がんの例え話「雑草と土壌」の1,2,3がわかりやすいと好評なので、微妙な間違いを訂正しつつ、4を書きます。がんは雑草で、外科治療、抗がん剤、放射線治療などは雑草を上手に退治しています。しかしそれらは退治した後に雑草が生えないようにするには無力だと語ってきました。雑草が生えないようにするには雑草が生えやすくなっている土壌の改良が必須なのです。
実はこの例えにはちょっとした間違いがあります。雑草と表現すると遠くの敷地から雑草の種が風や生き物(動物や昆虫)によって運ばれて、そして土壌に住み着いて、芽が出て大きくなるイメージです。そんなイメージは感染症で成り立ちます。風邪、インフルエンザ、そしてコロナ感染症、結核、水虫、そして梅毒や淋病などの性感染症などもそうです。
そして実は感染症で発生するがんもあります。子宮頚がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染で発症率が激増します。ですからHPVワクチンの投与は子宮頚がんの発症防止に有効なのです。また、肝炎ウイルスから肝硬変になり肝臓がんに至るストーリー、そしてピロリ菌感染から胃がんに至るストーリーも感染症が引き起こすがんです。ただ、ヒトパピローマウイルスも肝炎ウイルスも、そしてピロリ菌もがんの発症の原因ですが、所詮自分の細胞ががん化するのです。実際は土壌ががんを起こしやすくしています。
雑草は自分の庭に生えている草花からは生じません。がんはじつは自分の細胞ががんになるのです。自分が大切に育てた草花が、徐々にがん化して、ある日雑草としてのがんと認識されるに至るのです。
ヒトは卵子と精子という母親の細胞1個と父親の細胞1個が合体して、そして何十兆にも増えてヒトの体を作ります。そしてヒトとしての個体は生まれてから死ぬまで存続しますが、実は細胞の多くは死滅と再生を繰り返しています。僕がオックスフォードで住んでいたアパートは約200年前のものでした。しかしレンガや壁、屋根、柱などのパーツは交換されていました。ヒトのからだでは生きているあいだ中、多くの細胞が死んで、そして再生を繰り返しています。その修復機転に異常が生じると、無秩序な増殖をするがん細胞に変化するのです。
昔は、僕が若いときは、がんができると「おしまい」といったイメージが医師にも医学生にもありました。ところが実はある年齢を過ぎると、1日に数千個のがん細胞ができてはいるが、免疫力で退治しているというストーリーがほぼ正しいと思われています。
そんな大切な草花から雑草に変わった植物を退治する土壌が免疫力なのです。がんがある程度大きくなっても、雑草が少々存在しても、実は問題ありません。自分が大切に育てている草花が、自分の家や庭がこの世からなくなる(お迎えが来る)まで、問題なく育てば良いのです。雑草を過度に怖がらずに、免疫力(=健康力)を鍛えて、お迎えが来る日まで生き抜きましょう。
僕がオックスフォードで5年間暮らしたアパートはグーグルのストリートビューで見るとまだ健在でした。超懐かしいです。
●内部リンク(当サイト内でご参考になる記事)
がんの例え話「雑草と土壌」
がんの例え話「雑草と土壌」2
がんの例え話「雑草と土壌」3
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執筆者略歴 新見正則
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得 (Doctor of Philosophy)。外科医 x サイエンティスト x 漢方医としてレアな存在で活躍中。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授 (外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞 (脳と免疫)。現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。漢方JP主催者。
新見正則の生き方論は以下の書籍も参考にしてください。
しあわせの見つけ方 予測不能な時代を生きる愛しき娘に贈る書簡32通(新興医学出版社)
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