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奏効率とは?生存率との違いがわからないと数字を読み違えます
奏効率は、治療でがんが縮んだ人の割合です。長く生きられる人の割合ではありません。
奏効率は、抗がん剤や放射線の効果を表す数字として、治療の説明や新薬のニュースによく出てきます。ただし、この数字が何を数えていて、何を数えていないのかは、あまり説明されません。この記事では、奏効率の定義、完全奏効と部分奏効の違い、そして奏効率と生存率がどこで食い違うのかを整理します。
奏効率とは何を数えた数字ですか?
奏効率とは、その治療を受けた人のうち、がんが縮小または消失した人の割合です(国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「奏効率」、2026年8月閲覧)。治療を受けた人の総数を分母に、効果があらわれた人の数を分子にして算出します。
同じ用語集には、続けてこう書かれています。奏効率は治療法を選ぶときの指標のひとつだが、生存率を示すものではない、と。定義そのものに、この記事で扱う論点がすでに含まれています。
なお「奏功率」と書かれることもあります。読みはどちらも「そうこうりつ」ですが、公的な用語集や診療ガイドラインでは「奏効」が用いられています。
完全奏効と部分奏効はどう違いますか?
固形がんの効果判定には、RECIST(レシスト)という国際的な基準が使われます。現在使われているのは2009年に改訂されたversion 1.1です(固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン RECIST version 1.1 日本語訳JCOG版、2010年)。
RECISTでは、治療前のCTなどで測れる腫瘍のうち最大5個(1臓器につき2個まで)を「標的病変」として選びます。選んだ病変の長径を足し合わせた数値(径和)の変化が、判定の基準になります。
| 判定 | 標的病変の基準 |
|---|---|
| 完全奏効(CR) | すべての標的病変が消失。リンパ節は短径10mm未満に縮小 |
| 部分奏効(PR) | 治療前の径和と比べて、径和が30%以上減少 |
| 安定(SD) | PRにもPDにも当てはまらない状態 |
| 進行(PD) | 経過中で最小の径和と比べて20%以上増加、かつ絶対値でも5mm以上増加 |
奏効率に数えられるのは、このうち完全奏効と部分奏効の2つだけです。安定(SD)は入りません。つまり「奏効率30%」は、残りの70%が悪化したという意味ではありません。その多くがSDであることもあります。
安定まで含めた割合は「病勢制御率」と呼ばれ、奏効率とは別の数字です。同じ試験でも、病勢制御率のほうが高い数字になります。
【図表①】response-rate-scope.svg/alt:奏効率とは何を数えた数字かを示す図。完全奏効と部分奏効を合わせた割合が奏効率で、安定・進行や、奏効期間・無増悪生存期間・全生存期間は含まれない
「がんが消えた」とは、どこまで消えたことですか?
完全奏効は、画像検査で確認できる範囲で標的病変が見えなくなった状態を指します。体内からがん細胞がなくなったという意味ではありません。RECISTが定義しているのは画像上の計測値であり、画像の分解能を下回る大きさの残存については、何も述べていません。
「30%小さくなった」はどれくらい小さくなったのですか?
部分奏効の基準は、径和の30%減少です。ここで測っているのは長さ、つまり一次元の値です。腫瘍は立体なので、長さの変化と体積の変化は一致しません。
| 各方向の長さの減少 | 体積の計算 | 体積の減少 |
|---|---|---|
| 10% | 0.9×0.9×0.9=0.729 | 約27% |
| 20% | 0.8×0.8×0.8=0.512 | 約49% |
| 30% | 0.7×0.7×0.7=0.343 | 約66% |
同じ「30%縮小」という言葉でも、長さの話か体積の話かで印象がまったく変わります。そして部分奏効の条件を満たしたところで、体積にして3分の1程度は残っている計算になります。残ったものが再び大きくなるかどうかについて、この数字は何も語りません。
奏効率が高い治療は、長く生きられる治療ですか?
必ずしもそうではありません。
2024年に報告された解析では、2010年から2022年に発表された第III相ランダム化比較試験675件(35万112人)を対象に、奏効率と無増悪生存期間が全生存期間の代わりになるかが検証されました。結果は、奏効率の決定係数R²が0.10、無増悪生存期間が0.38で、いずれも全生存期間への効果を予測する指標としては弱いというものでした(Shahnam A, et al. Eur J Cancer. 2024;198:113503)。
R²が0.10とは、試験どうしを比べたとき、奏効率の差では全生存期間の差の1割程度しか説明できないという意味です。奏効率が上がった治療が長生きにつながることもあれば、つながらないこともある、ということになります。
行政の判断でも同じことが起きています。米国FDAの迅速承認は、奏効率のような代替指標にもとづいて先に承認し、あとから検証試験で確かめる制度です。2013年から2023年の迅速承認を追跡した調査では、承認から5年以上が経過した46件のうち、全生存期間またはQOLの改善を示せたのは20件(43%)でした(Liu ITT, Kesselheim AS, Cliff ERS. JAMA. 2024;331(17):1471-1479)。
同じ調査では、通常承認に切り替わった48件の根拠も報告されています。全生存期間19件(40%)、無増悪生存期間21件(44%)、奏効率と奏効期間の組み合わせ5件(10%)、奏効率のみ2件(4%)、検証試験が否定的だったにもかかわらず切り替わったものが1件(2%)です。
| 指標 | 何を測るか | 限界 |
|---|---|---|
| 奏効率 | 腫瘍が一定以上縮んだ人の割合 | 縮んだ状態が続いた期間も、生きた期間も含まない |
| 無増悪生存期間 | 悪化と判定されるまでの期間 | 画像評価の間隔や治療中止の扱いで数値が動く |
| 全生存期間 | 亡くなるまでの期間 | 結果が出るまで年単位の追跡が必要 |
(ここに内部リンク1:がんの生存率の読み方(部位別・ステージ別))
ただし、がん種や治療の種類によって、代替指標としての成り立ち方は変わります。先ほどの解析でも、無増悪生存期間は悪性黒色腫(R²=0.72)や膵がん(R²=0.70)では比較的よく対応していました。奏効率がどこまで上がれば生存期間が延びると言えるのか、がん種と薬の種類を越えて通用する基準は、まだありません。
なぜ奏効率という指標が使われるのですか?
理由は主に3つあります。
第一に、早く出ます。腫瘍が縮んだかどうかは数週間から数か月で判定できますが、全生存期間は年単位の追跡が必要です。
第二に、比較する群がなくても測れます。奏効率は単群試験でも算出できます。治療をしていないがんが自然に縮むことはまれなので、縮んだこと自体を薬の作用とみなせる、という前提が置かれています。
第三に、開発の判断材料になります。効いた人がいるかどうかは、その薬を次の段階に進めるかを決めるうえで意味を持ちます。
これは開発する側にとっての有用性です。患者が知りたいのは、その治療を選んだときに自分の時間がどう変わるかであり、両者は同じではありません。
報告された奏効率には「確定」の有無がある
RECIST 1.1では、奏効率を主要評価項目とする非ランダム化試験の場合、最初に完全奏効・部分奏効と判定されてから4週間以上あけて再評価し、効果を確定させることが求められています。確定できなければSDに格下げされます。一方、ランダム化比較試験ではこの確定は必須ではありません。同じ「奏効率30%」でも、確定されたものとそうでないものが混在しうるということです。
【要確認:この確定の規定について、JCOG日本語訳版の該当節を人の目で照合してください。二次解説での確認にとどまっています】
(ここに内部リンク2:エビデンスの読み方とエビデンスレベル)
【最新の知見】2026年8月更新
代替指標としての奏効率の妥当性は、近年まとめて検証が進んでいます。上記2024年の解析(675試験・35万112人)は、全体として奏効率の代替妥当性が低いことを示す一方で、その強さががん種と治療の種類によって異なることも示しました。「奏効率は当てにならない」でも「奏効率で判断してよい」でもなく、どの病気のどの治療の話かによって変わる、というのが現在の到達点です。
説明で奏効率を聞いたら、何を確かめればよいですか?
数字だけを受け取ると、その数字が答えていない部分が見えなくなります。確かめておくとよい点を挙げます。
- どの基準で判定した数字か(固形がんならRECISTのどの版か)
- 確定された奏効か
- 奏効期間はどのくらいか(縮んだ状態がどれだけ続いたか)
- 全生存期間のデータは出ているのか、まだ出ていないのか
- その試験に参加したのはどういう人たちか
最後の点は見落とされがちです。臨床試験の参加基準には、全身状態(パフォーマンスステータス)の条件が置かれているのが一般的です。高齢で持病のある人に、そのまま当てはまる数字とはかぎりません。試験ごとの適格基準は、論文の方法の節に書かれています。
奏効率と生存率は、いつ揃うのですか?
奏効率は、治療を始めてから比較的早い時点で得られる数字です。全生存期間の結果が出るまでには、そこからさらに数年かかります。ある治療について奏効率だけが公表されている段階と、生存期間まで出そろった段階では、判断できることの範囲が違います。今その治療がどちらの段階にあるのかは、数字を見るときに一緒に確かめられます。
【ここに先生のコメント】
よくある質問
奏効率とは何ですか?
その治療を受けた人のうち、がんが縮小または消失した人の割合です。完全奏効と部分奏効を合わせた割合を指し、変化のない安定(SD)は含みません。
奏効率と奏功率、どちらが正しいですか?
読みはどちらも「そうこうりつ」で、同じ意味で使われます。公的な用語集や診療ガイドラインでは「奏効」が用いられています。
奏効率が高ければ長生きできますか?
そうとはかぎりません。675試験・35万112人を対象とした2024年の解析では、奏効率は全生存期間への効果を予測する指標としては弱いという結果でした(R²=0.10、Eur J Cancer. 2024;198:113503)。
奏効率と病勢制御率はどう違いますか?
奏効率は完全奏効と部分奏効を合わせた割合です。病勢制御率は、そこに安定(SD)を加えた割合です。同じ試験でも、病勢制御率のほうが高い数字になります。
奏効率が何%以上なら効果があると言えますか?
目安として語られる数字はありますが、同じ数字でも、がんの種類、何番目の治療か、比較対象が何かによって意味が変わります。奏効率だけを取り出して有効性を判断することはできません。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「奏効率」 https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/response-rate.html
- 日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)「固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)改訂版 version 1.1 日本語訳JCOG版」2010年 https://jcog.jp/assets/RECISTv11J_20100810.pdf
- Shahnam A, et al. Objective response rate and progression-free survival as surrogates for overall survival treatment effect: A meta-analysis across diverse tumour groups and contemporary therapies. Eur J Cancer. 2024;198:113503. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38134560/
- Liu ITT, Kesselheim AS, Cliff ERS. Clinical Benefit and Regulatory Outcomes of Cancer Drugs Receiving Accelerated Approval. JAMA. 2024;331(17):1471-1479. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38583175/





