がんの多くは遺伝しません。生まれつきの遺伝子の変化が大きく関わる「遺伝性腫瘍」は、がん全体の5〜10%です。
家族にがんの人が多いと、「自分も」「子どもにも」と不安になります。遺伝性腫瘍には、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)やリンチ症候群などの種類があり、疑うきっかけになるサイン、子どもに伝わる確率、受けられる検査が決まっています。この記事では、国立がん研究センターの情報と学会の資料、査読論文から、遺伝性腫瘍の基本と、検査や保険の条件を整理します。
この記事の内容
がんは遺伝するのですか?
多くのがんは遺伝しません。がんの5〜10%は、生まれもった遺伝子の変化が発症に大きく関わっており、これを「遺伝性腫瘍」と呼びます。
がんは、細胞の増え方を調節する遺伝子に変化が積み重なって起こる病気です。その変化の多くは、生まれたあとに、喫煙や感染、加齢などを背景に起こります。親から受け継いだ変化ではないので、子どもには伝わりません(国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」2026年)。
一方、がんになった人の5〜10%は、生まれつきの遺伝子の変化を持っています。割合はがんの種類によって違います(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」2026年)。
遺伝性腫瘍に関わる遺伝子の多くは、がんを抑える働きを持つ「がん抑制遺伝子」です。遺伝子は父と母から1本ずつ、2本受け継ぎます。生まれつき1本に変化があっても、残りの1本が働いていれば、すぐにがんになるわけではありません。ある細胞で残りの1本にも変化が起こると、がんになる危険が高まります。
変化を受け継いでいても、必ずがんになるわけではありません。生活習慣などの環境の要因も関わります(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
家族にがんが多いと、遺伝性なのですか?
家族にがんが多いだけでは、遺伝性とは限りません。がんは約2人に1人がかかる病気で、家族に何人かいること自体は珍しくないためです。
日本人の約2人に1人は、一生のうちに何らかのがんにかかるとされています(がん情報サービス「がんという病気について」)。年を重ねるほど増える病気なので、高齢の家族が何人かがんになっていても、それだけで遺伝性腫瘍を疑う理由にはなりません。喫煙などの生活習慣を家族で共有していることも、がんが重なる理由になりえます。
遺伝性腫瘍を考えるきっかけになるのは、次のような特徴です(国立がん研究センター東病院「家族性腫瘍外来」2025年)。
- 本人や血縁者が若くしてがんになった(例:50歳未満の大腸がん、45歳未満の乳がん、10〜20代のがん)
- 父方または母方の同じ側の血縁者に、同じ種類のがんや、遺伝性腫瘍に多いがんの人が何人かいる
- 家族に希少がんの人がいる
- 1人が何度もがんになった(同じ臓器でも、別の臓器でも)
- 左右の乳房、腎臓、目など、対になった臓器の両方にがんができた
- がん遺伝子パネル検査で、遺伝性腫瘍の可能性を示す結果が出た
- 血縁者がすでに遺伝性腫瘍と診断されている
当てはまるものがあっても、遺伝性と決まるわけではありません。可能性を相談するきっかけとして使います。
遺伝性腫瘍にはどんな種類がありますか?
代表的なものは、乳がんと卵巣がんが多い遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と、大腸がんと子宮体がんが多いリンチ症候群です。ほかにもいくつかの種類があります。
国立がん研究センターが挙げている主な遺伝性腫瘍は、次のとおりです(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
| 名前 | 主な遺伝子 | 多いがん・特徴 |
| 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC) | BRCA1、BRCA2 | 乳がん、卵巣がん。BRCA2では膵臓がん、前立腺がん、男性の乳がん、メラノーマも |
| リンチ症候群 | MLH1、MSH2、MSH6、PMS2 | 大腸がん、子宮体がん。卵巣がん、腎盂・尿管がん、膀胱がん、小腸がん、胃がんも |
| 家族性大腸腺腫症(FAP) | APC | 10代から大腸に100個以上のポリープ(腺腫)ができ、がんになることがある |
| 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1) | MEN1 | 副甲状腺、下垂体、膵臓の腫瘍 |
| 多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2) | RET | 甲状腺髄様がん、褐色細胞腫 |
| 遺伝性網膜芽細胞腫 | RB1 | 子どもの両目の網膜のがん。のちに骨や筋肉の肉腫が出ることがある |
| リ・フラウメニ症候群 | TP53 | 肉腫、副腎皮質のがん、脳腫瘍、白血病、閉経前の乳がん。子どものうちに出ることもある |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「遺伝性腫瘍」(2026年4月24日更新)。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)
BRCA1またはBRCA2という遺伝子に生まれつき変化があり、乳がんと卵巣がんになりやすい体質です。BRCA1では胆道がんや胃がん、BRCA2では食道がんや胃がんとの関係も報告されています(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
欧米を中心とした約1万人の女性の保因者を追跡した研究では、80歳までに乳がんになる累積の危険は、BRCA1で72%、BRCA2で69%でした。卵巣がんはBRCA1で44%、BRCA2で17%でした(Kuchenbaecker KB, et al. JAMA 2017)。
72%という数字の読み方
この数字は「80歳までに」がんになった人の累積の割合で、欧米を中心とした保因者の追跡から出たものです。日本人の保因者にそのまま当てはまる数字としては確かめられていません。また、保因者の約3割は80歳までに乳がんにならないことも、同じ数字が示しています。
リンチ症候群
かつて「遺伝性非ポリポーシス大腸がん」と呼ばれていた体質です。遺伝子の傷を修復する働きを持つ遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2)の生まれつきの変化によって起こり、大腸がんと子宮体がんが多く、ほかのがんも起こりやすくなります。どの遺伝子に変化があるかで、なりやすいがんや危険の大きさが違います(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
若くして大腸がんになった人のことは、若年性大腸がんはなぜ増えるのかを説明した記事でも扱っています。
親から子に、どのくらいの確率で伝わりますか?
多くの遺伝性腫瘍では、親が持つ遺伝子の変化は、子ども一人ひとりに2分の1(50%)の確率で伝わります。
多くの遺伝性腫瘍は「常染色体顕性(優性)遺伝」という伝わり方をします。親の一方が変化を持っていると、子どもは一人ずつ、2分の1の確率で受け継ぎます(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
この2分の1は、子ども一人ひとりで別々に決まります。子どもが2人いれば1人に伝わる、という意味ではありません。全員が受け継ぐことも、誰も受け継がないこともあります。
- 受け継いでも、がんにならない人がいる
- 同じ変化を持つ家族でも、なるがんの種類が違うことがある
- 受け継がなかった子どもからは、その次の世代には伝わらない
遺伝カウンセリングと遺伝学的検査は、どこで受けられますか?
まず、いまかかっている医師に相談します。遺伝カウンセリングでは、遺伝の専門家が、検査を受けるかどうかを決める前から話を聞いてくれます。
遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医、遺伝性腫瘍の専門医、認定遺伝カウンセラー、遺伝看護専門看護師などが担当します。遺伝性腫瘍の可能性があるか、検査を受けるか、結果をどう受け止めるか、家族にどう伝えるかを相談できます。対応できるかどうかは腫瘍の種類と施設によって違うため、まず主治医に尋ね、対応していない場合は遺伝カウンセリングを行う施設を探します(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
相談の前に、次のことを書き出しておくと話が進みます。
- 自分の病気(がんの種類、診断されたときの年齢、受けた治療)
- 血縁者の病気(誰が、どのがんに、何歳でなったか)
- 血縁者で遺伝学的検査を受けた人がいるか
費用は施設とサービスによって違います。たとえば国立がん研究センター東病院の家族性腫瘍外来では、自費の場合、初診10,000円・再診6,000円(いずれも税別)で、内容によって保険診療や先進医療になるものもあります(国立がん研究センター東病院「家族性腫瘍外来」2025年)。
検査の結果は、本人だけでなく血縁者にも関わる情報です。家族の間に気まずさが生まれたり、結婚や出産の不安につながったりすることもあるため、結果を誰にどう伝えるかもカウンセリングで話し合います(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
遺伝子の検査や予防の手術は、保険で受けられますか?
一部は保険で受けられます。ただし、保険の対象になるのは、決められた条件を満たす人だけです。
保険で受けられるようになった主な遺伝学的検査は、次のとおりです(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
| 検査する遺伝子 | 対象 | 保険適用 |
| BRCA1、BRCA2 | 決められた基準を満たす人(HBOCの診断のため) | 2020年度から |
| MEN1 | 多発性内分泌腫瘍症1型 | 2020年度から |
| RET | 甲状腺髄様がんと診断された人 | 2016年度から |
| RB1 | 網膜芽細胞腫 | 2016年度から |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「遺伝性腫瘍」(2026年)。
乳がんの人がBRCA1・BRCA2の検査を保険で受ける条件は、次のどれか1つ以上に当てはまることです(Takahashi M, et al. Breast Cancer 2025)。
- 45歳以下で乳がんになった
- 60歳以下でトリプルネガティブ乳がんになった
- 2つ以上の乳がん(原発乳がん)になった
- 3親等以内の血縁者に、乳がん、卵巣がん、膵臓がんの人がいる
- 男性の乳がん
- 卵巣がん、卵管がん、腹膜がんがある
日本の登録データでこの検査を受けた乳がんの人5,904人を調べた研究では、BRCA1かBRCA2に病気に関わる変化が見つかったのは19.2%でした。保険の条件に当てはまる人では21.1%、当てはまらない人では5.6%でした(Takahashi M, et al. 2025)。条件に当てはまって検査を受けても、多くの人では変化は見つかっていません。トリプルネガティブ乳がんの治療については、トリプルネガティブ乳がんの今の治療を説明した記事で扱っています。
がんを防ぐために乳房や卵管・卵巣を切除する手術(リスク低減手術)は、BRCA1かBRCA2に変化があり、すでに乳がんか卵巣がんになった人では保険で受けられます。実施できる施設は限られています(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
保険の線は「がんになったかどうか」で引かれている
ここまでの条件を並べると、共通点があります。BRCA1・BRCA2の検査の条件も、リスク低減手術の条件も、すでに乳がんや卵巣がんなどと診断された人を対象にしています。同じ遺伝子の変化を持っていても、まだがんになっていない血縁者が検査や予防の手術を受ける場合の扱いは、これとは別です。費用は受ける医療機関で確かめてください。
5〜10%
がんになった人のうち、生まれつきの遺伝子の変化を持っている人の割合。残りの90〜95%の人のがんは、生まれたあとに起こった遺伝子の変化によるもので、子どもには伝わりません。割合はがんの種類によって違います。
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「遺伝性腫瘍」(2026年)
遺伝性腫瘍とわかったら、何ができますか?
がんを早く見つけるための定期的な検査を、遺伝性腫瘍の種類に合わせて受けられます。種類によっては、予防のための手術という選択肢もあります。
国立がん研究センターが挙げている、種類ごとの主な検査は次のとおりです(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
| 遺伝性腫瘍 | 定期的に受ける主な検査 |
| HBOC | 女性はマンモグラフィ、超音波、MRIによる乳房の検査。本人と家族の病歴でほかの検査も |
| リンチ症候群 | 大腸内視鏡検査、婦人科の検診 |
| 家族性大腸腺腫症 | 大腸と胃などの内視鏡検査、甲状腺の超音波検査 |
| MEN1 | ホルモンとカルシウムの血液検査、CTやMRI |
| MEN2 | ホルモンの血液検査、甲状腺の超音波検査 |
| リ・フラウメニ症候群 | 全身のMRI、血液検査(年齢で間隔が変わる) |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「遺伝性腫瘍」(2026年)。
家族性大腸腺腫症では、大腸がんを防ぐために大腸をすべて切除する手術が行われることもあります。暮らしへの影響が大きい手術なので、よい点と負担を理解したうえで、時間をかけて決めます(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」)。
遺伝性腫瘍と診断された人の家族も、自分でカウンセリングを受け、検査を受けるかどうかを考えられます。どこに相談すればよいかわからないときは、全国のがん診療連携拠点病院などにあるがん相談支援センターでも、相談先を一緒に探してもらえます。
遺伝性腫瘍かどうかを知ることは、不安を増やすためではなく、どの検査をいつ受けるかを決める材料を手に入れることです。家族の病歴を書き出すところから始めれば、相談の場で聞くべきことがはっきりします。
保険の線引きを、僕はこう見ています
BRCA陽性(遺伝性)の乳がんの患者さんに対する、反対側の乳房の切除は保険適用になりました。ところが、まだ乳がんを発症していない人の予防的な乳房切除は、まだ自費診療です。これも、ちょっとおかしいですね。
日本では保険適用となる遺伝子検査も、その回数や時間が限定されていることに不自然さを感じる医師や患者さんは、たくさんいるはずです。
それでも、日本で暮らしている以上、日本の標準治療を受け入れることが必要です。保険で受けられる範囲を知ったうえで、その外にあるものをどうするかを考えてください。
監修者
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Qがんは親から遺伝しますか?
多くのがんは遺伝しません。がんの多くは生まれたあとに起こった遺伝子の変化によるもので、子どもには伝わりません。がんになった人の5〜10%は、生まれつきの遺伝子の変化が大きく関わる遺伝性腫瘍です。
Q遺伝性のがんは子どもに必ず遺伝しますか?
必ずではありません。多くの遺伝性腫瘍では、親が持つ遺伝子の変化は子ども一人ひとりに2分の1の確率で伝わります。受け継いでも、がんにならない人もいます。受け継がなかった子どもからは、次の世代には伝わりません。
Q家族にがんが多いと遺伝性ですか?
それだけでは遺伝性とは限りません。日本人の約2人に1人は一生のうちにがんにかかります。若くしてがんになった人がいる、同じ側の血縁者に同じがんが続く、1人が何度もがんになった、といった特徴があるときに、遺伝性腫瘍の可能性を相談します。
Qがんの遺伝子検査は保険で受けられますか?
一部は保険で受けられます。BRCA1・BRCA2の検査は2020年度から、決められた条件を満たす人で保険の対象です。乳がんの人では、45歳以下での発症、60歳以下のトリプルネガティブ乳がん、血縁者の乳がん・卵巣がん・膵臓がんなどが条件です。
Q遺伝カウンセリングはどこで受けられますか?
まず、いまかかっている医師に相談します。対応していない場合は、遺伝カウンセリングを行う施設を探します。どこに相談すればよいかわからないときは、がん相談支援センターでも相談先を探せます。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「遺伝性腫瘍」(2026年4月24日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/cancer/hereditary_tumors/index.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」(2026年6月17日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/knowledge/basic/index.html - 国立がん研究センター東病院「家族性腫瘍外来」(2025年2月5日更新・2026年10月25日確認)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/genetic_medicine_services/040/20170831172741.html - Kuchenbaecker KB, Hopper JL, Barnes DR, et al. Risks of Breast, Ovarian, and Contralateral Breast Cancer for BRCA1 and BRCA2 Mutation Carriers. JAMA. 2017;317(23):2402-2416.
https://doi.org/10.1001/jama.2017.7112 - Takahashi M, Minoura Y, Den H, et al. Analysis of the conditions for applying BRCA genetic testing to women with breast cancer using the Japanese HBOC consortium and the JOHBOC registry project database. Breast Cancer. 2025;32(4):792-802.
https://doi.org/10.1007/s12282-025-01704-8





