余命宣告の時期は、病状の段階と本人の希望で決まります。
告げられる数字の多くは中央値で、同じような状態の人の半分はそれより長く生きます。
この記事では、余命がどの段階で話題になるのか、その数字が何を数えたものか、医師の予測がどこまで当たるのかを、論文と公的な資料をもとに説明します。
本人と家族への伝えられ方と、聞かないという選択についても扱います。
この記事の内容
余命宣告はいつされるのですか?
決まった時期はなく、病状の段階と、本人が知りたいかどうかによって話題になります。
余命の見立てには、大きく2つの段階があります。段階によって、予測の単位も、根拠になるデータも違います。
| 段階 | 予測の単位 | 主な根拠 |
| 進行・再発がわかり、治療を受けている時期 | 月〜年 | 同じがん・同じ治療を受けた人の生存期間中央値、全身状態、治療への反応 |
| 終末期で、体の変化が目立ってきた時期 | 週〜日 | 食事の量、むくみ、息苦しさ、せん妄などの症状と、予後予測の指標 |
日本の医師向けに作られた、悪い知らせを伝えるためのコミュニケーション研修(SHARE)では、余命は「患者の希望があれば」取り上げる話題のひとつとされています(藤森ほか「サイコオンコロジーとコミュニケーション技術研修会」ホスピス緩和ケア白書2018)。
つまり余命は、診断の説明に必ず含まれるものではありません。本人や家族が尋ねたとき、治療の方針が変わるとき、終末期に入ったときなど、話題になる時期は人によって違います。
余命とは、何の数字なのですか?
多くの場合、同じような病状の人たちの「生存期間中央値」をもとにした目安です。
中央値とは、ある集団の人を生存期間の短い順に並べたとき、ちょうど真ん中にあたる人の生存期間です。平均とは別のものです。
たとえば「余命6か月」が中央値だとすれば、同じような状態の人が100人いたとき、50人目が亡くなる時点が6か月だという意味になります。残りの50人は、6か月より長く生きています。
医師は、同じがん・同じ治療を受けた人たちの生存期間中央値に、本人の年齢や全身状態、これまでの治療への反応を重ねて、目安を組み立てます。研究でも、医師の余命の見積もりは「同じ状態の患者さんの生存期間中央値」として扱われています(Kiely ほか. J Clin Oncol 2013、詳しくは後述)。
「5年生存率」のような生存率は、診断から一定の期間がたった時点で生きている人の割合です。中央値とは別の物差しです。部位別・ステージ別の数字はがんの生存率(部位別・ステージ別)で、病期の分け方はがんのステージの記事で説明しています。
余命は、どうやって予測するのですか?
基本は医師の臨床的な見立てで、終末期には症状や検査値を点数にする予後予測の指標が使われることがあります。
医師の見立ては、研究の世界では「臨床的な生存予測(CPS:Clinical Prediction of Survival)」と呼ばれ、それ自体が研究の対象になっています。
終末期の予測には、次のような指標が作られています。
| 指標 | 使う項目 | 何を予測するか |
| PPI(Palliative Prognostic Index) | 全身の活動度、口から食べられる量、むくみ、安静時の息苦しさ、せん妄 | 3週・6週より長く生きるかどうか |
| PaP(Palliative Prognostic Score) | 医師の予測(CPS)、全身状態(KPS)、食欲不振、息苦しさ、白血球数、リンパ球の割合 | 30日後に生きている確率(A群70%超、B群30〜70%、C群30%未満) |
PPIを作った研究では、検証に使った95人で、PPIが6を超えることを目安にすると3週の生存を感度80%・特異度85%で、4を超えることを目安にすると6週の生存を感度80%・特異度77%で予測できました(Morita ほか. Support Care Cancer 1999)。
PaPは、生存期間の中央値が32日だった519人の研究から作られました(Pirovano ほか. J Pain Symptom Manage 1999)。点数の中に、医師自身の見立てが組み込まれています。
どちらも、残された時間が週から数か月の単位になった終末期の人を対象に作られた指標です。治療を始める段階の余命を出すためのものではありません。
余命宣告は、どのくらい当たるのですか?
終末期の研究では、医師の予測が実際とほぼ一致したのは5人に1人で、外れ方は長く見積もる側に偏っていました。
米国シカゴの5つのホスピスで、343人の医師が468人の患者さんについて余命を予測し、実際の生存期間と比べた研究があります(Christakis, Lamont. BMJ 2000)。実際の生存期間の中央値は24日でした。
| 予測と実際の関係 | 割合 |
| ほぼ一致(実際の0.67〜1.33倍の範囲) | 20%(92人) |
| 長く見積もりすぎ | 63%(295人) |
| 短く見積もりすぎ | 17%(81人) |
全体では、医師は生存期間を5.3倍長く見積もっていました。また、医師と患者さんの付き合いが長いほど、最後に会ってからの日が浅いほど、予測の精度は下がっていました。
20%
終末期の余命の予測が、実際の生存期間の±33%以内に収まった割合。
残りの8割は外れ、外れた予測の多くは長く見積もる側でした。
Christakis, Lamont. BMJ 2000(ホスピスの患者468人)
終末期のがん患者さんを対象にした8つの研究、1,563の予測をまとめた系統的レビューでも、同じ傾向がみられました(Glare ほか. BMJ 2003)。予測の中央値は42日、実際の中央値は29日でした。誤差が1週間以内に収まったのは25%で、27%は4週間以上長く見積もっていました。
一方で、予測と実際の生存期間には強い相関(順位相関係数0.60)がありました。医師の予測は、長さそのものは外れやすいものの、「誰が相対的に短いか」を見分ける力は持っているということです。全身状態や症状を加えると精度は上がりましたが、その上積みは小さいものでした。
この数字が誰のものか
ここで挙げた2つの研究は、残り数週間の終末期の人を対象にしています(生存期間の中央値は24日と29日)。また、2000年以前に海外で集められたデータです。治療を受けている時期の余命や、いまの日本の医療に、そのまま当てはまる数字ではありません。
告げられた数字から、どのくらいの幅を考えればよいのですか?
進行がんの研究では、6割強の人が予測の半分から2倍の範囲に入り、3倍以上長く生きた人も14%いました。

21人の腫瘍内科医が、進行がんの患者さん114人について「同じ状態の患者さんの生存期間中央値」を見積もり、実際と比べた研究です(Kiely ほか. J Clin Oncol 2013)。実際の生存期間の中央値は11か月でした。
| 実際の生存期間(予測に対して) | 割合 |
| 予測の1/4以下 | 6% |
| 予測の半分〜2倍 | 63% |
| 予測の3倍以上 | 14% |
| 予測より長かった人(全体) | 61% |
予測の0.67〜1.33倍に収まった「ほぼ一致」は29%でした。一点の数字としては外れることが多くても、中央値として扱えば、その数字から幅を読み取れるということです。
研究者たちはこれをもとに、余命を一つの数字ではなく3つの見通しとして伝える方法を示しています。半分〜2倍を「典型」、1/4以下を「最悪」、3倍以上を「最良」とするものです。
終末期の研究では長く見積もる側に外れていたのに対し、この研究では61%の人が予測より長く生きていました。対象の段階も研究の方法も違うため、二つを単純に比べることはできません。
余命は、本人と家族にどう伝えられるのですか?
本人より家族に先に、あるいは家族だけに伝えられることがあります。
ホスピス・緩和ケア病棟で亡くなった患者さんの遺族409人に尋ねた調査(2007年実施)では、家族の86.3%が余命の説明を受けていた一方、本人が余命を伝えられていたのは53.5%でした(吉田ほか「患者・家族の希望を支えながら将来に備える」ための余命告知のあり方)。
本人にも伝えた場合のうち25.5%では、家族が聞いた内容より、本人にはあいまいな、または楽観的な内容が伝えられていました。
| 遺族の受け止め | 割合 |
| 説明は将来への準備に役立った | 57.2% |
| 説明で希望を失ったと感じた | 50.6% |
| 情報の量はちょうどよかった | 50.1% |
| もっと情報がほしかった | 33.5% |
世界医師会のリスボン宣言は、患者が必要に応じて「自分に代わって情報を受ける人を選択する権利」を持つとしています(世界医師会「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」1995年改訂、日本医師会訳)。誰に、どこまで伝えてほしいかは、本人が決めてよいことです。
厚生労働省のガイドラインも、本人による意思決定を基本とし、家族等の信頼できる人も含めて話し合いを繰り返すことを求めています(厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」2018年改訂)。
余命を聞かないことはできますか?
できます。患者には、明確に求めれば情報を知らされない権利があります。
リスボン宣言は、他人の生命を守るために必要な場合を除き、患者は「その明確な要求に基づき情報を知らされない権利を有する」としています。
聞かないと決めても、あとから聞くことはできます。厚生労働省のガイドラインは、本人の意思は変わりうるものとして、話し合いを繰り返すことを重視しています。
数字は聞かずに、「この先どんな変化が起こりうるか」「次に治療を見直す節目はいつか」だけを尋ねるという聞き方もあります。
余命を告げられたら、何を確かめればよいですか?
数字そのものより、その数字の根拠と幅、次の節目を確かめると、数字の意味がはっきりします。
- その数字は中央値か。どんな人たちのデータにもとづいているか
- 「最悪」「典型」「最良」の3つの見通しでは、それぞれどのくらいか
- 次に治療を見直す節目は、いつごろか
- 症状や体の状態が変わったら、見立てはどう変わるか
聞いた数字を一人で受け止めきれないときは、がん相談支援センターに相談できます。全国のがん診療連携拠点病院などにあり、患者さんも家族も、その病院にかかっていない人も、無料・匿名で利用できます(国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センター」)。担当医に代わって治療を判断する場所ではありませんが、気持ちを話すためだけに利用することもできます。
余命の数字は、同じような人たちの経過を一点に縮めたものです。その一点のまわりには幅があり、自分がその幅のどこに入るかは、告げられた時点ではまだ決まっていません。
監修

新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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よくある質問
余命宣告はいつされますか?
決まった時期はありません。進行や再発がわかって治療を受けている時期、治療の方針を見直すとき、終末期など、病状の段階と本人の希望によって話題になります。医師向けの研修(SHARE)でも、余命は患者の希望があれば取り上げる話題とされています。
余命宣告は当たりますか?
終末期の研究(Christakis, Lamont. BMJ 2000)では、予測が実際の±33%以内に収まったのは20%で、63%は長く見積もりすぎていました。予測は一点の数字としては外れやすく、幅をもって受け取る必要があります。
余命3か月と言われたら、3か月で亡くなるのですか?
その数字が中央値なら、同じような状態の人の半分は3か月より長く生きます。進行がんの研究(Kiely ほか. J Clin Oncol 2013)では、実際の生存期間が予測の半分から2倍の範囲に入った人が63%、3倍以上だった人が14%いました。
余命を本人に伝えないことはありますか?
あります。緩和ケア病棟の遺族調査(2007年)では、家族の86.3%が余命の説明を受けた一方、本人が伝えられていたのは53.5%でした。本人には、自分に代わって情報を受ける人を選ぶ権利があります。
余命宣告を聞きたくないときはどうすればいいですか?
担当医に、余命の数字は聞きたくないと伝えることができます。患者には明確に求めれば情報を知らされない権利があり(世界医師会リスボン宣言)、気持ちが変われば、あとから聞くこともできます。
参考文献
- Christakis NA, Lamont EB. Extent and determinants of error in doctors’ prognoses in terminally ill patients: prospective cohort study. BMJ 2000;320:469-473
https://www.bmj.com/content/320/7233/469 - Glare P, et al. A systematic review of physicians’ survival predictions in terminally ill cancer patients. BMJ 2003;327:195
https://doi.org/10.1136/bmj.327.7408.195 - Kiely BE, et al. The median informs the message: accuracy of individualized scenarios for survival time based on oncologists’ estimates. J Clin Oncol 2013;31(28):3565-3571
https://doi.org/10.1200/JCO.2012.44.7821 - Morita T, et al. The Palliative Prognostic Index: a scoring system for survival prediction of terminally ill cancer patients. Support Care Cancer 1999;7:128-133
https://doi.org/10.1007/s005200050242 - Pirovano M, et al. A new palliative prognostic score: a first step for the staging of terminally ill cancer patients. J Pain Symptom Manage 1999;17(4):231-239
https://doi.org/10.1016/S0885-3924(98)00145-6 - 吉田沙蘭ほか「「患者・家族の希望を支えながら将来に備える」ための余命告知のあり方」遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(J-HOPE)付帯研究(2007年調査)
https://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/j-hope/J-HOPE_3_11.pdf - 藤森麻衣子ほか「サイコオンコロジーとコミュニケーション技術研修会(CST)」ホスピス緩和ケア白書2018
https://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2018/2018-1-4.pdf - 世界医師会「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」(1995年改訂、日本医師会訳)
https://www.med.or.jp/doctor/international/wma/lisbon.html - 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」2018年3月改訂
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf - 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センター」2022年11月7日更新
https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/cisc/cisc.html




