生存曲線の平らな部分に乗る人はいます。
ただし、平らになったことは、治ったという意味ではありません。
テイルプラトーは、免疫療法の話でよく出てくる言葉です。英語の「尾(tail)」と「高原(plateau)」を合わせた言い方です。
この記事では、平らな部分に何人くらい乗るのか、そして、その数字をどこまで信じてよいのかを見ていきます。
この記事の内容
目次
テイルプラトーとは、何のことか?
生存曲線の後半が、横ばいに近づく部分のことです。

生存曲線は、時間がたつにつれて、生きている人の割合がどう変わるかを表した図です。治療の効果を比べるときに使います。
線が下がり続けるなら、時間とともに亡くなる人が出ているという意味です。線が平らなら、その期間に亡くなった人がほとんどいないという意味になります。
かつて、転移した悪性黒色腫では、線は早い時期から下がり続けていました。比べる相手の治療を受けた人の生存期間の中央値は、6.4か月でした(医学誌NEJM、2010年)。
平らな部分には、どれくらいの人が乗るのか?
イピリムマブでは、約2割でした。
最初にテイルプラトーを示したのは、CTLA-4阻害薬イピリムマブのデータです。
12の臨床試験で治療を受けた1,861人をまとめた解析では、3年目あたりから生存曲線が平らになりました。平らな部分の割合は約21%で、最長9.9年の追跡まで保たれていました(医学誌JCO、2015年)。
残りの約8割の人は、3年より前に亡くなっています。平らな部分の数字は、全員が長生きしたという意味ではありません。
新しい薬では、どうなっているのか?
5年後に生きている人の割合は、メラノーマで44〜52%、肺がんで31.9%です。
メラノーマの試験では、ニボルマブとイピリムマブを併用した人の5年生存率が52%、ニボルマブだけの人が44%でした。イピリムマブだけの人は26%です(医学誌NEJM、2019年)。
肺がん(PD-L1が多い非小細胞肺がん)の試験では、ペムブロリズマブを使った人の5年生存率が31.9%でした。抗がん剤を使った人は16.3%です(医学誌JCO、2021年)。
これらは5年の時点で生きている人の割合で、平らな部分の割合とは別の数字です。ただ、どちらも「一部の人が長く生きている」ことを示しています。
抗がん剤では、平らな部分はできないのか?
まったくできないわけではありません。ただ、割合が違います。
肺がんの試験では、抗がん剤を使った人の16.3%が5年後に生きていました(医学誌JCO、2021年)。ペムブロリズマブを使った人は31.9%です。
つまり、長く生きる人は抗がん剤でもいます。免疫療法では、その割合が大きくなったということです。
「免疫療法だけが長期生存をもたらす」という言い方は、データが示している範囲を超えます。
薬をやめた後も、続くのか?
続いている人がいます。
メラノーマの試験を6年半追った報告があります。生存していた人のうち、治療を受けていなかった人の割合は、併用で77%、ニボルマブ単独で69%でした。イピリムマブ単独では43%です(医学誌JCO、2022年)。
治療をやめた人の、次の治療までの期間の中央値は、併用で27.6か月でした。
この点は、抗がん剤を続けながら過ごす治療とは違うところです。ただし、やめられるかどうかは担当医が状態を見て判断します。
奏効率とは、何が違うのか?
奏効率は「縮んだかどうか」、テイルプラトーは「その後どれだけ生きたか」の話です。
腫瘍が縮んでも、長く生きられるとは限りません。逆に、大きく縮まなくても長く生きる人がいます。
肺がんの試験では、腫瘍の大きさが変わらなかった人でも、生存期間が延びていました(医学誌JCO、2021年)。
言葉の違いは、奏効率とは?生存率との違いで説明しています。
平らになったら、治ったと言えるのか?
言えません。データからわかるのは、その期間に亡くなる人が少なかったということだけです。
理由は3つあります。
- 平らな部分を示した解析は、複数の試験をまとめたものです。同じ雑誌の論評は、この方法では対照群のデータが失われると指摘しています。薬の上乗せ分を切り分けられない、という意味です(医学誌JCO、2015年)
- 追跡できている期間には限りがあります。イピリムマブの解析で最も長い追跡は9.9年です。その先はわかりません
- 免疫療法の副作用は、治療が終わってから数週間〜数か月後に起こることもあります(がん情報サービス、2025年)
「平らになった」は、長く生きている人がいるという事実を指します。それ以上の意味は、今のデータからは言えません。
自分が平らな部分に乗るかどうか、先に分かるのか?
今のところ、確実に見分ける方法はありません。
目印のひとつがPD-L1です。メラノーマの試験では、PD-L1が5%以上の人の5年生存率が57%(併用)と51%(ニボルマブ単独)でした。
では5%未満の人はどうだったか。51%と43%です(医学誌NEJM、2019年)。差はありますが、目印で分かれてしまうほどの差ではありません。
京都大学がん免疫総合研究センターも、がんに対する免疫の反応は個人差が非常に大きいとしています。その仕組みの全体は、まだ解明されていません。
なぜ、免疫療法では平らな部分ができるのか?
効果が長く続く人がいるからです。仕組みのすべては、まだわかっていません。
免疫チェックポイント阻害薬では、治療を続けるうちに、腫瘍が完全に見えなくなる人の割合が増えていきました。最初の解析のときより、5年後の解析のほうが高くなっています(医学誌NEJM、2019年)。
効果がゆっくり現れ、そのまま続く人がいる。これが、曲線の後半が平らに見える理由です。
一方で、なぜ一部の人だけで長く続くのかは、まだ説明しきれていません。
どのがんでも、同じように起きるのか?
同じではありません。がんの種類と薬によって、数字は大きく変わります。
この記事で挙げた5年生存率も、メラノーマで44〜52%、肺がんで31.9%と開きがあります。
そもそも、免疫チェックポイント阻害薬が保険で使えるがんは、薬ごとに決まっています。効果が証明された免疫療法は、まだ一部です(がん情報サービス、2025年)。
この数字を、どう受け取ればいいのか?
平らな部分の割合と、自分がそこに入るかどうかは、別の話です。
割合は、同じ治療を受けた集団を後から見た数字です。目の前の一人がどうなるかを言い当てるものではありません。
担当医と話すときは、次のことを確かめてみてください。
- 自分のがんと薬について、何年分の長期データがあるか
- その治療で、長く生きている人がどれくらいの割合か
- 効かなかった場合に、次にどんな選択肢があるか
限界:ここから先は、まだわかっていません
- 平らな部分のデータは、複数の試験をまとめた解析から来ています。対照群の長期データはありません
- 追跡された期間は、長いもので10年前後です
- 誰が平らな部分に入るかを、事前に見分ける方法はありません
この記事の数字
- 約21%:イピリムマブ1,861人の解析で、平らな部分に乗った割合(3年目から、2015年)
- 9.9年:同じ解析で最も長かった追跡期間
- 52%と44%と26%:メラノーマの5年生存率(併用・ニボルマブ単独・イピリムマブ単独、2019年)
- 31.9%と16.3%:肺がんの5年生存率(ペムブロリズマブ・抗がん剤、2021年)
僕は、この数字を診察室でこう話しています
免疫チェックポイント阻害剤は、ザックリ言うと、1/3に著効、1/3はちょっと有効、1/3は無効です。
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
よくある質問
テイルプラトーに乗れば、もう再発しないのですか?
そこまでは言えません。データから言えるのは、追跡できた期間に亡くなる人が少なかった、ということだけです。イピリムマブの解析で最も長い追跡は9.9年でした。
免疫療法なら、どれでも平らな部分ができるのですか?
いいえ。この記事の数字は、保険で使える免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験のものです。自由診療で行われる免疫療法について、国立がん研究センターは効果が証明されていないとしています。
5年生存率と、平らな部分の割合は同じものですか?
違います。5年生存率は5年の時点で生きている人の割合です。平らな部分は、曲線が横ばいになった後の高さを指します。
参考文献
- Schadendorf D, et al. Pooled Analysis of Long-Term Survival Data From Phase II and Phase III Trials of Ipilimumab in Unresectable or Metastatic Melanoma. J Clin Oncol. 2015;33(17):1889-1894.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25667295/ - Sullivan RJ, Flaherty KT. Lessons Learned From the Ipilimumab Pooled Analysis. J Clin Oncol. 2015;33(17):1865-1866.
- Larkin J, et al. Five-Year Survival with Combined Nivolumab and Ipilimumab in Advanced Melanoma. N Engl J Med. 2019;381(16):1535-1546.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31562797/ - Wolchok JD, et al. Long-Term Outcomes With Nivolumab Plus Ipilimumab or Nivolumab Alone Versus Ipilimumab in Patients With Advanced Melanoma. J Clin Oncol. 2022;40(2):127-137.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8718224/ - Reck M, et al. Five-Year Outcomes With Pembrolizumab Versus Chemotherapy for Metastatic NSCLC With PD-L1 TPS ≥ 50%. J Clin Oncol. 2021;39(21):2339-2349.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8280089/ - 国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法 もっと詳しく」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html





