抗がん剤の吐き気は、ほとんどが治療から5日〜1週間ほどでおさまります。吐き気止めは、出てから飲むより先に使うのが基本です。
この記事では、抗がん剤の吐き気がいつ始まり、いつまで続くのかを、国立がん研究センターや米国国立がん研究所(NCI)の資料をもとに説明します。吐き気の3つの種類、薬による起こりやすさの違い、吐き気止めの種類と使い方、食事と暮らしの工夫、そして我慢せずに病院へ連絡したほうがよい目安をまとめました。
この記事の内容
抗がん剤の吐き気は、いつからいつまで続くのですか?
治療の直後から始まることも、1日以上たってから始まることもあり、ほとんどは治療から5日〜1週間ほどでおさまります。

国立がん研究センターのがん情報サービスは、抗がん剤による吐き気は治療の直後から起こる場合もあれば、1日以上たってから起こる場合もあるとしています。そして「ほとんどの症状は、薬物療法を行ってから5日~1週間程度でおさまります」と説明しています(がん情報サービス「吐き気・嘔吐」2024年)。
吐き気は、起こる時期によって3つに分けられます。
| 種類 | 起こる時期 | 特徴 |
| 急性 | 投与から24時間以内 | 治療の直後から起こることがある |
| 遅発性 | 投与から24時間より後 | 24〜48時間ごろから始まり、2〜5日ほど続く |
| 予期性 | 次の治療の前 | 前回の吐き気の記憶や、治療室のにおい・光景などがきっかけで起こる |
出典:NCI「Treatment-Related Nausea and Vomiting (PDQ)」2025年、国立がん研究センター東病院「吐き気・嘔吐について」2021年。
遅発性の吐き気が「2日目から5日目ごろ」に続くことは、国立がん研究センター東病院の薬剤部も説明しています(国立がん研究センター東病院「吐き気・嘔吐について」2021年)。治療の日は平気でも、家に帰ってから強くなることがあるのはこのためです。
期間は、薬の種類や量で変わります
5日〜1週間はあくまで目安です。どの薬を、どれだけの量で、どう組み合わせるかによって、吐き気の強さと長さは変わります。同じ薬でも、人によって出方が違います(がん情報サービス 2024年)。
どの抗がん剤だと、吐き気が出やすいのですか?
抗がん剤は、嘔吐の起こりやすさによって4つの段階に分けられています。
NCIの医療者向け資料(PDQ)は、抗がん剤による嘔吐の起こりやすさ(催吐性リスク)を次の4段階で示しています(NCI「Treatment-Related Nausea and Vomiting (PDQ)」2025年)。
| 催吐性リスク | 嘔吐が記録されている人の割合 |
| 高度 | 90%を超える |
| 中等度 | 30〜90% |
| 軽度 | 10〜30% |
| 最小度 | 10%未満 |
自分の治療がどの段階に当たるかは、担当医や薬剤師に聞けばわかります。吐き気止めの組み合わせは、この段階に合わせて決められます。日本癌治療学会の「制吐薬適正使用ガイドライン」(2023年10月改訂 第3版)も、高度・中等度・軽度・最小度の4段階に分けて予防の方法を示しています(Minds「制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版」)。
体質によっても、出やすさは違います
同じ抗がん剤でも、吐き気が出やすい人がいます。NCIの資料は、出やすさに関わる要因として次のものを挙げています(NCI PDQ 2025年)。
- 女性
- 50歳未満
- 乗り物酔いをしやすい
- 妊娠中のつわりや嘔吐の経験がある
逆に、長く多量の飲酒をしてきた人は、シスプラチンという抗がん剤による吐き気が少ないとされています(同)。治療前にこうした体質を担当医や薬剤師に伝えておくと、吐き気止めを選ぶ材料になります。
吐き気止めには、どんな薬があるのですか?
作用の違う吐き気止めを組み合わせて、抗がん剤の前から予防的に使います。
国立がん研究センター東病院の薬剤部は、主な吐き気止めを次のように説明しています(国立がん研究センター東病院 2021年)。
| 薬の種類 | 主な役割 |
| 5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロンなど) | 主に急性の吐き気を抑える |
| ステロイド(デキサメタゾン) | 主に遅発性の吐き気を抑える |
| NK1受容体拮抗薬(アプレピタントなど) | 吐き気が出やすい治療で追加する |
| オランザピン | 吐き気が出やすい治療で追加する |
| ドパミン受容体拮抗薬 | ほかの薬で抑えきれないときに加える |
| 抗不安薬 | 予期性の吐き気に使う |
NCIの患者向けページは、吐き気止めを抗がん剤の前に使うのは、吐き気はいったん起きてしまうと抑えにくいためだと説明しています。予期性の吐き気についても、治療の前に吐き気止めを使うことで防いだり軽くしたりできるとしています(NCI「Nausea and Vomiting and Cancer Treatment」2025年)。
吐き気止めは、治療の副作用を予防して和らげる「支持療法」のひとつです。吐き気以外の副作用への対策も含めた全体像は、支持療法とは何かを説明した記事で扱っています。
家で飲む吐き気止めは、どう使えばよいですか?
処方された時間と量を守ります。吐き気が強くなるまで待たないことが大切です。がん情報サービスは、吐き気止めは症状が続く可能性がある期間に合わせて使い、効かないときは量やタイミングの調整、別の薬への変更を医療者と相談するよう勧めています(がん情報サービス 2024年)。
治療を始める前に、次の点を確かめておくと、家に帰ってから迷わずにすみます(がん情報サービス 2024年)。
- 吐き気が出やすい時期はいつか
- 家で飲む吐き気止めは何を、いつ、何日間飲むか
- 追加で飲んでよい頓服の薬はあるか
- 吐き気が強くて飲み薬が飲めないとき、どうするか
- 夜間や休日の連絡先はどこか
吐き気止めにも副作用があります
オランザピンを加えた試験では、眠気が増え、治療2日目に強い眠気が出た人は5%でした(Navari RM, et al. N Engl J Med 2016年)。吐き気止めを飲んで気になる症状があるときも、担当医や薬剤師に伝えます。
吐き気止めを使えば、吐き気はなくなるのですか?
吐くことはかなり防げるようになりましたが、吐き気そのものは残ることがあります。
吐き気止めの効果を確かめる試験では、「完全奏効」という物差しがよく使われます。これは、吐かなかったこと、そして追加の吐き気止めを使わなかったことを指します。吐き気を感じたかどうかは、この物差しには入っていません。
2016年に発表された米国の試験は、この差をよく示しています(Navari RM, et al. N Engl J Med 2016年)。
- 対象:吐き気が出やすい抗がん剤(シスプラチン、またはドキソルビシンとシクロホスファミドの組み合わせ)を初めて受ける380人
- 全員に3種類の吐き気止め(5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾン)を使用
- そのうえでオランザピンを加える群と、偽薬を加える群に分けて比較
- 吐き気の有無は、患者自身が目盛り(視覚的評価尺度)で答え、0と答えた場合だけを「吐き気なし」とした
| 投与から120時間(5日間)を通して | オランザピンを加えた群 | 偽薬を加えた群 |
| 完全奏効(吐かず、追加の薬も使わなかった) | 64% | 41% |
| 吐き気なし | 37% | 22% |
出典:Navari RM, et al. N Engl J Med. 2016;375(2):134-142。
4種類の吐き気止めを使った群でも、5日間を通して吐かなかった人は64%いた一方、吐き気をまったく感じなかった人は37%でした。期間別に見ると、24時間以内の「吐き気なし」は74%、24〜120時間では42%で、遅発性の時期のほうが吐き気は残りやすくなっていました(同)。
「吐いていないのに気持ちが悪い」という状態は、珍しいことではありません。そして吐き気の強さは、本人にしかわかりません。試験でも、本人の答えでしか測れないものです。
食事は、どう工夫すればよいですか?
無理に食べず、においの少ない冷たいものを、少しずつ何回かに分けて食べます。
がん情報サービスは、どうしても食べられないときは無理に食べる必要はないとしています。食べようとすることで、かえって吐き気が強くなることがあるからです(がん情報サービス 2024年)。
がん情報サービス、国立がん研究センター東病院、NCIの資料に共通する工夫は次のとおりです。
| 工夫 | 具体例 |
| 少しずつ何回かに分ける | 1日3回にこだわらず、少量を5〜6回に分ける(NCI) |
| においを抑える | 温かい料理は冷ましてから食べる。においの強い料理や化粧品・芳香剤を遠ざけ、部屋の換気をする |
| 食べやすいものを選ぶ | ゼリーやヨーグルトなど冷たくてのどごしのよいもの。揚げ物や脂っこいもの、においの強いものは控える |
| 水分をこまめにとる | 食事中より食間に少しずつ飲む。吐いて水分が失われたときは、ミネラルを含むスポーツドリンクなど(東病院) |
| 治療の日は軽めに | 治療の前は消化のよい軽い食事にし、直前の数時間は食べすぎない(東病院) |
出典:がん情報サービス 2024年、国立がん研究センター東病院 2021年、NCI 2025年。
食事全体の量の目安や、副作用ごとの食べ方は、この記事の最後に紹介する食事の記事で扱っています。
食事のほかに、自分でできることはありますか?
服装や姿勢、口の中を清潔に保つこと、気分転換が役に立つことがあります。
- おなかを締めつけない、ゆったりした服を着る(がん情報サービス 2024年)
- 横になるときは上半身を起こすか、横向きになる(同)
- 食後しばらくは横にならずに過ごす(東病院 2021年)
- うがいや歯みがきで口の中を清潔にする。歯みがきで吐き気が出るときは、冷たい水やレモン水で口をすすぐ(がん情報サービス 2024年)
- 音楽やテレビで気をまぎらわす(同)
NCIは、深呼吸、音楽、瞑想などのリラクセーションや、手首のツボの指圧(薬と併用する場合)が吐き気を和らげることがあるとしています。サプリメントや補完代替療法を試す前には、治療の効果を弱めるものがあるため、担当医に確認するよう求めています(NCI 2025年)。
どんなときに、病院へ連絡すればよいですか?
吐き気止めを使っても強い吐き気や嘔吐が続き、水分がとれないときは、我慢せずにすぐ連絡します。
がん情報サービスは、吐き気止めを使っても強い吐き気・嘔吐が続き、水分がとれないような場合は、すみやかに医療機関に連絡し、受診が必要かどうかの判断を仰ぐよう求めています(がん情報サービス 2024年)。嘔吐が続くと、脱水や体の塩分のバランスの乱れ、体重の減少につながるためです(NCI 2025年)。
次のようなときは、治療を受けている病院に連絡します。
- 吐き気止めを使っても、強い吐き気や嘔吐が続く
- 水分がとれない
- 吐き気が強くて、飲み薬の吐き気止めが飲めない(東病院 2021年)
- めまい、ふらつき、ぼんやりするなど、脱水が疑われる様子がある(NCI 2025年)
抗がん剤以外の原因もあります
がん情報サービスは、吐き気の原因として、抗がん剤のほかに次のものを挙げています(がん情報サービス 2024年)。
- 放射線治療(治療の2〜3時間後から起こることがある)
- 医療用麻薬(使い始めや量を増やしたときに起こり、通常は数日〜1週間で軽くなる)
- 便秘や腸閉塞
- がんや腹水による消化管の圧迫、脳のがん
- 体の塩分(電解質)のバランスの乱れや低血糖
- 不安や過去のつらい経験
吐き気が、抗がん剤の吐き気の時期とずれて始まったときや、腹痛や便が出ないといった症状を伴うときは、抗がん剤以外の原因かもしれません。そのことも含めて伝えます。放射線治療の吐き気は放射線治療の回数と副作用の記事、医療用麻薬の使い方はがんの痛みの治療と医療用麻薬の記事で説明しています。
家族は、何をすればよいですか?
においを減らし、食べることを無理に勧めず、つらさを医療者に伝える手伝いをします。
- 台所のにおいが届かないように換気する。においの強い料理は本人のいない場所で作る
- 「少しでも食べて」と勧めすぎない。食べられないときは無理に食べなくてよい(がん情報サービス 2024年)
- 背中をやさしくさする、落ち着いた声で話しかける。吐き気に伴う不安を和らげることがある(同)
- 吐き気の出た日と時間、吐いた回数、飲めた水分を書き留めておく。次の診察で吐き気止めを調整する材料になる
「吐かなかった」と「楽だった」は同じではない
吐き気止めの試験で使われる「完全奏効」は、吐かなかったことと、追加の薬を使わなかったことしか見ていません。吐き気をどれだけ感じたかは、別に測らなければわかりません。吐き気は、診察室では見えない症状です。「吐いていないから大丈夫」と自分で判断せず、気持ちの悪さも医療者に伝えてください。
37%
吐き気が出やすい抗がん剤で、4種類の吐き気止めを使った人のうち、投与から5日間を通して吐き気をまったく感じなかった人の割合。同じ人たちで、吐かずに済んだ人(完全奏効)は64%でした。
出典:Navari RM, et al. N Engl J Med. 2016;375(2):134-142
吐き気が少ないことを「効いていないのでは」と心配する人もいます。副作用の強さと効き目の関係は、抗がん剤の副作用が出ないと効いていないのかを説明した記事にまとめています。
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Q抗がん剤の吐き気は、何日目がいちばんつらいですか?
人と薬によって違います。投与から24時間以内に起こる急性の吐き気と、24〜48時間ごろから始まり2〜5日ほど続く遅発性の吐き気があります。治療の日より、家に帰ってからの数日のほうがつらいという人もいます。ほとんどは治療から5日〜1週間ほどでおさまります(がん情報サービス 2024年)。
Q吐き気止めは、吐き気がないときも飲むのですか?
処方どおりに飲みます。吐き気止めは、吐き気が出てから飲むより、先に使って予防するのが基本です。吐き気はいったん起きると抑えにくいためです(NCI 2025年)。飲み方に迷ったときは、薬剤師に確認してください。
Q吐いてしまって、薬が飲めません。どうすればよいですか?
治療を受けている病院に連絡してください。国立がん研究センター東病院は、吐き気が強く飲み薬が難しいときは医療スタッフに相談するよう案内しています。水分もとれない状態が続くときは、受診が必要かどうか判断してもらいます。
Q2回目の抗がん剤の前から気持ちが悪くなります。なぜですか?
予期性の吐き気と考えられます。前回の吐き気の記憶や、治療室のにおい・光景などがきっかけになって、治療の前から起こります。治療前に吐き気止めを使うことで防いだり軽くしたりでき、不安が強いときは抗不安薬が使われることもあります。
Q吐き気がない抗がん剤は、効いていないのですか?
吐き気の出やすさは、主に抗がん剤の種類と量、組み合わせによって変わり、吐き気止めの効き方や出方にも個人差があります(がん情報サービス 2024年)。副作用の出方と効き目の関係は、本文の最後で紹介した記事で説明しています。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「吐き気・嘔吐」2024年3月更新
https://ganjoho.jp/public/support/condition/nausea/index.html - 国立がん研究センター東病院 薬剤部「吐き気・嘔吐について」2021年5月更新
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/pharmacy/kouganzai/supportivecare_antiemetic.html - National Cancer Institute. Treatment-Related Nausea and Vomiting (PDQ) – Health Professional Version. 2025年3月更新
https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/nausea/nausea-hp-pdq - National Cancer Institute. Nausea and Vomiting and Cancer Treatment. 2025年5月更新
https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/nausea - Navari RM, Qin R, Ruddy KJ, et al. Olanzapine for the Prevention of Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting. N Engl J Med. 2016;375(2):134-142.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27410922/ - 日本癌治療学会 編「制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版」金原出版(Minds掲載ページ)
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00828/





