【がん治療三部作①】誰も教えてくれなかった「がん治療病院の選び方」

私の40年間の経験から語っています。私の意見や感想です。もしも事実誤認があったときにはご連絡ください。修正させて頂きます。

目次

がん治療の歴史は古く、そしてどんどん進化しています。

私が医師になった当時、約40年前は、がんは不治の病でした。当時の抗がん剤はほぼ無効で、放射線治療の進歩も低迷していました。手術治療のみが一縷の望みを繋ぐ手段でした。肝臓がんや膵臓がん、食道がんなどのちょっと大きな手術は死亡率が高く、手術のみで5年生存する患者さんがボツボツと登場する時代でした。外科的がん治療の独断場でした。

外科治療は1850年頃に全身麻酔が開発され、その後いろいろながんに対する外科治療が始まりました。1900年頃には放射線のがん治療への応用が始まりました。そして第二次世界大戦終了後の1950年頃から、大戦中に毒薬として使用されたものからヒントを得て、殺細胞性抗がん剤が登場しました。

私が外科医を志したのは1985年です。その後、外科治療は手技が向上し手術死亡率は激減しました。また、放射線治療は強度変調放射線治療(IMRT)が普及し、陽子線や重粒子線治療も始まりました。抗がん剤は、殺細胞性抗がん剤の使用量や使用方法、組合せが工夫され、その後21世紀になって分子標的薬が登場し、そして免疫チェックポイント阻害剤も導入されました。

そんながん治療の進歩に従って、病院選びは難しくなります。外科治療だけが王道で、他の治療への期待がないときは、外科治療が上手な病院を、上手い外科医を選べば良かったのです。しかし、外科治療、放射線治療、抗がん剤が、がん治療の3本柱になると、いろいろな条件を満たす病院が最善の治療を行える病院になります。そしてそんな治療を行うスタッフの充実がなにより良い病院には必要になります。

厚生労働省は「均霑化(きんてんか)」という言葉を使って、日本のどこでも平均的ながん治療を受けられる体制を整えようとしています。ガイドラインを整えたりして、特殊な知識を持っていなくても、平均的な医師で、平均的な医療施設であれば、どこでも遜色ないがん治療が行えるようにしたいのです。しかし、それは建前です。「これだけがん治療がいろいろなチームの総力戦になると、病院の設備も、人材も、全国で均霑化することは無理!」と思います。

がん治療には「運」がもっとも大切!

私が外科医を志した40年前でさえ、いまでも難治と思えるがんを克服した人は少なからずいます。「運」が良ければ、外科治療だけで、放射線治療も抗がん剤治療も行わずに、がんを克服できるのです。40年の進歩を経ても、現在でも「運」が悪ければ、いろいろと最善の対処をしても、不幸な結果になります。

まず近くのがん治療病院を考慮しましょう。

まず、移住地から近くて、がん治療を行っている病院が第1選択になります。自分は「運」がよいと思える人は、その病院で加療を受ければいいでしょう。そして治療にお金を惜しむ方は近くの病院がイチオシです。いろいろと病院を探しても、遠距離で移動に時間がかかる病院は、交通費や滞在費で相当の出費が必要です。

がん治療のためにもっとも理想的な病院

治療費が無料の病院

治療費が無料の病院があれば理想的ですね。実はなんとそんな病院が存在します。

セントジュード小児研究病院(St.Jude Children’s Research Hospital)はアメリカのテネシー州メンフィスにあります。1962年の設立当時から今日に至るまで世界中から「人種や信条を理由に拒むことなく」患者を受け入れています。治療費や食費は無料です。さらに患者さんには渡航費や滞在施設まで与えられます。この病院はレバノン系アメリカ人のコメディアンであるダニー・トーマスの努力によって設立されました。売れないコメディアンであった頃にもしも成功したら恩返しをすると誓ったそうです。そして彼は大成功しこの病院を作りました。トーマスはいろいろな人に寄付をお願いし、そして1962年にこの病院がスタートしました。125人で始まったこの病院は、今や数千人の職員が働き、年間の運営費は数百億円です。

上記はアメリカのお話ですが、アメリカは病気になると破産するひとが少なくありません。それはアメリカでは医療費がとんでもなく高額だからです。そして民間保険会社の医療保険で自分の医療費をカバーします。ですから、病院は治療開始前に、どのランクの医療保険に入っているかの確認が必要なのです。

その点、本邦は皆保険制度です。これは国民に限らず、日本に在住していて、保険料を納付している人にはすべてに適用されます(日本国民である必要はありません)。医療費の支払は最大でも3割です。残りの7割以上は社会保障費から補填されます。その上、高額療養費制度があるので、暦月当たりの支払い額は8万100円+(医療費―26万7000円)×0.01が現役世代の上限です。暦月当たり1000万円の医療費の場合、3割負担は300万円ですが、高額療養費制度があるので、最大でも約18万円に収まります。

そして本邦では子供の医療費の負担額は2割ですが、その自己負担分の2割を市町村で
補助を行っている場合もあります。実はセントジュード小児研究病院と同じように、医療費にはアメリカと比較すればほとんどお金がかからない仕組みが本邦では出来上がっています。日本の医療提供体制は費用負担が極わずかという観点からも、医療技術の水準からも世界のトップレベルです。

いくらでも話を聞いてくれる病院

本邦では皆保険制度があるほかに、医療機関へのフリーアクセス制度も敷かれています。誰でも希望すればどこの医療機関も受診できるのです。ですから医療機関の外来は大変に混雑しています。「日本の医療機関は3分診療だ!」とも揶揄されます。それはある意味フリーアクセスの欠点でもあります。患者さんの立場に立てば、いくらでも話を聞いてくれる病院が理想に映りますね。

セカンドオピニオンは自費診療で行っている病院がほとんどですが、その場合数万円を支払えば30分から60分の時間をとって十分にお話を聞くことができます。保険診療の範囲で、誰にでもいくらでも話を聞ける体制を作るのは結構難しいと思いますし、本邦ではそんな病院は私が知る限りはありません。

アメリカは医療費が高額です。私が免疫学の共同研究で、長くアトランタのエモリー大学の教授宅に滞在しました。そして、実験の傍ら、時々は臓器移植のドナー摘出のお手伝いをしていました。そして彼の外来も見学しました。30分から1時間で1人の診察でした。

いつでも主治医に気軽に連絡できる病院

不安な時に主治医に電話で連絡できれば安心ですね。病院単位で主治医の先生といつでも連絡できる体制を作っているところを私は知りません。個人的に主治医が携帯番号を記載した名刺を患者さんに渡している医師を私は、数人知っています。しかし、それは個人的な配慮で行っているもので、病院のシステムとしては難しいと思います。病院としては、主治医個人ではなく担当部署で対応するという形を取っています。

いつでも主治医に連絡できれば、外来で話すことはほとんどなくなりますね。困った時に電話をすれば済みますから。新見正則医院の患者さんはみなさんがいつでも私に電話で連絡可能なっています。私の携帯の電話番号を患者さんが知っているのです。

客観的にわかる「がん治療のために理想の病院」

ここでは「がん治療のための理想の病院」が私の判断基準で、数字などで客観的にわかるものを並べています。ここで並べられている項目にひとつも該当しなくても、がん治療を行っている病院は多数あります。そしてそこで適切な治療が受けられれば、それで問題ありません。がん治療は「運」に強く左右されます。運が良ければ、理想には遠い病院でも好結果になります。反対に、ここにある項目を全て満たす病院があったとしても(実際はありません)、運が悪ければ、あなたのがん治療は不幸な結果になります。私は公益財団法人の病院に1カ所、日本赤十字社の病院に2カ所、大学病院に2カ所、常勤医師として勤務しました。以下に該当しない場合に、私がどんな言い訳を患者さんにするかも、それぞれの項目で追記します。

がん診療連携拠点病院

厚生労働省が「がん診療連携拠点病院等」を定めています。
ここでは以下のように記載されています。

全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるよう、全国にがん診療連携拠点病院を456 箇所(都道府県がん診療連携拠点病院51 箇所(うち、3箇所が(特例型))、地域がん診療連携拠点病院357箇所(うち、24 箇所が(特例型))、特定領域がん診療連携拠点病院1箇所、地域がん診療病院47 箇所(うち、6箇所が(特例型)))指定しています(令和5年4月1日現在)

ここに載っている病院は厚生労働省ががん診療拠点病院等で紹介しているものですから、それなりの病院です。診療連携拠点病院に上がっている病院で治療を受けることが、厚生労働省目線ではベストになります。

【私ならこう言い訳する】
「当院はがん診療連携拠点病院には含まれておりませんが、当院で対処が難しいときは、がん診療連携拠点病院である○○病院と連携ができています。ですから、治療内容にさほどの差は生じません。」

【でも実際は】
「さほどの差」が、どれぐらいかは不明です。近くにまったく同じ病院があって、片方ががん診療連携拠点病院で、もう片方ががん診療連携拠点病院でない場合は、当然にがん診療連携拠点を選ぶでしょう。

重粒子線と陽子線がある病院

これからの放射線治療は陽子線になると私は思っています。今まではX線による放射線治療がほとんどでした。X線は強度変調放射線治療(IMRT)を持ちいても、病巣部分だけに照射することは難しく、5年から10年後以降の二次発がんが問題になります。一方で陽子線や重粒子線はある特定の場所に限局して放射線治療を行うことができる装置です。2016年から保険適用が始まり、徐々に保険適用が拡大されています。重粒子線は陽子線よりも破壊力が強いのですが、設置のコストが陽子線に比べて遙かに高額です。保険適用にあたり重粒子線も陽子線も同じ保険点数になりました。よって、これからは使い勝手がよく、設置費用が重粒子線ほどは高額ではない(でも相当高額)陽子線が一般化すると思っています。陽子線や重粒子線がある病院はここで検索できます。

【私ならこう言い訳する】
「陽子線や重粒子線の治療は歴史が浅く、まだまだ保険適用も限られています。当院にある放射線治療装置で、陽子線や重粒子線治療とほぼ同程度の効果は期待できます。」

【でも実際は】
私は将来的にはほとんどすべてのX線による放射線治療は陽子線に置き換わるべきだと思っています。「べきだ!」と言うのは、陽子線は設置費用や維持費が高額で、「理想だが、実際は無理」というのが本音です。重粒子線装置は陽子線装置よりもさらに高額なので、保険点数が陽子線と重粒子線で同じとなれば、陽子線が普及すると思っています。陽子線治療とX線による治療を選べれば、X線治療を選択する放射線治療医はまれと思います。

内照射や内服療法ができる病院

内照射や内服療法は特殊な放射線治療で、放射線を出す線源を体の中に入れる治療です。通常の外照射とは異なり、直接に線源が体内にあるので、効果が抜群なのです。この治療も必要に応じて行えた方が、がん治療の選択肢が広がるのです。

内照射(密封小線源治療)を行える病院の検索はここで可能です。

【私ならこう言い訳する】
「内照射は当院ではできませんが、外照射なら可能で、ふたつの治療で結果はほぼ同じです。」

【でも実際は】
いろいろな治療が選択できた方が患者さんのためです。そして放射線治療医もいろいろな治療を行いたいと思っていますが、勤務先の機器に合わせて、上手に説明をしています。放射線治療医に「どちらも選べるなら、先生ならばどちらの治療方法を選択しますか?」と尋ねるといいと思います。

ロボット支援手術ができる病院

日本ロボット外科学会で国際A、国際B、国内A、国内B資格取得者と所属機関を検索できます。

ロボット支援手術による外科治療はこの30年間で進歩しました。最初は腹腔鏡による胆のう摘出術が始まりでした。そして、腹腔鏡による治療がいろいろながんに応用され、その後、ダビンチなどのロボット支援手術が行われています。手術内容はほぼ同じですが、術者目線では、画像がモニターに映るので大きく、術者の指先よりも小回りが利くロボットアーム、そして手先の振るえが伝わらないシステムなど、通常の外科手術や腹腔鏡手術に比べて、マイナスとなることは少ないと思います。

【私ならこう言い訳する】
「当院にはロボット支援手術はありませんが、腹腔鏡手術は可能です。その両者に術後の差異はありません。」、または「当院では従来通りの開腹手術を行いますが、腹腔鏡手術やロボット支援手術と比較して予後に差はありません。」

【でも実際は】
確かに、従来の開腹手術と比べて、腹腔鏡やロボット支援手術で治療後の予後に差はありません。同じことをやる道具が異なるだけです。しかし、大きな創で行われる手術と、小さな穴が数箇所と、臓器を取り出す小さな創だけで終わる腹腔鏡やロボット支援手術では術後の痛みが異なります。自分が選べるなら、開腹手術ではなく、腹腔鏡やロボット支援手術です。腹腔鏡とロボット支援手術は、がん種によって御利益の程度が異なります。

ゲノム医療中核拠点病院

がんゲノム医療中核拠点病院(13施設)、がんゲノム医療拠点病院(32施設)とがんゲノム医療連携病院(219施設)の一覧

病院を選べるなら、がんゲノム医療中核拠点病院がベストです。次にがんゲノム医療拠点病院、そしてがんゲノム医療連携病院となります。ゲノム医療に関心がなければ、差異はありません。現状のゲノム医療は、遺伝子異常を調べて、そしてその遺伝子異常に有効な分子標的薬を使用することです。実際に有効な薬剤にたどり着く可能性は1割程度とされています。ですから、「たった1割」と思うか、「1割もの人に」と思うかです。

【私ならこう言い訳する】
「がんゲノム医療は始まったばかりです。必要な時はがんゲノム医療中核拠点病院をご紹介します。」

【でも実際は】
上記の対応で問題ありません。同じ病院が二つあって、片方ががんゲノム医療中核拠点病院であれば、そちらを選択するということです。

腫瘍内科医が常勤でたくさんいる病院

日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医の一覧 2024年3月1日現在 1615人

日本臨床腫瘍学会認定研修施設 2024年3月1日現在 456カ所

腫瘍内科の専門家が、「日本には腫瘍内科がまったく不足している!」と声高に語っています。腫瘍内科がそんなに不足していて、安全で御利益のある抗がん剤治療ができるのでしょうか? 抗がん剤をガイドライン通りに使用することで、がん治療の均霑化が得られ、どこでも安全で御利益のある抗がん剤治療が可能なら、腫瘍内科はガイドライを作る人数だけいれば、問題ないように思えます。

【私ならこう言い訳する】
「以前は私が抗がん剤治療を行っていました。ガイドラインもあるので、抗がん剤治療はどこで行っても結果に大差はありません。」

【でも実際は】
ガイドライン通りに使うと上手く行かないことがあるからこそ、腫瘍内科が必要なのです。腫瘍内科が複数いる病院が安心です。

放射線治療医が常勤でたくさんいる病院

日本照射線腫瘍学会 認定施設の一覧 2023年4月1日現在 256施設

日本照射線腫瘍学会 放射線治療専門医の一覧 2023年12月25日現在 1442人

がん患者さんが放射線治療を受ける割合は、ザックリと欧米では6割と言われています。本邦では2から3割だそうです。私を含めて今までがん治療を担ってきた外科医の多くが、そもそもは抗がん剤や放射線治療はほぼほぼ無効という時代に育ったことも一因に思えます。しかし、現在は外科治療、放射線治療、そして抗がん剤ががん治療の3本柱です。少なくととも、放射線治療施設がない病院は候補から外れます。しかし、病院内に放射線治療施設がなくても、密な連携先に放射線治療施設があれば問題ありません。放射線治療医が常勤の病院は実は少なく、多くの病院で放射線治療がアルバイトで週に1から2回来ているところも少なくありません。

【私ならこう言い訳する】
「放射線科の医師は非常勤ですが問題なく治療可能です。」

【でも実際は】
放射線治療医が常勤でいないということは、その病院に放射線治療施設としての魅力がないからです。

病理医が常勤でいる病院

日本病理学会 専門医 2782人
日本病理学会 認定施設

がん治療で病理医の存在は実は超大切です。私が外科病理の修練をしていた頃、当時でも乳がんの診断は専門家でも意見が分かれることがありました。胃がんや大腸がんなどの診断は、実はちょっと病理を勉強すると可能になります。乳がんの病理診断は相当難しいのです。病理医が「がん」と診断すれば、がん治療に進み、「良性」と診断すれば、当然に経過観察になります。乳がんの病理のセカンドオピニオンは実は大切なのです。私の患者さんでも、ある病院で乳がんと診断され、手術日まで決まっていた方がセカンドオピニオンで受診され、他の病院を紹介したところ、乳がんの可能性は極めて少ないとの結論に到り、現在も手術もせず、元気に暮らしています。また、病理医による術中の迅速診断が外科治療では大切です。現在の外科治療は、根治を目指しています。それは抗がん剤が冴えないからです。抗がん剤が外科手術や放射線治療での不足部分を補えるほど冴えていれば、手術ですべてのがんを取り除く必要はありません。しかし、現状はすべてのがんを取り除くことが外科の使命です。ですから、手術中の迅速病理診断が大切なのです。切除断端を迅速病理検査に出して、断端が陽性であれば、さらに切除部分を広げることを行っています。根治切除のためです。優秀な病理診断医が常勤でいることが重要です。

【私ならこう言い訳する】
「腫瘍から十分に離して切除していますから、手術中の病理診断は行っていません。」

【でも実際は】
手術中の病理診断を行えば、切除範囲を小さくできるのです。また、運が悪いと手術後の切除標本で断端陽性とわかり、再手術が必要となることもあります。病理医の常勤は実は大切です。

緩和医療医が常勤でいる病院、緩和医療科がある病院

緩和医療は、外科治療、放射線治療、そして抗がん剤治療に並んで、がん治療の4本柱とも言われます。緩和医療は終末期だけにお世話になるというよりも、がんの治療早期からサポートをお願いする傾向にあります。ですから、緩和医療医が常勤でいることは必須要件です。そして緩和医療科がある病院がお勧めです。

日本緩和医療学会の専門医とその所属施設はここでわかります。

【私ならこう言い訳する】
「当院には日本緩和医療学会の専門医はいませんが、経験豊富な外科医が緩和医療を担当していますので、心配無用です。」

【でも実際は】
確かに、外科医が緩和医療に興味を持つことは多く、そして外科医ではなく緩和医療で活躍している人も多数知っています。日本緩和医療学会は、日本専門医機構が定める基本19診療科には含まれていません。19診療科は、内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、整形外科、脳神経外科、形成外科、救急科、麻酔科、放射線科、リハビリテーション科、病理、臨床検査、そして総合診療科です。

偏差値の高い大学病院

偏差値以外まったく同じ大学病院があれば、偏差値の高い方を選ぶでしょう。大学の教員は移動します。自分の業績を増やせる大学に移動します。研究資金が潤沢、若い医師も研究や臨床にやり甲斐を感じている、英文論文も出せる、学会でも活躍しやすいなどです。その移動の方向性のわかりやすい指標は医学部の受験偏差値です。この受験偏差値が高い方に、教員は移動することがほとんどです。

【私ならこう言い訳する】
「偏差値が低いと言っても医学部ですから、問題ありません。」

【でも実際は】
偏差値が低い大学は、開業医の師弟が多いので、早晩多くの医師が退職します。偏差値が高い大学では大学の医局や関連病院にずっと残る人が大半です。同じ大学病院でも、マンパワーと質が異なります。もちろん、それは比率の問題ですから、偏差値が低い大学病院に素晴らしい人もいます。偏差値が高い大学病院に相当変な人もいます。しかし、偏差値を基準にして選べば、偏差値が高い方が選ばれるのです。偏差値の低い大学では、臨床もできない、学問もできない、論文もほとんどないような人がそれなりのポジションにいることも少なからずあります。偏差値が高い大学ではあり得ないことです。誰も口にしていないことですが、誰もが思っていることです。

すべての診療科がある病院(特にリハビリテーション科)

がんセンターと名乗る施設は大分増えました。がんに特化した病院というメッセージで素晴らしいと思います。しかし、言葉を返せば、がん以外のことは手薄ということです。がんは高齢者になるほど罹患数が増えます。高齢者はいろいろな病気や合併症を持っています。がんだけが病気という方は少ないように思えます。いろいろな診療科が揃っている病院はその点安心できます。特に、リハビリ科は重要に思えます。治療中、治療後早期からリハビリテーションの介入を行っている病院も増えてきました。そんな目線で病院を比較するのも楽しいですよ。標榜できる診療科は医療広告ガイドラインで決まっていますから、わかりやすいと思います。

日本リハビリテーション学会専門医検索ページから氏名と所属施設が検索できます。
専門医の数は約3000人です。

【私ならこう言い訳する】
「がんだけに特化した病院ですが、いろいろな専門家も揃っています。ご心配は無用です。リハビリテーションもしっかり行っています。」

【でも実際は】
がんだけの病院に、がん以外の専門家が集まることはあり得ないと思っています。自分の専門領域にがんを絡ませたい人が集まるところががんセンターだと私は思っています。がん手術後のリハビリテーションは、最近はトピックになっています。リハビリテーション科がある病院がお勧めです。

手術症例数が多い病院

手術症例数は、以前は適当でした。実際の症例数よりも盛って掲載していた病院も、またそんな時期もあります。しかし、外科手術は学会での登録が必須となり、嘘を言えない環境になりました。手術症例数はひとつの目安になります。ある程度以上の数であれば、問題ありませんが、あまりにも年間の手術数が少ない病院はちょっと要注意です。また、比較的難しい手術、例えば、消化器外科では食道がん、肝臓がん、膵臓がんなどは特に症例数に気を配りましょう。

【私ならこう言い訳する】
「今回の手術は難易度が高い手術ですが、大学から専門家を呼んで、そして一緒に手術しますのでご安心ください。」と私は遙か昔に患者さんやご家族に説明していました。そしてその後は私がそんな病院に呼ばれるようにもなりました。

【でも実際は】
手術経験が多い医師がサポートに入ってくれると心強いものです。そして同じような結果も出せるでしょう。しかし、可能ならそんな経験豊富な医師が常駐している病院での手術が安心です。

ホームページが充実している病院

ネット社会になって、ホームページの充実はひとつの指標になります。ホームページは直接に利益に繋がりません。そしてホームページの充実は相当なマンパワーと費用を必要とします。ですから、そこまでしてがんの啓発活動に参加していることは意味があるのです。一方で公的な資金で病院のホームページを充実させることも税金が投入されている病院では可能です。

【私ならこう言い訳する】
「がんの情報はがん情報サービスなどがあり、いろいろ充実しています。ですから当方では患者さんに必要な病院の情報のみをお知らせしています。」

【でも実際は】
実は、病院によってがんに対する対応はいろいろです。厚生労働省が願っているがん治療の均霑化は、実はできていません。それぞれの病院の個性が出るのです。すべての機器やマンパワーが揃っている病院は日本にはありません。ですからその病院らしい対応(言い訳)をそれぞれの病院が患者さんに行っています。

患者数、手術症例数、成功率、などをすべて公表している病院

病院のホームページにその疾患の患者数や手術症例数、成功率などを載せている病院は信憑性が高いと思っています。

【私ならこう言い訳する】
「ホームページには載せていませんが、尋ねられたらお答えできる体制になっています。」

【でも実際は】
尋ねられたら答えるのと、あらかじめホームページに載せているのでは微妙に違うと思っています。敢えて載せたくないデータがあるのかと勘ぐられます。堂々と載せている病院の信頼性が高いです。

臨床試験や治験をたくさん行っている病院

臨床研究の中に、臨床試験があります。日頃行わない介入を必要とするものが臨床試験です。
治験は、臨床試験の中で、まだ承認されていない薬剤や医療機器に対して国の承認を得るために行われるものです。治験の第1相試験とは安全性試験、第2相試験は有効性試験、そして第3相試験が最終段階で標準治療との対決です。第1相試験は少ない人数で、第2相試験はザックリと30人から100人、第3相試験は300人から1000人です。

臨床試験には制度の変遷があって、2008年、2018年、そして2020年と改正され、今ではすべての治験とその実施医療機関の登録も必須となりました。ですから、治験が行える施設が公開されています。

臨床試験や治験を確認するには、がん情報サービス
が便利です。

臨床試験(治験)が世界でもっとも行われている国はアメリカです。そして中国で、3位が日本になります。アメリカで最大のがんセンターであるMDアンダーソン病院では1200件を超える臨床試験が進行中ですが、国立がん研究センター中央病院でも800件近い臨床試験が進行中とされています。一方で地方の病院や東京の大学病院でもがんの治験がとても少ない施設もあります。国際格差よりも、国内での格差が問題です。最近は、その欠点を補うためにオンライン治験などが模索されています。

標準治療が行き詰まったら治験が勧められることがあります。標準治療が最良の治療だと言い放つ限界がここにあります。標準治療が最良と本当に思っているのなら、自分の患者さんに治験はゼッタイに勧めないでしょう。治験は人体自験です。医療の進歩には必要ですが、明らかに人体実験です。

しかし、がんの治験では多くの場合、標準治療に新薬を上乗せする形で、プラセボ(偽薬)との対決になります。ですから、ランダム化(クジ引き化)された臨床試験で、プラセボ群に当たっても、標準治療が通常は施行されます。

ですから、望みを賭けて治験を行うことも一案です。そうであれば、治験数が多い病院がオススメになります。

またがん治験薬では、製薬会社は新規薬剤の開発に社運を賭けます。現在「冴えた抗がん剤」はほぼありません。「冴えた抗がん剤」とは一剤でがんを退治できる薬剤です。そこで集学的治療が必要になり、抗がん剤も併用療法になり、手術や放射線治療と組み合わされます。製薬会社は併用療法の治験は基本的には行いません。そこで、医師主導の臨床試験が必要になり、本邦では日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)などが医師主導の臨床試験を行っています。

【私ならこう言い訳する】
「治験は薬ががんに効果があるかないかを決めるためのもので、効果があるとは決まっていません。ですから、無理に行う必要はありません。」

【でも実際は】
標準治療が最良の治療ではない以上、希望者には治験を勧めることができる施設がベストです。がん治療は「運」だと思えるひとにとっては、治験はできればやる、できなければやらない、無理にやらない、でよいと思います。しかし、選択肢が多いことは、私は素晴らしいと思っています。

先進医療を行っている病院

厚生労働省が先進医療と認めると、自費診療扱いですが、保険診療との併用(混合診療)が可能になります。先進医療と認められないと、併用される保険適用の医療(検査も治療も)は自費診療扱いになります。先進医療のすべてが患者さんに御利益があるかはわかりません。しかし、お金を少々払っても行いたい保険適用ではない治療を選ぶと、すべてが自費診療になるというのは皆保険でフリーアクセスを謳って世界的に素晴らしい医療を提供している割には、ちょっと矛盾しているように私には映ります。いろいろな選択肢があっていいと思うのは私だけでしょうか。

【私ならこう言い訳する】
「先進医療はまだ標準治療ではありません。標準治療が現状では最良の治療です。」

【でも実際は】
経済毒性を考慮すれば、標準治療が最良の治療であることにまったく異論はありません。しかし、経済毒性を考慮しても、つまり少々のお金を支払っても、ある治療を受けたいひとには標準治療は最良の治療ではありません。ある日突然に保険適用になった日から、標準治療の内容が変わるのは論理的に無理があります。標準治療以外にもベスト、ベターな治療は少なからず存在するのです。

セカンドオピニオンの体制ができている病院

セカンドオピニオンは先方からセカンドオピニオンを受け入れる場合と、こちらから患者さんの希望に沿ってセカンドオピニオン用の診療情報提供書を準備して、他院に紹介する場合があります。その両方に対してホームページに詳しく記載がある病院が好ましいです。

【私ならこう言い訳する】
セカンドオピニオンに行きたいと言われて、「セカンドオピニオンに時間を割いて、治療が遅れるのがもったいない」とか、「セカンドオピニオンに行っても答えは同じですよ」とかいう病院(医師)はやめた方が得策です。

【でも実際は】
自信があれば、セカンドオピニオンに出します。そして患者さんは戻って来ます。ところが、患者さんが希望するセカンドオピニオンは実は先方への転院なのです。病院には実はヒエラルキーがあります。自信がない病院はセカンドオピニオンを渋ります。

【セカンドオピニオンのパイオニアとして】
1998年に5年間のオックスフォード留学を終えて帰国しました。Zero to One(新しいこと)が大好きな私は、当時は欧米では当然の患者さんの権利でしたが、日本ではまったく知られていないセカンドオピニオン外来を大学病院で、そして保険診療で始めました。本邦発の試みでした。当時は、セカンドオピニオンなどは、「他院を批判することでまかりならぬ!」といった意見や、「セカンドオピニオンなどに行くような患者は信じられない」といった感想まで聞かれました。しかし、数年間頑張ると、それが日本でも普及し始めました。残念なことは未だにセカンドオピニオンが保険適用とはされず自費診療であることです。保険診療が是で自費診療が悪であるとの論調にも出会いますが、それは間違いです。セカンドオピニオンが自費であることもその証左になります。

希少がんでは

希少がんセンター

希少がん(10万人当たりの罹患数が6人未満)であれば、希少がんセンターが超お勧めです。ガイドラインには1000例規模のランダム化された大規模臨床試験を基にしたエビデンスによるガイドライン(Evidenced based Guideline)と経験に基づいたガイドライン(Consensus Guideline)があります。Evidenced based Guidelineが存在するがんは均霑化を図りやすいですが、希少がんではEvidenced based Guidelineは症例数が少ないのでなかなか作れません。そうなるとConsensus Guidelineになるのですが、これは経験知の集積です。経験豊富な施設がもっとも安心できます。

希少がんセンター 6カ所
東北大学病院、国立がん研究センター中央病院、名古屋大学医学部附属病院、大阪国際がんセンター、岡山大学病院、九州大学病院

小児がん拠点病院(小児がんでは)

小児がん拠点病院 15カ所
北海道大学病院、東北大学病院、埼玉県立小児医療センター、国立成育医療センター、神奈川県立こども医療センター、静岡県立こども病院、名古屋大学医学部附属病院、三重大学医学部附属病院、京都大学医学部附属病院、大阪市立総合医療センター、兵庫県立こども病院、広島大学病院、九州大学病院

小児がんは15歳未満で発症するがんですが、年間約100万人ががんと診断される中で、約2000人です。つまり0.2%です。発症数が少ないので、当然にすべて希少がんになります。小児がんの治療は、小児がんを扱える病院で行ってください。

ホウ素中性子捕捉療法ができる病院(頭頸部がんでは)

腫瘍に特異的に取り込まれるホウ素を静脈内に投与し数時間後に腫瘍部位に中性子を当てる治療です。原子炉以外での中性子照射装置(加速器型中性子照射装置)が開発され病院でも治療が行われるようになりました。ホウ素は中性子に補足されるとα線と7Li粒子(リチウム核)が生じます。これらに殺細胞作用があります。皮膚から7cmまでしか中性子が届かないことが欠点ですが、無麻酔で1回の治療で終了します。保険適用病名は「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」のみです。

ホウ素中性子捕捉療法設置病院
南東北BNCT研究センター、大阪医科薬科大学関西BNCT共同医療センター、国立がん研究センター中央病院、江戸川病院、筑波大学陽子線医学医用研究センター

光免疫療法ができる病院(頭頸部がんでは)

光免疫療法(アルミノックス治療)はがん細胞の表面に発現している分子(EGFR)に結合する抗体(セツキシマブ)に色素を結合させたものです。色素 (IR700) は波長690ナノメートルのレーザーを当てることで形を変える(活性化する)ものです。この薬剤を注射した後にレーザー光照射を行うことでレーザー光が届く部位にのみ抗腫瘍効果が出現します。

「他の臓器や組織に遠隔転移をしていない局所進行および再発の頭頸部がん」が光免疫療法の保険適用病名です。

100施設以上で可能。

CAR-T療法ができる病院(血液がんでは)

血液がん領域では、造血細胞移植と抗がん剤の進歩でこの数十年で飛躍的に生存率が向上した疾患が多数あります。最近のトピックはCAR-T療法で、CAR-Tとは Chimeric antigen receptorの略で、キメラ抗原受容体です。患者さんのTリンパ球をアフェレーシスで採取し、アメリカに空輸して、遺伝子操作を行って、キメラ抗原受容体を発現させたTリンパ球を作製し、そして凍結して日本に送り返します。Tリンパ球とがん細胞とを効率的に結びつけるCAR-T細胞を使って免疫を賦活化し、血液がんを退治する作戦です。

CAR-T療法のひとつであるキムリアの保険適用病名は「再発又は難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性 白血病」で25歳以下(投与時)と追記があります。また「再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、再 発又は難治性の濾胞性リンパ腫」は年齢制限の記載がありません。キムリアを扱える病院ということで、血液がんとしての病院として選ばれている施設になります。CAR-T療法を行わなくても、選択肢のひとつになります。

キムリアを扱える病院は現在約50施設です。
(「その他の医療関係者」をクリックすると閲覧できます)

なかなかわからないけど実はとっても大切なこと

職員の人間性が良い病院

自分の命を預ける病院です。職員の人間性が良い病院がベストです。しかし、こればっかりはまったくわかりません。またひとそれぞれ相性があります。

診療科内で意思疎通がよい病院

いろいろな最新鋭の機器が揃っていても、外科治療、放射線治療、抗がん剤の素晴らしい医療チームが揃っていても、それぞれの診療科で意思疎通が悪いと、実は御利益が最大限になりません。40年前の私であれば、がん治療の王道は外科治療と思っていましたから、患者さんを放射線治療や抗がん剤治療には回しません。それはお互い様で、放射線治療科や腫瘍内科が、外科とは疎遠であれば、上手く行きません。そんな内部事情は実は中の人と、そこから伝え聞くことができる一部の外部の人以外にはわからないのです。

がん治療に関わる全ての部署が参加するキャンサーボードというミーティングを行っている病院も多数あります。しかし、このキャンサーボードが存在しても、正しく機能しているかはまた別の問題です。

お金儲け主義でない病院

医療はお金儲けではありません。しかし、赤字では病院の運営も上手く行きません。国立病院や公的な病院、そして準公的な病院でも、赤字削減の努力は必要です。しかし、お金儲けが第一になると命は二の次になります。患者さんやご家族が「お任せします」と言えば、自分が施行されたい治療よりも、病院のお金になる治療を選ぶ力が働きます。

医療は基本的に出来高制です。ですからどちらでもよければ、いろいろ追加されるのです。それを防止するには、疾患によって包括的に医療費を決める作戦が医療費削減には効果を発揮します。しかし、今度は、お金儲けを考えれば、入ってくる収入が同じなら、安い薬剤を、安い器械を、そして安い人件費で運用すれば、利益は増えます。

アクティブサーベイランス(積極的経過観察)は、前立腺がんや甲状腺がん、血液腫瘍などの一部で行われています。病院的には治療を行った方が、利益になります。アクティブサーベイランスも選択肢に入れてくれる病院は、お金儲け主義優先には映りません。

そんな内部事情も内部の者と、一部の外部者以外はわかりません。

主治医との相性

がん治療が成功するか、失敗するかとは別のことですが、主治医との相性は大切です。相性が良ければ、基本主治医が間違ったことを行っても、実は許されます。それも「運」です。

わかりやすい良い主治医とは、私は直感で気に入ればそれがベストと思っています。
お勧めできない主治医の行為は以下でしょうか?

  • カルテばかりを見ていて、患者さんの目を見ない。
  • いつも忙しそうで、話せない。
  • 検査の結果を説明しない。
  • 説明が早口でわかりにくい。
  • 質問しても答えない。
  • 1種類の治療法しか提示しない。「助かりたかったらこれ」
  • 患者さんがやりたいサプリや代替医療を頭から否定する。
  • セカンドオピニオンをお願いすると、機嫌が悪くなる。
  • 治療の意志決定を急がせる。
  • などです。

上記のすべてが当てはまる医者もいます。主治医としてはお断りと思える医師です。しかし、そんな医者の中にも技術は素晴らしい人もいます。主治医に満足できることと、がん治療が成功するかは実は次元が異なります。上記がすべて当てはまらなくても、つまり患者さん対応は完璧でも、がん治療を行うにはおぼつかない医師もいます。

しかし、「この先生に騙されるのならそれでOK」と思える先生に診てもらうのは本望ですよ。結果が悪くても!

実臨床力があること

医療でもっとも大切なことは実臨床力です。ガイドラインは参考にしかなりません。論文がいくつあろうが、研究で業績があろうが、実臨床力がなければ、それぞれの患者さんのためにはなりません。実臨床力を鍛えるには日々の努力と勉強以外ありません。個人として、そしてチームとしての実臨床力が大切なのです。実臨床力があれば、他の診療科が診た方がよければ自分の病院内で適切な診療科に患者さんを回すでしょうし、また自分の病院では不十分とわかれば他の病院を紹介します。この実臨床力は、中にいる人と、そこから伝え聞くことができる一部の外部の人以外にはわからないのです。

実はどうでもよいこと

患者さんの口コミ

インターネットで病院の口コミが閲覧できるようになりました。私はほとんど患者さんの口コミは当てにならないと思っています。飲食店の口コミは、そこそこ当たります。ラーメンであれば、1日に何食のラーメンを食べることも可能です。味見するだけであれば、相当数のラーメンを食せます。そして比較をすればその個人の評価での順位付けは可能です。

ところが医療機関は複数を受診して比較することは困難です。ですから、ある1点の感情での評価になります。多くは接遇によるものが多いと思います。患者さんの口コミを頭から信じて、医療機関の選択を行うことは控えた方がいいと思っています。

手術の成功率・生存率

手術数は大切な比較要素です。しかし、成功率とか生存率はそれほど重要ではありません。成功率や生存率をよくしたければ、手術が簡単で、高い生存率が見込める患者さんのみに手術を行うようになります。ですから、手術の成功率や生存率は参考程度に見て下さい。

がんセンターと謳っている病院は、がんに特化していますから、合併症がある患者さんは苦手です。総合病院はそんな合併症を持っている患者さんも治療します。そうであれば、がんセンターの治療成績が自ずと優れることになります。

マスコミの評価(雑誌や新聞の病院ランキング)

雑誌や新聞の病院ランキングはいい加減と思っています。このブログにある内容を熟読して比べてください。正確な病院のランキングなどは出せないことがわかります。

病院の過度の綺麗さ(しかし清潔感は大切)

病院が過度に綺麗である必要はありません。新しくなくても清潔感は必要です。古い施設に最新鋭の機器が入っていることもあります。

漢方診療科がある(保険適用漢方薬はがんに効かない)

漢方診療科はがんには不要です。がんを治せる保険適用漢方製剤はありません。そして副作用の防止や気力体力を高める漢方薬は漢方の専門家でなくても処方可能です。

過度の接遇(患者さんは顧客ではない)

過度の接遇は不要です。「患者様」と呼んでいる病院を私は好きになれません。患者様と呼べば顧客になります。顧客になれば、患者さんを叱ることはできなくなります。

私が描く理想のがん治療体制

日本にはアメリカのようなボリュームセンター(膨大ながん治療を行っている施設)がすくないです。がんは集約化が必要と思います。今回、あげた「がん治療のために理想の病院」の項目をすべて備えている病院は本邦にはありません。がんの治療も簡単なものから、難しいものまで様々です。日本には医療機関が多すぎます。集約化が必要です。いっそ外科治療や放射線治療は少数のボリュームセンターで行えばいいと思います。そして治療が終了したら、抗がん剤治療やその後の経過観察はそこそこの規模の病院で行うことが可能です。

まとめ

「がん治療のために理想の病院」の項目にひとつも該当しなくても、あなたの「運」がよければ、がん治療は可能です。あなたの「運」が悪ければ、理想の病院で治療を行っても不幸な結果になります。医療にはリスクがあります。そのリスクはどんな手を尽くしても避けられないのです。

現状のがん治療は、箱の中の当たり玉の数を増やしているだけです。ザックリと言えば、固形がんは外科治療、血液がんは骨髄移植を行えば、そして「運」がよければ、当たり玉を掴めます。その箱の中の当たり玉を増やす努力が医療の進歩です。

大切なことは、医療サイドは当たり玉の数を増やす努力をしていますが、あなたが当たり玉を掴むか、ハズレ玉を掴むかはあなたの「運」にかかっています。

医療サイドは全ての球を当たり玉にできることが理想ですが、その域にはまったく到達していません。

今回のブログを参考にして、がん治療の病院を決めて下さい。まずは移住地から近い病院がベストチョイスです。

おまけ

お布施の渡し方

「お礼をお渡ししたい」とか、「あらかじめご挨拶にお金をしたためたい」といった相談を受けることがあります。そんなお布施の有無で医療に差は生じません。一番スマートな方法は寄付金です。多くの病院が公的な寄付のシステムを用意しています。

どうしても、病院ではなくお世話になった医療従事者にお布施をしたいときは、直接私にご相談ください。国立病院や公的な病院では賄賂にも当たることがあるので、上手な渡し方が必要です。

【思い出話】
社会人1年目(医師1年目)は約40年前のことです。当時はほぼ無給で働いていました。早朝6時の採血から、遅い夕食を食べてからのデータ整理などで日々忙殺されていました。奴隷の様な生活でした。医師としての技量を身に付けたく必死でした。無給ですから、食事代もありません。患者さんから「お布施」と称してお金を頂くことがありました。そんなお金をチームで貯めて、そしてチームの食費に充填していました。お布施がないときは、先輩が後輩に食事をご馳走する習慣でした。1年目と、4年目と6年目の医師で8人前後のチームでした。4年目と6年目の医師は病院からの収入はゼロでしたが、週に2回アルバイトに行けたのです。

私がチーフレジデント(6年目)の時に、お布施が不足しました。丁度、先輩の眼科の先生が入院され、お布施を頂きました。そこで、競馬の有馬記念に賭けようとチームに相談し、第35回有馬記念(1990年12月23日)で、オグリキャップとメジロライアンの連勝複式に全額を賭けました。そしてそれが当たり、病棟で大宴会をしました。眼科の先生は「気持ちで差し上げたものだから、何に使ってもらっても結構です」とのことでした。懐かしい思い出です。

今の研修医は1年目から高級取りで、働き方改革で過重労働はありません。懐かしい昔の思い出です。

自分ならどうする?

大学の同級生のメーリングリストがあります。いろいろな相談がアップされます。同級生は全員医師ですが、自分の分野以外はよくわからないのです。ですから、メーリングリストで同級生に尋ねるのです。結局、私たちもよくわからないのです。結局は「運」です。そうであれば、もしもがん治療の病院を選ぶのなら、私は医学生としてお世話になった大学病院にお任せするのかなと思っています。

そこには重粒子線も陽子線もありません。がんに特化したがんセンターと比較すると、がんの治験も先進医療もそこそこだと思います。でもそこでいいかなと思っています。

内部リンク(当サイトで参考になる他の記事)

【がん治療三部作②】がんの標準治療は「並」! それで十分!

【がん治療三部作③】私が描く新しい/革新的な/近未来のがん治療

がんの例え話「雑草と土壌」

新見正則医院ブログ

執筆者略歴 新見正則

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得 (Doctor of Philosophy)。外科医 x サイエンティスト x 漢方医としてレアな存在で活躍中。セカンドオピニオンのパイオニア。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授 (外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞 (脳と免疫)。現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。漢方JP主宰者。
新見正則の生き方論は以下の書籍も参考にしてください。
「しあわせの見つけ方 予測不能な時代を生きる愛しき娘に贈る書簡32通
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