がんと告知されたショックは、多くの人に起こる自然な反応です。ただし、眠れない・食べられない状態が2週間以上続くときは、専門家に相談する目安になります。
告知の直後は、頭が真っ白になったり、何も手につかなくなったりします。面接で診断した研究をまとめると、がん医療の現場でうつ病か適応障害にあたる人は31.6%で、どちらにもあたらない人のほうが多いという結果です(Lancet Oncol 2011)。
この記事の内容
告知のショックは異常な反応ですか?
異常ではありません。強い衝撃から心を守るための、自然な反応と考えられています。
ここでいう告知のショックとは、がんと伝えられた直後に起こる強い動揺のことです。「まさか自分が」と受け入れられない気持ち、怒り、自分を責める気持ちなどがあらわれます。
国立がん研究センターのがん情報サービスは、告知後の数日間は病名を認めたくない気持ちが強くなる人がほとんどだと説明しています(がん情報サービス「がんと心」2023年確認)。
同じページでは、不安や落ち込みは治療の前・中・後のどの時期にも起こりうるとされています。ある程度までは通常の反応であり、すぐに治療が必要なものではありません。
告知後の気持ちはどう変わっていきますか?
一般に「ショック」「不安・落ち込み」「再適応」の3つの時期をたどり、通常は2週間程度で再適応の時期を迎えるといわれています。
がん情報サービスは、がんによるストレスへの心の反応を3つの時期に分けて説明しています(がん情報サービス「がんと心」2023年確認)。
| 時期 | 主な気持ちと状態 |
| ショック・混乱 | 強い衝撃を受け、否定や絶望の気持ちが強まることがある |
| 不安・落ち込み | 将来への漠然とした不安、落ち込み、不眠、怒り、孤立感があらわれる。一時的に日常生活に支障が出ることもある |
| 再適応 | 情報を集める、治療に取り組む、仕事や家庭の役割を整理するなど、現実に向き合う力が働き始める |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」(2023年4月5日確認)をもとに作成
「2週間程度」は、再適応までの一般的な目安として示されたものです。何日で立ち直るべきという基準ではありません。
眠れない・食べられないのはよくあることですか?
よくあることです。告知のあとに体の調子まで崩れるのは、心の反応として珍しくありません。
がん情報サービスは、告知のあとに次のような状態になることは少なくないと説明しています(がん情報サービス「がんと心」2023年確認)。
- 夜に眠れない、途中で目が覚める
- 食欲がない
- 集中力が落ち、仕事や家事が手につかない
- 怒りっぽくなる、自分を責める
こうした変化は、多くの場合は時間とともに和らいでいきます。気になるのは、長さと日常生活への影響です。次の節で、相談の目安を整理します。
告知のあと、どうなったら専門家に相談したほうがいいですか?
眠れない、食べられないなどのつらい状態が2週間以上続くときが、ひとつの目安です。
がん情報サービスは、この状態が2週間以上続く場合は専門家による心のケアが必要かもしれないとしています(がん情報サービス「あなたらしい生活を続けるために」2022年)。
自分の状態を確かめる道具として、がん情報サービスは「つらさと支障の寒暖計」を紹介しています。つらさの強さと、それによる生活への支障を、それぞれ点数で答えるものです。
- つらさが4点以上、かつ支障が3点以上なら、中程度以上のストレスがあると考えられる
- 落ち込みのチェックリスト9項目のうち、最初の2項目を含めて5つ以上が2週間以上続く場合は、専門家のケアを考える
- 家族や友人にもつらい気持ちを打ち明けられないときも、相談してよい
いずれも、がん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」(2023年確認)と「専門家による心のケア」(2023年確認)の記載です。
「心の病気ではないから」と遠慮する必要はありません。がん情報サービスは、不安や睡眠の問題などストレス全般を相談の対象としています。
適応障害とうつ病はどう違いますか?
どちらも動揺が長引いて生活に支障が出る状態ですが、うつ病(うつ状態)のほうが苦痛が強く、何も手につかない落ち込みが2週間以上続きます。
適応障害とは、強いストレスへの動揺が長引き、精神的な苦痛のために日常生活に支障をきたしている状態です。がん情報サービスは、落ち込みが長引く場合の代表的な状態として、次の3つを挙げています。
| 状態 | 特徴 | 見られやすいこと |
| 適応障害 | 動揺が長引き、精神的苦痛が強く、日常生活に支障がある | 不眠、仕事が手につかない、引きこもり |
| うつ状態(気分障害) | 適応障害より苦痛が強く、何も手につかない落ち込みが2週間以上続く | 強い不眠、食欲不振、性欲の低下 |
| せん妄 | 体の異常や薬で起こる急性の脳の機能不全。心理的ストレスと誤解されやすい | 状況がわからない、幻覚、物忘れ、興奮。大きな手術後や新しい薬の使用後に多い |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」(2023年4月5日確認)をもとに作成
せん妄は気持ちの問題ではなく、体の状態から起こります。多くは一時的で、一部の精神安定剤が症状の軽減に役立つとされています。告知直後の動揺とは扱いが違うため、様子が急に変わったら主治医や看護師に伝えてください。
適応障害やうつ病はどのくらいの人に起こりますか?
がん医療の現場の患者さんを面接で診断した研究をまとめると、うつ病か適応障害のどちらかにあたる人は31.6%でした。
この数字は、2011年に Lancet Oncology に掲載されたメタアナリシスによるものです(Mitchell AJ ほか、Lancet Oncol 2011)。腫瘍科・血液内科の患者さんを対象にした70研究、10,071人を統合しています。
同じ研究で示された有病率は、次のとおりです。
- DSMで定義した大うつ病:14.9%(95%信頼区間 12.2〜17.7%)
- 適応障害:19.4%(同 14.5〜24.8%)
- 不安障害:10.3%(同 5.1〜17.0%)
- うつ病または適応障害:31.6%(同 25.0〜38.7%)
- 何らかの気分障害:38.2%(同 28.4〜48.6%)
年齢、性別、診療の場(緩和ケアかどうか)による一貫した差は見られませんでした。がんの種類や病気の期間による違いは、データ不足で検討できなかったと報告されています。
この数字の作られ方
この研究は、質問票の点数ではなく、精神科の面接で診断した研究だけを集めています。著者らは、面接で定義したうつ病と不安はそれまで考えられていたより少ないと結論しています。一方で、対象の多くは国外の研究で、告知直後に限った数字でもありません。「告知から何週間の時点で何%」という形の数字は、この研究からは読み取れません。
告知のあと「死にたい」と感じるほど追い詰められることはありますか?
あります。診断から1年以内は自殺のリスクが高まることが日本の研究でも示されており、つらいときは一人で抱えずに相談してください。
日本の多目的コホート研究(JPHC研究)は、約10万3千人を追跡しました。がんと診断されてから1年以内の自殺のリスクは、がんではない人の23.9倍(95%信頼区間 13.8〜41.6)でした(Yamauchi T ほか、Psycho-Oncology 2014)。
診断から1年以上たつと、がんではない人との差は見られませんでした(国立がん研究センター 多目的コホート研究)。診断から1年以内の自殺は13人と少なく、倍率の値には幅があります。研究者らは、がんの診断は命に関わる結果につながりうる重大な体験だと結論しています。
「消えてしまいたい」と感じたら、主治医や看護師、がん相談支援センターに話してください。夜間や休日は、厚生労働省が案内する次の電話窓口があります(厚生労働省「まもろうよ こころ」)。
- #いのちSOS:0120-061-338(無料・24時間)
- よりそいホットライン:0120-279-338(無料・24時間)
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(受付時間は都道府県により異なる)
自分でできる気持ちの整え方はありますか?
あります。気持ちを人に話す、正しい情報を集める、問題を一つずつ片づけるといった方法が勧められています。
がん情報サービスは、日常のストレスへの対処として次のような方法を挙げています(がん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」2023年確認)。
- これまでのつらい時期に役立った方法を思い出して試す
- 家族や友人に気持ちを打ち明ける
- 主治医やがん相談支援センターから、正しい情報を得る
- 心配事に優先順位をつけ、一つずつ対応する
- 自分や他人を責めない。気の進まないことは断る
- 深呼吸、音楽、散歩、入浴などでリラックスする
- 患者会や患者サロンに参加する
告知の直後に、仕事を辞めるなど大きな決断をしようとする人がいます。がん情報サービスは、退職を考える前に治療の見通しを主治医に確認し、急いで一人で決めないよう勧めています。仕事の判断はがんでも仕事を続けるために確かめる順番で詳しく整理しています。
前向きになれなくても
がん情報サービスは、ストレスや性格ががんの原因になる、前向きな気持ちが経過に影響するという明確な科学的根拠は十分ではないとしています。無理に前向きになろうとせず、自分らしくつき合うことが大切だとされています。
精神腫瘍科とはどんな診療科ですか?
がんにともなう心の問題を専門に診る診療科です。精神科医や心療内科医が担当し、受診には健康保険が使えます。
精神腫瘍医とは、がんに関連した心の問題を専門に扱う医師のことです。がん情報サービスは、日本ではまだ数が少ないと説明しています(がん情報サービス「専門家による心のケア」2023年確認)。
精神腫瘍科がない病院でも、心療内科、精神科、緩和ケアチームなどが同じ役割を担っています。主に行われる支援は次の3つです。
- 精神療法(カウンセリング):話す量は本人のペースに合わせ、内容は他人に知られない
- リラクセーション:筋肉の緊張をほぐして気持ちを落ち着ける
- 薬物療法:睡眠導入剤、抗不安薬、抗うつ薬。抗うつ薬の効果はゆるやかにあらわれる
受診したいときは、主治医や看護師に「心のつらさを相談したい」と伝えてください。必要に応じて専門家を紹介してもらえます。病院によっては、心理士による無料の相談もあります。
気持ちのつらさはどこに相談できますか?
まずは主治医や看護師、またはがん相談支援センターです。そこから必要に応じて専門家につないでもらえます。
| 相談先 | できること |
| 主治医・看護師 | つらさを伝えると、必要に応じて専門家に紹介してもらえる |
| がん相談支援センター | 無料・匿名で相談できる。その病院にかかっていない人や家族も利用できる |
| 精神腫瘍科・心療内科・精神科 | カウンセリングや薬物療法。健康保険が適用される |
| 心理士 | 心理学の手法で不安や落ち込みの相談に応じる |
| 緩和ケア外来・緩和ケアチーム | 体の苦痛とあわせて心のつらさにも対応する |
| 患者会・患者サロン | 同じ体験をした人同士で支え合う(ピアサポート) |
出典:国立がん研究センター がん情報サービス「専門家による心のケア」(2023年)、「がん相談支援センターとは」(2022年)をもとに作成
がん相談支援センターは、全国のがん診療連携拠点病院などに置かれています(がん情報サービス「がん相談支援センターとは」2022年確認)。相談内容は、本人の同意なく主治医を含む他人に知られることはありません。
緩和ケアは、がんが進行してから始めるものではありません。がんと診断されたときから始まり、心のつらさも対象になります(がん情報サービス「緩和ケア」2020年確認)。受けられる時期は緩和ケアはいつから受けられるかで詳しく説明しています。
家族や周りの人には、どう頼ればいいですか?
伝える範囲と手伝ってほしいことを、あらかじめ整理してから話すと頼りやすくなります。
がん情報サービスは、伝える内容や聞かれそうなことをメモにまとめておくと役立つとしています(がん情報サービス「あなたらしい生活を続けるために」2022年)。親の健康状態が心配な場合は、段階を踏んで少しずつ話す方法もあります。
子どもには、がんの種類、がんはうつらないこと、誰のせいでもないことを、年齢に応じて伝えるよう勧められています。ひとり暮らしで頼れる人がいない場合も、がん相談支援センターが相談に応じます。
家族の側で何をすればいいかは家族ががんと告知されたときにすることにまとめています。
31.6%
がん医療の現場で、面接によってうつ病か適応障害と診断された人の割合。
裏返せば、どちらの診断にもあたらない人のほうが多いという数字です。ただし国外中心の研究で、告知直後に限った数字ではありません。
出典:Mitchell AJ ほか, Lancet Oncol 2011;12:160-74(70研究・10,071人のメタアナリシス)
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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誰に話せばいいかわからないとき、最初の窓口になるのががん相談支援センターです。
がん相談支援センターとは?誰に相談すればいいかわからないときの窓口
どこにあり、誰が使えて、何を相談できるのかをまとめています。その病院にかかっていなくても、家族だけでも使える仕組みです。
よくある質問
Qがんの告知のショックから立ち直れないのはおかしいですか?
おかしくありません。再適応までは通常2週間程度といわれますが、目安であり個人差があります。眠れない、食べられないなどの状態が2週間以上続くときは、主治医やがん相談支援センターに相談してください。
Qがんと告知されてから眠れないときはどうすればいいですか?
告知後の不眠はよくある反応です。続く場合は主治医に伝えてください。睡眠導入剤などの薬物療法やカウンセリングを受けられ、専門医による治療には健康保険が使えます。
Qがん患者の適応障害やうつ病はどのくらい多いですか?
面接で診断した70研究のメタアナリシス(Lancet Oncol 2011)では、腫瘍科・血液内科の患者さんで適応障害19.4%、大うつ病14.9%、うつ病または適応障害31.6%でした。
Q精神腫瘍科がない病院では、どこで心の相談ができますか?
心療内科、精神科、緩和ケアチーム、心理士などが同じ役割を担っています。わからないときは、主治医や看護師、がん相談支援センターに聞けば、利用できる専門家を教えてもらえます。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」(2023年4月5日確認)
https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc01.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」(2023年4月5日確認)
https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc03.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「専門家による心のケア」(2023年4月5日確認)
https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc05.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「あなたらしい生活を続けるために」(2022年2月1日)
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/anatani_shitte_hoshiikoto/05.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターとは」(2022年11月7日確認)
https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/cisc/cisc.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」(2020年8月26日確認)
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/relaxation/index.html - Mitchell AJ, et al. Prevalence of depression, anxiety, and adjustment disorder in oncological, haematological, and palliative-care settings: a meta-analysis of 94 interview-based studies. Lancet Oncol. 2011;12(2):160-74.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21251875/ - Yamauchi T, et al. Death by suicide and other externally caused injuries following a cancer diagnosis: the Japan Public Health Center-based Prospective Study. Psychooncology. 2014;23(9):1034-41.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24711163/ - 国立がん研究センター 多目的コホート研究「がんの診断と自殺および他の外因死との関連について」
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3399.html - 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/





