若年性大腸がんとは、一般に50歳未満で診断される大腸がんのことです。日本でも世界でも増えています。
2026年8月、日本人の大腸がんの44.8%に、腸内細菌が出す毒素でDNAが傷つけられた痕跡が見つかったという研究が報告されました。40歳以下で発症した人に限ると、その割合は約70%でした。
この記事では、その数字が何を数えたものなのか、どこまで言えてどこから先はまだ言えないのか、そして今の日本で受けられる検査は何かを整理します。
目次
若年性大腸がんとは、何歳からのがんですか?
国際的な研究では、50歳未満で診断された大腸がんを若年発症大腸がんと呼びます。50歳未満の大腸がんは1990年代から世界的に増え続けています(Nature Genetics 2026年)。

ただし年齢の区切りは、話している場面によって違います。今回話題になった研究が「若年」と呼んでいるのは、50歳未満ではなく40歳前後の層です。日本の公的な検診が始まるのも40歳からです。同じ「若い」でも指している範囲が違うので、最初に並べておきます。
| 場面 | 年齢の区切り |
|---|---|
| 国際的な研究での若年発症大腸がん | 50歳未満 |
| 2026年の日本人研究で「約70%」と報告された群 | 40歳以下 |
| 市区町村が行う対策型の大腸がん検診の対象 | 40歳以上 |
| 大腸がん検診ガイドラインが推奨する対象年齢 | 40〜74歳 |
年齢の区切りが数字を動かします。「若い人の7割」と聞いたときは、その記事が何歳で切っているかを先に見てください。
若い人の大腸がんは、本当に増えているのですか?
増えています。ただし、増えているのは若い層の中での話で、絶対数は今も高齢層に大きく偏っています。
日本の大腸がんは年間155,625例が診断され、がん全体の15.6%を占める最も多いがんです(国立がん研究センターがん対策研究所「大腸がんファクトシート2024」、2019年全国がん登録)。死亡数は年間53,088人で、がん死亡全体の13.8%、肺がんに次いで2番目です(同、2022年人口動態統計)。
この数は長く増え続けてきました。1975年には約1.8万人と推計されていたものが、2019年には155,625例になっています(同)。ただしファクトシートは、この増加の背景を人口の急速な高齢化と説明しています。高齢化の影響を除いた年齢調整罹患率で見ると、1975年から1994年にかけて増加したあと、1994年から2010年までは横ばいでした。2010年以降は、とくに女性で緩やかな増加傾向が見られます(同)。
「患者数が何倍になった」という言い方は、その大部分が人口の高齢化を映しています。若い人が急増した結果ではありません。
年齢階級別に見ると、大腸がんの罹患率は男女とも50歳代から80歳代前半にかけて大きく増加します(同)。20代や30代の大腸がんは、増えているとはいえ、この年齢層の中では今も多い病気ではありません。
一方で、日本の大腸がんの罹患率・死亡率は、国際的に見ても高い水準にあります(同、2022年推定値)。食生活の欧米化だけでは説明がつかないという指摘は、この点から出てきています。
若い人の大腸がんの原因は何ですか?
一つに決まっていません。分かっているのは、複数の異なる経路があるということです。
生活習慣については、日本人でも評価が出ています。喫煙と飲酒は大腸がんのリスクを上げることが「確実」、肥満と高身長によるリスク増加、および中等度から強度の身体活動によるリスク低下は「ほぼ確実」とされています(国立がん研究センターがん対策研究所「大腸がんファクトシート2024」)。
遺伝の関与もあります。生殖細胞系列に原因遺伝子の病的バリアントが確認される遺伝性の大腸がんは、大腸がん全体の約5%を占めます。代表的なものが家族性大腸腺腫症とリンチ症候群です(同)。血縁者に若くして大腸がんになった人がいる場合は、この可能性を主治医に伝えてください。
そしてもう一つ、2026年に新しい報告が加わりました。
腸内細菌の毒素が原因という報告は、何を調べたものですか?
がん細胞のゲノムに残った、傷跡のパターンを調べたものです。菌そのものを捕まえたわけではありません。

【最新の知見】2026年8月更新
東京大学医科学研究所と大阪大学大学院医学系研究科などの研究グループが、国立がん研究センター中央病院と大阪大学医学部附属病院の大腸がん患者200例について全ゲノム解析を行いました(Nature Genetics 2026年8月10日、doi:10.1038/s41588-026-02692-x)。
コリバクチンとは何ですか
pksと呼ばれる遺伝子群を持つ大腸菌などの腸内細菌が作る、遺伝毒性物質です。DNAに直接結合して鎖と鎖を橋渡しし、二本鎖切断や突然変異を引き起こします。
このときDNAに残る傷の並び方には、SBS88とID18という決まった型があります。2020年に報告されたもので、がんのゲノムにこの型が見つかれば、そのがんがコリバクチンの影響を受けて生じた可能性を推定できます(東京大学医科学研究所プレスリリース、2026年8月10日)。
何が見つかったのですか
高頻度変異型を除いた183例のうち82例、44.8%にSBS88またはID18が検出されました。40歳以下で発症した群では、この割合が約70%に上がっています。
傷はゲノムのどこかに偶然残っていたのではなく、APC、BRAF、TP53という大腸がんの発生や進展を左右する遺伝子にも生じていました。とくにAPCは、正常な粘膜が腺腫を経てがんになる過程の最初に異常が起こる遺伝子です。
さらに、この痕跡は1965年以降に生まれた人で多く見られました。世界的に若年発症大腸がんが増え始めた時期と重なります。
「40歳未満の7割」は、どこまで言える数字ですか?
方向としては確かですが、人数としては10人を数えた結果です。

論文で40歳以下として解析されたのは、183例中10人です。年齢群の内訳は、40歳以下が10人、41〜50歳が24人、51〜60歳が36人、61〜70歳が60人、71歳以上が53人でした(Nature Genetics 2026年、図4b)。1965年以降に生まれた群も、24人と12人の2つです。
若い人ほど痕跡が濃いという傾向そのものは、年齢を横断した統計検定で示されています。数えた人数が少ないことと、傾向が間違っていることは別です。ただ「7割」という言葉から100人単位を思い浮かべると、実際より確かなものとして受け取ることになります。
分母についても、2つ確認しておくことがあります。
44.8%の分母は、200例全部ではなく、高頻度変異型を除いた183例です。高頻度変異型の17例には、コリバクチンの痕跡は1例も見られませんでした。プレスリリースの見出しは「日本人大腸がんの約半数」ですが、原著が数えているのはこれより狭い範囲です。
もう一つ、この研究は家族性大腸腺腫症や遺伝性非ポリポーシス大腸がんなどの遺伝性大腸がん症候群と、炎症性腸疾患のある方を最初から除外しています。遺伝性のものを外したあとで残った大腸がんの中での割合、という読み方になります。
陽性かどうかの線引きも決めごとです。SBS88またはID18の寄与が5%以上あれば陽性、と定義されています。この5%という値は、コリバクチンの変異シグネチャーを最初に報告した2020年の研究以来使われてきたものです。
論文自身も限界を書いています。腫瘍検体の平均シークエンス深度は56倍で、近年の研究で使われる100倍超と比べると控えめだ、と述べられています。
コリバクチンを持っているかどうか、いま調べられますか?
調べられません。便を調べても、自分が曝露したかどうかは分かりませんでした。

この研究では便のメタゲノム解析も行われ、コリバクチンの合成に必要なclbP遺伝子が検出されたのは便検体の11.9%(16検体)でした。ところが、便のclbP量と、がんに残っていた変異シグネチャーの寄与のあいだに、相関は認められませんでした。
理由として論文が挙げているのは、2つが測っている時間が違うということです。変異シグネチャーは過去に受けた傷の累積の記録で、clbPの量は採便したその日の菌の量です。
腫瘍組織をqPCRで調べるとclbPは全例で検出され、がんから離れた正常な大腸粘膜12例でも全例で検出されました。いる/いないで切れる話ではない、ということです。
幼少期の話も、この文脈で見ておく必要があります。SBS88の寄与が高い症例では10歳未満の時期に変異が起きていたとする先行研究があり、今回もある1例について同じことが推定されました。ただし論文は、時期を正確に決めるには単細胞解析などのさらに精度の高い検討が必要だ、と続けています。
除菌で大腸がんを防げるかどうかは、まだ誰も確かめていません。胃がんにおけるピロリ菌のような話に将来なりうる、という期待の段階です。
では、いま何ができますか?
対象年齢になったら検診を受けること、そして症状があれば年齢に関係なく受診することです。
検診でできること
日本の対策型検診は1992年に導入され、40歳以上を対象に、年1回の便潜血検査免疫法2日法が行われています。「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン2024年度版」は、この方法を推奨グレードAとし、対象年齢は40〜74歳を推奨しています(国立がん研究センターがん対策研究所「大腸がんファクトシート2024」)。
全大腸内視鏡検査は、大腸がんの診断では最も精度が高く、前がん病変を予防的に切除できる検査です。ただし対策型検診としては、死亡率減少効果はあるものの証拠の信頼性が低く不利益も大きいとして、推奨グレードCとされています(同)。診療で行う検査と、無症状の人全員に配る検診とでは、評価の物差しが違います。
40歳未満は、この対策型検診の対象ではありません。職域検診では40歳未満に便潜血検査が実施されている事例もありますが、ガイドラインで推奨された運用ではないと指摘されています(同)。今回の研究で若い層の痕跡の多さが分かっても、その層に届く公的な仕組みは、現時点では用意されていません。
症状で気づけること
早期の大腸がんは、ほとんど無症状です。ある程度進行してから、血便、便通の変化、腹痛、腹部膨満感といった症状が出ることが多くなります。右側結腸のがんは、進行がんでも無症状のことがあり注意が必要です(同)。
血便は痔でも起こります。若い人ほど痔と考えて様子を見がちですが、検診の対象年齢に届いていない人にとっては、症状で受診することが唯一の入口になります。
見つかったあとの進行度は、壁深達度・リンパ節転移・遠隔転移をもとに0期からⅣ期に分類されます(大腸癌研究会「大腸癌取扱い規約第9版」2018年)。分類の考え方はがんのステージはいくつまであるかで説明しています。
生活習慣でできること
たばこを吸わない、飲酒をしない、適度な体重を保つ、運動する。2015年の日本人の大腸がん罹患について、こうした生活習慣の改善によって結腸がんの約31%、直腸がんの約25%が予防可能だったと推計されています(国立がん研究センターがん対策研究所「大腸がんファクトシート2024」)。
食事については、国際的には加工肉と赤肉を控え、全粒穀類・食物繊維・乳製品を摂ることが推奨されていますが、日本人を対象とした証拠はまだ限定的です(同)。
原因の一部が見えたことと、明日から手が増えることは、別の話です。今回分かったのは、日本人の大腸がんの少なくない部分が、幼い頃からの腸内細菌との付き合いの中ですでに始まっていたらしい、というところまでです。その菌を減らせば防げるのかどうかは、これから確かめられます。
よくある質問
若年性大腸がんは何歳から何歳までを指しますか?
国際的な研究では50歳未満です。ただし2026年の日本人研究が「約70%」と報告したのは40歳以下の群で、記事や研究によって区切りが違います。
大腸がんの原因が腸内細菌だと確定したのですか?
確定していません。200例の全ゲノム解析で、コリバクチンによる傷跡が高頻度変異型を除く183例中82例(44.8%)に見つかった、という段階です。大腸がんには複数の発症経路があることも同じ研究で示されています。
コリバクチンを作る大腸菌がいるか、検査で分かりますか?
現時点では分かりません。この研究では、便のclbP遺伝子の量と、がんに残った変異シグネチャーの寄与に相関が認められませんでした。
30代でも大腸がん検診を受けられますか?
市区町村が行う対策型の大腸がん検診は40歳以上が対象です。40歳未満で気になる症状がある場合は、検診ではなく医療機関の受診が入口になります。
大腸がんは生活習慣で予防できますか?
一部は予防できます。禁煙・節酒・適正体重・運動によって、2015年の日本人の結腸がんの約31%、直腸がんの約25%が予防可能だったと推計されています。
参考文献
- Shiba S, Yachida S, Mizutani S, et al. Prevalence and chronology of colibactin-associated mutational processes and their microbiome spectra in Japanese colorectal cancer. Nature Genetics. 2026. https://doi.org/10.1038/s41588-026-02692-x
- 東京大学医科学研究所 プレスリリース「日本人大腸がんの主要な原因は”腸内細菌”だった」2026年8月10日 https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00411.html
- 国立がん研究センターがん対策研究所「大腸がんファクトシート2024」 https://www.ncc.go.jp/jp/icc/crcfactsheet/index.html
- Díaz-Gay M, dos Santos W, Moody S, et al. Geographic and age variations in mutational processes in colorectal cancer. Nature. 2025;643:230-240. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09025-8
- 大腸癌研究会編「大腸癌取扱い規約 第9版」金原出版、2018年





