フアイアが免疫力を基本的に向上させ、一方であるタンパク質に対して亢進しすぎた免疫力を正常に戻す働きには、いろいろな作用機序が考えられています。そして実験でもいろいろな生化学的経路に影響することが確認され、多数の英文論文として公開されています。
詳細は、2019年に開催された第57回日本癌治療学会での講演資料をご参照下さい。
まず①抗腫瘍作用としてpAKT/mTOR/S6経路、ER/NF-κB経路、そしてWnt/β-カテニン経路に作用することが確認されています。②転移抑制作用としては、GSK3β/βカテニン経路、上⽪間葉移⾏およびAEG-1経路の不活性化に作用することが実験で判明しています。③血管新生抑制作用、④アポトーシス(細胞死)誘導作用、⑤がん幹細胞の抑制作用、⑥腫瘍特異的免疫調節作用、⑦免疫刺激性サイトカインによるT細胞増殖促進作用、⑧M2マクロファージからM1マクロファージへの誘導作用、⑨NK細胞の活性化作用などが、動物実験や培養がん細胞の研究から判明しています。
フアイアはエンジュの老木に生える数百種類のキノコの中のひとつです。自然界に存在する生薬に分類されます。つまり多成分系の薬剤です。ですから、単一成分である西洋薬とは異なり、複数の作用機序が存在することは理に適っています。そして、実際にそれらの作用機序が働いて抗腫瘍作用を誘導しているのですが、複数の作用機序の優劣や相互作用がまだまだ解らないのです。
ある経路がノックアウトされたマウスを用いたり、ある経路を特異的に遮断する抗体を使用して生化学的経路をブロックしたりと、実験系を組み立てることは理論的には可能ですが、少なくとも現状で判明している10数種類の経路の相互関係をすべて探索することは現状ではなされていません。
また、最近の研究結果からはひとつのキーになる物質はTPG-1という糖鎖であることが判明しています。
フアイアの免疫刺激性プロテオグリカンについて(Journal of Biochemistry 掲載論文)
フアイアの実臨床で大切なことは、実際の患者さんを1000人以上集めて、ランダム化して、フアイアの投与群と非投与群を作って、エンドポイントを生存率としてフアイアが勝ち抜いた結果がすでにあることです。米国臨床腫瘍学会のエビデンスピラミッドの頂上に君臨する最高のエビデンスを獲得したものがフアイアです。動物実験や培養がん細胞の実験は米国臨床腫瘍学会のエビデンスピラミッドでは最下層のものです。サイエンス的には非常に興味があるものですが、実臨床では実は役に立ちません。
また東洋医学的な作用機序を質問されることも少なからずあります。フアイアは生薬ですが、中国で使用している医師の9割以上は西洋医で、西洋薬のイメージで使用しています。フアイアを投与する時に東洋医学的な診断が不要だからです。そして中医(中国の漢方医)はフアイアに歴史的な中医学的裏付けがないためか積極的な使用を行っていません。それはもっともで、悪性腫瘍という病態を東洋医学的に位置づけることが難しいからです。
僕が専門とする和漢(日本の漢方)的立ち位置からも、フアイアの作用機序は説明できません。むしろ、悪性腫瘍という病態が陰陽、虚実、気・血・水のどの異常なのかも判然としません。そしてもしも過去の漢方薬で悪性腫瘍に有効なものがあれば、その漢方薬の立ち位置から抗腫瘍効果や悪性腫瘍の東洋医学的病態を類推できますが、残念ながら和漢の漢方薬で抗腫瘍効果を示したものはありません。
そんな事情でフアイアを東洋医学的に説明することを僕は控えています。仮想病理概念を羅列しても西洋医を納得させることができないからです。西洋医を納得させるには1000例規模のランダム化された大規模臨床試験が必須で、それをフアイアは勝ち抜いているので、その結果で必要十分と思っています。また、患者さんの立場に立てば、マウスや培養がん細胞の実験、そして東洋医学的仮想病理概念よりも、生存率をエンドポイントにしたフアイアのランダム化大規模臨床試験が何よりも大切で重要な結果なのです。
●内部リンク(当サイト内でご参考になる記事)
まずフアイアを試したいときには
がんの例え話「雑草と土壌」
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執筆者略歴 新見正則
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得 (Doctor of Philosophy)。外科医 x サイエンティスト x 漢方医としてレアな存在で活躍中。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授 (外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞 (脳と免疫)。現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。漢方JP主催者。
新見正則の生き方論は以下の書籍も参考にしてください。
しあわせの見つけ方 予測不能な時代を生きる愛しき娘に贈る書簡32通(新興医学出版社)
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