肺がんステージ4、80代の余命は?不安になる数字が当てはまらない理由

80歳以上で肺がんⅣ期(非小細胞肺がん)と診断された人の、1年後の生存率は23.8%です。
ただしこの数字は、80代の誰にでも同じように当てはまるものではありません。

肺がんステージ4の余命について、80代の数字は大きく2種類あります。病院に来た人を全員数えたがん登録の数字と、条件を満たした人だけが参加する臨床試験の数字です。この記事では、それぞれが誰を数えた数字なのかを示し、80代の数字が若い世代と違う理由、そして見通しを聞くときに確かめたい項目までを説明します。

肺がんのステージ4とは、どんな状態ですか?

肺がんのステージ4(Ⅳ期)は、がんが最初にできた場所から離れた臓器などに転移している状態(遠隔転移がある状態)です。

病期はTNM分類で決まり、遠隔転移(M)がある場合にⅣ期になります。肺がんの病期分類は2025年に新しい版へ切り替わりました。分類の仕組みと版の違いはがんのステージは何期まであるかの記事で説明しています。

80代の肺がんは珍しくありません。日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン2025年版は、全国がん登録の罹患データ(2019年)をもとに、肺がんの罹患年齢のピークは75〜79歳で、約半数が75歳以上だと記しています。そのうえで同ガイドラインは、非小細胞肺がんでは「75歳以上」を高齢者と定義しています(日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン2025年版」)。

肺がんは組織型によって、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けて集計されます。この記事の数字は、ことわりのない限り非小細胞肺がんのものです。

80代の肺がんステージ4は、統計ではどのくらい生きていますか?

院内がん登録の集計では、80歳以上の非小細胞肺がんⅣ期の実測生存率は、1年後23.8%、2年後10.9%、5年後2.1%です。

肺がんステージ4の余命:80歳以上・70代・60代の非小細胞肺がんⅣ期の実測生存率の推移。80歳以上は1年後23.8%、5年後2.1%

国立がん研究センターは、全国のがん診療連携拠点病院などに登録された患者さんの生存率を公表しています。2014〜2015年に診断された非小細胞肺がんⅣ期の人を、年齢階級ごとに分けたのが下の表です(国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」)。

年齢 対象数 1年後 2年後 3年後 5年後
60代 4,604人 47.5% 28.8% 19.2% 11.1%
70代 4,440人 39.3% 22.0% 14.3% 7.2%
80歳以上 1,778人 23.8% 10.9% 6.0% 2.1%
全年齢 13,135人 40.4% 23.4% 15.4% 8.4%

非小細胞肺がん・Ⅳ期・男女計・手術の有無は問わない。数字は実測生存率(死因を問わず、すべての死亡を計算に含めた生存率)。

この集計の年齢区分は「80以上」が最後です。80代と90歳以上が一つにまとめられており、80代だけの数字は公表されていません。

小細胞肺がんでは、同じ集計で80歳以上のⅣ期は165人、実測生存率は1年後16.5%、5年後0.4%でした。

表の数字は2014〜2015年に診断された人のものです。公表されている生存率がなぜ過去の人の数字になるのかは、がんの生存率(部位別・ステージ別)の記事で書いています。

80代の数字が若い世代より低いのは、なぜですか?

この数字には、肺がんそのものの違いに加えて、がん以外の理由による死亡と、全身状態の差が含まれているからです。

80歳以上の1年後の生存率23.8%は、70代の39.3%より15.5ポイント低い数字です。ただし、がんの進み方が80代で急に速くなると、この表から言うことはできません。表の数字に何が混ざっているかを分けて見ます。

がん以外の理由で亡くなった人も数えられています

表の実測生存率は、死因を問わずすべての死亡を含めています。同じ集計には、もう一つ「ネット・サバイバル」という数字があります。こちらは、純粋に「がんのみが死因となる状況」を仮定して計算したものです。

年齢 1年後 実測 1年後 ネット 5年後 実測 5年後 ネット
60代 47.5% 47.9% 11.1% 11.6%
70代 39.3% 40.2% 7.2% 7.9%
80歳以上 23.8% 25.4% 2.1% 2.9%

非小細胞肺がん・Ⅳ期・2014-2015年診断。出典:国立がん研究センター 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム。

実測とネットの差は、60代では1年後0.4ポイントですが、80歳以上では1.6ポイントに広がります。年齢が上がるほど、がん以外の理由で亡くなる人の分が実測の数字を押し下げています。

がんのない人を含めた日本人全体でも、80歳の平均余命は男性9.10年、女性11.95年、85歳では男性6.44年、女性8.47年です(厚生労働省「令和7年簡易生命表」2026年)。5年後の数字ほど、この影響を受けやすくなります。

一方で、ネット・サバイバルで比べても、80歳以上の1年後25.4%は60代の47.9%を大きく下回ります。他の死因を除いても差は残ります。残りの差を説明する要素の一つが、次の全身状態です。

全身状態(PS)が数字を分けます

肺がんの治療では、全身状態を「パフォーマンスステータス(PS)」という0〜4の5段階で表します。肺癌診療ガイドラインに載っている定義は次のとおりです。

PS 状態
0 全く問題なく活動できる。発病前と同じ日常生活が制限なく行える
1 激しい活動は制限されるが、歩行でき、軽い家事や座っての作業はできる
2 歩行でき身の回りのことはすべてできるが、作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす
3 限られた身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす
4 全く動けない。身の回りのことは全くできず、完全にベッドか椅子で過ごす

出典:日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン2025年版」掲載のECOG Performance Status(Common Toxicity Criteria, Version 2.0、JCOG日本語訳)を要約。

同ガイドラインは、薬物療法の第Ⅲ相試験などの検討で「暦年齢よりも日常生活自立度が予後に関係していた」と記しています。

80歳以上に限った数字もあります。2つの試験(SWOG 0027とLUN 6)で治療を受けた228人のうち、80歳以上は49人でした。生存期間中央値は、PS 0〜1の80歳以上で7か月、PS 2の80歳以上で4か月です。同じPS 0〜1どうしで比べると、80歳未満は11か月でした(Hesketh PJ, et al. J Thorac Oncol. 2007)。同じ80歳以上でも、PSによって数字が変わります。

治療を受けた人と受けなかった人が、一緒に数えられています

院内がん登録は、その病院でがんと診断された人を治療の有無にかかわらず数えています。表の80歳以上1,778人の中には、薬物療法を受けた人も、受けなかった人も、受けられなかった人も入っています。

年齢階級ごとに何割の人が治療を受けたか、受けなかった理由が何だったかは、この集計からはわかりません。

臨床試験の生存期間は、80代にどこまで当てはまりますか?

臨床試験の数字は、全身状態が良く臓器の働きも保たれた高齢者から得られたもので、80代全体の見通しとは別のものです。

日本では、高齢者だけを対象にした肺がんの第Ⅲ相試験が行われています。その一つがJCOG1210/WJOG7813L試験です(Okamoto I, et al. JAMA Oncol. 2020)。

項目 JCOG1210/WJOG7813L試験
参加の条件 75歳以上、非扁平上皮の非小細胞肺がん、PS 0〜1、腎機能(クレアチニン・クリアランス45mL/分/1.73m²以上)など骨髄・臓器の働きが保たれていること
病期 Ⅳ期のほか、根治的放射線治療ができないⅢ期と再発を含む(Ⅳ期は各群の75.6%と74.5%)
参加者 国内79施設、2013年8月〜2017年2月に433人。年齢中央値78歳(75〜88歳)。80歳以上は107人
生存期間中央値 ドセタキセル単剤群15.5か月、カルボプラチン+ペメトレキセド群18.7か月

がん登録の80歳以上では、1年後に生存していた人は23.8%でした。試験の参加者では、どちらの群も生存期間中央値が1年を超えています。生存期間中央値は、参加者の半数が亡くなるまでの期間です。中央値という数字の意味は余命宣告の記事で詳しく扱っています。

この差の大きな部分は、誰が数えられているかの違いから来ています。試験に参加できたのは、PS 0〜1で、腎臓などの働きの条件を満たし、薬物療法を受けると決めた人です。がん登録には、その条件に当てはまらない人も全員入っています。

2つの数字を引き算できない理由

試験とがん登録は、対象の年齢(75歳以上と80歳以上)、病期の範囲(Ⅲ期と再発を含むかどうか)、組織型、診断の時期がそれぞれ違います。そのため「元気な人に絞ると何か月長くなる」という形で、差を一つの数字にすることはできません。わかるのは、試験の中央値をそのまま80代全員の余命として読むことはできない、ということです。

組織型や遺伝子の型で、見通しは変わりますか?

変わります。80代でも、小細胞肺がんか非小細胞肺がんか、治療の標的になる遺伝子の変化があるかによって、数字の出発点が違います。

がん登録の80歳以上のⅣ期では、1年後の実測生存率は非小細胞肺がんで23.8%、小細胞肺がんで16.5%でした。

非小細胞肺がんでは、遺伝子検査とPD-L1検査の結果によって使う薬が決まります(がん情報サービス「非小細胞肺がん 治療」)。肺癌診療ガイドライン2025年版は、治療標的となる薬剤が承認されている遺伝子異常として、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、MET遺伝子変異、RET融合遺伝子、NTRK融合遺伝子、KRAS遺伝子G12C変異、HER2遺伝子変異を挙げています。

高齢者のデータについて、同ガイドラインは次のように記しています。

  • 75歳以上のEGFR遺伝子変異陽性例を対象にした国内の第Ⅱ相試験(NEJ003試験)で、ゲフィチニブ単剤の奏効率74%、無増悪生存期間の中央値12.3か月が報告されている
  • ただし、75歳以上のドライバー遺伝子変異・転座陽性例で分子標的療法の意義を検討したエビデンスは限られている
  • 免疫チェックポイント阻害薬についても、75歳以上の症例の有効性・安全性に関する報告は少ない

遺伝子の型ごとに分けた80代の生存率は、公表された集計としては確認できませんでした。

80代について、まだわかっていないことは何ですか?

80代だけを対象にした大規模な比較試験は少なく、80代の数字の多くは「75歳以上」や「70歳以上」の試験の一部から読み取ったものです。

ここまでに出てきた試験で、80歳以上が何人いたかを並べます。

  • JCOG1210/WJOG7813L試験(75歳以上が対象):433人中107人
  • SWOG 0027とLUN 6の統合解析(70歳以上のPS 0〜1、または年齢を問わないPS 2が対象):治療を受けた228人中49人
  • 国立がん研究センター中央病院の後ろ向き解析(2007〜2008年):肺がんⅣ期で75歳以上は、抗がん剤治療あり8人、なし11人

最後の解析について、国立がん研究センター自身が、被験者数が極端に少ないため評価は困難で、より大規模な調査が求められると報告しています(国立がん研究センター「高齢者へのがん医療の効果にかかる研究報告」2017年)。

80代の数字が抱えている空白

PS 2以上の80代、腎臓や心臓などに持病のある80代、80代後半から90代の人について、治療ごとの生存期間を示した国内の大規模な比較データは、この記事の調査では確認できませんでした。公表されている統計の数字は、こうした人たちの見通しを直接には示していません。

107人

高齢者だけを対象にした国内の第Ⅲ相試験で、433人のうち80歳以上だった人数。
全員がPS 0〜1で、腎臓などの働きの条件を満たした人です。

Okamoto I, et al. JAMA Oncol. 2020;6(5):e196828(JCOG1210/WJOG7813L)

余命の見通しを聞くとき、何を確かめればいいですか?

示された数字が「誰を数えた数字か」と、自分の状態がどこに当てはまるかを確かめると、80代の数字を読み違えにくくなります。

確かめること 数字が変わる理由
組織型 非小細胞肺がんと小細胞肺がんで、80歳以上の1年後の生存率が23.8%と16.5%に分かれる
遺伝子検査・PD-L1検査の結果 使える薬が変わる
今のPS(0〜4) 同じ80歳以上でも、PS 0〜1とPS 2で生存期間中央値が7か月と4か月に分かれた報告がある
持病と腎臓などの働き 臨床試験の参加条件に入るかどうかが変わる
数字の出どころ がん登録(全員)か、臨床試験(条件を満たした人)かで、対象が違う
数字の種類 実測生存率か、ネット・サバイバルか、生存期間中央値かで、意味が違う

23.8%は、1,778人をひとまとめにした数字です。その中には、PS 0の人もPS 3の人も、遺伝子の変化がある人もない人も、肺がん以外の理由で亡くなった人も入っています。

私が「生きの良い患者さん」のエビデンスと呼ぶもの

臨床試験は体調の良い患者さんで、年齢も比較的高齢ではない人が選ばれます。

臨床試験には膨大な費用がかかります。脱落例を減らしたいので、基本的にあまり高齢ではなく、そして元気な人が対象者になります。そこで出た結果を、高齢者やあまり元気ではない人に有効だろうと推測して使用しているのです。

がんは高齢者になるほど罹患数が増えます。高齢者はいろいろな病気や合併症を持っています。がんだけという方は少ないように思えます。

そんな「生きの良い患者さん」から得られたエビデンスを、そのまま実臨床で杓子定規に利用すると不幸なことが起こります。

新見正則医院院長 新見正則

新見正則(にいみ まさのり)

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。

日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)

詳しいプロフィール

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数字の読み方がわかると、次に残るのは、80代で治療をどう考えるかという問いです。

(超)高齢者には「がん放置療法」で、そして漢方薬や生薬は?

高齢の方のがん治療について、院長が自分の考えを書いたブログです。本人の気力と体力を基準に治療を控える「がん放置療法」という考え方と、治療するなら体への負担が小さい放射線治療から、という主張を述べています。

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よくある質問

肺がんステージ4で80代の余命はどのくらいですか?

国立がん研究センターの院内がん登録(2014〜2015年診断)では、80歳以上の非小細胞肺がんⅣ期の実測生存率は1年後23.8%、2年後10.9%、5年後2.1%です。この数字には治療を受けなかった人や、がん以外の理由で亡くなった人も含まれており、一人ひとりの見通しは全身状態や組織型、遺伝子の型で変わります。

肺がんステージ4の余命は、70代と80代でどれくらい違いますか?

同じ集計の実測生存率で、70代は1年後39.3%、5年後7.2%、80歳以上は1年後23.8%、5年後2.1%です。差は診断から1年目に最も大きく開きます。80歳以上の区分には90歳以上も含まれます。

80歳以上でも肺がんの薬物療法は受けられますか?

日本肺癌学会の肺癌診療ガイドライン2025年版は、75歳以上に対するプラチナ製剤併用療法は有効性のエビデンスが確立しているとし、暦年齢のみで薬物療法の対象外とするべきではないと記しています。実際に受けられるかは、PSや持病、臓器の働きなどで判断されます。

80代の肺がんで、治療しない場合の余命はわかりますか?

80代に限って、治療しなかった場合の生存期間を示した国内の大規模な統計は確認できませんでした。国立がん研究センター中央病院の解析では、肺がんⅣ期で75歳以上の人は抗がん剤治療あり8人、なし11人と少なく、同センターは評価が困難だと報告しています。

参考文献

  1. 国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」非小細胞肺がん・小細胞肺がん 2014-2015年5年生存率
    https://hbcr-survival.ganjoho.jp/
  2. 日本肺癌学会「肺癌診療ガイドライン2025年版」Ⅳ期非小細胞肺癌
    https://www.haigan.gr.jp/publication/guideline/examination/2025/1/2/250102070100.html
  3. Okamoto I, et al. Comparison of Carboplatin Plus Pemetrexed Followed by Maintenance Pemetrexed With Docetaxel Monotherapy in Elderly Patients With Advanced Nonsquamous Non-Small Cell Lung Cancer: A Phase 3 Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol. 2020;6(5):e196828.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32163097/
  4. Hesketh PJ, et al. Chemotherapy in patients > or = 80 with advanced non-small cell lung cancer: combined results from SWOG 0027 and LUN 6. J Thorac Oncol. 2007;2(6):494-8.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17545843/
  5. 国立がん研究センター「高齢者へのがん医療の効果にかかる研究報告」2017年
    https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2017/0427/index.html
  6. 厚生労働省「令和7年簡易生命表の概況」
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life25/index.html

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