)。ただし、これは観察研究の結果で、ひとりひとりの見通しを示す数字ではありません。
ASCOは、がんに対する治療をやめる場合も、緩和ケアと支持療法をあわせて行うべきだとしています(Schnipper LE, et al. 2012)。抗がん剤をやめることは、医療をやめることではありません。
- 痛みや息苦しさなどの症状を和らげる治療は続けられる
- 緩和ケアは、抗がん剤をやめてからではなく、がんと診断されたときから受けられる
- 自宅で過ごす、療養できる病院に移るなど、過ごす場所を選び直せる
緩和ケアを受けられる時期と場所は、緩和ケアはいつから受けられるかの記事で説明しています。担当医から「余命」の数字を聞いたときの読み方は、余命宣告の時期と数字の意味の記事で扱っています。
やめどきを、担当医とどう話せばよいですか?
今の治療の効き目と、続けた場合・変えた場合・やめた場合のそれぞれの見通しを、並べて聞きます。
やめどきは、医師が一方的に告げるものでも、本人が一人で決めるものでもありません。これまでの節の内容から、聞いておくとよいことをまとめると次のとおりです。
- 今の抗がん剤は、画像検査で効いているといえるか
- 量を減らす、休む、別の薬に変える、という選択肢はあるか
- 続けた場合に、副作用と通院でどのくらいの時間を使うことになるか
- 参加できる臨床試験(治験)はあるか
- やめた場合に、どんなケアをどこで受けられるか
治験の探し方は、がんの治験に参加する方法の記事で扱っています。ほかの医師の意見を聞きたいときは、セカンドオピニオンの受け方の記事が参考になります。
担当医に言い出しにくいときは、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターで相談できます。役割と使い方は、がん相談支援センターの記事にまとめています。人生の最終段階に向けて、治療の続け方を家族や医療者と話し合っておく考え方は、延命治療とは何かの記事で説明しています。
PSの表は、治療を受けられる体の状態かどうかを示します。ASCOの条件は、治療の意味が乏しくなる場面を示します。けれども、自分にとってどのくらいの効き目なら、どのくらいの副作用と時間を引き受けられるかは、どちらの物差しにも書かれていません。やめどきを決める最後の材料は、本人の側にあります。
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Q抗がん剤のやめどきは、誰が決めるのですか?
担当医が一方的に決めるものでも、本人が一人で決めるものでもありません。画像検査での効き目、副作用の程度、体の状態(パフォーマンスステータス)、本人の希望を合わせて、担当医と本人、家族で話し合って決めます。
Q抗がん剤の中止の基準はありますか?
米国臨床腫瘍学会は2012年に、PSが3か4、これまでの治療で効果がない、治験の対象にならない、続ける根拠がない、という4つがそろう固形がんの人には、がんに対する治療を行わないよう求めました。がん以外の病気でPSが下がっている人や、よく効く見込みの高い遺伝子変異がある人は例外としています。
Q抗がん剤をやめたら余命は短くなりますか?
一律には言えません。米国の312人の観察研究では、抗がん剤を受けていたかどうかと生きた期間との間に関係は見られませんでした。ただし観察研究の結果で、ひとりひとりの見通しは、がんの状態によって大きく違います。
Q体調がよいうちは、抗がん剤を続けたほうがよいですか?
そうとは限りません。米国の観察研究では、体の状態がよい(PS 1)進行がんの人で、抗がん剤を受けていた人のほうが、最期の1週間の生活の質がよかった人が少なくなっていました。続けられることと、続けたほうがよいことは、別に考える必要があります。
Q抗がん剤をやめたあとは、どんな治療を受けられますか?
痛みなどの症状を和らげる緩和ケアは続けられます。緩和ケアは、がんと診断されたときから受けられます。自宅や療養できる病院など、過ごす場所も選び直せます。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年3月更新
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html - 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「パフォーマンスステータス」
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/Performance_Status.html - Schnipper LE, et al. American Society of Clinical Oncology identifies five key opportunities to improve care and reduce costs: the top five list for oncology. J Clin Oncol. 2012.
https://doi.org/10.1200/JCO.2012.42.8375 - Prigerson HG, Bao Y, Shah MA, et al. Chemotherapy Use, Performance Status, and Quality of Life at the End of Life. JAMA Oncol. 2015;1(6):778-784.
https://doi.org/10.1001/jamaoncol.2015.2378





