抗がん剤の治療中に空咳、動いたときの息切れ、発熱が出たら、次の受診日を待たずに病院へ連絡します。
この記事では、抗がん剤による間質性肺炎とは何か、どんな症状をきっかけに連絡すればよいか、いつ・どの薬で起こりやすいかを、厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」などの一次資料から整理します。受診したあとの検査と治療、間質性肺炎のほかにすぐ連絡すべき重い副作用、家族ができることもまとめました。
この記事の内容
抗がん剤による間質性肺炎とは何ですか?
薬が原因で、肺の中の酸素を取り込む部分の壁に炎症が起き、息がしにくくなる副作用です。
肺の奥には、肺胞(はいほう)という小さな袋がぶどうの房のように集まっています。肺胞の壁やその周りを「間質(かんしつ)」と呼び、ここに炎症が起きて厚く硬くなる病気が間質性肺炎です。壁が厚くなると、吸った空気の酸素が血液に移りにくくなります。
薬が原因で起こるものは「薬剤性間質性肺炎」または「薬剤性肺障害」と呼ばれます。厚生労働省のマニュアルは、原因になる薬として次のものを挙げています(厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎」令和元年改定)。
- 抗がん剤(分子標的薬を含む)
- 免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体など)
- 抗生物質、抗不整脈薬、抗リウマチ薬
- 小柴胡湯(しょうさいことう)などの漢方薬
- 市販のかぜ薬(総合感冒薬)を含む解熱鎮痛薬など
がんの治療薬だけが原因になるわけではありません。治療中に別の病院でもらった薬や、自分で買った薬も、原因の候補に入ります。
分子標的薬そのものの仕組みは、分子標的薬とは何かを説明した記事で扱っています。
どんな症状が出たら、すぐ連絡すべきですか?
空咳、階段や坂道での息切れ、発熱の3つです。急に出たとき、続くときは、放置せず医師か薬剤師に連絡します。
厚生労働省のマニュアルが患者さん向けに挙げている初期症状は、次のとおりです(厚生労働省 令和元年改定)。
- 空咳(からせき)が出る。痰(たん)の出ない咳
- 階段を上ったり、少し早歩きをしたりすると息切れがする、息苦しくなる
- 発熱する
この3つは、かぜとよく似ています。そのため「かぜだろう」と様子を見てしまいやすい症状です。2025年に公表された改定案では、発熱がないこともあると書き添えられています(厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎」改定案 2025年)。熱がないことは、連絡しない理由になりません。
息切れは「動いたとき」に気づきやすい
間質性肺炎では、安静にしているときより、体を動かしたときに先に息苦しさが出ます。マニュアルが「階段」「早歩き」という場面を挙げているのはそのためです。いつも上れていた駅の階段で途中に立ち止まるようになった、という変化は、本人より一緒に歩いている家族が先に気づくことがあります。
連絡をためらわなくてよい理由
がん情報サービスは、薬物療法中にすぐ連絡すべき症状の一つに「呼吸困難が急に起こったとき」を挙げ、さらに「治療前とは明らかに異なる症状や異常を感じたとき」も連絡の対象としています(がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年)。結果として間質性肺炎でなかったとしても、連絡したこと自体が間違いだったことにはなりません。
抗がん剤の間質性肺炎は、いつ起こりやすいのですか?
薬によって違います。数週間以内に起こりやすい薬もあれば、数年たってから起こる薬もあり、治療が終わったあとに起こることもあります。

厚生労働省のマニュアルは、発症までの時間を薬の性質で分けています(厚生労働省 令和元年改定)。
| 薬の種類 | 発症までの時間の目安 |
| 細胞障害性の抗がん薬(従来型の抗がん剤) | 数週間から数年 |
| ゲフィチニブ(肺がんの分子標的薬) | 4週間以内、とくに2週間以内が多い |
| 免疫反応が関わると考えられる薬(抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬、小柴胡湯など) | 1〜2週間程度 |
出典:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎」(令和元年改定)。
免疫チェックポイント阻害薬の副作用は、時期も場所も予測が難しいとされています。がん情報サービスは、治療が終了してから数週間から数か月後に起こるものもあると説明しています(がん情報サービス「免疫療法 もっと詳しく」2025年)。点滴が終わったから、もう安心という薬ではありません。
図のとおり、間質性肺炎は「投与の直後」にも「何か月もたってから」にも起こりえます。時期で安心せず、症状で判断することになります。
どの薬で起こりやすく、誰に起こりやすいのですか?
頻度は薬によって数%程度の幅があり、もともと肺に間質性の病変がある人で最も起こりやすくなります。
薬ごとの頻度
厚生労働省のマニュアルは、日本での薬剤性肺障害の頻度を表にまとめています。肺がんで使われることの多い薬を抜き出すと、次のとおりです。
| 薬 | 薬の種類 | 日本での頻度 |
| ゲフィチニブ | 分子標的薬(EGFR阻害薬) | 3.98% |
| エルロチニブ | 分子標的薬(EGFR阻害薬) | 4.52% |
| ニボルマブ | 免疫チェックポイント阻害薬 | 5.8%(肺がんでの値) |
| ペムブロリズマブ | 免疫チェックポイント阻害薬 | 5.6% |
出典:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎」(令和元年改定)表4「本邦における薬剤性肺障害の頻度」。ニボルマブは特定使用成績調査・全例調査の中間報告、ほかは添付文書・インタビューフォーム・使用成績調査・全例調査などからの値。
この表で、薬の危なさは比べられない
表の数字は、同じ調べ方で集めたものではありません。マニュアルの脚注によると、添付文書、使用成績調査、全例調査の中間報告など、出どころの違う数字が並んでいます。対象となった人の病状や、ほかに使った治療も薬ごとに違います。3.98%と5.8%の差を、そのまま薬の危なさの差として読むことはできません。読めるのは「どの薬でも4〜6%前後、20人前後に1人の割合で起こりうる」という大きさです。
起こりやすくなる条件
マニュアルは、どの薬にも共通する最大の危険因子として、もともと肺に間質性の病変があることを挙げています。そのほかの条件は次のとおりです(厚生労働省 令和元年改定)。
- 高齢
- 男性
- 喫煙
- 肺の機能が低い
- 栄養状態が悪い
- 肺に放射線を当てたことがある
- 何種類もの抗がん剤を組み合わせている
- 腎臓の働きが悪い
治療前のCTで肺に間質性の変化があると言われた人は、治療を選ぶ段階でそのことが検討されます。言われたかどうか覚えていない場合は、主治医に確認できます。
日本人は起こしやすい
マニュアルは、日本人は欧米人や他のアジア人と比べて重い薬剤性間質性肺炎を起こしやすく、遺伝的な素因が関わっている可能性があると書いています。ゲフィチニブでは、日本人での発生頻度が2〜4%、死亡率が1〜2%であるのに対し、欧米白人ではその頻度が10分の1から6分の1程度と報告されています(厚生労働省 令和元年改定)。
海外の資料や、海外で行われた臨床試験の副作用の数字を見て「めったに起こらない」と受け取ると、日本人の実際より低く見積もることになります。
10分の1〜6分の1
ゲフィチニブによる肺障害の頻度を、欧米白人と日本人で比べた値(欧米白人の頻度は日本人の10分の1から6分の1程度)。海外の副作用の数字は、日本人にそのまま当てはまりません。
出典:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎」(令和元年改定)
連絡したあと、どんな検査をするのですか?
酸素の値、胸のX線とCT、血液検査で、肺の状態と、感染症など別の原因でないかを調べます。
厚生労働省のマニュアルが挙げている主な検査は次のとおりです(厚生労働省 令和元年改定)。
| 検査 | 何を見るか |
| 動脈血の酸素飽和度 | 血液に酸素が十分に取り込まれているか |
| 胸部X線 | 肺に影が出ていないか |
| 胸部CT(とくに高分解能CT) | 影の広がりと形。X線より細かく見える |
| 血液検査(CRP、KL-6、SP-Dなど) | 炎症の程度と、肺の間質の傷みを反映する値 |
| 痰の検査、尿中抗原検査など | 細菌などによる肺炎(感染症)でないか |
大切なのは、細菌などによる肺炎(感染症)と見分けることです。マニュアルも、感染症との区別のために痰の検査や尿中抗原検査を挙げています。抗がん剤で白血球が減っている時期には、感染症の可能性も同時に考えます。必要に応じて、専門の施設で気管支鏡を使った検査(気管支肺胞洗浄など)が行われることもあります。
マニュアルは、症状が出た場合は直ちに検査を行うことが重要だとしています。
間質性肺炎と診断されたら、治療はどうなりますか?
原因と考えられる薬を中止するのが基本です。中止しても良くならないとき、呼吸が苦しいときは、ステロイドを使います。
マニュアルに沿うと、治療の流れは次のようになります(厚生労働省 令和元年改定)。
- 原因と考えられる薬を中止する
- 中止しても改善しない場合や、呼吸不全がある場合は、副腎皮質ステロイドを使う
- 重症の場合は、ステロイドを点滴で大量に短期間使う治療(パルス療法)を行い、その後に飲み薬へ切り替えて少しずつ減らす
- それでも効かない場合に、免疫抑制薬などが使われることがあるが、確立した方法はない
例外もあります。症状がなく軽い場合(重症度の分類でグレード1)は、mTOR阻害薬や一部の免疫チェックポイント阻害薬では投与を続けられる場合があるとされています。
薬を中止すると、がんの治療をどう続けるかという問題が出てきます。別の薬に切り替えるのか、休薬のあとに再開を検討するのかは、間質性肺炎の重さ、がんの状態、ほかに使える薬によって変わります。決まった答えはないので、主治医と相談して決めることになります。
間質性肺炎のほかに、すぐ連絡すべき重い副作用は何ですか?
38度以上の発熱、止まらない出血、急な呼吸困難、食事や水分がとれない状態などです。治療前と明らかに違う症状は、すべて連絡の対象です。
がん情報サービスが「すぐに連絡する」症状として挙げているものを、考えられる副作用と並べると次のようになります(がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年)。
| こんな症状 | 考えられること |
| 38度以上の発熱が続く(白血球が減る治療中は37.5度以上も注意) | 感染症 |
| 呼吸困難が急に起こった | 間質性肺炎、肺炎など |
| 出血が止まらない | 血小板の減少など |
| 食事や水分がとれない。強い吐き気や嘔吐が続く | 脱水など |
| むせる、痰が増える | 誤嚥(ごえん) |
| 下痢が続く。3日以上排便がない | 腸の副作用 |
| 1日以上尿が出ない | 腎臓の障害、脱水など |
出典:がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」(2025年3月確認)。右の列は、がん情報サービスの説明をもとに整理したもの。
発熱して白血球が減っている状態(発熱性好中球減少症)は、抗がん剤で免疫が下がったときの感染症の記事で説明しています。
点滴の当日に起こるもの
抗体薬では「インフュージョンリアクション」と呼ばれる反応が起こることがあります。多くは投与を始めてから24時間以内で、悪寒、発熱、皮膚の発疹、軽い血圧の低下、息苦しさなどが主な症状です(がん情報サービス 2025年)。帰宅したあとに出ることもあるので、点滴の日の夜の変化も連絡の対象です。
免疫チェックポイント阻害薬で起こるもの
免疫チェックポイント阻害薬は、がんを攻撃する免疫の働きを強める薬です。その免疫が、がんのない場所でも強く働くと、自己免疫の病気に似た副作用が出ます(がん情報サービス「免疫療法 もっと詳しく」2025年)。症状は全身のどこにでも出ます。
- 全身:高熱、だるさ、意識の低下、けいれん
- 頭と首:視力の低下、視野が欠ける、甲状腺の腫れ
- 胸:息切れ、呼吸困難、動悸、胸の痛み、咳
- おなか:吐き気、嘔吐、食欲不振、血便、腹痛、下痢
- 手足:歩くときにつまずく、手足のまひ、筋力の低下
これらはかぜや疲れ、がんそのものの症状とも重なります。治療が終わって数週間から数か月たってから出ることもあるため、別の病院や救急を受診するときは、この薬を使ったことを必ず伝えます。
連絡するとき、本人と家族は何を伝えればよいですか?
いつから、どんな症状か、体温、使っている抗がん剤の名前と最後に使った日を伝えます。
電話で状況を伝えるときに、次のことを手元に用意しておくと話が早く進みます。
- 症状がいつから始まったか。急に出たのか、少しずつ強くなっているのか
- 咳、息切れ、発熱のどれがあるか。体温は何度か
- どのくらい動くと息が切れるか(階段の途中、平らな道、じっとしていても)
- 使っている抗がん剤の名前と、最後に使った日
- ほかに飲んでいる薬。別の病院の薬、漢方薬、市販のかぜ薬も含める
最後の項目は、厚生労働省のマニュアルが、漢方薬や市販のかぜ薬も間質性肺炎の原因になりうる薬に挙げているためです。咳や熱が出たからと市販のかぜ薬で様子を見る前に、まず病院に連絡します。
連絡先は、治療を始める前に確認しておきます。平日の日中と、夜間・休日とで番号が違う病院もあります。本人が息苦しくて話しにくいときは、家族が代わりに電話をかけられるよう、家族も同じ番号を控えておくと安心です。
空咳と少しの息切れは、日々の暮らしの中では小さな変化です。その小さな変化を、薬の名前と並べて伝えられるかどうかが、早く見つけられるかどうかを分けます。
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Q抗がん剤の間質性肺炎の初期症状は何ですか?
空咳(痰の出ない咳)、階段や少し早歩きをしたときの息切れ、発熱です(厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎」)。急に出たとき、続くときは、医師か薬剤師に連絡します。発熱がないこともあります。
Q抗がん剤の間質性肺炎は治りますか?
原因と考えられる薬を中止し、必要に応じてステロイドを使うのが基本の治療です。マニュアルは、薬を中止したあとに自然に良くなることを、薬剤性と診断する根拠の一つとしています。一方で重症になることもあり、ゲフィチニブでは日本人での死亡率が1〜2%と報告されています。
Q間質性肺炎は日本人に多いのですか?
厚生労働省のマニュアルは、日本人は欧米人や他のアジア人と比べて重い薬剤性間質性肺炎を起こしやすいとしています。ゲフィチニブでは、欧米白人での頻度は日本人の10分の1から6分の1程度と報告されています。
Q免疫チェックポイント阻害薬の治療が終わったあとも、間質性肺炎は起こりますか?
起こることがあります。がん情報サービスは、免疫チェックポイント阻害薬の副作用には、治療が終了してから数週間から数か月後に起こるものもあると説明しています。別の医療機関にかかるときは、この薬を使ったことを伝えます。
Q抗がん剤の治療中に、市販のかぜ薬を飲んでもいいですか?
厚生労働省のマニュアルは、市販のかぜ薬(総合感冒薬)も薬剤性間質性肺炎の原因になりうる薬に挙げています。治療中に咳や熱が出たときは、市販薬で様子を見る前に、治療を受けている病院に連絡して相談します。
参考文献
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎(肺臓炎、胞隔炎、肺線維症)」令和元年改定(第11回重篤副作用総合対策検討会 資料2-2、2019年7月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000529026.pdf - 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎」改定案(2025年)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001553851.pdf - 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎」平成18年11月
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1b01.pdf - 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年3月11日確認
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法 もっと詳しく」2025年11月6日確認
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html





