肉腫は、骨や筋肉、脂肪などから生じる悪性腫瘍です。「がん」の一種ですが、漢字の「癌」とは区別されます。
肉腫(サルコーマ)は、悪性腫瘍全体の約1%と少なく、そのうえ種類がとても多いがんです。そのため、診断も治療も、経験のある施設かどうかで差が出やすいとされています。この記事では、国立がん研究センターの情報と学会の資料、査読論文から、肉腫とは何か、「癌」との違い、種類と症状、診断が難しい理由、治療と相談先を整理します。
この記事の内容
肉腫とは何ですか?
骨や、筋肉・脂肪・神経などの軟部組織から生じる悪性腫瘍の総称です。英語ではサルコーマ(sarcoma)といいます。
全身の骨と、筋肉、脂肪、神経などの軟部組織から生じる腫瘍を「骨軟部腫瘍」といい、そのうち悪性のものを肉腫と呼びます(国立がん研究センター希少がんセンター「肉腫」2022年)。
- 悪性腫瘍全体の約1%で、胃がんや肺がんのような上皮から生じるがんに比べてずっと少ない
- 若い人から高齢の人まで、幅広い年齢で起こる
- 種類が多く、できた場所と組織によって、症状も、必要な治療も、治療の効き方も大きく違う
出典:国立がん研究センター希少がんセンター「肉腫」(ver.1.2、2022年3月)。
軟部組織から生じる「軟部肉腫」は、1年に人口10万人あたり6人未満しか診断されない希少がんです(国立がん研究センター がん情報サービス「軟部肉腫〈成人〉」2026年)。
肉腫と「癌」は、何が違うのですか?
生じる細胞の種類が違います。「癌(癌腫)」は体の表面や臓器の粘膜を覆う上皮細胞から、肉腫は骨や筋肉など上皮以外の組織をつくる細胞から生じます。どちらも「がん」です。
ひらがなの「がん」は悪性腫瘍全体を指し、漢字の「癌」は、医学用語としては上皮細胞から生じる悪性腫瘍に限って使われます(がん情報サービス「がんという病気について」2026年)。
| 分類 | 生じる細胞 | 例 |
| 癌(癌腫) | 体の表面や臓器の粘膜を覆う上皮細胞 | 肺癌、胃癌、大腸癌、乳癌 |
| 肉腫 | 骨や筋肉、脂肪など、上皮以外の組織をつくる細胞 | 骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫 |
| 造血器腫瘍 | 血液や骨髄、リンパ節の白血球やリンパ球など | 白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫 |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」(2026年)。表の例は医学用語として区別するため、漢字の「癌」で表記。
つまり、肉腫は「がん」ですが、医学用語の「癌」ではありません。「骨のがん」「筋肉のがん」と説明されることがありますが、医学用語としては癌ではなく肉腫です。骨のがんには、骨から生じる肉腫のほかに、ほかの臓器のがんが骨に移ってきた「骨転移」があり、この2つは別の病気です(国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」2022年)。
同じ臓器でも、癌と肉腫の両方が起こることがあります。たとえば子宮には、粘膜から生じる癌(子宮体癌など)のほかに、筋肉などから生じる肉腫も起こります。国立がん研究センターは、肉腫をできた場所でも分類しており、子宮や心臓、後腹膜(おなかの奥)の肉腫も挙げています(がん情報サービス「肉腫(サルコーマ)の分類」2024年)。
肉腫には、どんな種類がありますか?
大きく、骨から生じる「骨肉腫」などの骨の肉腫と、筋肉や脂肪などから生じる軟部肉腫に分かれ、それぞれにさらに多くの種類があります。
国立がん研究センターは、骨の肉腫として4種類、軟部肉腫として16の項目を挙げています(がん情報サービス「肉腫(サルコーマ)の分類」)。
骨の肉腫
| 種類 | 多い年齢 | 多い場所 | 治療の中心 |
| 骨肉腫 | 10〜20代(高齢者にも一定数) | 膝や肩のまわり | 抗がん剤と手術の組み合わせ |
| 軟骨肉腫 | 主に40代以上 | 大腿骨、骨盤、上腕骨 | 主に手術 |
| ユーイング肉腫ファミリー腫瘍 | 主に20歳未満(高齢者にも) | 大腿骨、骨盤、背骨。軟部にも生じる | 抗がん剤と手術の組み合わせ |
出典:国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」(ver.1.1、2022年3月)。がん情報サービスは骨の肉腫として、このほかに脊索腫を挙げている。
軟部肉腫
国立がん研究センターが挙げている軟部肉腫には、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、未分化多形肉腫、粘液線維肉腫、滑膜肉腫、横紋筋肉腫、血管肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)などがあります(がん情報サービス「肉腫(サルコーマ)の分類」、国立がん研究センター希少がんセンター「肉腫」)。
軟部肉腫は体のどこにでもできますが、太ももなどの手足に多く、体幹や頭頸部にもできます(がん情報サービス「軟部肉腫〈成人〉」)。
どんな症状で見つかりますか?
軟部肉腫は、皮膚の下や筋肉の中の「しこり」や腫れで見つかることが多く、痛みがないことがよくあります。骨の肉腫は、痛みが主な症状です。
- 軟部肉腫:痛みのないしこりや腫れが多い。体の深いところにできると、かなり大きくなるまで気づかないことがある。神経を圧迫したり神経に広がったりすると、しびれや痛み、感覚の鈍さが出る(がん情報サービス「軟部肉腫〈成人〉」)
- 骨の肉腫:痛みが主な症状。骨肉腫では、X線で骨の変化が見えるまで症状がないこともある(国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」)
痛くないしこりは様子を見てしまいがちですが、痛みがないことは、肉腫ではないことの根拠になりません。
肉腫の診断は、なぜ難しいのですか?
まれで種類が多いうえ、顕微鏡の診断(病理診断)でも種類や悪性度の判断が分かれやすいためです。経験の少ない施設では診断と治療が難しく、適切でない治療のあとで専門施設に紹介される人が少なくないとされています。
骨の肉腫の診断では、年齢、症状が出た時期、場所を確かめ、血液検査と、X線、CT、MRI、骨シンチグラフィ、PETなどの画像検査を行い、最後に生検で採った組織を病理医が調べて、良性か悪性か、どの種類かを決めます(国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」)。病理検査の流れは病理検査の結果は何日で出るかを説明した記事で扱っています。
国立がん研究センター希少がんセンターは、肉腫は専門でない施設では診断や治療が難しく、適切でない治療を受けてから専門施設に紹介される人が多いと説明しています(国立がん研究センター希少がんセンター「肉腫」2022年)。
この難しさは数字にも表れています。欧州の3つの地域で、肉腫と診断された1,463人について、最初の病理診断と、肉腫の専門の病理医による見直しを比べた研究があります(Ray-Coquard I, et al. Ann Oncol 2012)。
| 最初の診断と専門家の見直し | 人数 | 割合 |
| 完全に一致 | 824人 | 56% |
| 一部一致(種類は同じで、悪性度か細かい型が違う) | 518人 | 35% |
| 完全に不一致(良性と悪性が違う、種類が違う、肉腫ではなかった) | 121人 | 8% |
出典:Ray-Coquard I, et al. Ann Oncol 2012。
この研究から言えること、言えないこと
この数字は欧州の3地域の、10年以上前の研究のものです。日本の現在の病理診断が同じ割合で食い違うことを示したものではありません。言えるのは、肉腫では、最初の病理診断の種類や悪性度が、専門家の見直しで変わることが珍しくないということです。種類や悪性度は治療の選び方に関わるため、肉腫の診断を受けたら、肉腫の診療経験が多い施設で診断と治療方針を確かめる意味があります。
56%
肉腫と診断された1,463人のうち、最初の病理診断と専門の病理医の見直しが完全に一致した人の割合。残りの44%では、悪性度や細かい型、または種類や良性・悪性の判断が変わりました。
出典:Ray-Coquard I, et al. Ann Oncol 2012(欧州3地域)
肉腫の治療は、どう決まりますか?
肉腫の種類、悪性度、できた場所と大きさ、広がりによって、手術・放射線治療・抗がん剤などを組み合わせて決めます。
骨の肉腫では、骨肉腫とユーイング肉腫ファミリー腫瘍は抗がん剤と手術の組み合わせ、軟骨肉腫は主に手術が治療の中心です。骨にできる骨巨細胞腫は、厳密には悪性ではないものの世界保健機関(WHO)の分類で中間悪性とされ、主に手術で治療します。手術で取るのがとても難しい場合には、2014年からデノスマブという薬も日本で使えるようになりました(国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」2022年)。
軟部肉腫では、日本整形外科学会が監修した「軟部腫瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)」が、次のような論点を臨床上の問いとして取り上げています(Minds ガイドラインライブラリ「軟部腫瘍診療ガイドライン2020」2020年)。
- 悪性軟部腫瘍に対して、腫瘍のまわりの正常な組織を含めて広く切除する手術(広範切除)を勧めるか
- 悪性度の高い腫瘍に、手術の前後に抗がん剤を使うか
- 放射線治療をどう組み合わせるか
- 転移や再発があるとき、切除できないときに、どの薬から使うか
- 高齢の人で、手術と放射線をどう組み合わせるか
このガイドラインは、Minds(日本医療機能評価機構の診療ガイドライン情報サービス)で、作成方法の観点から質が高いと評価されています。手術・放射線・薬の組み合わせ方の全体像は、がんの治療法の種類を説明した記事で扱っています。
肉腫は、どこで相談すればよいですか?
肉腫の診療経験が多い施設を探すことが大切です。国立がん研究センターの希少がんの電話相談や、病院の検索、がん相談支援センターが使えます。
国立がん研究センターは、肉腫について次の窓口を案内しています(がん情報サービス「軟部肉腫〈成人〉」)。
- 国立がん研究センター希少がんセンターの「希少がんホットライン」(電話相談)
- がん情報サービスの病院の探し方。がんの種類ごとに、治療の経験(症例数)がある病院を探せる
- がん診療連携拠点病院などにある、がん相談支援センター
すでに治療を受けている病院で、肉腫の診療経験の多い施設の意見も聞きたい場合は、セカンドオピニオンを使えます。紹介状の扱いはセカンドオピニオンは紹介状なしで受けられるかを説明した記事で扱っています。
肉腫は「がん」でありながら、胃がんや肺がんの情報がそのまま当てはまらないことが多いがんです。調べるときは「肉腫」という大きなくくりではなく、診断された種類の名前と、できた場所の両方で調べると、自分に関係のある情報に近づけます。
肉腫の手術を振り返って、僕が思うこと
僕が外科医として行った拡大手術はいろいろあります。大腿の横紋筋肉腫では、大腿の太い動脈を切除して人工血管で置き換えました。がんを根こそぎ取り除くのが「是」と思っていた時代のことです。
しかし、抗がん剤が進歩し、放射線治療の新しい機器も開発されると、外科だけが王道で、外科治療ですべて取り除いて、その後は「お祈り」という時代はほぼ終わりました。
監修者
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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肉腫のような希少がんでは、どこで、誰に相談するかが治療の入り口になります。相談先を一つ知っておくと、情報を探す負担がぐっと減ります。
がん相談支援センターとは?誰に相談すればいいかわからないときの窓口
全国のがん診療連携拠点病院などにある、無料で相談できる窓口です。誰が相談できるか、何を相談できるか、どう探すかを整理した記事です。
よくある質問
Q肉腫とは何ですか?
骨や、筋肉・脂肪・神経などの軟部組織から生じる悪性腫瘍の総称で、サルコーマとも呼ばれます。悪性腫瘍全体の約1%と少なく、種類が多い希少がんです。
Q肉腫はがんですか?
がんです。ひらがなの「がん」は悪性腫瘍全体を指すため、肉腫も含まれます。ただし、医学用語の漢字の「癌」は上皮細胞から生じる悪性腫瘍(癌腫)だけを指すので、肉腫は「癌」ではありません。
Q肉腫と骨転移は同じですか?
違います。肉腫は骨や軟部組織そのものから生じる悪性腫瘍です。骨転移は、乳がんや肺がんなど、ほかの臓器のがんが骨に移ってきたものです。
Q痛くないしこりでも肉腫のことはありますか?
あります。軟部肉腫は痛みのないしこりや腫れで見つかることが多く、体の深いところでは、かなり大きくなるまで気づかないこともあります。痛みがないことは、肉腫ではないことの根拠になりません。
Q肉腫はどこで治療を受ければよいですか?
肉腫の診療経験が多い施設を探すことが大切です。国立がん研究センター希少がんセンターの希少がんホットライン、がん情報サービスの病院の探し方、がん相談支援センターで相談できます。
参考文献
- 国立がん研究センター希少がんセンター「肉腫」(ver.1.2、2022年3月)
https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/sarcoma/no1.2sarcoma.pdf - 国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」(ver.1.1、2022年3月)
https://pod.ncc.go.jp/jp/rcc/about/bone_sarcomas/no1honenosarcoma.pdf - 国立がん研究センター がん情報サービス「肉腫(サルコーマ)の分類」(2024年8月2日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/cancer/sarcoma/index.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「軟部肉腫〈成人〉」(2026年3月13日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/cancer/soft_tissue_adult/index.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」(2026年6月17日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/knowledge/basic/index.html - Ray-Coquard I, Montesco MC, Coindre JM, et al. Sarcoma: concordance between initial diagnosis and centralized expert review in a population-based study within three European regions. Ann Oncol. 2012.
https://doi.org/10.1093/annonc/mdr610 - Minds ガイドラインライブラリ「軟部腫瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)」(日本整形外科学会 監修、南江堂、2020年/2026年10月25日確認)
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00588/




