多発性骨髄腫は、抗体をつくる形質細胞ががん化する血液のがんで、治療を始めるかどうかは症状だけでなく検査の値でも決まります。
多発性骨髄腫は、骨髄で増えたがん細胞が、骨や腎臓、血液をつくる働きに影響する病気です。同じように骨髄に異常な形質細胞があっても、すぐに治療する場合と、経過を見る場合があります。この記事では、症状、検査、病気の段階の分け方、治療を始める基準、病期分類、国内で使える治療、生存率を、国立がん研究センターのがん情報サービス、国際骨髄腫ワーキンググループの基準、医薬品医療機器総合機構の資料、臨床試験の論文から整理します。
この記事の内容
多発性骨髄腫とは、どんな病気ですか?
白血球のB細胞から分化した形質細胞ががん化して骨髄腫細胞になり、主に骨髄で増える病気です。
形質細胞は、体を守る抗体をつくる細胞です。がん化した骨髄腫細胞は、異物を攻撃する働きのない抗体(M蛋白)をつくり続けます(がん情報サービス「多発性骨髄腫」2023年)。
国内で2023年に多発性骨髄腫と診断されたのは7,938人(男性4,292人、女性3,646人)、2024年に多発性骨髄腫で亡くなったのは4,243人でした(国立がん研究センター がん統計「多発性骨髄腫」2026年)。
どんな症状が出ますか?
治療が必要になる主な症状は、高カルシウム血症、腎臓の働きの低下、貧血、骨の病変の4つです。
がん情報サービスは、治療が必要になるのは、高カルシウム血症、腎不全、貧血、骨病変などが1つ以上ある場合だとしています(がん情報サービス「多発性骨髄腫」2023年)。4つの頭文字から「CRAB」と呼ばれ、国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)は次の基準を定めています。
| 症状 | 体に起こること | IMWGの基準 |
| 高カルシウム血症 | めまい、頭痛、のどの渇き、便秘、食欲不振 | 血液のカルシウムが11mg/dLを超える、または正常上限より1mg/dLを超えて高い |
| 腎臓の働きの低下 | 腎不全 | 血清クレアチニンが2mg/dLを超える、またはクレアチニンクリアランスが40mL/分未満 |
| 貧血 | 倦怠感など | ヘモグロビンが10g/dL未満、または正常下限より2g/dLを超えて低い |
| 骨の病変 | 骨折しやすくなる。背骨の骨折による腰痛 | 低線量の全身CTやPET-CTなどで、骨が溶けた病変が1か所以上 |
出典:がん情報サービス「多発性骨髄腫」(2023年12月6日更新)、Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol 2014。
ほかに、出血しやすくなる、熱が出る、感染症にかかりやすくなることがあります。M蛋白が増えて血液がどろどろになる過粘稠度症候群や、アミロイドというたんぱく質が臓器にたまることによる症状も起こります(がん情報サービス 2023年)。
どんな検査で診断しますか?
骨髄検査で骨髄腫細胞の割合を調べ、血液と尿の検査でM蛋白を、画像検査で骨の病変を調べます。
診断と病型の確定のために、腰の骨(腸骨)から骨髄を採る骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)を受けるのが一般的です(がん情報サービス 2023年)。血液と尿では、M蛋白の量や、抗体の部品の一つである遊離軽鎖の量を調べます。骨の病変は、低線量の全身CT、PET-CT、MRIで調べます(Rajkumar SV, et al. 2014)。PET検査の仕組みと限界は、PET検査でがんがどこまでわかるかを説明した記事で扱っています。
治療が始まってからも、効果は血液検査や骨髄検査の結果で確かめます(がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」2025年)。
治療が必要な骨髄腫と、経過を見る骨髄腫は、どう分かれますか?
骨髄の形質細胞の割合とM蛋白の量、そして臓器の障害が出ているかで、MGUS(意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)、くすぶり型、多発性骨髄腫の3つに分けます。
| 段階 | M蛋白 | 骨髄の形質細胞 | 治療の対象になる所見 |
| MGUS | 血清で3g/dL未満、尿で500mg/24時間未満 | 10%未満 | なし |
| くすぶり型多発性骨髄腫 | 血清で3g/dL以上、または尿で500mg/24時間以上 | 10〜59% | なし |
| 多発性骨髄腫 | — | 10%以上(または生検で確かめた形質細胞腫) | CRABの症状か、次の3つの検査値のどれか1つ以上 |
出典:Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol 2014(国際骨髄腫ワーキンググループの診断基準)。
がん情報サービスは、症状がない場合を無症候性多発性骨髄腫とし、経過観察が続くこともあるとしています(がん情報サービス 2023年)。
症状がなくても治療の対象になる3つの検査値
2014年の基準の改訂で、症状がなくても、次のどれか1つがあれば治療の対象になる多発性骨髄腫と診断することになりました。
- 骨髄の形質細胞が60%以上
- 血液中の遊離軽鎖の比(増えている側と増えていない側の比)が100以上
- MRIで、5mm以上の病変が2か所以上
国際骨髄腫ワーキンググループは、これらの検査値がある人は、2年以内に臓器の障害(CRAB)が出る危険がおよそ80%以上あるとして、症状が出る前の治療開始を認めました(Rajkumar SV, et al. 2014)。治療を始めるかどうかの線は、症状が出たときから、検査値で予測できる時点に前へ動いたことになります。
高リスクのくすぶり型への、ダラツムマブ
この線は、その後も動いています。症状がなく、上の3つの検査値にも当てはまらないくすぶり型のうち、進行の危険が高い人を対象に、抗CD38抗体のダラツムマブを使う方法が、「高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫における進展遅延」として2025年11月20日に国内で承認されました(医薬品医療機器総合機構「新医薬品の承認品目一覧 2025年4月〜2026年3月」)。
AQUILA試験では、高リスクのくすぶり型の390人を、ダラツムマブを使う群と、治療をせずに経過を見る群に分けました。5年の時点で進行も死亡もしていない人の割合は、63.1%と40.8%で、ハザード比は0.49でした。5年生存率は93.0%と86.9%でした(Dimopoulos MA, et al. N Engl J Med 2025)。
「高リスクのくすぶり型」に何が当てはまるか
AQUILA試験の対象は、試験が定めた基準で「高リスク」と判断されたくすぶり型の人です。くすぶり型のすべてが治療の対象になったわけではありません。比べた相手は治療をしない経過観察で、ほかの薬との比較ではありません。自分が「高リスク」に当てはまるかどうかは、どの基準で判断されたかを主治医に確かめる必要があります。
病期(ステージ)は、どう分けますか?
血液検査の値と、骨髄腫細胞の染色体の異常を組み合わせた、R-ISS(改訂国際病期分類)でⅠ〜Ⅲ期に分けます。
| 病期 | 条件 |
| Ⅰ期 | 血清β2ミクログロブリン3.5mg/L未満かつ血清アルブミン3.5g/dL以上(ISSのⅠ期)で、高リスクの染色体異常がなく、LDHが正常 |
| Ⅱ期 | Ⅰ期にもⅢ期にも当てはまらないもの |
| Ⅲ期 | 血清β2ミクログロブリン5.5mg/Lを超え(ISSのⅢ期)、高リスクの染色体異常があるか、LDHが高い |
出典:Palumbo A, et al. J Clin Oncol 2015。高リスクの染色体異常は del(17p)、t(4;14)、t(14;16)。
この分類をつくった研究では、11の臨床試験で治療を受けた3,060人を調べ、5年生存率はⅠ期82%、Ⅱ期62%、Ⅲ期40%でした(Palumbo A, et al. 2015)。臨床試験に参加した人の数字なので、全身状態がよい人に偏っている可能性があります。
固形がんのステージと違い、多発性骨髄腫の病期は、がんの広がりの範囲ではなく、血液の値と細胞の性質で決まります。がんのステージ全般の考え方は、がんのステージがいくつまであるかを説明した記事にまとめています。
多発性骨髄腫は、どう治療しますか?
分子標的薬、細胞障害性抗がん薬、ステロイドを組み合わせた薬物療法が中心で、年齢や全身状態によっては造血幹細胞移植を行います。
がん情報サービスは、治療の骨組みをこのように示しています(がん情報サービス 2023年)。使われる薬には、免疫調節薬、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体などの種類があります。骨の病変に対しては、デノスマブなど骨を守る薬が「多発性骨髄腫による骨病変」に使われます(医薬品医療機器総合機構 承認品目一覧 2025年4月〜2026年3月)。
再発したとき、治療が効かないときの新しい治療
ここ数年で、国内で使える治療が増えました。いずれも、再発したか治療が効かなくなった多発性骨髄腫が対象で、前にどの薬を使ったかなどの条件があります。
| 種類 | 製品(一般名) | 国内の承認 |
| CAR-T細胞療法 | アベクマ(イデカブタゲン ビクルユーセル) | 承認済み(再発又は難治性、条件付き) |
| CAR-T細胞療法 | カービクティ(シルタカブタゲン オートルユーセル) | 承認済み(再発又は難治性。免疫調節薬とプロテアソーム阻害剤を含む前治療があり、レナリドミドが効かないなどの条件付き) |
| 二重特異性抗体 | エルレフィオ(エルラナタマブ) | 2024年3月26日(標準的な治療が困難な場合に限る) |
| 二重特異性抗体 | テクベイリ(テクリスタマブ) | 2024年12月27日(標準的な治療が困難な場合に限る) |
| 二重特異性抗体 | タービー(トアルクエタマブ) | 2025年6月24日(標準的な治療が困難な場合に限る) |
| 抗体薬物複合体 | ブーレンレップ(ベランタマブ マホドチン) | 2025年5月19日 |
出典:医薬品医療機器総合機構「使用上の注意の改訂について」(2024年3月28日)、カービクティ添付文書(2026年7月改訂)、「新医薬品の承認品目一覧」(2023年4月〜2024年3月、2024年4月〜2025年3月、2025年4月〜2026年3月)。
CAR-T細胞療法は、患者さん自身のT細胞を取り出し、骨髄腫細胞を見つけて攻撃する受容体を遺伝子操作で組み込んでから体に戻す治療です。二重特異性抗体は、骨髄腫細胞の目印と、がんを攻撃するT細胞の両方に結合する薬です。どちらも、使える病院と対象の条件が決められています。臨床試験で新しい治療を受ける方法は、がんの治験に参加する方法で説明しています。
多発性骨髄腫の生存率は?
2018年に診断された人の5年相対生存率は53.9%(男性53.8%、女性54.0%)でした。
この数字は全国がん登録によるもので、国立がん研究センターのがん統計には、病期ごとの生存率のデータはありません(国立がん研究センター がん統計「多発性骨髄腫」2026年)。2018年に診断された人の数字なので、この記事の表にある、2024年以降に承認された二重特異性抗体などの治療は、ほとんど含まれていません。
60%
骨髄の形質細胞がこの割合以上なら、症状がなくても、治療の対象になる多発性骨髄腫と診断されます。症状がないことは、治療が要らないことと同じではありません。
出典:Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol 2014(国際骨髄腫ワーキンググループ)
経過観察と言われたら、MGUSなのか、くすぶり型なのか、くすぶり型なら高リスクに当てはまるかを、治療を勧められたら、CRABの症状と3つの検査値のどれに当てはまったのかを、主治医に聞いてみてください。同じ「様子を見る」「始める」でも、どの線をまたいだかで意味が違います。
以前はがんが発見されると即座に治療が開始されました。放置という概念がありませんでした。
ところが、数十年にわたって悪さをしないがんもあることが判明しました。そこで、あえて治療を行わないアクティブサーベイランス(積極的経過観察)が選ばれることも多くなりました。
もしかしたら大火事になるかもしれないたき火を消さずに慎重に見張りながら、経過をみる作戦だといえます。血液腫瘍では多発性骨髄腫などでアクティブサーベイランスが選ばれることがあります。
監修者
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Q多発性骨髄腫の5年生存率はどのくらいですか?
国立がん研究センターのがん統計では、2018年に診断された人の5年相対生存率は53.9%(男性53.8%、女性54.0%)でした。病期ごとの数字はありません。2024年以降に承認された二重特異性抗体などの治療は、この数字にはほとんど含まれていません。
Q症状がないのに、治療が必要と言われることはありますか?
あります。国際骨髄腫ワーキンググループの2014年の基準では、骨髄の形質細胞が60%以上、遊離軽鎖の比が100以上、MRIで5mm以上の病変が2か所以上のどれかがあれば、症状がなくても治療の対象になる多発性骨髄腫と診断します。2年以内に臓器の障害が出る危険がおよそ80%以上あるためです。
Qくすぶり型多発性骨髄腫とは何ですか?
M蛋白が血清で3g/dL以上か尿で500mg/24時間以上、または骨髄の形質細胞が10〜59%で、CRABの症状も、治療の対象になる3つの検査値もない状態です。経過観察が基本ですが、高リスクと判断された人には、2025年11月に国内で承認されたダラツムマブを使う方法があります。
QMGUSとは何ですか?
意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症の略で、M蛋白が血清で3g/dL未満、骨髄の形質細胞が10%未満で、臓器の障害がない状態です。国際骨髄腫ワーキンググループの基準では、多発性骨髄腫、くすぶり型と並ぶ段階の一つとして区別されています。
Q多発性骨髄腫にCAR-T細胞療法は使えますか?
再発したか治療が効かなくなった場合に、条件を満たせば使えます。国内では、アベクマとカービクティが承認されています。カービクティは、免疫調節薬とプロテアソーム阻害剤を含む治療を受けていて、レナリドミドが効かないことなどが条件です。使える病院は限られています。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「多発性骨髄腫」(2023年12月6日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/cancer/MM/index.html - 国立がん研究センター がん統計「多発性骨髄腫」(2026年7月22日更新)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/26_mm.html - Rajkumar SV, Dimopoulos MA, Palumbo A, et al. International Myeloma Working Group updated criteria for the diagnosis of multiple myeloma. Lancet Oncol. 2014;15(12):e538-e548.
https://doi.org/10.1016/S1470-2045(14)70442-5 - Palumbo A, Avet-Loiseau H, Oliva S, et al. Revised International Staging System for Multiple Myeloma: A Report From International Myeloma Working Group. J Clin Oncol. 2015.
https://doi.org/10.1200/JCO.2015.61.2267 - Dimopoulos MA, Voorhees PM, Schjesvold F, et al. Daratumumab or Active Monitoring for High-Risk Smoldering Multiple Myeloma. N Engl J Med. 2025.
https://doi.org/10.1056/NEJMoa2409029 - 医薬品医療機器総合機構「新医薬品の承認品目一覧(2025年4月〜2026年3月)」(2026年10月25日確認)
https://www.pmda.go.jp/files/000277965.pdf - 医薬品医療機器総合機構「アキシカブタゲン シロルユーセル、イデカブタゲン ビクルユーセル、チサゲンレクルユーセル及びリソカブタゲン マラルユーセルの『使用上の注意』の改訂について」(2024年3月28日)
https://www.pmda.go.jp/files/000267649.pdf





