がんでの治療薬の選択肢は、保険適用の治療(薬)、自由診療の治療(薬)、健康食品の3つに分かれます。分けているのは効き目ではなく手続きです。
この記事の内容
がん治療ではどう分かれていますか?

出典:消費者庁「保健機能食品について」、PMDA「医薬品副作用被害救済制度」
医薬品として承認されているか、その用法で薬価に載っているか、の2段階で分かれます。
| 保険診療の医薬品 | 自由診療の医薬品 | 健康食品・サプリメント | |
| 承認 | あり | あり(適応外)または国内未承認 | なし(食品) |
| 費用 | 1〜3割負担 | 全額自己負担 | 全額自己負担 |
| 効能効果の表示 | できる | できる(承認された範囲で) | できない |
| 副作用の救済制度 | あり(除外あり) | 制度による | なし |
医薬品は、薬機法に基づいて有効性と安全性の審査を受け、承認されたものです。健康食品には法律上の定義がなく、消費者庁は健康に良いことをうたった食品全般を指す言葉として扱っています。食品のうち機能性を表示できるのは、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品の3種類だけです(消費者庁「保健機能食品について」)。
自由診療で使う薬は、未承認薬ばかりですか?
違います。3種類が混ざっています。
1つは、国内で承認されていない薬を輸入して使う場合です。2つめは、日本で承認されている薬を、承認された病気や用量の外で使う場合、いわゆる適応外使用です。3つめは、そもそも医薬品ではない食品を使う場合です。
がんの自由診療でよく聞く高濃度ビタミンC点滴は、2つめに近い位置にあります。ビタミンCそのものは医薬品として存在しますが、がんに対する用量や用法は承認されていません。フアイアのような生薬は、3つめです。
ここで知っておく価値があるのは、費用の仕組みのほうです。日本では、同じ一連の診療の中で保険診療と自由診療を組み合わせること、いわゆる混合診療が原則として認められていません。評価療養、患者申出療養、選定療養に当たる場合を除き、保険が使えるはずの部分まで含めて全額自己負担になります(健康保険法第86条)。
なぜ、この線は成分の数と関係するのですか?
承認の手続きが、単一の成分を前提に組み立てられているからです。
有効成分を特定し、その量を規格として定め、体内での動きを測り、機序を説明する。この流れは、成分がひとつなら通せます。成分が数十から数百ある製剤では、どれが効いているのかを特定する段階で止まります。
だから、単一の成分に還元できたものほど医薬品の側に入りやすく、混ざったままのものは食品の側に残りやすい。効き目の大きさではなく、証明の作法に合うかどうかで分かれています。
ただし、この線は絶対ではありません。混ざったまま薬になっているものが、日本にも海外にもあります。
保険で使われている多成分の薬はありますか?
あります。漢方エキス製剤です。
医療用の漢方エキス製剤は、1967年に初めて薬価に収載され、1976年に42処方60品目が一度に導入されました。現在は148処方が保険で使えます。承認の基準になったのは、古典に記載された処方をまとめた手引きです(1975年に第1版)。日本東洋医学会にEBM委員会が設けられ、臨床研究の収集と評価が始まったのは2001年で、最初の報告書は2005年です(漢方医学誌 2011年)。
比較試験の蓄積は、保険収載の30年以上あとから始まりました。成分は特定されておらず、機序も完全には分かっていません。それでも、保険で処方できる医薬品です。
海外では、多成分のまま承認されていますか?
されています。アメリカの食品医薬品局には、植物由来の混合物をそのまま医薬品として承認する区分があります。
緑茶葉、パイナップル、シラカバの樹皮などを原料とする製品が承認されています。2023年に承認されたシラカバ樹皮由来のFilsuvezは、添付文書に作用機序は不明と記載されたまま承認されました(FDA添付文書、2023年)。
審査で問われるのは、機序の説明ではなく、有効性と安全性の実証です。
多成分のまま、大規模な試験を勝ち抜いた例はありますか?
あります。同時に、勝ち抜けなかった例もあります。
心筋梗塞の患者3,777例を対象にした二重盲検プラセボ対照試験では、標準治療に多成分の製剤を上乗せした群で、30日後の心血管イベントが3.4%と5.2%でした。1年後も5.3%と8.3%で差が続いています。論文には、有効成分と正確な作用機序は未確定であると明記されています(Yang Y, et al. JAMA. 2023;330(16):1534-1545)。
一方、抗がん剤オキサリプラチンによる末梢神経障害の予防を狙った牛車腎気丸の二重盲検第III相試験では、グレード2以上の神経障害がプラセボ群31.2%に対し牛車腎気丸群50.6%で、発症までの時間はむしろ短いという結果でした(ハザード比1.908、P=0.007)。試験は途中で登録が中止されています(Oki E, et al. Int J Clin Oncol. 2015;20(4):767-775)。
多成分だから効く、という一般化はできません。効くかどうかを決められるのは試験だけです。
単一成分の薬も、もとは混ざったものではないのですか?
そうです。今使われている薬の多くは、混合物から取り出された成分です。
| もとの素材 | 取り出された成分 | 現在の使われ方 |
| 麻黄(葛根湯の構成生薬) | エフェドリン | 麻酔中の血圧低下に使う注射薬 |
| 米ぬか | オリザニン(ビタミンB1) | 注射薬・内服薬。栄養機能食品の成分でもある |
| ヤナギの樹皮 | アスピリン | 抗血小板療法 |
| ケシ | モルヒネ | 緩和ケア |
| ジギタリス | ジゴキシン | 心不全・心房細動 |
麻黄からエフェドリンが単離されたのは1885年で、長井長義によります(齋藤繁「エフェドリンの歴史」日本医史学雑誌 2012年)。米ぬかからは1910年に鈴木梅太郎がオリザニンを取り出し、翌年に製法が特許になっています(国立公文書館「オリザニンの発見」)。のちにビタミンB1として整理された物質です。
ビタミンB1は、現在も医療用の注射薬であり、栄養機能食品の成分でもあります。同じ物質が制度の両側にあります。
いずれも、単離される前から体に作用していました。単離によって効果が生まれたのではなく、効果に説明がついたという順序です。
移植の薬は、土の中から見つかっています
臓器移植を成り立たせている薬は、3つとも土壌の微生物に由来します。
| 薬 | 出どころ | 承認 | 分子の標的が分かった時期 |
| シクロスポリン | ノルウェーの土壌の真菌(1972年に免疫抑制作用を確認) | 1983年(米国) | 1991年(カルシニューリン) |
| タクロリムス | 筑波山麓の土壌の放線菌(1984年) | 1993年(日本、肝移植) | 1991年(同上) |
| ラパマイシン | イースター島の土壌の細菌(1972年)。当初は抗真菌薬 | 1999年(米国、腎移植) | 1991年以降(TOR) |
シクロスポリンが承認されたのは1983年で、この薬がカルシニューリンという酵素を止めていると分かったのは1991年です(Liu J, et al. Cell. 1991;66:807-815)。8年のあいだ、なぜ効くのか分からないまま、移植患者の命がこの薬に懸かっていました。
アスピリンも同じです。鎮痛解熱薬として広まったのは19世紀末で、プロスタグランジンの合成を阻害するという説明がついたのは1971年でした(Vane JR. Nature New Biology. 1971;231:232-235)。
効くことが先に確かめられ、機序は後から分かる。医学史では珍しい順序ではありません。
手術の前後では、食品が治療の一部になっていませんか?
なっています。免疫栄養と呼ばれる領域です。
ヨーロッパ臨床栄養代謝学会の外科領域のガイドラインは、消化器がんの手術を受ける患者に対し、アルギニン、オメガ3脂肪酸、核酸を強化した経口・経腸の栄養剤を、術前5〜7日間投与することを推奨しています(ESPEN practical guideline: Clinical nutrition in surgery, 2021)。根拠として、83件のランダム化比較試験・7,116例のメタ解析で、術後合併症と在院日数の減少が確認されたことが挙げられています。
投与されるのは薬ではなく栄養剤で、中身はアミノ酸と脂肪酸と核酸です。それが、手術という最も侵襲の大きい治療の周辺で、ガイドラインの推奨事項になっています。
同じガイドラインは、術前にこれらの成分を強化した製剤を使うことが、通常の栄養剤と比べて優れているかどうかについては明確な根拠がまだないとも述べています。推奨と限界が同じ文書に書かれています。
がんのサプリは、どこまで確かめられていますか?
成分ごとに、また評価項目ごとに結果が分かれています。
高濃度ビタミンC
経口の高用量ビタミンCについては、進行がんを対象とした二重盲検ランダム化比較試験が2件行われ、いずれも有効性は示されませんでした(Creagan ET, et al. N Engl J Med. 1979;301:687-690/Moertel CG, et al. N Engl J Med. 1985;312:137-141)。
その後、経口と静注では血中濃度が大きく異なることが薬物動態の研究で示され(Padayatty SJ, et al. Ann Intern Med. 2004;140:533-537)、静注での再評価が進んでいます。ただし現在も第I相・第II相の試験が中心で、生存期間の延長を示した大規模比較試験はありません。
フコイダン
転移性大腸がんの患者54例を対象に、化学療法へ上乗せする形で二重盲検プラセボ対照試験が行われています。主要評価項目である病勢制御率は92.8%と69.2%で、有意差がありました(p=0.026)。一方、全生存期間、無増悪生存期間、奏効率、生活の質には有意差が認められませんでした(Tsai HL, et al. Mar Drugs. 2017;15(4):122)。
病勢制御率は、腫瘍が一定期間大きくならなかった人の割合です。長生きしたかどうかとは別の指標になります。
保険が使えることは、何を意味しますか?
誰かが承認申請を行い、薬価に収載されたことを意味します。
保険が使えるようになる道筋は一本です。治験の費用を負担する主体があり、承認申請が行われ、薬価基準に収載される。この経路を通ったものだけが保険の対象になります。
食品の側には、質の高い試験データがあっても、申請する主体と資金がなければこの入口がありません。特定保健用食品や機能性表示食品も、データの内容にかかわらず保険償還の対象にはなりません。
保険の財源は限られているため、線を引くこと自体は必要です。ただしその線は、効くかどうかを判定した結果として引かれているわけではありません。
副作用が起きたとき、補償はどうなりますか?
医薬品には公的な救済制度があります。食品にはありません。
医薬品を適正に使用したにもかかわらず入院が必要な健康被害が生じた場合、医薬品副作用被害救済制度から医療費や年金などの給付を受けられます(PMDA 医薬品副作用被害救済制度)。効能効果の表示より、患者にとっては重い違いです。
ただし例外があります。この制度には対象除外医薬品があり、がんその他の特殊疾病に使用されることを目的とする医薬品のうち厚生労働大臣が指定したものは、給付の対象になりません(PMDA 対象除外医薬品等)。抗がん剤の多くがここに入ります。
がんの治療を受けている人にとっては、医薬品であっても救済されない領域があり、食品には最初から制度がない。補償の有無は、区分の内側でもう一度分かれています。
何を確かめればよいですか?
区分ではなく、試験の中身を見ます。
- 誰を対象にした試験か(がん種、病期、手術後かどうか)
- 主要評価項目は何か(病勢制御率なのか、生存なのか)
- どのくらいの期間の結果か
- 比較の相手は何か(プラセボか、無治療か)、盲検化されているか
- 誰が費用を出した試験か
これらが書かれていないものは、医薬品でも健康食品でも同じ扱いになります。治療を選ぶ場面での考え方は、フアイアはサプリなのか、薬との違いで個別に取り上げています。
最新の知見 2026年8月更新
食薬区分のリストは随時改正されます。特定の成分の扱いを確認するときは、厚生労働省の最新の通知に当たってください。
区分は、その物が何であるかを示すものではありません。示しているのは、どの手続きを通ったかです。だから区分を確かめても、効くかどうかはわかりません。確かめる場所は、対象と評価項目と期間と比較に戻ります。
僕は、エビデンスと安全性については妥協しません。要件から外してよいのは、作用機序の完全な解明だけだと考えています。移植の薬がそうであったように、効くことを先に確かめ、なぜ効くのかは後から調べる。順序としては、それでよいと考えています。
監修者
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。98年移植免疫学にて英国オックスフォード大学医学博士取得(Doctor of Philosophy)。外科医 × サイエンティスト × 漢方医としてレアな存在で活躍中。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。現在は、世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓蒙普及のために自由診療のクリニックでがん、難病・難症の治療を行っている。
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これまでの研究で、がんを退治する漢方薬や生薬はほとんど見つかっていません。それでも、副作用を減らしたり、からだを保ったりするために漢方薬の力を借りる方法を書いています。
よくある質問
自由診療の薬は未承認薬のことですか?
それだけではありません。国内未承認の薬を輸入して使う場合、承認された薬を承認外の病気や用量で使う場合、医薬品ではない食品を使う場合が混在します。
保険の治療と自由診療は一緒に受けられますか?
原則としてできません。同じ一連の診療で組み合わせると、評価療養や患者申出療養などに当たる場合を除き、保険部分も含めて全額自己負担になります。(治療施設や治療日が異なれば可能です)
成分が多い薬は認められないのですか?
そうではありません。漢方エキス製剤は多成分のまま保険で使えますし、アメリカには植物由来の混合物をそのまま承認する区分があります。
抗がん剤の副作用は救済制度の対象になりますか?
対象外のものがあります。がんその他の特殊疾病に使う医薬品のうち厚生労働大臣が指定したものは、医薬品副作用被害救済制度の給付対象から除かれています。
高濃度ビタミンC点滴はがんに効きますか?
現時点で、生存期間の延長を示した大規模な比較試験はありません。経口での試験は1979年と1985年に有効性が否定され、静注については第I相・第II相の段階です。
参考文献
- 消費者庁「保健機能食品について」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_health_claims - PMDA「医薬品副作用被害救済制度」
https://www.pmda.go.jp/relief-services/adr-sufferers/0001.html - 厚生労働省「食薬区分における成分本質(原材料)の取扱いの例示」(令和2年3月31日 薬生監麻発0331第9号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc4935&dataType=1 - Yang Y, et al. Traditional Chinese Medicine Compound (Tongxinluo) and Clinical Outcomes of Patients With Acute Myocardial Infarction: The CTS-AMI Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330(16):1534-1545.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37874574/ - Tsai HL, et al. Efficacy of Low-Molecular-Weight Fucoidan as a Supplemental Therapy in Metastatic Colorectal Cancer Patients: A Double-Blind Randomized Controlled Trial. Mar Drugs. 2017;15(4):122.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28430159/





