乳がんのサブタイプは、がん細胞の目印で性質を分けたもので、どの薬が効きやすいかを決める手がかりになります。
病理検査の結果に「ER陽性」「HER2 2+」「Ki-67 25%」のような言葉が並び、意味がつかめないまま治療の説明が始まることがあります。
この記事では、サブタイプを決める3つの目印、5つのタイプとそれぞれの基本の薬物療法、HER2の点数の読み方、Ki-67の線引きが一定しない理由、抗がん剤を使うかどうかを決める多遺伝子検査、再発したときに性質が変わることがある点を、国立がん研究センターと日本乳癌学会の資料、原著論文で整理します。
この記事の内容
乳がんのサブタイプとは何ですか?
がん細胞が持つ目印の組み合わせで乳がんを分けたもので、薬を選ぶために使います。
国立がん研究センターのがん情報サービスは、サブタイプ分類を「薬物療法を行う際にどの薬が適しているかを選ぶ上で参考にするための分類」と説明しています(がん情報サービス「乳がん 治療」2025年6月19日更新)。
同じページによると、サブタイプは本来、遺伝子検査の結果で決まるものです。ただ、ふだんの診療では、より簡単にできる病理検査でがん細胞の中のタンパク質を調べ、便宜的に分類しています(同)。
ルミナルA「様」、ルミナルB「様」と「様(よう)」が付くのは、遺伝子で決めた本来の分類を、病理検査の結果で近似しているためです。英語でも「Luminal A-like」のように「-like」を付けて呼ばれます(Goldhirsch A, et al. Ann Oncol 2013)。
日本の登録データでは、2023年に登録された遠隔転移のない乳がん102,717人のうち、エストロゲン受容体陽性は78.9%、プロゲステロン受容体陽性は70.0%、HER2陽性は13.3%でした(Sasada S, et al. Breast Cancer 2026)。サブタイプによって再発しやすい時期や生存率にも違いがありますが、この記事ではその数字は扱いません。
サブタイプは、何を調べて決めるのですか?
ホルモン受容体(ERとPgR)、HER2、Ki-67の3つを、がんの組織で調べて決めます。
いずれも、針生検や手術で取った組織を顕微鏡で調べる病理検査でわかります。乳がんの組織診では、局所麻酔をして注射針より少し太い針で組織を取る針生検が通常行われます(がん情報サービス「乳がん 検査」2023年7月5日更新)。
- ホルモン受容体:エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)。どちらかがあればホルモン受容体陽性と判定する
- HER2:がん細胞の増殖に関わるタンパク質。HER2を過剰に作っているがん細胞が一定以上あれば陽性と判定する
- Ki-67:増殖している細胞の割合を示す。値が高いほど転移や再発の可能性が高くなるが、明確な境界値はない
出典は、いずれもがん情報サービス「乳がん 治療」2025年です。
日本乳癌学会の乳癌診療ガイドライン2022年版の病理診断の項目では、ERとPgRがどちらも1%未満なら陰性、どちらかが1%以上なら陽性としていました。ER・PgRの陽性の細胞が少ない場合(例として10%未満)は、ホルモン療法を慎重に検討するとしています(Honma N, et al. Breast Cancer 2024。2022年版の英文要約)。
乳癌診療ガイドラインは2026年6月に2026年版が出ています(日本乳癌学会編「乳癌診療ガイドライン 2026年版」金原出版)。この記事では2026年版の本文を確認できていないため、ガイドラインの記載は2022年版のものとして、版を明記して示します。
5つのサブタイプでは、それぞれどんな薬を使いますか?
ホルモン受容体陽性ならホルモン療法、HER2陽性なら抗HER2薬、どちらもなければ抗がん薬が治療の柱になります。
サブタイプの分け方は、ザンクト・ガレン国際会議(スイスで開かれる早期乳がんの治療の専門家会議)の合意で広まりました。下の表は、2013年の合意の定義と、がん情報サービスが示す基本の薬物療法を並べたものです。
| サブタイプ | 目印の組み合わせ | 基本の薬物療法 |
| ルミナルA様 | ER陽性・PgR陽性、HER2陰性、Ki-67が低い | ホルモン療法が第一選択 |
| ルミナルB様(HER2陰性) | ER陽性、HER2陰性で、Ki-67が高い、またはPgRが陰性か低い | ホルモン療法に、細胞障害性抗がん薬を加える |
| ルミナルB様(HER2陽性) | ER陽性、HER2陽性(Ki-67・PgRは問わない) | 抗HER2薬と抗がん薬、ホルモン療法 |
| HER2型 | ER・PgRがない、HER2陽性 | 抗HER2薬を、原則として抗がん薬と組み合わせる |
| トリプルネガティブ | ER・PgRがない、HER2陰性 | 細胞障害性抗がん薬。免疫チェックポイント阻害薬を使うこともある |
出典:目印の組み合わせは Goldhirsch A, et al. Ann Oncol 2013(ザンクト・ガレン2013)。基本の薬物療法は、がん情報サービス「乳がん 治療」(2025年6月19日更新)。実際の治療は、病期、年齢、閉経の状況、多遺伝子検査の結果なども合わせて決まる。
がん情報サービスは、ホルモン受容体陽性・HER2陰性でKi-67が高い場合は、ホルモン療法薬に加えて細胞障害性抗がん薬も使い、Ki-67が低い場合はホルモン療法薬が治療の第一選択になるとしています(がん情報サービス「乳がん 治療」2025年)。
HER2陽性の乳がんには抗HER2薬を使い、原則として細胞障害性抗がん薬と組み合わせます。トリプルネガティブ乳がんは細胞障害性抗がん薬で治療し、免疫チェックポイント阻害薬を使うこともあります(同)。
ホルモン療法で起こりやすい副作用と続ける期間はホルモン療法の副作用、ホルモン受容体もHER2もないタイプの治療はトリプルネガティブ乳がんとは、抗HER2薬を含む、特定の分子を狙う薬の全体像は分子標的薬とはの記事で説明しています。
「様」が付いている理由
日本乳癌学会の乳癌診療ガイドライン2022年版の病理診断の項目は、「ルミナルA様」はおとなしい性質の、「ルミナルB様」は悪性度の高いホルモン受容体陽性・HER2陰性の乳がんを指して使われているとしたうえで、その定義はまだはっきりしていないと書いています(Honma N, et al. Breast Cancer 2024)。同じ結果でも、医療機関や資料によってA様かB様かの呼び方が変わることがあります。呼び名より、ER・PgR・HER2・Ki-67のそれぞれの値を見るほうが確かです。
HER2の0、1+、2+、3+は、何を意味しますか?
3+は陽性、0と1+は陰性で、2+は判定保留として遺伝子の検査で決めます。
日本では、まず免疫染色(タンパク質を色で染める検査)でHER2を調べ、0、1+、2+、3+の4段階で点数を付けるのが通常です。2+の場合は、ISH法(FISH法など、遺伝子の増え方を調べる検査)でHER2遺伝子が増えているかを確かめます(Honma N, et al. Breast Cancer 2024。乳癌診療ガイドライン2022年版の英文要約)。
| 免疫染色の点数 | 判定 | 次に行うこと |
| 0 | 陰性 | — |
| 1+ | 陰性 | — |
| 2+ | 判定保留 | ISH法で遺伝子の増幅を調べ、増幅があれば陽性、なければ陰性 |
| 3+ | 陽性 | — |
出典:Honma N, et al. Breast Cancer 2024;31:8-15(日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン2022年版 病理診断の英文要約)。日本の登録データでも、HER2陽性は3+、または2+でISH陽性、陰性は0か1+、または2+でISH陰性と定義している(Nagahashi M, et al. Breast Cancer 2025)。
HER2の結果がほかの病理所見と食い違う場合は、HER2を調べ直すとされています(同)。なお、HER2陰性の中でも1+、または2+で遺伝子の増幅がないものを「HER2低発現」と呼び、この区分を対象にした薬の試験が行われています(Modi S, et al. N Engl J Med 2022)。
Ki-67は何%から「高い」のですか?
決まった線はなく、会議や指針によって14%、20%、30%と目安が違います。
がん情報サービスは、Ki-67の評価方法はまだ研究中で、その値以上で特に悪いという明確な基準値はないとしています(がん情報サービス「乳がん 治療」2025年)。
ザンクト・ガレン国際会議では、2011年の合意で14%、2013年の合意で20%が、ルミナルA様とB様を分ける目安として示されました。2013年の合意では、PgRを20%で区切ることも示されています(Bustreo S, et al. Breast Cancer Res Treat 2016による整理)。14%は、1つの検査施設で遺伝子による分類と最もよく対応した値です(同)。
日本乳癌学会の乳癌診療ガイドライン2022年版の病理診断の項目は、Ki-67の評価方法は標準化されていないとし、境界値を決めるのは難しいが、5%未満を低い、30%以上を高いとすることはおおむね受け入れられているとしていました(Honma N, et al. Breast Cancer 2024)。
同じ項目には、Ki-67はER陽性・HER2陰性の乳がんの経過を予測するのには役立つが、薬の選択には役立たない、という記載もあります(同)。Ki-67が高ければ抗がん薬を加えるというがん情報サービスの説明と並べると、Ki-67だけで抗がん薬の要否が決まるわけではないことがわかります。
Ki-67が10〜25%のとき
乳癌診療ガイドライン2022年版の病理診断の項目は、Ki-67が10〜25%の値を、術後の薬物療法を行う根拠に使うべきではないとしています(Honma N, et al. Breast Cancer 2024)。目安の14%も20%もこの幅の中にあります。結果がこの範囲にあるときは、ほかの病理所見や、次に説明する多遺伝子検査を合わせて判断することになります。
抗がん剤を加えるかどうかは、どうやって決めるのですか?
ホルモン受容体陽性・HER2陰性の乳がんでは、多遺伝子検査の結果を使うことがあります。
がん情報サービスは、ホルモン受容体陽性でHER2陰性の乳がんでは、細胞障害性抗がん薬を使うかどうかを決めるために、多遺伝子アッセイという複数の遺伝子を調べる検査を行うことがあるとしています(がん情報サービス「乳がん 治療」2025年)。
日本では、21の遺伝子の働きの強さから再発スコアを出す「オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム」が、2023年9月1日から保険の対象になりました。厚生労働省の通知(保医発0831第3号、2023年8月31日)が定めた対象と条件は次のとおりです(厚生労働省「検査料の点数の取扱いについて」2023年)。
- 対象:ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で、リンパ節転移がない、微小転移、またはリンパ節転移が1〜3個の早期の浸潤性乳がん
- 目的:遠隔再発のリスクを示し、化学療法が必要かどうかを決めること
- 回数:原則として患者1人につき1回
- 診療報酬明細書に、ホルモン受容体とHER2の結果、リンパ節転移の状況を書く
乳癌診療ガイドライン2022年版の薬物療法の項目は、リンパ節転移のないホルモン受容体陽性・HER2陰性の早期乳がんで、オンコタイプDXの再発スコアが25以下なら、術後の化学療法を省くことを強く推奨していました(推奨の強さ1、エビデンスの強さ「強」、合意率90%)(Terada M, et al. Breast Cancer 2023)。
リンパ節転移がある場合や、閉経前の場合の扱いは、この要約からは読み取れませんでした。検査の結果をどう治療に結びつけるかは、主治医に確かめることになります。
再発すると、サブタイプは変わりますか?
変わることがあり、転移した部位の組織で調べ直すことが勧められています。
乳がんの遠隔転移で、最初のがんと転移した部位の目印を比べた39の研究を合わせた解析があります。陽性から陰性に変わった割合は、ERで22.5%(95%信頼区間16.4〜30.0%)、PgRで49.4%(同40.5〜58.2%)、HER2で21.3%(同14.3〜30.5%)でした。陰性から陽性に変わった割合は、ERで21.5%、PgRで15.9%、HER2で9.5%です(Schrijver WAME, et al. J Natl Cancer Inst 2018)。
ERの食い違いは、脳などの中枢神経(20.8%)や骨(29.3%)への転移で、肝臓(14.3%)より多くみられました。著者らは、転移した部位で受容体を調べ直すことを強く勧めています(同)。
22.5%
最初はER陽性だった乳がんのうち、遠隔転移した部位ではER陰性になっていた割合(39研究の統合値)。
診断時のサブタイプが、再発後もそのまま続くとは限りません。
出典:Schrijver WAME, et al. J Natl Cancer Inst. 2018;110(6):568-580
この数字には、がんの性質が実際に変わった場合と、検査の方法や判定のずれによる食い違いが混ざっている可能性があります。日本乳癌学会の病理診断の項目も、検査の方法や基準が標準化されていないことが、結果の食い違いの原因になりうるとしています(Honma N, et al. Breast Cancer 2024)。調べ直した結果で治療がどう変わるかを示した大規模な前向きの研究は、まだ必要だとされています(Schrijver 2018)。
自分のサブタイプを確かめるには、何を聞けばよいですか?
サブタイプの名前だけでなく、4つの値と、その値をどう治療に使うのかを確かめます。
病理検査の結果は、サブタイプの名前より、もとの値のほうが情報が多く含まれています。次のことを主治医に確かめておくと、治療の説明と結びつけやすくなります。
- ERとPgRの陽性の細胞の割合(%)
- HER2の免疫染色の点数(0、1+、2+、3+)と、2+ならISH法の結果
- Ki-67の値と、その施設でどこを境に高い・低いとしているか
- 多遺伝子検査の対象になるか、受けた場合の結果
- 針生検の結果と手術で取った組織の結果が違っていないか
乳癌診療ガイドライン2022年版の病理診断の項目には、手術の組織でホルモン受容体が陰性だったときに針生検の組織で調べ直すことや、経過の予測のために手術の組織でホルモン受容体やHER2を調べ直すことがある、という記載もあります(Honma N, et al. Breast Cancer 2024)。
監修
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
Q乳がんのサブタイプはいつわかりますか?
針生検や手術で取った組織の病理検査で、ホルモン受容体、HER2、Ki-67を調べてわかります。手術で取った組織で調べ直し、針生検の結果と合わせて判断することもあります。
QルミナルAとルミナルBの違いは何ですか?
どちらもホルモン受容体陽性ですが、ルミナルB様はKi-67が高い、PgRが陰性か低い、またはHER2陽性のものを指します。治療では、ルミナルA様はホルモン療法が中心で、ルミナルB様は抗がん薬や抗HER2薬を加えることがあります。A様とB様の定義は、まだはっきり決まっていないとされています。
QHER2が2+と言われたら陽性ですか?
2+は判定保留です。ISH法などでHER2遺伝子が増えているかを調べ、増えていれば陽性、増えていなければ陰性と判定します。
QオンコタイプDXは保険で受けられますか?
2023年9月から、ホルモン受容体陽性・HER2陰性で、リンパ節転移がない、微小転移、または1〜3個の早期の浸潤性乳がんが保険の対象になっています。原則として1人1回です。対象になるかは主治医に確かめます。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」(2025年6月19日更新)
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/treatment.html - 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 検査」(2023年7月5日更新)
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/diagnosis.html - Honma N, Yoshida M, et al. The Japanese breast cancer society clinical practice guidelines for pathological diagnosis of breast cancer, 2022 edition. Breast Cancer. 2024;31:8-15. doi:10.1007/s12282-023-01518-6
https://doi.org/10.1007/s12282-023-01518-6 - Terada M, Ito A, et al. The Japanese Breast Cancer Society Clinical Practice Guidelines for systemic treatment of breast cancer, 2022 edition. Breast Cancer. 2023;30:872-884. doi:10.1007/s12282-023-01505-x
https://doi.org/10.1007/s12282-023-01505-x - 日本乳癌学会編「乳癌診療ガイドライン 2026年版」金原出版(2026年6月30日発売)
https://www.maruzenjunkudo.co.jp/products/9784307205115 - Goldhirsch A, Winer EP, et al. Personalizing the treatment of women with early breast cancer: highlights of the St Gallen International Expert Consensus on the Primary Therapy of Early Breast Cancer 2013. Ann Oncol. 2013;24(9):2206-2223. doi:10.1093/annonc/mdt303
https://doi.org/10.1093/annonc/mdt303 - Bustreo S, Osella-Abate S, et al. Optimal Ki67 cut-off for luminal breast cancer prognostic evaluation: a large case series study with a long-term follow-up. Breast Cancer Res Treat. 2016. doi:10.1007/s10549-016-3817-9
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https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2023/230901_13.pdf - Nagahashi M, Kumamaru H, et al. Breast cancer statistics for Japan in 2022: annual report of the national clinical database-breast cancer registry. Breast Cancer. 2025;32(2):217-226. doi:10.1007/s12282-025-01671-0
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https://doi.org/10.1056/NEJMoa2203690





