前立腺がんステージ4の5年生存率は、数え方によって51.1%にも60.1%にもなります。この差を読むことが、骨転移があるときの治療を理解する入口になります。
この記事の内容
前立腺がんステージ4とは、どんな状態ですか?
前立腺がんステージ4(IV期)は、骨盤内のリンパ節(所属リンパ節)に転移があるか、骨など離れた場所に転移(遠隔転移)がある状態です。
前立腺癌取扱い規約第5版(2022年)による病期分類では、IV期は次のどちらかに当たる場合です(がん情報サービス 前立腺がん)。
- 所属リンパ節に転移があり(N1)、遠隔転移がない(M0)
- 原発のがんやリンパ節の状態に関係なく、遠隔転移がある(M1)
遠隔転移(M1)はさらに3つに分かれます。M1aは所属リンパ節より遠いリンパ節への転移、M1bは骨転移、M1cはリンパ節と骨以外(肺や肝臓など)への転移です(がん情報サービス「前立腺がん 治療」、2024年7月30日更新)。
つまり同じIV期でも、リンパ節だけに広がった人から、肝臓に転移した人までが含まれます。この幅が、余命の数字を読むときの最初の注意点です。
ステージの数え方そのものはがんのステージはいくつまであるかで解説しています。
前立腺がんステージ4の生存率は何%ですか?
2014〜2015年に診断された前立腺がんIV期の5年生存率は、実測生存率で51.1%、ネット・サバイバルで60.1%でした。
出典は国立がん研究センターの院内がん登録生存率集計です(2023年3月公表、院内がん登録生存率最新集計値)。全国のがん診療連携拠点病院などで診断・治療を受けた人のデータです。
| 病期 | 症例数 | 5年 実測生存率 | 5年 ネット・サバイバル | 10年 実測生存率 | 10年 ネット・サバイバル |
| I期 | 30,217 | 89.6% | 100.0% | 73.6% | 93.8% |
| II期 | 22,950 | 91.1% | 100.0% | 76.7% | 95.1% |
| III期 | 11,917 | 86.4% | 98.5% | 68.5% | 86.2% |
| IV期 | 11,649 | 51.1% | 60.1% | 27.9% | 35.9% |
| 全体 | 78,332 | 83.3% | 95.1% | 66.6% | 84.0% |
出典:国立がん研究センター 院内がん登録生存率最新集計値。5年は2014〜2015年診断(2023年3月公表)、10年は2012年診断(2025年3月公表)。症例数は5年生存率の集計対象。10年生存率のIV期は4,721例
実測生存率は、がん以外の原因による死亡も含めて数えた割合です。ネット・サバイバルは、がんだけが死因となる状況を仮定して計算した割合です。今回の集計から、それまでの相対生存率に代えて、国際標準のネット・サバイバルが使われています(院内がん登録 2014-2015年5年生存率集計 報告書)。
集計に使われたステージは、UICC TNM分類第7版に準拠しています(同報告書)。手術をした人では術後の病理学的ステージを、それがない人では治療前のステージを使っています。
部位ごとの数字の並べ方や、5年と10年の違いはがんの生存率の記事にまとめています。
なぜ実測生存率とネット・サバイバルの差が大きいのですか?
前立腺がんIV期と診断された人の中で、前立腺がん以外の原因で亡くなる人の割合が大きいためです。
IV期の5年で、実測生存率とネット・サバイバルの差は9.0ポイントあります。10年では8.0ポイントです。同じ集計の乳がんIV期では、この差は5年で1.2ポイントにとどまります。
差が大きいということは、IV期と診断された人の中にも、前立腺がん以外の原因で亡くなる人が一定数いるということです。前立腺がんの進み方だけでなく、本人の年齢やがん以外の健康状態も、余命を考えるうえで大きな意味を持ちます。
I期・II期のネット・サバイバルが100.0%になるのも同じ理由です。がんで亡くなる人がほとんどいないため、がんだけを死因とした計算では100%に達します。
8.0
前立腺がんIV期の10年生存率で、実測生存率(27.9%)とネット・サバイバル(35.9%)の差(ポイント)。
この差の分は、前立腺がん以外の原因による死亡と考えられます。
出典:国立がん研究センター 院内がん登録生存率最新集計値(2012年診断、2025年3月公表)
前立腺がんステージ4の中でも、余命に差はありますか?
あります。リンパ節だけの転移か、骨や内臓まで転移しているかで、生存率は大きく違います。
米国のSEERデータ(2004〜2014年診断)を、新しい分類(AJCC第8版)で集計した研究があります。5年がん特異的生存率は、次のとおりでした(PLoS ONE、2017年)。
| 転移の広がり | 5年がん特異的生存率 |
| リンパ節のみ(N1・M0、第8版のIVA期) | 72% |
| 遠くのリンパ節(M1a) | 54% |
| 骨(M1b) | 43% |
| リンパ節・骨以外(M1c) | 30% |
出典:Abdel-Rahman O. PLoS ONE. 2017. 米国SEER-18、2004〜2014年診断。がん特異的生存率は、前立腺がんによる死亡だけを数えた生存率
この研究は臨床病期による集計で、どんな治療を受けたかの情報を含みません。日本の数字ではないため、目安として読む必要があります。
分類の版が違うと、同じ人でもステージが変わります
日本の院内がん登録の集計はUICC第7版に準拠しています。第7版では、前立腺の外の周囲臓器に広がりリンパ節・遠隔転移がない状態(T4・N0・M0)もIV期でした。第8版ではこの状態はIIIB期に移り、IV期はリンパ節転移(IVA)と遠隔転移(IVB)だけになりました(PLoS ONE、2017年)。いま新しく診断される人の病期と、表の病期は同じ定義とは限りません。
臨床試験では、転移の量で分けることもあります。CHAARTED試験は、内臓転移があるか、脊椎・骨盤以外を含む4か所以上の骨転移があるものを高腫瘍量と定義しました(Journal of Clinical Oncology、2018年)。この区分は、ホルモン療法に薬を上乗せするかを検討した臨床試験で使われてきました。
ステージ4の治療は、どう始まりますか?
男性ホルモン(アンドロゲン)の働きを抑えるホルモン療法(内分泌療法)から始めるのが基本で、近年は初回から薬を上乗せすることが増えています。
ホルモン療法の基本は、LH-RHアゴニストまたはLH-RHアンタゴニストを使うアンドロゲン遮断療法です(がん情報サービス 前立腺がん 治療、2024年7月30日更新)。ホルモン療法がまだ効く状態を「去勢感受性」と呼びます。
新規ホルモン薬は、初発の転移性去勢感受性がんにも有効性が認められ、初回治療から使うこともあります。細胞障害性抗がん薬も、近年は初発の転移性去勢感受性がんに使うことがあります(同ページ)。
| 臨床試験(発表年) | 対象 | 比べた治療 | 全生存期間の中央値 |
| LATITUDE(2019年) | 新たに診断された高リスクの転移性去勢感受性がん1,199例 | アビラテロン+プレドニゾン+ADT と プラセボ+ADT | 53.3か月 と 36.5か月(ハザード比0.66) |
| CHAARTED(2018年) | 転移性ホルモン感受性がん790例 | ADT+ドセタキセル と ADT単独 | 57.6か月 と 47.2か月(ハザード比0.72)。高腫瘍量で51.2か月 と 34.4か月。低腫瘍量では差なし(ハザード比1.04) |
| ARASENS(2022年) | 転移性ホルモン感受性がん1,306例 | ダロルタミド+ADT+ドセタキセル と プラセボ+ADT+ドセタキセル | 死亡リスクが32.5%低下(ハザード比0.68) |
出典:各試験の論文抄録(PubMed)。ADT=アンドロゲン遮断療法
CHAARTED試験では、ドセタキセルの上乗せで生存期間が延びたのは高腫瘍量の人で、低腫瘍量の人では差が見られませんでした。転移の量によって、上乗せの意味が変わることを示した結果です。
ホルモン療法の副作用には、ほてり・急な発汗、性機能の低下、乳房の症状、骨密度の低下と骨折リスクの増加、疲労感があります(がん情報サービス)。詳しくはホルモン療法の副作用の記事にまとめています。
前立腺そのものへの治療は加えるのですか?
新たに診断された転移のある前立腺がん2,061例で、標準治療に前立腺への放射線治療を加えても、全体では全生存期間は延びませんでした(ハザード比0.92、STAMPEDE試験、Lancet、2018年)。この試験は、効果は転移の少ない人で最も大きいという仮説のもとに、転移の量による解析も事前に計画していました。
ホルモン療法が効かなくなったら、どうなりますか?
ホルモン療法の効果が弱くなった状態を去勢抵抗性前立腺がんと呼び、新規ホルモン薬や抗がん薬などに切り替えます。
去勢抵抗性になったあとは、治療歴に応じて、新規ホルモン薬、細胞障害性抗がん薬などを単独または組み合わせて使います(がん情報サービス「前立腺がん 治療」)。
BRCA1、BRCA2などの遺伝子変異に基づいて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使うこともあります(同ページ)。そのため、どこかの時点で遺伝子の検査を受けるかどうかが話題になります。
去勢抵抗性のあとの見通しは、この記事の表には入っていません
上の臨床試験の数字は、ホルモン療法を始める時点の比較です。去勢抵抗性になったあとの生存期間は、それまでに使った薬によって大きく変わり、一つの数字では示せません。
分子標的薬の仕組みと検査は分子標的薬とはで解説しています。
骨転移があるときは、どんな治療をしますか?
骨転移には、骨を守る薬、痛みへの鎮痛薬と放射線治療、条件が合えば放射性医薬品による治療を組み合わせます。
がん情報サービス(2024年7月30日更新)は、骨転移の治療を次のように説明しています。
- 骨転移の進行を抑える薬(骨修飾薬)を使うことがある
- 痛みには鎮痛薬を使い、強い場合は医療用麻薬も使う
- 痛みが一部に限られる場合は外照射療法(放射線治療)が効果的。骨折を防ぐ目的でも行う
- ホルモン療法が効きにくく、病巣が骨転移だけの場合は、塩化ラジウム223による内用療法を行うこともある
塩化ラジウム223は、骨転移に集まってアルファ線を出す薬です。骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん921例の臨床試験で、全生存期間の中央値は14.9か月と11.3か月でした(ハザード比0.70、ALSYMPCA試験、NEJM、2013年)。
骨転移では、腰痛などの痛みが出ることがあります(がん情報サービス)。
骨転移の痛みと、急いで受診すべき症状は骨転移の痛みの記事にまとめています。
主治医には、何を確かめればよいですか?
転移の場所と量、いまホルモン療法が効いている状態か、そして年齢と持病を踏まえた見通しを確かめます。
- 転移はリンパ節だけか、骨か、内臓か(M1a・M1b・M1cのどれか)
- 高腫瘍量か低腫瘍量か
- 初回治療でホルモン療法に何を上乗せするか、しない場合はその理由
- PSAの値をどのくらいの間隔で測り、どうなったら治療を変えるか
- 遺伝子検査を受ける時期
- 骨を守る薬(骨修飾薬)を使うか、使う場合に歯科で気をつけること
前立腺がんIV期では、がん以外の病気が余命に影響する割合が大きいことは前に書いたとおりです。持病の治療もあわせて主治医と話しておくと、数字を自分に当てはめやすくなります。
痛みやつらさを和らげる治療は、病気のどの時期でも受けられます。緩和ケアはいつから受けられるかで詳しく解説しています。
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Q前立腺がんステージ4で10年生きる人はいますか?
います。2012年に診断されたIV期4,721例の10年生存率は、実測生存率27.9%、ネット・サバイバル35.9%でした(国立がん研究センター 院内がん登録、2025年3月公表)。2012年診断の数字なので、その後に初回治療から使えるようになった薬の効果は反映されていません。
Q前立腺がんステージ4で骨転移があると余命はどのくらいですか?
骨転移だけに絞った日本の公的な生存率は公表されていません。米国のデータ(2004〜2014年診断)では、骨転移がある段階(M1b)の5年がん特異的生存率は43%でした(PLoS ONE、2017年)。治療法の情報を含まない集計のため、目安にとどまります。
Q前立腺がんステージ4で、前立腺そのものを治療することはありますか?
転移がある前立腺がんの治療は、ホルモン療法を中心とした薬物療法が基本です。新たに診断された転移のある前立腺がん2,061例で、前立腺への放射線治療を加えても、全体では全生存期間は延びませんでした(Lancet、2018年)。
Q前立腺がんステージ4の生存率が、数え方で51.1%と60.1%に分かれるのはなぜですか?
がん以外の原因で亡くなる人の割合が大きいためです。そのため、がんだけを死因とした計算のネット・サバイバル(5年60.1%)は、全死亡を数える実測生存率(5年51.1%)より高くなります(2014〜2015年診断、2023年3月公表)。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「院内がん登録生存率最新集計値」(5年:2014〜2015年診断・2023年3月公表/10年:2012年診断・2025年3月公表)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/latest.html - 国立がん研究センター「院内がん登録 2014-2015年5年生存率集計 報告書」(2023年3月)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/hosp_c_reg_surv/pdf/hosp_c_reg_surv_2014-2015.pdf - 国立がん研究センター がん情報サービス「前立腺がん 治療」(2024年7月30日更新)
https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/treatment.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「前立腺がん 全ページ」
https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/print.html - Abdel-Rahman O. Assessment of the prognostic value of the 8th AJCC staging system for patients with clinically staged prostate cancer; A time to sub-classify stage IV? PLoS ONE. 2017. doi:10.1371/journal.pone.0188450
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5705121/ - Fizazi K, et al. Abiraterone acetate plus prednisone in patients with newly diagnosed high-risk metastatic castration-sensitive prostate cancer (LATITUDE): final overall survival analysis. Lancet Oncol. 2019;20(5):686-700.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30987939/ - Kyriakopoulos CE, et al. Chemohormonal Therapy in Metastatic Hormone-Sensitive Prostate Cancer: Long-Term Survival Analysis of the Randomized Phase III E3805 CHAARTED Trial. J Clin Oncol. 2018;36(11):1080-1087.
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