アピアランスケアとは?がん治療で見た目が変わる不安への支援

鏡に向かって帽子を整える女性。がん治療による見た目の変化と相談先を説明する記事

アピアランスケアとは、がん治療による外見の変化から生じる苦痛を和らげるためのケアです。

この記事では、アピアランスケアの定義と、対象になる外見の変化の範囲を、国立がん研究センターや学会、厚生労働省の資料で確かめます。外見の変化が生活にどう響くかの調査の数字、相談できる場所、国が進めている体制づくり、ウィッグなどの助成の現状もまとめました。

アピアランスケアとは何ですか?

医学的・整容的・心理社会的な支援を用いて、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケアです。

アピアランス(appearance)は「外見」という意味です。この言葉は、国立がん研究センター中央病院の外見関連の支援チームが作ったもので、2012年から対外的に使われています(国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター 藤間勝子「アピアランスケアの現状と課題」第84回がん対策推進協議会 資料4、2022年10月27日)。

定義にある3つの支援は、たとえば次のようなものです。

  • 医学的な支援:皮膚の症状に塗り薬を使う、爪のトラブルを予防する
  • 整容的な支援:ウィッグ、化粧、眉の描き方などで外見を整える
  • 心理社会的な支援:外見の変化による気持ちのつらさや、人との関わり、仕事の困りごとを相談する

アピアランスケアは、がんの治療に伴う副作用を予防し和らげる「支持療法」の一つとしても挙げられています(がん情報サービス「集学的治療」2024年)。支持療法の全体は、支持療法とは何かを説明した記事で扱っています。

定義から「補完」の言葉が外された

アピアランスケアの定義には、もともと「外見の変化を補完し」という言葉が入っていました。国立がん研究センター中央病院のアピアランス支援センターは、この言葉を定義から外しています。理由は、外見を補わなくても苦痛を軽くできるからだと説明しています(藤間勝子「医療機関におけるアピアランスケア実装に向けた現状と課題」第8回がんとの共生のあり方に関する検討会 資料4、2024年4月26日)。

一方、厚生労働省が2026年3月に示した資料は、広い意味の定義として「外見の変化を補完し」を含む形を載せています(厚生労働省「アピアランスケアに関する現状及び今後の方針」第93回がん対策推進協議会 資料1-2、2026年3月9日)。資料によって定義の言葉が少し違います。

どちらの定義でも、目的は「外見の変化から生じる苦痛を軽くすること」です。外見を元どおりに戻すことや、変化を隠しきることは、目的そのものではありません。同じ2024年の資料は、医療現場でアピアランスケアが広がる途中で、物品のカタログを配るだけ、院内の美容室に相談を任せるだけ、といった混乱も起きたと報告しています。ウィッグや化粧品を選ぶことは手段の一つで、つらさの中身を聞くところからケアが始まります。

どんな外見の変化が、アピアランスケアの対象ですか?

脱毛だけでなく、皮膚や爪の変化、放射線による皮膚の炎症、手術の傷あとなど、治療によって起こる外見の変化が広く対象です。

日本がんサポーティブケア学会の「がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版」は、43の問いを、治療の種類ごとに次のように分けて扱っています(Minds ガイドラインライブラリ「がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版」)。

分類 問いの数 扱っている外見の変化やケアの例
化学療法 11 頭皮の冷却、脱毛後の育毛剤、皮膚の色素沈着、手足症候群、爪の障害
分子標的療法 15 にきびのような発疹(ざ瘡様皮疹)、鼻の入り口の炎症、皮膚の乾燥、手足症候群、爪の周りの炎症
放射線療法 5 放射線皮膚炎のときの洗浄、保湿薬、ステロイドの塗り薬、デオドラントの使用
日常整容 12 ヘアケア、毛染めやパーマ、眉のアートメイク、紫外線対策、傷あとのテーピング、ウィッグ、乳房再建後の下着、心理・社会的な支援

出典:Minds ガイドラインライブラリ「がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版」(日本がんサポーティブケア学会 編、金原出版、2021年)。

このガイドラインは、作成方法の観点から質の高い診療ガイドラインとして、Mindsに選ばれています(同)。それぞれの問いへの推奨は、治療の種類やがんの種類で違います。

脱毛について、始まる時期と戻る時期、頭皮の冷却が勧められる範囲、ウィッグの選び方と費用は、抗がん剤の脱毛はいつ戻るかの記事で詳しく説明しています。

外見の変化は、生活にどのくらい響くのですか?

外見の変化のために、仕事や学校を休んだり辞めたりした人が3人に1人以上いたという調査があります。

国立がん研究センター中央病院のアピアランス支援センターは、がん患者1,035人を対象にした調査で、外見の変化によって次のことを実際に経験した割合を示しています(藤間勝子 2022年。調査は野澤桂子・藤間勝子、国立病院看護研究学会誌 16巻1号、2020年)。

外見の変化によって経験したこと 割合
仕事や学校を休んだり、辞めたりしなければならなかった 34.7%
外出や人と会うことがおっくうになった 29.0%
ほかの人から、すぐに「がん」だとわかった 14.2%
外見が変わるなら、治療をしなければよかった 4.4%

出典:藤間勝子「アピアランスケアの現状と課題」第84回がん対策推進協議会 資料4(2022年)。

外見の変化は、見た目の問題にとどまらず、仕事や人づきあいにまで及びます。少数ながら、治療そのものを後悔する気持ちにつながった人もいました。

この調査の数字の読み方

この数字は、国立がん研究センター中央病院が国の会議に出した資料に載っている調査の結果です。どんながんで、どんな治療を受けた人が対象か、外見の変化がなかった人も含めた割合かどうかは、資料からは確かめられませんでした。調査によって数字は変わりうるので、目安として読んでください。

28.3%

外見の変化について、医療者などに相談できたがん患者(成人)の割合。小児では51.8%でした。外見の変化に悩む人の多くが、相談までたどり着けていません。

出典:第3期がん対策推進基本計画の中間評価(藤間勝子「アピアランスケアの現状と課題」2022年による)

アピアランスケアは、どこで相談できますか?

まず治療を受けている病院の医師、看護師、薬剤師に相談します。がん診療連携拠点病院の、がん相談支援センターでも相談できます。

2024年の資料は、患者がまず医療者に相談できると知ってもらい、そこからケアや情報提供につなげることを重視しています(藤間勝子 2024年)。皮膚や爪の症状のように、塗り薬などの医学的な対処が必要なものもあるので、自己流で対処する前に、治療している病院に伝えます。

がん相談支援センターは、その病院で治療を受けていない人も利用できます。役割と使い方は、がん相談支援センターの記事で説明しています。

国が進めている体制づくり

2023年3月に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画は、アピアランスケアを「がんとの共生」の分野に位置づけ、がん診療連携拠点病院などを中心に相談支援と情報提供の体制をつくることを検討するとしています(厚生労働省「第93回がん対策推進協議会 議事録」2026年3月9日)。

時期 内容
2023〜2025年度 アピアランス支援モデル事業。28都道府県の30施設で、医療現場の体制づくりを試した
2026年度(予定) 「アピアランスケアにかかる体制整備支援事業」を創設。予算案は2,700万円で、都道府県の拠点病院が地域の病院向けに行う研修の経費を補助する

出典:厚生労働省「アピアランスケアに関する現状及び今後の方針」第93回がん対策推進協議会 資料1-2(2026年3月9日)。

同じ資料によると、国は都道府県のがん診療連携拠点病院に、アピアランスケアの担当者と管理者を置くこと、医療者による評価、多職種での情報提供、院内の委員会、院内教育を、整えるべき体制として通知で示す予定です。受けられるケアの中身は、病院によってまだ差がある段階です。

ウィッグなどの費用に、助成はありますか?

一部の自治体が、ウィッグや胸の補整具などの購入費を助成しています。

2022年4月末の時点で、ウィッグや胸部の補整具などの助成制度を設けていた自治体は307(17.9%)で、上限は1〜3万円程度が多いとされています(藤間勝子 2022年。日本毛髪工業協同組合の調べ)。その後に始めた自治体もあるため、住んでいる市区町村の窓口か、がん相談支援センターで確かめます。購入前の申請が必要かどうかも、あわせて確認します。

医療用ウィッグの費用が医療費控除の対象になるかどうかは、脱毛の記事で説明しています。

治療の前に、何をしておけばよいですか?

受ける治療でどんな外見の変化が起こりうるかを、始める前に担当医か薬剤師に聞いておきます。

外見の変化は、治療の種類によって起こる部位も時期も違います。前もってわかっていれば、ウィッグや帽子を準備する、仕事先に伝える時期を考える、といった備えができます。外見の変化のために仕事を休んだり辞めたりした人が3人に1人以上いたことを考えると、仕事への影響は早めに考えておく価値があります。

治療と仕事を両立させる手順は、次に紹介する記事で扱っています。

アピアランスケアの対象は、髪だけでなく、皮膚、爪、傷あとまで広がっています。そして目的は、外見を元に戻すことより、外見の変化から生じるつらさを軽くすることに置かれています。つらさの中身は人によって違うので、何に困っているかを言葉にするところが、ケアの入り口になります。

新見正則医院院長 新見正則

監修

新見正則(にいみ まさのり)

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。

日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)

詳しいプロフィール

次に読む

外見の変化で仕事を休んだり辞めたりした人は、3人に1人以上いました。辞めるかどうかを決める前に、確かめておく順番があります。

がんでも仕事は続けられる?辞めようか迷ったときに確かめる順番

がんの治療のために仕事を辞めた人の多くが、治療が始まる前に辞めていたという国の調査を紹介した記事です。主治医に見通しを聞く、就業規則を確かめる、会社に申し出る、という順番と、両立支援の制度を説明しています。

この記事を読む

よくある質問

Qアピアランスケアとは、簡単に言うと何ですか?

がん治療による外見の変化から生じる苦痛を、医学的・整容的・心理社会的な支援で和らげるケアです。国立がん研究センター中央病院のチームが作った言葉で、2012年から使われています。外見を元に戻すことより、つらさを軽くすることが目的です。

Qアピアランスケアは、脱毛だけが対象ですか?

脱毛だけではありません。日本がんサポーティブケア学会のガイドライン(2021年版)は、皮膚の色素沈着、手足症候群、爪の障害、分子標的薬による発疹、放射線皮膚炎、手術の傷あと、乳房再建後の下着なども扱っています。

Qアピアランスケアは、どこで相談できますか?

まず治療を受けている病院の医師、看護師、薬剤師に相談します。がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでも相談でき、その病院で治療を受けていない人も利用できます。

Q医療用ウィッグの購入に助成はありますか?

一部の自治体が助成しています。2022年4月末の時点で307自治体(17.9%)が、ウィッグや胸の補整具などの助成制度を設けており、上限は1〜3万円程度が多いとされています。住んでいる市区町村の窓口で確かめてください。

参考文献

  1. 藤間勝子(国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)「アピアランスケアの現状と課題」第84回がん対策推進協議会 資料4、2022年10月27日
    https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001005568.pdf
  2. 藤間勝子「医療機関におけるアピアランスケア実装に向けた現状と課題」第8回がんとの共生のあり方に関する検討会 資料4、2024年4月26日
    https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001249857.pdf
  3. 厚生労働省 健康・生活衛生局がん・疾病対策課「アピアランスケアに関する現状及び今後の方針」第93回がん対策推進協議会 資料1-2、2026年3月9日
    https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001667592.pdf
  4. 厚生労働省「第93回がん対策推進協議会 議事録」2026年3月9日
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72336.html
  5. Minds ガイドラインライブラリ「がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版」(日本がんサポーティブケア学会 編、金原出版、2021年)
    https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00688/
  6. 国立がん研究センター がん情報サービス「集学的治療」2024年9月更新
    https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/multidisciplinary_treatment.html

PAGE TOP