抗がん剤治療は、薬でがんを治す、進行を抑える、症状を和らげることを目指す治療です。薬が血流にのって全身に届く点が、手術や放射線と違います。
この記事では、抗がん剤治療とは何かを、国立がん研究センターのがん情報サービスなどの一次資料から整理します。4つの薬の種類、何を目指して行うのか、1回の量の決まり方、治療の流れ、効果の確かめ方、そして治療を始める前に担当医に確かめておくことを順に説明します。
この記事の内容
抗がん剤治療とは何ですか?
抗がん剤治療とは、薬を使ってがんの治癒や症状の改善を目指す治療で、医学的には「薬物療法」と呼ばれます。
がん情報サービスは、薬物療法を手術、放射線治療と並ぶ「三大治療」の一つとしています(がん情報サービス「薬物療法」2025年)。
手術と放射線治療は、体の一部を対象にする「局所療法」です。薬物療法の多くは、薬が血流にのって全身に届く「全身療法」として行われます。この違いが、抗がん剤治療の向き不向きと副作用の出方の両方を決めています。
| 治療 | 対象の範囲 | 主に何をするか |
| 手術 | 局所(体の一部) | がんを切り取る |
| 放射線治療 | 局所(照らした範囲) | 放射線でがん細胞を傷つける |
| 薬物療法(抗がん剤治療) | 多くは全身 | 薬でがんの増殖を抑える |
出典:がん情報サービス「薬物療法」「薬物療法 もっと詳しく」(2025年)。
「抗がん剤」と「化学療法」は同じ意味ですか?
日常会話ではほぼ同じ意味で使われますが、厳密には違います。がん情報サービスは、細胞障害性抗がん薬を使う治療を「化学療法」と呼び、分子標的薬を使う「分子標的療法」、免疫チェックポイント阻害薬を使う「免疫療法」などと分けています(がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年)。
担当医から「抗がん剤」と言われたときは、どの種類の薬なのかを確かめると、副作用や通院の見通しが立てやすくなります。
抗がん剤には、どんな種類がありますか?
作用の仕方で、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、内分泌療法薬、免疫チェックポイント阻害薬の4つに分けられます。
| 種類 | どう効くか | 主な投与方法 |
| 細胞障害性抗がん薬 | 細胞が増える仕組みの一部を妨げる。正常な細胞も影響を受ける | 多くは点滴 |
| 分子標的薬 | がんの発生や増殖に関わる特定の分子を狙って、その働きを抑える | 小分子の薬は多くが内服、抗体薬は多くが点滴 |
| 内分泌療法薬(ホルモン療法薬) | ホルモンの分泌や働きを妨げる。乳がんや前立腺がんなど、ホルモンで増えるがんに使う | 内服や注射 |
| 免疫チェックポイント阻害薬 | がん細胞が免疫細胞にかけるブレーキを外し、免疫が攻撃できるようにする | 多くは点滴 |
出典:がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」(2025年)。
分子標的薬の中には、抗体に細胞障害性抗がん薬を結合させた「抗体薬物複合体」もあります。分子標的薬を使う前には、治療薬に対応する遺伝子の変化があるかを検査で調べます(がん情報サービス 2025年)。分子標的薬の仕組みは分子標的薬とは何かを説明した記事で扱っています。
どの薬を使うかは、がんの種類や性質で決まります。たとえば乳がんでは、主にホルモン療法薬、分子標的薬、細胞障害性抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬が使われ、その選択は主にサブタイプ分類(がんの性質による分類)で決まります(がん情報サービス「乳がん 治療」2025年)。
抗がん剤治療は、何を目指して行うのですか?
目指すのは、がんの治癒、進行の抑制、症状の緩和の3つで、どれを目指すかはがんの種類と進み具合で決まります。
がん情報サービスは、薬物療法の目的と行い方を、次のように説明しています(がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年)。
薬だけで治癒を目指す場合
急性白血病、悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍、絨毛がんなど、薬物療法の効果が高いがんでは、薬物療法だけで治癒を目指すことがあります。作用の異なる複数の薬を組み合わせることもあります。
手術と組み合わせる場合
手術の前後に行う薬物療法には、それぞれ目的があります。
- 手術の前(術前薬物療法):転移や再発のリスクを下げる、がんを小さくして手術しやすくする、薬の効き具合を見て手術後の治療を考える
- 手術の後(術後薬物療法):目に見えない小さながんからの再発を防ぐ。再発の可能性が高い場合に行う
手術と組み合わせるのは、標準治療として定められている場合に限られます(がん情報サービス 2025年)。
大腸がんの例では、手術でがんを取り切れたあとの再発を防ぐ目的で、Ⅲ期で体の状態がよい場合に術後の薬物療法を行うことが推奨されています。期間は6カ月が一般的で、がんの状態や薬の種類によっては3カ月のこともあります(がん情報サービス「大腸がん 治療」2025年)。
乳がんでは、がんが大きくて乳房の部分切除ができない場合に、手術前の薬物療法でがんを小さくできれば、部分切除ができる可能性があります(がん情報サービス「乳がん 治療」2025年)。
放射線と組み合わせる場合
放射線治療と薬物療法を同じ時期に行う治療を「化学放射線療法」といいます。照射した場所での効果を高め、全身への薬の効果とあわせて治癒の可能性を高めることを目指します(がん情報サービス 2025年)。
治癒が難しい場合
治癒が難しいときは、進行を抑えることと症状を和らげることが目的になります。切除できない進行・再発大腸がんについて、がん情報サービスは、薬物療法によって生存期間が延び、生活の質(QOL)も向上することが分かっていると説明しています(がん情報サービス「大腸がん 治療」2025年)。
同じ「抗がん剤治療」でも、治すための治療なのか、進行を抑えるための治療なのかで、続ける期間も、効果の見方も変わります。どのくらいの人に効果が上乗せされるのかという数字の読み方は、抗がん剤はやるべきかを書いたブログで監修者が扱っています。
抗がん剤の量は、どうやって決めるのですか?
細胞障害性抗がん薬の多くは、身長と体重から体の表面積を計算し、「1㎡あたりの量」をかけて1回の量を決めます。

体の表面積は、身長と体重を式に入れて計算します。よく使われるのは、1916年に発表されたDu Bois(デュボア)の式です。たとえば身長160cm、体重55kgの人では、この式で約1.56㎡になります。
体の表面積を抗がん剤の量の基準にする考え方は、1958年の論文で示されています(Pinkel D. Cancer Res 1958年)。
ただし、体の表面積を使わない薬もあります。
- カルボプラチン:腎臓の働き(糸球体ろ過量)から計算する。「目標とする血中濃度の面積(AUC)×(糸球体ろ過量+25)」という式(Calvert の式、1989年)を使う(Cancer Care Ontario 2010年)
- ペムブロリズマブ(免疫チェックポイント阻害薬):体の大きさによらず、1回200mgを3週間ごと、または1回400mgを6週間ごとに点滴する(厚生労働省「最適使用推進ガイドライン ペムブロリズマブ」2020年改訂)
決められた量は、そのまま使われるのですか?
標準的な薬の量とスケジュールは決められていますが、患者さんの状態に合わせて調整することがあります(がん情報サービス 2025年)。薬の用量、用法、期間を定めた治療計画を「レジメン」といい、基本のレジメンをもとに、医師と薬剤師が一人ひとりの状態に合わせて作ります。
血液検査の結果、腎臓や肝臓の働き、前回の治療での副作用を見て、量を減らしたり、次の投与を延ばしたりすることがあります。量が変わったときは、その理由を担当医に聞いてかまいません。
体の表面積で決める方法が、まだ答えていないこと
体の表面積は、薬が体の中でどれだけ働くかをよく予測しないという研究があります。よく使われる抗がん剤の多くで、体の表面積と、血液中の薬の量や薬が体から消える速さとの関係は弱いと報告されています(Felici ら Eur J Cancer 2002年)。同じ体格でも、薬の効き方と副作用の出方は人によって違います。だからこそ、治療を始めてからの調整が欠かせません。
治療は、どんな流れで進みますか?
治療計画(レジメン)を決め、「薬を使う期間」と「休む期間」を1つの区切りとして繰り返すのが基本です。
治療法を決める
治療法は、標準治療を基本に、本人の希望、生活環境、年齢、体の状態などを総合的に考え、担当医と話し合って決めます(がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年)。
「サイクル」と休薬
薬を使う期間とそのあとの休む期間を合わせた1つの区切りを「サイクル(コース)」と呼びます。休む期間は、体が回復し、新しい正常な細胞を作る時間になります(米国国立がん研究所(NCI)「Chemotherapy to Treat Cancer」2025年)。
投与の方法
- 内服(飲み薬):食事の前後で吸収が変わるため、飲むタイミングは薬ごとに決まっている
- 静脈への注射・点滴:多くは腕の静脈から。皮膚の下に「ポート(CVポート)」を埋め込み、自宅で点滴を続ける方法もある
- 皮下注射・筋肉注射
- がんのある場所への投与:腹腔内、髄腔内、膀胱内、がんに流れる動脈への注射など
出典:がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」(2025年)。
入院か、外来か
入院して行う場合と、外来通院で行う場合があり、体調やレジメンを考えて決めます。近年は外来で行うことが多くなっています(がん情報サービス 2025年)。
抗がん剤が効いているかは、どうやって確かめますか?
多くのがんでは、CTなどの画像検査でがんの大きさの変化を見て判断します。
白血病や多発性骨髄腫などの血液のがんでは、血液検査や骨髄検査で判断します。腫瘍マーカーを補助的に使うこともあります(がん情報サービス 2025年)。腫瘍マーカーの値の読み方は腫瘍マーカーとは何かを説明した記事で、がんの縮み方を数字で表す方法は奏効率とは何かを説明した記事で扱っています。
NCIは、副作用の有無から抗がん剤が効いているかどうかはわからないと書いています(NCI 2025年)。この点は抗がん剤の副作用が出ないと効いていないのかを書いた記事で詳しく説明しています。
効果を見ながら、治療を続けるか、別の治療を考えるか、治療を終えて経過観察にするかが判断されます。
抗がん剤には、どんな副作用がありますか?
副作用は薬の種類で大きく違い、同じ薬でも体調や持病、ほかの薬との組み合わせで変わります。
| 種類 | 主な副作用の例 |
| 細胞障害性抗がん薬 | 吐き気、食欲低下、だるさ、口内炎、下痢、脱毛、手足のしびれ。検査でわかる白血球減少、貧血、肝機能や腎機能の障害 |
| 分子標的薬 | 薬ごとに違う。皮膚障害、高血圧、間質性肺炎、タンパク尿など。抗体薬では投与中から24時間以内の発熱や悪寒など(インフュージョンリアクション) |
| 内分泌療法薬 | ほてり(ホットフラッシュ)、関節や骨・筋肉の症状など |
| 免疫チェックポイント阻害薬 | 免疫が強まり、がんのない場所に炎症が起こることがある。いつ、どこに出るかの予測が難しい |
出典:がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」(2025年)。
使う薬の副作用と対処法は、治療の前に医師や薬剤師から説明があります。副作用ごとにいつ出ていつまで続くのかは、抗がん剤の副作用はいつから、いつまで続くのかをまとめた記事に一覧にしています。治療中の発熱は抗がん剤による免疫低下と感染症の記事で扱っています。
治療前と明らかに違う症状が出たら、ためらわずに病院へ連絡することが勧められています(がん情報サービス 2025年)。
抗がん剤治療の費用はどうなりますか?
保険診療として行う抗がん剤治療には公的医療保険が使え、月の自己負担には高額療養費制度の上限があります。
薬の種類によって薬価は大きく違います。上限額の仕組みと、高額療養費の対象にならない費用は、がんの治療費と高額療養費の記事で説明しています。
治療を始める前に、何を確かめておけばよいですか?
治療の目的、薬の種類とスケジュール、副作用が出たときの連絡先の3つは、始める前に担当医に確かめておきます。
本人と家族で、次の項目をメモにして受診すると、聞き漏れが減ります。
- この治療は、治癒を目指すものか、進行を抑えるものか、症状を和らげるものか
- 使う薬はどの種類か(細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、内分泌療法薬、免疫チェックポイント阻害薬)
- 何週間ごとに何回行うのか。入院か外来か
- 効果はいつ、どの検査で確かめるのか
- どんな副作用が、いつごろ出やすいのか。夜間や休日にどこへ連絡するのか
- 仕事や家事、育児、介護をどこまで続けられるか
始める前に、こちらから伝えることもあります。がん情報サービスは、次の点を担当医に伝えるよう勧めています(がん情報サービス 2025年)。
- 肝臓や腎臓の病気、自己免疫疾患などの持病
- 飲んでいる薬やサプリメント、受けているほかの治療(お薬手帳を持参する)
- 将来子どもをもつことを考えているか。治療で子どもをつくる力(妊孕性)が影響を受けることがあり、治療を始める前の相談が必要
担当医に聞きにくいことは、がん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」に無料で相談できます。その病院にかかっていない人や家族も利用できます(がん情報サービス 2025年)。
抗がん剤の量は、一人ひとりの体を細かく測って決まるのではなく、身長と体重から計算した数字を出発点にしています。治療が始まってからの体調の報告が、その数字を本人の量に近づけていきます。
9人
抗がん剤の量を決めるときによく使われる体表面積の式(Du Bois、1916年)が、作られたときに測られた人数。標準の量は、その式で出した数字に「1㎡あたりの量」をかけて計算されます。
出典:Verbraecken ら Metabolism 2006年
抗がん剤にも工夫が要る、と僕は考えています
私が医師になった当時、約40年前は、がんは不治の病でした。当時の抗がん剤はほぼ無効で、放射線治療の進歩も停滞していました。
抗がん剤は、殺細胞性抗がん剤の使用量や使用方法、組合せが工夫され、その後21世紀になって分子標的薬が登場し、そして免疫チェックポイント阻害薬も導入されました。
医師に必要な素養は工夫だと思っています。抗がん剤にも工夫が必要です。副作用への対策、副作用時の減量具合などなどです。
監修者
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Q抗がん剤治療と化学療法は同じですか?
日常ではほぼ同じ意味で使われます。厳密には、がん情報サービスは細胞障害性抗がん薬を使う治療を「化学療法」と呼び、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使う治療とは分けています。まとめて「薬物療法」と呼びます。
Q抗がん剤治療は通院でできますか?
入院して行う場合と外来通院で行う場合があり、体調や治療計画で決まります。がん情報サービスによると、近年は外来で行うことが多くなっています。
Q抗がん剤治療はどのくらいの期間続けますか?
目的とがんの種類で違います。たとえば大腸がんの手術後に再発を防ぐための治療は6カ月が一般的で、3カ月のこともあります。治癒が難しい場合は、効果と副作用を見ながら続けるかどうかを判断します。
Q抗がん剤の量は体重で決まるのですか?
細胞障害性抗がん薬の多くは、身長と体重から計算した体の表面積をもとに決めます。カルボプラチンのように腎臓の働きから計算する薬や、ペムブロリズマブのように体の大きさによらず1回量が決まっている薬もあります。
Q抗がん剤だけで治るがんはありますか?
がん情報サービスは、急性白血病、悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍、絨毛がんなどを、薬物療法の効果が高く、薬物療法だけで治癒を目指すことがあるがんとして挙げています。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法」2025年3月11日更新
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/index.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年3月11日更新
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん) 治療」2025年3月24日更新
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/treatment.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」2025年6月19日更新
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html - National Cancer Institute. Chemotherapy to Treat Cancer. 2025年5月15日レビュー
https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/types/chemotherapy - Verbraecken J, Van de Heyning P, De Backer W, Van Gaal L. Body surface area in normal-weight, overweight, and obese adults. A comparison study. Metabolism. 2006;55(4).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16546483/ - Felici A, Verweij J, Sparreboom A. Dosing strategies for anticancer drugs: the good, the bad and body-surface area. Eur J Cancer. 2002;38(13):1677-1684.
https://doi.org/10.1016/S0959-8049(02)00151-X - Cancer Care Ontario. Carboplatin dosing (Calvert formula; Calvert AH, et al. J Clin Oncol 1989;7:1748-1756 を引用). 2010年12月改訂
https://www.cancercareontario.ca/sites/ccocancercare/files/assets/CCOCreatinineAppendix5.pdf - 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)~尿路上皮癌~」平成29年12月(令和2年8月改訂)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000672080.pdf





