奏効率は、治療でがんが縮んだ人の割合です。
長く生きられる人の割合ではありません。
奏効率は、抗がん剤や放射線の効果を表す数字として、治療の説明や新薬のニュースによく出てきます。ただし、この数字が何を数えていて、何を数えていないのかは、あまり説明されません。この記事では、奏効率の定義、完全奏効と部分奏効の違い、そして奏効率と生存率がどこで食い違うのかを整理します。
この記事の内容
奏効率とは何を数えた数字ですか?
奏効率とは、その治療を受けた人のうち、がんが縮小または消失した人の割合です。
治療を受けた人の総数を分母に、効果があらわれた人の数を分子にして算出します(国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「奏効率」、2024年更新)。同じ用語集には、続けてこう書かれています。奏効率は治療法を選ぶときの指標のひとつだが、生存率を示すものではない、と。定義そのものに、この記事で扱う論点がすでに含まれています。
なお「奏功率」と書かれることもあります。読みはどちらも「そうこうりつ」ですが、公的な用語集や診療ガイドラインでは「奏効」が用いられています。
完全奏効と部分奏効はどう違いますか?
完全奏効は画像上で病変が消えた状態、部分奏効は一定以上小さくなった状態です。
固形がんの効果判定には、RECIST(レシスト)という国際的な基準が使われます。現在使われているのは2009年に改訂された version 1.1 です(RECIST version 1.1 日本語訳JCOG版、2010年)。治療前のCTなどで測れる腫瘍のうち最大5個(1臓器につき2個まで)を「標的病変」として選び、その長径を足し合わせた数値(径和)の変化で判定します。
| 判定 | 標的病変の基準 |
| 完全奏効(CR) | すべての標的病変が消失。リンパ節は短径10mm未満に縮小 |
| 部分奏効(PR) | 治療前の径和と比べて、径和が30%以上減少 |
| 安定(SD) | PRにもPDにも当てはまらない状態 |
| 進行(PD) | 経過中で最小の径和と比べて20%以上増加、かつ絶対値でも5mm以上増加 |
出典:RECIST version 1.1 日本語訳JCOG版(2010年)
奏効率に数えられるのは、このうち完全奏効と部分奏効の2つだけです。安定(SD)は入りません。つまり「奏効率30%」は、残りの70%が悪化したという意味ではありません。その多くがSDであることもあります。

出典:RECISTガイドライン version 1.1(JCOG日本語訳、2010年)
安定まで含めた割合は「病勢制御率」と呼ばれ、奏効率とは別の数字です。同じ試験でも、病勢制御率のほうが高い数字になります。
完全奏効は、治ったということですか?
治ったということではありません。
完全奏効は、画像検査で確認できる範囲で標的病変が見えなくなった状態を指します。体内からがん細胞がなくなったという意味ではありません。RECISTが定義しているのは画像上の計測値であり、画像の分解能を下回る大きさの残存については、何も述べていません。
見えなくなったものが、治療を終えたあとに再びあらわれることがあります。完全奏効という判定は、その後どうなるかを含んでいません。
「30%小さくなった」はどれくらい小さくなったのですか?
長さで30%です。体積では約66%にあたります。
部分奏効の基準は、径和の30%減少です。ここで測っているのは長さ、つまり一次元の値です。腫瘍は立体なので、長さの変化と体積の変化は一致しません。

| 各方向の長さの減少 | 体積の計算 | 体積の減少 |
| 10% | 0.9×0.9×0.9=0.729 | 約27% |
| 20% | 0.8×0.8×0.8=0.512 | 約49% |
| 30% | 0.7×0.7×0.7=0.343 | 約66% |
同じ「30%縮小」という言葉でも、長さの話か体積の話かで印象がまったく変わります。そして部分奏効の条件を満たしたところで、体積にして3分の1程度は残っている計算になります。残ったものが再び大きくなるかどうかについて、この数字は何も語りません。
奏効率が高い治療は、長く生きられる治療ですか?
必ずしもそうではありません。
R2=0.10
奏効率の差で説明できる全生存期間の差は、およそ1割にとどまる。
675試験・35万112人の解析(2010〜2022年の第III相試験)
Shahnam A, et al. Eur J Cancer. 2024;198:113503
2024年に報告された解析では、奏効率と無増悪生存期間が全生存期間の代わりになるかが検証されました。結果は、奏効率の決定係数R²が0.10、無増悪生存期間が0.38で、いずれも全生存期間への効果を予測する指標としては弱いというものでした。奏効率が上がった治療が長生きにつながることもあれば、つながらないこともある、ということになります。
行政の判断でも同じことが起きています。米国FDAの迅速承認は、奏効率のような代替指標にもとづいて先に承認し、あとから検証試験で確かめる制度です。2013年から2023年の迅速承認を追跡した調査では、承認から5年以上が経過した46件のうち、全生存期間またはQOLの改善を示せたのは20件(43%)でした(Liu ITT, Kesselheim AS, Cliff ERS. JAMA. 2024;331(17):1471-1479)。
同じ調査では、通常承認に切り替わった48件の根拠も報告されています。
| 全生存期間 | 19件(40%) |
| 無増悪生存期間 | 21件(44%) |
| 奏効率と奏効期間の組み合わせ | 5件(10%) |
| 奏効率のみ | 2件(4%) |
| 検証試験が否定的だったにもかかわらず切り替わったもの | 1件(2%) |
出典:JAMA. 2024;331(17):1471-1479
3つの指標は、測っているものが違います。
| 指標 | 何を測るか | 限界 |
| 奏効率 | 腫瘍が一定以上縮んだ人の割合 | 縮んだ状態が続いた期間も、生きた期間も含まない |
| 無増悪生存期間 | 悪化と判定されるまでの期間 | 画像評価の間隔や治療中止の扱いで数値が動く |
| 全生存期間 | 亡くなるまでの期間 | 結果が出るまで年単位の追跡が必要 |

生存率のほうは、部位とステージによって数字が大きく変わります。数字の出どころと読み方はがんの生存率の読み方(部位別・ステージ別)にまとめています。
ここから先は、まだわかっていません
がん種や治療の種類によって、代替指標としての成り立ち方は変わります。先ほどの解析でも、無増悪生存期間は悪性黒色腫(R²=0.72)や膵がん(R²=0.70)では比較的よく対応していました。奏効率がどこまで上がれば生存期間が延びると言えるのか、がん種と薬の種類を越えて通用する基準は、まだありません。
奏効率が何%あれば、効く薬といえますか?
割合の数字だけでは決まりません。
奏効率が何%以上なら有効、という説明を見かけることがあります。ただし前の項で見たとおり、奏効率と全生存期間の対応の強さは、がん種と治療の種類によって変わります。同じ数字でも、意味は次の条件で変わります。
- どのがん種か
- 何番目の治療か(初回治療か、他が効かなくなったあとか)
- 比較対象は何か(他の薬か、無治療か)
- どの基準のどの版で判定したか
数字を見るときは、この4つとセットで見ることになります。
奏効率が高いほうの薬を選べばよいのですか?
別々の試験で出た奏効率どうしは、そのまま比べられません。
奏効率は、その試験に参加した人たちの中での割合です。参加した人の状態、治療の順番、判定の基準、判定の確定の仕方が試験ごとに違えば、出てくる数字も動きます。薬Aが40%、薬Bが30%という数字が別の試験から出てきたとき、その差が薬の差なのか、集団の差なのかは、その2つの数字だけからは分かりません。
同じ試験の中で同じ条件で比べたランダム化比較試験でなければ、比較にはなりません。単群試験の奏効率は、比較する相手がそもそもいない数字です。
なぜ奏効率という指標が使われるのですか?
早く出て、比較する群がなくても測れて、開発の判断に使えるからです。
第一に、早く出ます。腫瘍が縮んだかどうかは数週間から数か月で判定できますが、全生存期間は年単位の追跡が必要です。第二に、比較する群がなくても測れます。治療をしていないがんが自然に縮むことはまれなので、縮んだこと自体を薬の作用とみなせる、という前提が置かれています。第三に、開発の判断材料になります。効いた人がいるかどうかは、その薬を次の段階に進めるかを決めるうえで意味を持ちます。
これは開発する側にとっての有用性です。患者が知りたいのは、その治療を選んだときに自分の時間がどう変わるかであり、両者は同じではありません。
報告された奏効率には「確定」の有無がある
RECIST 1.1では、奏効率を主要評価項目とする非ランダム化試験の場合、最初に完全奏効・部分奏効と判定されてから4週間以上あけて再評価し、効果を確定させることが求められています。測定の誤差で「縮んだ」と判定されたものを除くためです。一方、ランダム化比較試験ではこの確定は求められていません。比較する対照群があるので、そちらを使って結果を解釈できるという理由です(Eisenhauer EA, et al. Eur J Cancer. 2009;45(2):228-247)。
同じ「奏効率30%」でも、確定されたものとそうでないものが混在しうるということです。
最新の知見|2026年8月更新
代替指標としての奏効率の妥当性は、近年まとめて検証が進んでいます。上記2024年の解析は、全体として奏効率の代替妥当性が低いことを示す一方で、その強さががん種と治療の種類によって異なることも示しました。「奏効率は当てにならない」でも「奏効率で判断してよい」でもなく、どの病気のどの治療の話かによって変わる、というのが現在の到達点です。
説明で奏効率を聞いたら、何を確かめればよいですか?
その数字が答えていない部分を聞き返すのが早道です。
- どの基準で判定した数字か(固形がんならRECISTのどの版か)
- 確定された奏効か
- 奏効期間はどのくらいか(縮んだ状態がどれだけ続いたか)
- 全生存期間のデータは出ているのか、まだ出ていないのか
- その試験に参加したのはどういう人たちか
その数字を出した試験に、誰が入っていたのか
最後の点は見落とされがちです。臨床試験には参加基準があり、全身状態(パフォーマンスステータス、PS)の条件が置かれているのが一般的です。日常生活がほぼ普通に送れる人に限る試験が多く、それより体力の落ちた人は入れないことがあります。
この偏りは、外からの批判ではありません。試験を審査する側が自ら問題として扱っています。米国FDAは2024年、抗がん剤の臨床試験の適格基準について、必要以上に厳しいことがあり、その結果として承認後に実際にその薬を使う患者層を代表しないデータになるとして、全身状態の条件を広げるようガイダンス案を公表しました。同じ趣旨の提言は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)とFriends of Cancer Researchが2017年から出しています(Kim ES, et al. J Clin Oncol. 2017;35(33):3737-3744)。
高齢で持病のある人に、そのまま当てはまる数字とはかぎらない。これは、審査する側が認めていることです。試験ごとの適格基準は、論文の方法の節に書かれています。年齢の上限、PSの範囲、腎機能や肝機能の下限が並んでいるはずです。
奏効率と生存率は、いつ揃うのですか?
奏効率が先に出て、全生存期間はそこから数年遅れて出ます。
ある治療について奏効率だけが公表されている段階と、生存期間まで出そろった段階では、判断できることの範囲が違います。今その治療がどちらの段階にあるのかは、数字を見るときに一緒に確かめられます。
この数字を、僕はこう読んでいます
奏効率は、医療サイドが抗がん剤の目先の効果を知るための指標です。患者さんが望むのは生存率の向上です。そこを履き違えると、正しい目標を外すことになります。
大切なのは、生存率をエンドポイントにした、ランダム化された大規模臨床試験で勝ち抜くことです。生存率が伸びれば、実はがんの大きさが小さくなる必要はありません。がんと共存して長生きする人を、僕は実臨床で多数経験しています。
もうひとつ。臨床試験にはとてつもないお金がかかります。そのため、必然的に臨床試験は生きのいい人を集めた試験が多いのです。目の前の患者さんがその中に入っていたかを、僕は先に考えます。
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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奏効率も生存率も、測るための道具です。では、その先に何を求めるのか。
がん患者さんが求めていること(ドリルではなくて穴)
4分の1インチのドリルを買う人が本当に欲しいのは、4分の1インチの穴である。新見正則が、患者さんと一緒に探したいものについて書いています。
よくある質問
奏効率とは何ですか?
その治療を受けた人のうち、がんが縮小または消失した人の割合です。完全奏効と部分奏効を合わせた割合を指し、変化のない安定(SD)は含みません。
奏効率と奏功率、どちらが正しいですか?
読みはどちらも「そうこうりつ」で、同じ意味で使われます。公的な用語集や診療ガイドラインでは「奏効」が用いられています。
奏効率が高ければ長生きできますか?
そうとはかぎりません。675試験・35万112人を対象とした2024年の解析では、奏効率は全生存期間への効果を予測する指標としては弱いという結果でした(R²=0.10、Eur J Cancer. 2024;198:113503)。
奏効率と病勢制御率はどう違いますか?
奏効率は完全奏効と部分奏効を合わせた割合です。病勢制御率は、そこに安定(SD)を加えた割合です。同じ試験でも、病勢制御率のほうが高い数字になります。
完全奏効になれば、治療は終わりですか?
完全奏効は画像上で病変が確認できなくなった状態であり、その後の経過を含んだ判定ではありません。治療を続けるかどうかは、がん種や治療の種類によって異なります。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「奏効率」(2024年更新)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/response-rate.html - 日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)「固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)改訂版 version 1.1 日本語訳JCOG版」2010年
https://jcog.jp/assets/RECISTv11J20100810.pdf - Shahnam A, et al. Objective response rate and progression-free survival as surrogates for overall survival treatment effect: A meta-analysis across diverse tumour groups and contemporary therapies. Eur J Cancer. 2024;198:113503.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38154394/ - Liu ITT, Kesselheim AS, Cliff ERS. Clinical Benefit and Regulatory Outcomes of Cancer Drugs Receiving Accelerated Approval. JAMA. 2024;331(17):1471-1479.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38583175/ - Eisenhauer EA, et al. New response evaluation criteria in solid tumours: revised RECIST guideline (version 1.1). Eur J Cancer. 2009;45(2):228-247.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19097774/ - FDA「Cancer Clinical Trial Eligibility Criteria: Performance Status」2024年
https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/cancer-clinical-trial-eligibility-criteria-performance-status - Kim ES, et al. Broadening Eligibility Criteria to Make Clinical Trials More Representative. J Clin Oncol. 2017;35(33):3737-3744.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28968170/





