ステージ4はなぜ手術できない?見放されたわけではない理由と例外

ステージ4で手術が選ばれにくいのは、がんが離れた臓器にまで広がり、切っても取り切れないことが多いからです。

「手術はできません」と言われると、見放されたように感じるかもしれません。この記事では、ステージ4で手術が選ばれにくい理由、原発巣だけを切った場合を調べた臨床試験の結果、そしてステージ4でも手術が選ばれる場面を、国立がん研究センターの情報と論文をもとに整理します。

ステージ4だと、なぜ手術ができないと言われるのか?

手術は切った場所のがんしか取り除けず、ステージ4ではがんがすでに離れた臓器へ広がっているからです。

ステージ4(Ⅳ期)は、多くのがんで「遠隔転移」がある状態を指します。遠隔転移とは、がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移のことです。大腸がんの場合、転移しやすい部位として肝臓、肺、腹膜、卵巣、骨、脳が挙げられています(国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん 治療」2025年)。

転移は、がん細胞が血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器に移動し、そこでふえることで起こります。

ここで問題になるのが、治療が届く範囲です。がん情報サービスは、手術と放射線治療を「からだの一部に対する治療(局所療法)」、薬物療法を「全身に対する治療(全身療法)」と区別しています(がん情報サービス「薬物療法」2025年)。

治療 届く範囲 ステージ4での主な役割
手術 切除した部分(局所療法) 転移まで取り切れる場合の切除、症状を和らげる手術
放射線治療 照射した部分(局所療法) 骨転移の痛みや脳転移など、症状のある部位の治療
薬物療法 全身(全身療法) 治療の中心。進行を抑え、症状を和らげる

さらに、画像に写っている転移がすべてとは限りません。国立がん研究センターの患者向け冊子は、再発の理由として「手術で取りきれていなかった目に見えない小さながんが残っていて」再び現れることを挙げています(国立がん研究センター がん情報サービス 患者必携『もしも、がんが再発したら』、2025年掲載)。

そのため、遠隔転移があるときは薬物療法が治療の中心になります。非小細胞肺がんについてがん情報サービスは「がんが進行していて手術では取りきれない場合には、薬物療法が治療の中心になります」としています(がん情報サービス「非小細胞肺がん 治療」2026年)。乳がんでも、離れた臓器に転移がある場合は薬物療法を行うのが原則です(がん情報サービス「乳がん 治療」2025年)。

つまり「ステージ4だから手術ができない」は、正確には「手術では取り切れないから、手術を中心にしない」という意味であることがほとんどです。

「手術ができない」は「治療ができない」という意味か?

違います。手術ではなく、全身に届く治療を中心にするという意味です。

胃がんについてがん情報サービスは、「薬物療法だけでがんを完全に治すことは難しいですが、がんの進行を抑えたり、がんによる症状を和らげたりすることが分かっています」と説明しています(がん情報サービス「胃がん 治療」2026年)。

肺がんでは「最近はⅣ期でも、全身の状態がよければ、効果的な薬物療法を選択できる場合が増えており、治療を続けながら長期間にわたって生活を維持できる人も増えています」とされています(がん情報サービス「非小細胞肺がん 治療」2026年)。

ステージ4で治療を続けた場合の数字は、がんの部位によって大きく違います。数字の見方はがんの部位別・ステージ別の生存率で整理しています。

取り切れないのに切ると、どうなるのか?

転移が取り切れない状態で原発巣だけを切っても、生存期間は延びなかったという臨床試験が、大腸がんと胃がんで報告されています。

「転移は残っても、せめて大元だけは取りたい」と考えるのは自然なことです。この問いは、患者さんをくじ引きで「切る群」と「切らない群」に分けるランダム化比較試験で、実際に確かめられてきました。

手術そのものの負担も判断に入ります。がん情報サービスは、手術を「組織の切除や麻酔など体に大きな負担やストレスを与える治療法」と説明しています(がん情報サービス「手術(外科治療)」2024年)。取り切れないのであれば、その負担に見合う利益があるかどうかが問われます。

大腸がん:原発巣を切っても生存期間は同じだった(JCOG1007)

日本で行われたJCOG1007は、原発巣による症状がなく、遠隔転移が切除できないステージ4の大腸がんの方を対象に、「原発巣切除+化学療法」と「化学療法のみ」を比べた試験です。

生存期間の中央値は、原発巣を切った群で25.9か月、切らなかった群で26.7か月で、有意な差はありませんでした。原発巣を切除した群では、手術後の合併症で3人が亡くなっています。国立がん研究センターはこの結果から、「原発巣を切除せず化学療法を先行する治療が高いエビデンスレベルで標準治療であると結論づけられました」と発表しています(国立がん研究センター プレスリリース 2021年)。

25.9か月

原発巣を切った群の生存期間の中央値。切らなかった群は26.7か月。転移が取り切れない状態では、大元を切っても生存は延びませんでした。

出典:JCOG1007(iPACS)/Kanemitsu Y, et al. J Clin Oncol. 2021;39(10):1098-1107/国立がん研究センター 2021年

胃がん:胃を切った群のほうが数字は下回った(REGATTA試験)

日本・韓国・シンガポールの44施設で行われたREGATTA試験は、治癒切除できない因子が1つだけ(肝転移、腹膜転移、大動脈周囲リンパ節転移のいずれか)の進行胃がん、20〜75歳の方175人を対象にしました。胃切除のあとに化学療法を行う群と、化学療法のみの群を比べています。

2年全生存率は胃切除+化学療法群で25.1%、化学療法のみの群で31.7%でした。生存期間の中央値は14.3か月と16.6か月です。胃切除による上乗せはなく、試験は1回目の中間解析で打ち切られました。胃切除群では、その後の化学療法でグレード3〜4の白血球減少(18%対3%)や食欲不振(29%対12%)が多く見られています(Fujitani K, et al. Lancet Oncol. 2016)。

乳がん:試験によって結果が分かれている

乳がんでは結果が揃っていません。米国のEA2108試験(256人をランダム化)では、早期に原発巣へ手術や放射線治療を行った群の3年全生存率は68.4%、薬物療法を続けた群は67.9%で、生存は延びませんでした。一方、乳房の局所での悪化は16.3%対39.8%と、局所治療の群で少なくなっています(Khan SA, et al. J Clin Oncol. 2022)。

トルコのMF07-01試験(274人)では、36か月の時点では差がなく、長期の追跡で手術群の死亡のリスクが低かったと報告されています(ハザード比0.66、Soran A, et al. Ann Surg Oncol. 2018)。著者らは、年齢、全身状態、持病、がんのタイプ、転移の量を考えて判断するよう述べています。

試験(発表年) 対象 原発巣を切った群/切らなかった群
JCOG1007(2021年) 大腸がん。原発巣の症状なし、転移は切除不能 生存期間中央値 25.9か月/26.7か月
REGATTA(2016年) 胃がん。治癒切除できない因子が1つ 2年全生存率 25.1%/31.7%
EA2108(2022年) 乳がん。初診時から遠隔転移あり 3年全生存率 68.4%/67.9%
MF07-01(2018年) 乳がん。初診時から遠隔転移あり 長期追跡で手術群の死亡リスクが低い(ハザード比0.66)

これらの試験が答えていないこと

試験が調べたのは「転移が取り切れない状態で、原発巣だけを切る」ことです。大腸がんの試験は原発巣による症状がない方に限られ、出血や腸の詰まりがある方は対象ではありません。胃がんの試験は20〜75歳で、治癒切除できない因子が1つの方が対象でした。転移まで含めて取り切れる方、症状を和らげるために切る方には、この結果をそのまま当てはめることはできません。

ステージ4でも手術が選ばれるのは、どんなときか?

転移まで含めて取り切れるとき、がんによる症状を和らげるとき、薬物療法で小さくなって取り切れる見込みが出たときなどです。

転移まで含めて取り切れる場合(大腸がんの肝転移・肺転移など)

大腸がんでは、転移があっても手術が治療の柱になることがあります。大腸癌治療ガイドライン2024年版にもとづくがん情報サービスの説明では、「遠隔転移巣、原発巣ともに切除可能な場合は、原発巣を切除し、遠隔転移巣の切除を検討します」とされています。肝転移や肺転移も、転移した部位が切除可能なときは手術を行うことがあります(がん情報サービス「大腸がん 治療」2025年)。

判断の軸は、ステージの数字ではなく「見えている病巣をすべて取り切れるか」です。

がんによる症状を和らげる場合

取り切ることが目的ではなく、生活を守るための手術もあります。がん情報サービスは、手術の目的として「がんによる症状を緩和する目的で手術を行うこともあります」と書いています(がん情報サービス「手術(外科治療)」2024年)。

  • 大腸がん:転移は切除できなくても、原発巣による症状があるときは原発巣の切除を検討します。切除できない場合には、便の通り道をつくるバイパス手術や人工肛門をつくる手術を行うことがあります
  • 胃がん:胃の出口がふさがっている場合、食事ができるように別の通り道をつくるバイパス術や、ステントを入れる治療が勧められることがあります
  • 骨転移:骨折の恐れがあれば、整形外科的な手術で予防することがあります(乳がん)
  • 脳転移:単発で手術しやすい場所であれば、手術で取り除くこともあります(乳がん)。症状がある場合は、症状を和らげるための手術や放射線治療を検討します(非小細胞肺がん)

前の章の大腸がんの試験は、原発巣による症状のない方が対象でした。症状がある場合は、切る目的そのものが違います。

薬物療法で小さくなった場合(コンバージョン手術)

最初は切除できなくても、薬物療法の効果によって切除可能になることがあります(がん情報サービス「大腸がん 治療」2025年)。このように、薬物療法や放射線治療で縮小したあとに根治を目指して行う手術は「コンバージョン手術」と呼ばれます(国立がん研究センター中央病院 大腸外科「ステージ4または再発と診断された場合」)。「今は手術できない」は、「この先もずっと手術できない」と同じ意味ではありません。

卵巣がんの腫瘍減量手術

卵巣がんは、広がっていても手術の役割が大きいがんです。腹膜や周囲の臓器にがんが広がっている場合も、「可能な限り、目に見えるがんを切除します」とされ、「残っているがんが小さいほど予後が良くなります」と説明されています。初回の手術で取り切るのが難しいと予測される場合は、抗がん薬で小さくしてから手術(インターバル腫瘍減量術)を行うことがあります(がん情報サービス「卵巣がん 治療」2026年)。

がんの種類によって手術の位置づけは大きく違います。「ステージ4だから一律に手術しない」というルールがあるわけではありません。

手術をするかどうかは、何で決まるのか?

ステージの数字ではなく、取り切れるか、切ることで得られるものが負担を上回るか、体が手術に耐えられるかで決まります。

ステージ4で手術ができるかどうかの判断の流れ。病巣を取り切れるか、症状があるか、薬物療法で小さくなったかで分かれる
ステージ4で手術を考えるときの大まかな流れ。実際には、がんの種類や体の状態によって判断が変わります。国立がん研究センター がん情報サービス(大腸がん・胃がん・乳がん・非小細胞肺がん 治療)をもとに作成

国立がん研究センターの冊子は、治療は「がんの状態、体の状態、希望など」に応じて進められると説明しています。手術を考えるうえでの判断材料は、大きく3つに分けられます。

  • 見えている病巣を、転移も含めてすべて取り切れるか
  • 切ることで、生存が延びる、症状が和らぐなどの利益が、手術の負担を上回るか
  • 体の状態から、手術と麻酔の負担に耐えられるか

「手術はできません」と言われたときは、次のことを主治医に確認しておくと、判断の中身が見えやすくなります。

  • 手術ができない理由は、取り切れないからか、体への負担が大きいからか
  • どの転移が、切除の妨げになっているのか
  • 薬物療法で小さくなった場合、手術を検討する可能性はあるか
  • 出血や通過障害などの症状が出たとき、どんな手術や処置があるか

ステージ4で切らないという判断は、多くの場合、何もしないという判断ではありません。切っても延びないことが試験で確かめられた場面では切らず、取り切れる場面や症状を和らげられる場面では切る。手術の判断は、がんを取ることそのものより、取ったあとに何が得られるかで下されています。

取り切れば勝ち、と信じていた時代に僕は外科医になりました

僕が医師になった40年前は、固形がん治療の王道は外科治療でした。がんを綺麗に取り切れれば外科医の勝ち、少しでも残れば外科医の敗北というイメージです。ですから、大きな手術と徹底的なリンパ節郭清が励行されていました。

そこに乳腺外科医のフィッシャーが登場します。彼は「乳がんは全身病である」と唱えました。乳がんが顕在化すると、すでにどこかに転移しているか、そもそも転移しないかだと言うのです。この理論は、当時の私たち外科医にとっては到底受け入れがたいものでした。私を含めて当時の外科医がまったく納得できないフィッシャーの理論は、1970年代からの複数のランダム化された臨床試験で証明されていきました。大きな手術も小さな手術もその後の経過には関係しないという結果です。

治療を行うことで長生きできる場合のみ、積極的に治療を行いましょう。

新見正則医院院長 新見正則

新見正則(にいみ まさのり)

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年英国オックスフォード大学医学博士(移植免疫学)。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞。

日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)

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よくある質問

ステージ4でも手術できることはありますか?

あります。大腸がんで転移と原発巣の両方を切除できる場合、がんによる出血や通過障害などの症状を和らげる場合、薬物療法で小さくなって切除できる見込みが出た場合、卵巣がんの腫瘍減量手術などです。判断の軸はステージの数字ではなく、取り切れるかどうかと、切ることで得られる利益です。

ステージ4で原発巣だけ切除すれば長生きできますか?

転移が取り切れない大腸がん(JCOG1007、2021年)と胃がん(REGATTA試験、2016年)では、原発巣を切っても生存期間は延びませんでした。乳がんでは試験によって結果が分かれています。原発巣による症状がある場合は、症状を和らげる目的で切除を検討することがあります。

手術できないと言われたら、治療法はないのですか?

ありません、ということではありません。遠隔転移があるときは、全身に届く薬物療法が治療の中心になります。がん情報サービスは、非小細胞肺がんではⅣ期でも治療を続けながら長期間にわたって生活を維持できる人が増えていると説明しています。

抗がん剤が効いたら、あとから手術できるようになりますか?

なることがあります。大腸がんでは、最初は切除できなくても薬物療法の効果によって切除可能になることがあり、このとき行う手術はコンバージョン手術と呼ばれます。どのがんでも当てはまるわけではないため、主治医に可能性を確認してください。

ステージ4の手術は体への負担が大きいのですか?

手術は組織の切除や麻酔など、体に大きな負担を与える治療です。転移が切除できない大腸がんの試験(JCOG1007)では、原発巣を切除した群で手術後の合併症により3人が亡くなっています。取り切れない場合は、その負担に見合う利益があるかが判断の中心になります。

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん 治療」(大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版にもとづく。2025年3月24日更新)
    https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/treatment.html
  2. 国立がん研究センター プレスリリース(2021年2月10日、JCOG1007の結果)
    https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2021/0210/index.html
  3. Kanemitsu Y, et al. J Clin Oncol. 2021;39(10):1098-1107.(JCOG1007; iPACS)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33560877/
  4. Fujitani K, et al. Lancet Oncol. 2016;17:309-318.(REGATTA)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26822397/
  5. Khan SA, et al. J Clin Oncol. 2022.(EA2108)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34995128/
  6. Soran A, et al. Ann Surg Oncol. 2018;25(11):3141-3149.(MF07-01)
    https://link.springer.com/article/10.1245/s10434-018-6494-6
  7. 国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法」(2025年3月11日更新)
    https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/index.html
  8. 国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん 治療」(2026年3月17日更新)
    https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html

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