良性と悪性を分けるのは、まわりに染み込むように広がる「浸潤」と、離れた場所に移って増える「転移」があるかどうかです。
「腫瘍があります」と言われると、それだけでがんだと思ってしまいがちです。腫瘍には良性と悪性があり、悪性腫瘍がいわゆる「がん」です。この記事では、国立がん研究センターの情報などの一次資料から、良性と悪性の違い、「がん」と「癌」の言葉の区別、良性と悪性のあいだにある区分、見分け方と治療の違いを整理します。
この記事の内容
腫瘍とは何ですか?
体の細胞が、本来の調節を外れて増え続けてできたかたまりです。腫瘍には良性と悪性があります。
体の細胞は、遺伝子によって増えたり増えるのを止めたりする仕組みが調節されています。細胞が分裂するときの偶然や、喫煙、感染、化学物質、放射線などの影響で遺伝子に変化が起こると、細胞が無秩序に増え続けることがあります。そうしてできた細胞のかたまりが「腫瘍」です(国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」2026年)。
腫瘍のうち、まわりに広がったり、ほかの場所に移ったりするものが悪性腫瘍、そうでないものが良性腫瘍です。
良性腫瘍と悪性腫瘍は、何が違うのですか?
悪性腫瘍は、まわりの組織に染み込むように広がり(浸潤)、血管などを通って離れた場所に移って増えます(転移)。良性腫瘍は浸潤も転移もせず、ゆっくり大きくなります。
国立がん研究センターの説明をもとに並べると、次のようになります(がん情報サービス「がんという病気について」、同「良性腫瘍」用語集 2026年、同「悪性腫瘍」用語集 2026年)。
| 比べる点 | 良性腫瘍 | 悪性腫瘍(がん) |
| 増え方 | ゆっくり大きくなり、まわりを押しのける | 無秩序に増え続ける |
| まわりへの広がり(浸潤) | しない | する |
| 離れた場所への移動(転移) | しない | する |
| 命への影響 | 通常は命を脅かさない | 治療しないと全身に広がり、命に関わる |
| 治療 | 場所・大きさ・種類で決める。経過をみることもある | 多くの場合、治療が必要 |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」「良性腫瘍」「悪性腫瘍」(2026年)。
良性腫瘍の中には、一生症状を出さないものもあります。一方で、良性でも、できた場所や大きさによっては、まわりの臓器を圧迫するなどして治療が必要になることがあります。治療が必要かどうかは「良性か悪性か」だけでなく、場所・大きさ・種類で決まります(がん情報サービス「がんという病気について」)。
悪性腫瘍と「がん」「癌」は、同じ意味ですか?
ひらがなの「がん」は悪性腫瘍全体を指します。漢字の「癌」は、医学用語としては、悪性腫瘍のうち上皮という組織から生じるもの(癌腫)だけを指します。
悪性腫瘍は、生じる細胞の種類によって3つに分けられます(がん情報サービス「がんという病気について」)。
| 分類 | 生じる場所 | 例 |
| 癌(癌腫) | 体の表面や臓器の粘膜を覆う上皮細胞 | 肺癌、胃癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、肝細胞癌 |
| 肉腫 | 骨や筋肉、脂肪など、上皮以外の組織をつくる細胞 | 骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫 |
| 造血器腫瘍(血液のがん) | 血液や骨髄、リンパ節の白血球やリンパ球など | 白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫 |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」(2026年)。表の例は医学用語として区別するため、漢字の「癌」で表記。
つまり、肉腫や白血病は「がん」ですが、医学用語の「癌」ではありません。ただし、この2つの言葉は、ふだんは区別されずに使われることもあります。国立がん研究センターの一般向けの情報も、癌腫を含めてひらがなの「がん」で書いています。この記事でも、区別が必要な場面以外は「がん」と書きます。
上皮から生じた癌のうち、上皮と、その下の組織を隔てる膜(基底膜)を越えていないものを「上皮内がん」といいます。まだ浸潤していないので、転移することはまれです(がん情報サービス「がんという病気について」)。
良性と悪性のあいだは、あるのですか?
あります。腫瘍の性質を記録する国際的な分類では、良性と悪性のほかに、「良性か悪性か決められないもの(境界悪性など)」と「上皮内」の区分があります。
がん登録などで使われる国際疾病分類腫瘍学(ICD-O-3)では、腫瘍の組織の種類を表す番号の後ろに、性質(性状)を表す1けたの番号を付けます(大阪府立成人病センター調査部「院内がん登録研修会」2008年)。
| 性状の番号 | 意味 |
| /0 | 良性 |
| /1 | 良性か悪性か不詳。境界悪性、低悪性度もここに入る |
| /2 | 上皮内がん(浸潤していない) |
| /3 | 悪性(最初にできた場所) |
出典:大阪府立成人病センター調査部「院内がん登録研修会」(2008年)の ICD-O-3 の解説。転移先を表す /6、原発か転移か不明を表す /9 もあるが、腫瘍の登録では普通は使わないとされている。
実際の診療でも、良性と悪性のあいだに置かれる腫瘍があります。たとえば骨にできる「骨巨細胞腫」は、厳密には悪性ではないものの、世界保健機関(WHO)の分類では「中間悪性」とされています(国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」2022年)。
「良性」と「悪性」は2択ではない
診断の結果が「境界悪性」「中間悪性」「上皮内がん」だった場合、それは良性とも、ふつうの意味の悪性とも違う区分です。どちらかに当てはめて安心したり怖がったりする前に、その区分でどんな治療や経過観察が勧められているのかを、担当している医師に確かめてください。
4段階
腫瘍の性質は、国際的な分類では「良性」「良性か悪性か不詳(境界悪性など)」「上皮内」「悪性」の4段階で記録されます。良性と悪性の2つに分けきれない腫瘍があるためです。
出典:大阪府立成人病センター調査部「院内がん登録研修会」(2008年)、ICD-O-3
良性か悪性かは、どうやって決まるのですか?
最終的には、腫瘍の一部や全部を採って顕微鏡で調べる病理検査で、病理医が決めます。画像検査や血液検査は、その手がかりです。
骨の腫瘍を例にとると、まず年齢、症状が出た時期、場所を確かめ、血液検査とX線、CT、MRI、骨シンチグラフィ、PETなどの画像検査を行います。最後に生検で組織を採り、病理医が良性か悪性か、どの種類かを判断します(国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」2022年)。
細胞を調べる「細胞診」は、がんの疑いを示すことはできても、それだけでは確定できないことが多く、確定には組織を採る「組織診」が使われます。組織診では、免疫染色という方法で、どの臓器の細胞に近いかも調べます(国立がん研究センター希少がんセンター「原発不明がん」2026年)。
血液で測る腫瘍マーカーは、多くのがんでは診断の決め手にはなりません(国立がん研究センター希少がんセンター「原発不明がん」)。数値の読み方は腫瘍マーカーとは何かを説明した記事で扱っています。
良性と悪性で、治療はどう違いますか?
良性腫瘍は、場所や大きさによって経過をみるか、手術などで取り除きます。悪性腫瘍は、がんの種類と広がり(ステージ)に応じて、手術・放射線・薬物療法などを組み合わせます。
良性腫瘍は、症状がなく命に関わらない場所にあれば、経過をみることもあります。治療が必要な場合は手術で取ることが多く、取り切れば再発することは少ないとされています(がん情報サービス「がんという病気について」)。
悪性腫瘍は、放っておくと広がっていくため、多くの場合は治療が必要です(がん情報サービス「がんという病気について」)。治療の選び方は、がんの種類と、どこまで広がっているかで変わります。広がりの表し方はがんのステージはいくつまであるかを説明した記事で扱っています。
腫瘍の種類によっては、良性の腫瘍の一部ががんになることもあります。たとえば家族性大腸腺腫症では、大腸にできる多数のポリープ(腺腫)ががんになることがあります(がん情報サービス「遺伝性腫瘍」2026年)。良性と言われた腫瘍でも、定期的に診てもらうよう言われた場合は、その間隔を守ることが大切です。
「腫瘍」という言葉だけでは、良性か悪性か、どの段階の区分かはわかりません。説明を受けるときは、「病理検査の結果は出ていますか」「良性・悪性のどちらで、どの種類ですか」と、言葉を一つずつ確かめていけば、次に何をするかが見えてきます。
良性か悪性かを決める人を、僕はとても大切に考えています
がん治療で、病理医の存在は実は超大切です。病理医が「がん」と診断すれば、がん治療に進みます。「良性」と診断すれば、当然に経過観察になります。
僕が外科病理の修練をしていた頃から、乳がんの病理診断は、専門家でも意見が分かれることがありました。ですから、乳がんの病理のセカンドオピニオンは実は大切なのです。
監修者
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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良性か悪性かを最終的に決めるのは病理検査です。結果を待つ間が一番不安になる時間なので、何日かかるのか、何を調べているのかを先に知っておくと落ち着いて待てます。
病理検査の結果は何日で出る?生検と手術の違い、待つのが不安な人へ
生検と手術で採った組織の病理検査が、それぞれ何日くらいかかるのか、結果に何が書かれるのかを整理した記事です。
よくある質問
Q良性腫瘍と悪性腫瘍の違いは何ですか?
悪性腫瘍は、まわりの組織に染み込むように広がる浸潤と、離れた場所に移って増える転移を起こします。良性腫瘍は浸潤も転移もせず、ゆっくり大きくなり、通常は命を脅かしません。悪性腫瘍がいわゆる「がん」です。
Q腫瘍とがんは同じ意味ですか?
同じではありません。腫瘍には良性と悪性があり、がんは悪性腫瘍のことです。「腫瘍があります」と言われただけでは、がんかどうかはわかりません。
Q「がん」と「癌」の違いは何ですか?
ひらがなの「がん」は悪性腫瘍全体を指します。漢字の「癌」は、医学用語としては、上皮細胞から生じる悪性腫瘍(癌腫)だけを指します。肉腫や白血病は「がん」ですが「癌」ではありません。
Q良性腫瘍が悪性に変わることはありますか?
腫瘍の種類によってはあります。たとえば家族性大腸腺腫症では、大腸のポリープ(腺腫)ががんになることがあります。良性と言われても、定期的に診てもらうよう言われた場合は、その間隔を守ります。
Q良性か悪性かは何でわかりますか?
最終的には、組織を採って顕微鏡で調べる病理検査でわかります。画像検査や血液検査は手がかりで、腫瘍マーカーは多くのがんでは診断の決め手になりません。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんという病気について」(2026年6月17日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/knowledge/basic/index.html - 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「良性腫瘍」(2026年3月6日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/ryoseishuyo.html - 国立がん研究センター がん情報サービス 用語集「悪性腫瘍」(2026年3月6日更新・確認)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/akuseishuyo.html - 大阪府立成人病センター調査部「院内がん登録研修会 ―わが国に多いがん・比較的少ないがんの要点―」(2008年/2026年10月25日確認)
https://oici.jp/ocr/common/images/data/data/0802.pdf - 国立がん研究センター希少がんセンター「骨の肉腫」(ver.1.1、2022年3月)
https://pod.ncc.go.jp/jp/rcc/about/bone_sarcomas/no1honenosarcoma.pdf - 国立がん研究センター希少がんセンター「原発不明がん」(2026年3月23日更新・確認)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/rcc/about/primary_unknow_malignancies/index.html





