転移と浸潤の違いとは?播種との区別がわからない人へ

肺と肝臓と骨の模型。がんの転移・浸潤・播種の違いを説明する記事

浸潤はがんが周りの組織に浸み込むように広がること、転移は離れた場所に移って増えること、播種は転移の形の一つです。

どれも「がんが広がった」ことを表す言葉ですが、広がる道と、広がった先が違います。この記事では、国立がん研究センターのがん情報サービスの定義をもとに、3つの言葉の違い、再発との違い、そして播種がステージのどこに入るかががんの種類によって違うことを、学会のガイドラインと国際的な分類から整理します。

転移・浸潤・播種は、それぞれ何を指す言葉ですか?

浸潤は「つながったまま周りへ広がること」、転移は「離れた場所へ移って増えること」、播種は「体の中の空間に散らばって増える転移」です。

がん情報サービスの用語集は、3つの言葉を次のように定義しています(がん情報サービス「浸潤」「転移」「播種」2026年)。

言葉 がん情報サービスの定義 広がる道
浸潤 がんが発生した場所から周りの組織へ浸み込むように広がっていくこと 周りの組織へ、つながったまま広がる
転移 がん細胞が血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパ液の流れに乗って別の場所に移動し、そこで増殖すること 血管・リンパ管を通って離れた場所へ
播種 がん細胞がもとの臓器から剥がれ落ち、体内の空間(腹腔、胸腔、脳脊髄腔など)に種をまいたように散らばって増殖すること。転移形式の1つ 臓器の外の空間へ、こぼれるように

出典:国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「浸潤」「転移」「播種」(2026年3月6日更新)。

最初にがんが発生した場所を、原発巣(げんぱつそう)と呼びます(がん情報サービス「原発巣」2025年)。浸潤は原発巣のまわりで起きる広がり、転移と播種は原発巣から離れた場所に新しい病巣ができる広がりです。

浸潤と転移の違いは何ですか?

浸潤は原発巣とつながったまま周りに広がること、転移は血管やリンパ管を通って原発巣から離れた場所で増えることです。

浸潤は、がんが育った場所から、隣の組織へ少しずつ入り込んでいく広がり方です。浸潤が深くなると、がんが血管やリンパ管に届きやすくなり、そこから先が転移になります。

ステージ(病期)を決めるTNM分類では、この2つは別の文字で表されます。がん情報サービスは、Tを「最初に発生したがんの大きさや広がり」、Nを「リンパ節への転移と広がり」、Mを「離れた臓器に転移しているかどうか」と説明しています(がん情報サービス「TNM分類」2024年)。浸潤の程度はTに、転移はNとMに入ります。

浸潤をどう測るかは臓器によって違います。たとえば胃がんでは、Tは胃の壁のどの層まで達しているかで分けられ、粘膜(T1a)、粘膜下層(T1b)、筋層(T2)、漿膜下層(T3)、漿膜(T4a)と深くなり、周りの臓器まで浸潤したものがT4bです(日本胃癌学会 胃癌治療ガイドライン第6版 英語版 2023年)。

ステージの決まり方そのものは、がんのステージはいくつまでかを説明した記事で扱っています。

転移には、どんな種類がありますか?

がん細胞が通る道によって、リンパ行性転移、血行性転移、播種の3つに分けられます。

  • リンパ行性転移:がん細胞がリンパ管に入り込み、リンパ液の流れに乗って途中のリンパ節にたどり着いて増えること。リンパの流れに沿って、原発巣に近いリンパ節から遠いリンパ節へ広がる(がん情報サービス「リンパ行性転移」2025年)
  • 血行性転移:がん細胞が血管(主に静脈)に入り込み、血液の流れに乗って別の臓器や器官に移動して増えること(がん情報サービス「血行性転移」2025年)
  • 播種:がん細胞がもとの臓器から剥がれ落ち、腹腔・胸腔・脳脊髄腔などの空間に散らばって増えること

離れた臓器などへの転移は「遠隔転移」と呼ばれます(がん情報サービス「遠隔転移」2026年)。転移した先によって「肺転移」「肝転移」「脳転移」「骨転移」「腹膜転移(腹膜播種)」などと呼び分けます。骨に転移した場合の症状と治療は、骨転移の痛みを説明した記事にまとめています。

転移したがんは、どの臓器のがんとして扱われますか?

転移したがんは、原発巣のがんと同じ性質をもちます。そのため、検査や治療は原則として原発巣のがんに準じて行われます(がん情報サービス「転移」2026年)。

がん情報サービスは例として、胃にできたがんが肺に転移した場合、肺にできたがんは本来の肺がんではなく胃がんの細胞からできているため、治療方針は胃がんの治療法に準じて検討すると説明しています(がん情報サービス「原発巣」2025年)。「肺に転移がある」ことと「肺がんである」ことは、別の話です。

播種は、ほかの転移と何が違うのですか?

播種は血管やリンパ管を通らず、がんが臓器の表面を越えて、臓器の外の空間にこぼれるように散らばる転移です。

おなかの中で起きるものが腹膜播種です。がん情報サービスは、腹膜播種を「がん細胞が臓器の表面を越えて、お腹の中(腹腔内)に種を播いたように広がった状態」と説明しています(がん情報サービス「腹膜播種」2026年)。原発巣の周りへの浸潤が臓器の表面を越えたところから始まる点で、播種は浸潤とつながった広がり方でもあります。

播種は、起きる場所によって呼び方が変わります。

起きる場所 呼び方 主な原発巣の例
おなかの中(腹腔) 腹膜播種 胃がん、大腸がん、卵巣がん
胸の中(胸腔) 胸膜播種 肺がん
脳と脊髄のまわり(脳脊髄腔) 髄膜播種 (この記事では扱わない)

出典:がん情報サービス 用語集「播種」「腹膜播種」(2026年)、日本胃癌学会 胃癌治療ガイドライン(2023年)、国立がん研究センター中央病院「大腸がんの腹膜播種とは」(2025年)、日本婦人科腫瘍学会 卵巣がん治療ガイドライン(2020年)、UICC/AJCC TNM分類 第8版。

腹膜播種の症状や治療は腹膜播種とは何かを説明した記事で、胸の中の播種と胸水の関係は胸膜播種とは何かを説明した記事で扱っています。

再発とは、何が違うのですか?

転移・浸潤・播種は「どこへ、どう広がったか」を表す言葉で、再発は「治療のあとに、再びがんが現れたか」を表す言葉です。

がん情報サービスは、再発を「治療により、検査でがんがなくなったことを確認した後、再びがんが現れること」とし、治療した場所やその近くに現れる場合だけでなく、別の場所に転移として見つかる場合も含めると説明しています(がん情報サービス「再発」2024年)。

言葉 何を表すか 例
浸潤 がんの広がり方(周りへ) 胃がんが胃の壁の深い層まで達している
転移 がんの広がり方(離れた場所へ) 大腸がんが肝臓に転移している
播種 がんの広がり方(体の中の空間へ) 胃がんがおなかの中に散らばっている
再発 時間の流れ(治療のあとに再び現れた) 手術のあと、肝臓に転移として見つかった

出典:がん情報サービス 用語集「浸潤」「転移」「播種」「再発」。

そのため、「再発」と「転移」は同時に当てはまることがあります。手術でがんを取り切ったあとに肝臓でがんが見つかった場合は、肝転移として見つかった再発です。

播種があると、ステージはどう決まりますか?

がんの種類によって違います。腹膜播種は胃がんや大腸がんではステージ4ですが、卵巣がんではIII期に入ります。

播種は「体の中の空間への転移」なので、遠隔転移と同じ扱いになると考えがちです。実際の分類を臓器ごとに並べると、扱いは揃っていません。

がん 播種の扱い 出典
胃がん M1は所属リンパ節より外への転移で、おなかを洗った液にがん細胞が見つかる場合(CY1)も含まれる。M1はステージIV 日本胃癌学会 胃癌治療ガイドライン 第6版(英語版 2023年)
大腸がん 腹膜播種を伴う大腸がんはステージ4 国立がん研究センター中央病院(2025年)
肺がん 胸膜播種、がん細胞を含む胸水(悪性胸水)はM1a。2025年1月からの第9版でもM1aは変わらない UICC/AJCC TNM分類 第8版、Fong KM, et al. J Thorac Oncol 2024
卵巣がん 骨盤の外の腹膜播種はIII期(播種の大きさでIIIA2・IIIB・IIIC)。IV期は「腹膜播種を除く遠隔転移」で、胸水中に悪性細胞があればIVA期 日本婦人科腫瘍学会 卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版(FIGO 2014)

卵巣がんの進行期分類(FIGO 2014、日本産科婦人科学会2014)は、III期を「骨盤外の腹膜播種ならびに/あるいは後腹膜リンパ節転移を認めるもの」とし、IV期を「腹膜播種を除く遠隔転移」と定めています(日本婦人科腫瘍学会 卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版)。同じ腹膜播種でも、胃がんと大腸がんではステージ4、卵巣がんではIII期です。

肺がんの分類は、胸膜播種と悪性胸水をM1aとしています(UICC/AJCC TNM分類 第8版)。2025年1月に始まった第9版では、M1cが2つに分かれましたが、M1aとM1bはそのまま残されました(Fong KM, et al. J Thorac Oncol 2024)。

「播種がある」だけでは、重さは比べられない

卵巣がんのIII期と胃がんのステージIVは、どちらも腹膜播種を含むことがありますが、分類の決まりも、治療の組み立ても、数字の集め方も、がんごとに別々です。播種という同じ言葉が出てきても、ステージの数字や生存率をがんの種類をまたいで並べて読むことはできません。

III期

卵巣がんでは、骨盤の外の腹膜に播種があっても、進行期はIV期ではなくIII期です。IV期は「腹膜播種を除く遠隔転移」と定められています。

出典:日本婦人科腫瘍学会 卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版(FIGO 2014、日本産科婦人科学会2014)

転移や播種があると言われたら、何を確かめればよいですか?

原発巣はどこか、どの道で、どこに、どのくらい広がっているか、そしてそれがどの分類で何期にあたるかを確かめます。

説明を受けるときに確かめておくとよい項目は、次のとおりです。

  • 原発巣はどこか(最初にがんができた臓器)
  • 広がり方は浸潤か、リンパ節転移か、血行性転移か、播種か
  • 転移や播種がある場所と、数や範囲
  • 画像で見えているのか、細胞の検査で見つかったのか
  • ステージは何期で、どの規約・分類の何版で決めたのか
  • 治療の目的は、がんを取り切ることか、がんを抑えながら過ごすことか

転移があると手術を勧められないことが多い理由と、その例外は、ステージ4はなぜ手術できないのかを説明した記事で整理しています。

浸潤・転移・播種は、どれも「がんが広がった」と一言でまとめられがちですが、広がる道が違えば、検査で見えやすいかどうかも、ステージでの扱いも変わります。説明の中にこの3つの言葉が出てきたら、どの言葉が、どの臓器について使われたのかを、そのまま書き留めておくと、あとで調べるときに迷いません。

フィッシャーという外科医は「乳がんは早い時期から全身病になる可能性がある」と唱えました。乳がんが顕在化すると、すでにどこかに転移しているか、そもそも転移しないかだと言うのです。

フィッシャーの理論はパラダイムシフトでした。手術ががん治療の王道で、拡大手術で好結果に繋がるという私を含めた多くの外科医が描いていたストーリーは論理的根拠を失いました。

新見正則医院院長 新見正則

監修者

新見正則(にいみ まさのり)

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。

日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)

詳しいプロフィール

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よくある質問

Q転移と浸潤の違いは何ですか?

浸潤は、がんが発生した場所から周りの組織へ浸み込むように広がることです。転移は、がん細胞が血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパ液の流れに乗って離れた場所に移動し、そこで増えることです。TNM分類では、浸潤の程度はTに、転移はNとMに入ります。

Q播種と転移は違うものですか?

播種は転移の形式の1つです。がん細胞がもとの臓器から剥がれ落ち、腹腔や胸腔などの体の中の空間に種をまいたように散らばって増えることを指します。血管やリンパ管を通る転移とは、広がる道が違います。

Q転移したがんは、転移先の臓器のがんになるのですか?

なりません。転移したがんは原発巣のがんと同じ性質をもつため、検査や治療は原則として原発巣のがんに準じて行われます。胃がんが肺に転移した場合、肺の病巣は胃がんとして治療を考えます。

Q再発と転移は何が違いますか?

再発は、治療で検査上がんがなくなったことを確認した後に、再びがんが現れることです。転移は、がんが離れた場所に移って増えることを指します。治療のあとに別の場所で転移として見つかった場合は、転移の形をとった再発です。

Q腹膜播種があると必ずステージ4ですか?

がんの種類によって違います。胃がんや大腸がんでは腹膜播種があるとステージ4ですが、卵巣がんでは骨盤の外の腹膜播種はIII期で、IV期は腹膜播種を除く遠隔転移と定められています。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「転移」「浸潤」「播種」「腹膜播種」「遠隔転移」(2026年3月6日更新・2026年10月25日確認)
    https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/teni.html
  2. 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「原発巣」「リンパ行性転移」「血行性転移」(2025年11月18日更新)、「TNM分類」(2024年12月27日更新)、「再発」(2024年7月2日更新)
    https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/index.html
  3. Japanese Gastric Cancer Association. Japanese Gastric Cancer Treatment Guidelines 2021 (6th edition). Gastric Cancer. 2023;26(1):1-25.
    https://doi.org/10.1007/s10120-022-01331-8
  4. 日本婦人科腫瘍学会「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版」進行期分類(FIGO 2014、日本産科婦人科学会2014)
    https://jsgo.or.jp/guideline/ransou/2020/pdf/basic.pdf
  5. Fong KM, Rosenthal A, Giroux DJ, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project: Proposals for the Revision of the M Descriptors in the Forthcoming 9th edition of the TNM Classification of Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2024;19(5):786-802.
    https://doi.org/10.1016/j.jtho.2024.01.019
  6. 国立がん研究センター中央病院 大腸外科「大腸がんの腹膜播種とは」(2025年1月23日公開)
    https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/colorectal_surgery/190/index.html

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