抗がん剤が効きにくいがんはあります。ただし「効きにくい」のは特定の種類の薬に対してであることが多く、別の種類の薬が使われることがあります。
この記事では、抗がん剤が効きやすいがん・効きにくいがんの例を、国立がん研究センターの資料をもとに整理します。効きにくくなる理由、効きにくいとされてきたがんで今どんな薬が使われているか、「効きにくい」がどの程度の意味なのかを順に説明します。最後に、担当医に確かめたいことをまとめました。
この記事の内容
抗がん剤が効きにくいがんはありますか?
あります。同じ抗がん剤でも、がんの種類によって効き方が違います。
ここでいう「抗がん剤」は、主に細胞障害性抗がん薬を指します。細胞が増える仕組みを妨げてがんを攻撃する、従来からの薬です。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬との違いは、細胞障害性抗がん薬とは何かの記事で説明しています。
国立がん研究センターの資料から、両端にあたる例を並べます。
| がん | 薬物療法の位置づけ | 出典 |
| 精巣がん(精巣腫瘍) | BEP療法などの化学療法(細胞障害性抗がん薬の組み合わせ)が行われる。転移があっても、適切な治療で治癒する可能性が高いがんとされる | 国立がん研究センター「精巣がんの療養について」2025年 |
| 急性骨髄性白血病 | 年齢や体の状態に応じて、複数の細胞障害性抗がん薬や分子標的薬を用いた薬物療法が行われる | がん情報サービス「急性骨髄性白血病 治療」2023年 |
| 非小細胞肺がん | 手術後の再発予防、進行したときの治療など、多くの場面で細胞障害性抗がん薬が使われる。遺伝子の変化やPD-L1検査の結果で、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使い分ける | がん情報サービス「非小細胞肺がん 治療」2026年 |
| 膵臓がん | 手術できない場合の一次治療は細胞障害性抗がん薬。ただし効果の大きさは限られてきた(後述) | がん情報サービス「膵臓がん 治療」2026年 |
| 肝細胞がん | 全身の薬物療法の一次治療は、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬。細胞障害性抗がん薬は全身療法の薬としては挙げられていない | がん情報サービス「肝細胞がん 治療」2026年 |
| 腎細胞がん | 薬物療法は分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が中心。淡明細胞型の一次治療では両者を組み合わせることもある | がん情報サービス「腎細胞がん 治療」2023年 |
| 甲状腺がん(分化がん) | 手術が基本で、その後に放射性ヨウ素内用療法やTSH抑制療法を行うことがある。手術や放射性ヨウ素内用療法が適さない場合は、遺伝子の変化に応じた分子標的薬を使う | がん情報サービス「甲状腺がん 治療」 |
表の下の4つは、細胞障害性抗がん薬の役割が限られているがんです。ただし、その限られ方は同じではありません。膵臓がんでは今も細胞障害性抗がん薬が一次治療の中心ですが、得られる効果の大きさが限られてきました。肝細胞がん、腎細胞がん、甲状腺の分化がんでは、中心になる薬が別の種類になっています。
このように「効きにくい」は、どの種類の薬についての話かによって意味が変わります。がん全体に効く薬がない、という意味とは限りません。
なぜ、抗がん剤が効きにくくなるのですか?
がんの中に、もともと薬が効きにくい細胞が含まれていたり、治療のあいだに細胞が薬に適応したりするためです。

米国国立がん研究所(NCI)は、薬が効きにくくなる仕組み(薬剤耐性)を2つに分けて説明しています(NCI「Why Do Cancer Treatments Stop Working? Overcoming Treatment Resistance」2016年)。
| 形 | 何が起きているか | 患者さんから見えること |
| 最初から効きにくい | 治療を始める前から、がん細胞がその薬に反応しにくい変化を持っている | 最初の治療から、がんが小さくならない |
| 途中から効かなくなる | 薬を使っているあいだに、がん細胞が薬に適応する | いったん小さくなったがんが、再び大きくなる |
「最初から効きにくい」はA、「途中から効かなくなる」はBの形にあたります(図)。
1つのがんの中でも、細胞は同じではありません
NCIは、同じ腫瘍の中のがん細胞がさまざまな分子の変化を持っていることが多く、薬が効く細胞と、すでに効きにくい細胞が混ざっていることがあると説明しています(NCI 2016年)。効く細胞が消えて効きにくい細胞が残ると、画像ではいったん小さくなっても、やがて同じ薬が効かなくなります。
細胞が薬を外へくみ出すこともあります
がん細胞の中には、ABCトランスポーターと呼ばれる「くみ出しポンプ」で、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬の一部を細胞の外へ出してしまうものがあります。細胞の中の薬の濃さが下がり、効きにくくなります。遺伝子の配列を変えずに遺伝子の働きを切り替える変化(エピジェネティックな変化)も、効きにくさに関わるとされています(NCI 2016年)。
NCIは、ほぼすべての治療が「いずれ効かなくなることがある」という同じ課題を抱えているとしています。薬が効かなくなることは、特定のがんや特定の人だけに起きる例外ではありません。
効きにくいがんには、使える薬がないのですか?
そうとは限りません。細胞障害性抗がん薬が効きにくくても、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使われることがあります。
表で見たとおり、肝細胞がんと腎細胞がんでは、全身の薬物療法の中心が免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬になっています(がん情報サービス 2023年・2026年)。肝細胞がんでは、細胞障害性抗がん薬は全身に効かせる薬としてではなく、肝臓の動脈から直接入れる治療(肝動脈化学塞栓療法や肝動注化学療法)で使われます(がん情報サービス「肝細胞がん 治療」2026年)。
同じがんの中でも、遺伝子の違いで使える薬が変わります
膵臓がんでは、がんの遺伝子を調べた結果によって、細胞障害性抗がん薬のほかに次のような治療が行われることがあります(がん情報サービス「膵臓がん 治療」2026年)。
- BRCA遺伝子に変異がある場合:プラチナ製剤で治療したあと、分子標的薬で維持療法を行う
- MSI-High、TMB-Highの場合:免疫チェックポイント阻害薬
- NTRK融合遺伝子、RET融合遺伝子がある場合:分子標的薬
- BRAF V600E遺伝子変異がある場合:分子標的薬の併用療法
こうした遺伝子をまとめて調べる検査については、がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の記事で説明しています。ただし、これらの遺伝子の変化が見つかる人は限られます。検査を受ければ必ず使える薬が見つかるわけではありません。
一つ目の薬が効かなくなったら
膵臓がんでは、一次化学療法の効果がなくなった場合などに、それまで使っていない別の薬で治療を行います。これを二次化学療法と呼びます(がん情報サービス 2026年)。図のBのように、ある薬に効きにくい細胞が残っても、働き方の違う薬が効く場合があるためです。
「効きにくい」がんで、抗がん剤はどのくらい効くのですか?
効果がゼロという意味ではなく、得られる上乗せが小さいという意味であることがあります。膵臓がんでゲムシタビンを試した試験が、その大きさを示しています。
ゲムシタビンは、膵臓がんの治療に使われる細胞障害性抗がん薬です。1997年に、症状のある進行した膵臓がんの患者さん126人を、最初の治療としてゲムシタビンを使う群とフルオロウラシル(5-FU)を使う群に63人ずつ分けて比べた試験が報告されました(Burris ら J Clin Oncol 1997年)。
この試験で最も重視された評価項目は、がんが縮んだかどうかではありませんでした。「臨床的有用性反応」と呼ばれる、症状の改善の指標です。
- 痛み(痛みの強さと、痛み止めの使用量)
- 全身の状態(カルノフスキー・パフォーマンス・ステータスという指標)
- 体重
このうち少なくとも1つが4週間以上続けて改善し、ほかが悪くならないことを「有用性あり」と判定しました。
| 項目 | ゲムシタビン群 | 5-FU群 |
| 臨床的有用性反応があった人 | 23.8% | 4.8%(P=0.0022) |
| 生存期間の中央値 | 5.65か月 | 4.41か月(P=0.0025) |
| 12か月時点で生存していた人 | 18% | 2% |
出典:Burris HA 3rd, et al. J Clin Oncol. 1997;15(6):2403-2413。
ゲムシタビンは、比べた薬より統計的にはっきり良い結果を出しました。それでも、症状の改善があったのは4人に1人に届かず、生存期間の中央値の差は約1.2か月です。著者らも結論で、生存の上乗せを「modest(控えめな)」と表現しています。
効きにくいがんで「抗がん剤が効く」と言うとき、その中身はこの大きさであることがあります。今の膵臓がんでは、ほかの細胞障害性抗がん薬との組み合わせも使われています(がん情報サービス 2026年)。
効いているかどうかは、どうやって確かめるのですか?
多くのがんでは、CTなどの画像検査でがんの大きさの変化を見て判定します。
がん情報サービスは、画像検査でがんの大きさの変化を見て治療効果を判定し、腫瘍マーカーを補助的に使うこともあると説明しています(がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年)。大きさの変化を数字にする方法は奏効率とは何か、腫瘍マーカーの読み方は腫瘍マーカーとは何かの記事で扱っています。
ゲムシタビンの試験が示すように、効きにくいがんでは、画像で大きく縮まなくても、痛みや体重、日常生活の動きやすさが保たれているかどうかが判断の材料になることがあります。治療を始めるときに、何を見て「効いている」と判断するのかを担当医と共有しておくと、検査結果を聞いたときに戸惑いが減ります。
「効きにくい」と言われたら、何を確かめればよいですか?
どの薬が効きにくいのか、ほかの種類の薬の候補はあるか、治療の目的と効果を見る時期の3点です。
担当医に次の点を確かめると、「効きにくい」という言葉の中身がはっきりします。
- 効きにくいのは、細胞障害性抗がん薬か、それとも今使える薬全般か
- がんの遺伝子やタンパク質を調べる検査は受けたか。結果によって使える薬はあるか
- 今回の治療の目的は、がんを小さくすることか、進行を遅らせることか、症状を和らげることか
- 効いているかどうかを、いつ、何で判断するか(画像、腫瘍マーカー、症状)
- 今の薬が効かなくなったときの次の候補は何か
説明を聞いても判断に迷うときは、別の医師の意見を聞く方法があります。手順はセカンドオピニオンの受け方の記事にまとめています。標準の治療に加えて開発中の薬を試す方法には、治験・臨床試験があります。痛みや食欲の低下などのつらさは、薬物療法と並行して緩和ケアで和らげることができます。始める時期は緩和ケアはいつから受けられるかの記事で説明しています。
家族が一緒に説明を聞けるときは、この一覧をもとに質問を分担すると、聞き漏らしが減ります。痛み、体重、食事の量、日中に横になっている時間を家族が書き留めておくと、画像検査のあいだの変化を担当医に伝える材料になります。
「効きにくい」という言葉は、がん全体についての宣告ではなく、ある種類の薬とがんの組み合わせについての説明です。どの組み合わせの話なのかを確かめるところから、次の選択肢が見えてきます。
効きやすい・効きにくいの分け方が言えないこと
この記事で挙げた分け方は、がんの種類ごとの平均的な傾向です。同じがんでも、遺伝子の変化、全身の状態、それまでの治療によって効き方は人ごとに違います。また、どのがんがどの薬に効きにくいかは、新しい薬の登場で変わってきました。肝細胞がんや腎細胞がんで、今の薬物療法の中心が免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬であることは、その例です。
5.65か月と4.41か月
膵臓がんで、最初の治療としてゲムシタビンと5-FUを比べた試験での生存期間の中央値。ゲムシタビン群が5.65か月、比べた5-FU群が4.41か月でした。
効きにくいがんでの「効く」は、この差を指していることがあります。
出典:Burris HA 3rd, et al. J Clin Oncol. 1997;15(6):2403-2413
僕は、「効かなくなる」理由をがんの不均一さに見ています
従来型の抗がん剤でもしばらく使用すると効かなくなる(薬剤耐性になる)のは、がんが均一ではないからです。悪性腫瘍は多種のがんの集合体です。特定のターゲットを退治しても、その抗がん剤の攻撃をくぐり抜けたがん細胞が生き残ります。抗がん剤サイドから見ると、耐性ができたことになります。
新陳代謝の早いがん細胞を従来型の抗がん剤や放射線治療で無事退治できたとしても、新陳代謝の遅いがん細胞は生き残ります。そんなもののひとつが「がん幹細胞」と呼ばれています。
もっとも効くと思われる抗がん剤から使用するのが、現在の抗がん剤治療の基本的セオリーです。まず勧められる抗がん剤治療を行って、残念ながらその効果に期待が持てないと腑に落ちる時が来たら、自分から治療を控えるという選択をしてもいいのではないでしょうか。
監修者
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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ガイドラインに載る治療がなくなったと告げられた人に向けた記事です。ガイドラインだけに頼る治療の限界、効果が期待しにくい抗がん剤を続けることへの考え、がんとの共存と希望について、監修者の考えを書いています。
よくある質問
Q抗がん剤が効きにくいがんには、どんなものがありますか?
細胞障害性抗がん薬の役割が限られているがんの例に、膵臓がん、肝細胞がん、腎細胞がん、甲状腺の分化がんがあります。ただし膵臓がんでは今も細胞障害性抗がん薬が一次治療の中心で、肝細胞がんや腎細胞がんでは免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬が中心です。
Q抗がん剤が効きやすいがんはありますか?
あります。たとえば精巣がんは、転移があっても適切な治療で治癒する可能性が高いがんとされ、BEP療法などの化学療法が行われます(国立がん研究センター 2025年)。急性骨髄性白血病でも、複数の細胞障害性抗がん薬や分子標的薬を用いた薬物療法が行われます(がん情報サービス 2023年)。
Q抗がん剤が途中で効かなくなるのはなぜですか?
がんの中には、薬が効く細胞と効きにくい細胞が混ざっていることがあります。効く細胞が消えて効きにくい細胞が残り、それが増えると、同じ薬が効かなくなります。治療中にがん細胞が薬に適応したり、薬を細胞の外へくみ出したりすることもあります(NCI 2016年)。
Q膵臓がんに抗がん剤は効かないのですか?
効果がないわけではありません。最初の治療としてゲムシタビンと5-FUを比べた試験(1997年)では、ゲムシタビンのほうが症状の改善と生存期間の両方で良い結果でした。ただし生存期間の中央値の差は約1.2か月で、上乗せは大きくありません。遺伝子の変化によっては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使われることもあります。
Q抗がん剤が効くかどうか、使う前にわかりますか?
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬では、がんの遺伝子やPD-L1というタンパク質を調べて、使えるかどうかを判断することがあります。細胞障害性抗がん薬では、多くの場合、使ってみて画像検査や症状で効果を確かめます。
参考文献
- 国立がん研究センター「精巣がんの療養について」2025年4月更新
https://www.ncc.go.jp/jp/information/knowledge/Testicular/004/index.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「膵臓がん 治療」2026年3月更新
https://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/treatment.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「肝臓がん(肝細胞がん) 治療」2026年8月更新・確認
https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/treatment.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「腎細胞がん 治療」2023年1月更新
https://ganjoho.jp/public/cancer/renal_cell/treatment.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「甲状腺がん 治療」
https://ganjoho.jp/public/cancer/thyroid/treatment.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「急性骨髄性白血病 治療」2023年12月更新
https://ganjoho.jp/public/cancer/AML/treatment.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「非小細胞肺がん 治療」2026年8月更新・確認
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html - National Cancer Institute. Why Do Cancer Treatments Stop Working? Overcoming Treatment Resistance. 2016年12月
https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/research/drug-combo-resistance - Burris HA 3rd, Moore MJ, Andersen J, et al. Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer: a randomized trial. J Clin Oncol. 1997;15(6):2403-2413.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9196156/





