がん悪液質とは?痩せるのは食べる量のせいだけではない

がん悪液質は、食べる量の減少と体の代謝の異常が重なって、筋肉が減っていく状態です。
通常の栄養療法だけでは、完全には回復できないと定義されています。

がんが進むにつれて体重が落ちていくと、家族は「食べないから痩せる」と考え、食事に力を尽くそうとします。この記事では、がん悪液質の定義と診断基準、3つの段階、日本で使える薬アナモレリンの対象と限界、そして家族が食事のことで抱えやすい悩みを、国際的な合意、国内の学会のガイドライン、臨床試験と調査の数字で整理します。

がん悪液質とは、どんな状態ですか?

骨格筋の量が減り続け、通常の栄養療法では完全に回復できず、体の機能が落ちていく、複数の要因が重なった症候群です。

この定義は、2011年に各国の専門家が合意した国際コンセンサスのものです(Fearon K, et al. Lancet Oncol. 2011)。日本栄養治療学会のガイドラインも、この定義を採っています(日本栄養治療学会「がん患者診療のための栄養治療ガイドライン2024年版 総論編」2024年)。

定義の中心にあるのは、体重よりも筋肉です。脂肪が減るかどうかにかかわらず、骨格筋が減り続けることが特徴とされています(同)。

国際コンセンサスは、悪液質の人を評価するときに見る領域として、次の4つを挙げています(Fearon 2011)。

  • 食欲不振、または食べる量の減少
  • 体の分解が進んでいる状態(異化)
  • 筋肉の量と筋力
  • 体の機能や、心理・社会面への影響

どれくらいの人に起きるかについて、日本栄養治療学会のガイドラインは、がん患者の低栄養を25〜70%、診断の時点で体重が減っている人を15〜40%としています(2024年)。これは低栄養や体重減少の割合で、悪液質の診断基準で数えた数字ではありません。

食べる量が減っただけの体重減少と、何が違いますか?

悪液質では、食べる量の減少に、代謝の異常が重なっています。どちらがどれだけ効いているかは、人によって違います。

がん悪液質のしくみを示す図。食べる量の減少と、エネルギー消費の増加・過剰な異化・炎症という代謝の異常が重なり、たんぱく質とエネルギーの収支がマイナスに傾いて骨格筋が減り続け、体の機能が落ちていく
体重が減る理由は、食べる量の減少だけではない。代謝の異常が重なり、その割合は人によって違う。
出典:Fearon K, et al. Lancet Oncol. 2011/Baracos VE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2018

国際コンセンサスは、悪液質の体を、たんぱく質とエネルギーの収支がマイナスに傾いた状態と説明しています。その原因は「食べる量の減少と代謝の異常の、さまざまな組み合わせ」です(Fearon 2011)。

代謝の異常として挙げられているのは、エネルギー消費量が増えること、体を分解する働き(異化)が過剰になること、炎症です(Baracos VE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2018)。筋肉などの組織では、たんぱく質の分解、炎症反応、脂肪の分解などが活発になっています(同)。

日本栄養治療学会のガイドラインは、がんに伴う低栄養を「単純な低栄養とは異なり」、エネルギーの収支の不均衡と骨格筋の減少が特徴だとしています。そしてこの代謝の異常のために、通常の栄養治療では補いきれないと書いています(2024年)。

悪液質の定義に「通常の栄養療法では完全に回復することができず」と入っているのは、このためです。

ただし、栄養が要らないという意味ではありません。悪液質を完全に改善する医療介入が今のところないなかで、適切な栄養サポートは重要だとされています(Baracos 2018)。「完全には戻らない」と「食べても意味がない」は、別のことです。

食事の具体的な工夫は、がんのとき何を食べればいいかの記事にまとめています。

どうなったら、がん悪液質と診断されますか?

国際コンセンサスでは、過去6か月で5%を超える体重減少があれば、がん悪液質と診断されます。

当てはまる人 体重減少の基準(過去6か月)
下の2つに当てはまらない人 5%を超える
BMIが20未満の人 2%を超える
サルコペニア(筋肉の減少)がある人 2%を超える

3つのうち1つに当てはまれば、がん悪液質と診断されます(Fearon 2011、日本栄養治療学会 2024年)。体重60kgの人なら、5%は3kgです。

すでに痩せている人や筋肉の少ない人は、少しの減少でも基準を満たします。日本栄養治療学会のガイドラインは、日本人のサルコペニアの判定にはアジアの基準(AWGS 2019)を使うよう勧めています。握力が男性28kg未満、女性18kg未満といった値が含まれます(2024年)。

アジアの診断基準は、何が違いますか?

2023年には、アジアの専門家グループ(AWGC)が、アジア人向けの悪液質の診断基準を公表しました(Arai H, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023)。

  • 慢性の病気があること
  • 3〜6か月で2%以上の体重減少、またはBMIが21未満(どちらか、または両方)
  • さらに、食欲不振や握力の低下などのうち1つ以上

体重減少の基準が、国際コンセンサスの5%からアジアの基準では2%に下がっています。同じ人でも、どの基準で見るかによって、悪液質と呼ばれるかどうかが変わりえます。

悪液質には、どんな段階がありますか?

前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3つの段階に分けられます。

国際コンセンサスは、悪液質を、前悪液質から悪液質、不応性悪液質へと進んでいく連続したものとしています(Fearon 2011)。

段階 どんな状態か
前悪液質 悪液質の診断基準を満たす前の段階
悪液質 上の診断基準を満たす状態
不応性悪液質 悪液質の基準に加えて、体の分解が優位で治療に反応せず、全身状態(WHOのパフォーマンスステータス)が3〜4、予後予測が3か月未満の状態

不応性悪液質の条件は、日本緩和医療学会の学会誌に載った解説によります(Amano K, Morita T. Palliative Care Research. 2018)。

「3か月未満」は、分類の条件です

不応性悪液質に入っている「予後予測3か月未満」は、その段階に分類するための条件の一つです。悪液質と言われた人の余命を示す数字ではありません。また、前悪液質の人のうち誰が、どれくらいの速さで次の段階に進むかは、この分類からは読み取れません。余命の数字の読み方は、余命宣告とは何かの記事で扱っています。

悪液質に、治療はありますか?

悪液質を完全に元に戻す治療は、今のところありません。日本では2021年に、食欲不振と体重減少の改善を目的とした薬が承認されています。

2018年の総説は、がん悪液質を完全に改善する効果的な医療介入はなく、承認された薬物療法もないとしていました(Baracos 2018)。日本栄養治療学会のガイドライン(2024年)は、栄養治療とあわせて、薬物療法と運動療法(リハビリテーション)の章を設けています。

アナモレリンは、どんな人が対象ですか?

アナモレリン塩酸塩(商品名エドルミズ)は、2021年1月22日に日本で承認されました。対象は、切除できない進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんのがん悪液質です(小野薬品工業「エドルミズ錠50mgの適正使用に関するお願い」2021年)。

項目 使用の条件
がんの種類 切除できない進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がん
体重と食欲 6か月以内に5%以上の体重減少と食欲不振がある
さらに2つ以上 ①疲労または倦怠感 ②全身の筋力低下 ③CRP 0.5mg/dL超、ヘモグロビン12g/dL未満、アルブミン3.2g/dL未満のいずれか1つ以上
前提 栄養療法などで効果が不十分
使わない人 食事を口からとるのが難しい人、消化吸収がうまくいかない人
効果の確認 飲み始めて3週目を目安に、体重の維持・増加も食欲の改善もなければ、中止が望ましい

12週間を超えて使った経験はないため、体重や食欲を確かめながら、続ける必要があるかを定期的に検討することとされています。全身状態(PS)が3以上(膵がんでは2以上)の人や、4か月以上の生存が見込めない人は臨床試験で除外されており、使うかどうかを慎重に検討することとされています(同)。

薬で戻ったものと、戻らなかったものは何ですか?

日本人の非小細胞肺がんの悪液質患者174人を対象にした臨床試験では、12週間で除脂肪体重(脂肪を除いた体重)がアナモレリン群で平均1.38kg増え、偽薬群では0.17kg減りました。食欲不振の症状も改善しています(Katakami N, et al. Cancer. 2018)。

+1.38kg

アナモレリンを12週間飲んだ群で増えた、除脂肪体重の平均。
握力と6分間に歩ける距離は、偽薬と差がなかった。

Katakami N, et al. Cancer. 2018(日本人の非小細胞肺がん174人)

同じ試験で、握力と6分間に歩ける距離には、偽薬と差がありませんでした。著者らは、運動の機能は改善しなかったと結論しています(同)。

欧州医薬品庁(EMA)は2017年、この薬の販売承認を認めませんでした。除脂肪体重への効果はわずかで、握力や生活の質への効果は証明されていない、という判断です。臨床試験の安全性のデータの記録が不十分だったことも、理由に挙げられています(EMA「Adlumiz」2017年)。

体重や食欲が戻ることと、筋力や体の動きが戻ることは、同じではありません。日本での承認は食欲不振と体重減少の改善を目的としたもので、効果の確認も体重と食欲で行います(小野薬品工業 2021年)。

家族は、食事のことでどう向き合えばよいですか?

悪液質による体重減少は、食事の工夫だけでは完全には戻せないとされています。家族がそのことを知っておくことが出発点になります。

日本の133のホスピス・緩和ケア病棟で亡くなったがん患者の遺族702人が答えた調査があります(Amano K, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2016)。食事について、次のことを「ときどき」から「よく」経験したと答えています。

家族が経験したこと 割合
カロリーや栄養を考えず、本人が食べたいものを出した 75.1%
いろいろな種類の食事を作ってみた 63.0%
毎日の献立に悩んだ 59.4%
栄養が足りないせいで病状が悪くなったと感じた 50.9%
本人が、作った食事を負担に感じていると思った 23.1%
本人に無理に食べさせたと感じた 19.3%
本人が、自分のためでなく家族を喜ばせるために食べていると感じた 16.9%

半数の家族が「栄養が足りないせいで悪くなった」と感じていました。けれども悪液質の体重減少は、食べる量だけで決まるものではありません(Fearon 2011)。

この調査を含む研究を解説した論文は、食欲がなくなるのは避けられない面があることを家族が受け止めにくく、本人は家族の期待に応えられないと感じ、食をめぐる対立が起きやすいと書いています(Amano & Morita 2018)。

亡くなるのを避けようとして無理に食べさせたと頻繁に感じていた家族は、そうでない家族に比べて、うつ状態との関連がありました(オッズ比2.51、Amano 2016)。

同じ調査で、遺族の72.2%が医療者からの栄養の支援を、41.4%が食欲不振と体重減少の理由の説明を望んでいました。著者らは、食欲不振と体重減少の理由を十分に説明することが、家族の苦しさを和らげる可能性があるとしています(同)。

食をめぐるこうした苦しさは、緩和ケアと栄養サポートの対象として研究されています(Amano & Morita 2018)。緩和ケアを受けられる時期は、緩和ケアはいつから受けられるかの記事で説明しています。

遺族が振り返って答えた数字です

この調査は、亡くなったあとに遺族が振り返って答えたもので、記憶に頼っています。対象はホスピス・緩和ケア病棟で亡くなった人の家族に限られ、質問票は検証済みのものではありません。示しているのは関連であって、原因ではありません(Amano 2016)。

体重計の数字が下がっていくとき、家族は献立を変え、量を増やそうとします。悪液質の定義が示しているのは、その数字が食卓の努力だけで決まっているわけではない、ということです。どの段階にあるのか、薬は何を目的にしたものなのかを主治医に確かめることは、食事の悩みを家族だけで抱えないための一つの方法です。

監修

新見正則医院院長 新見正則

新見正則(にいみ まさのり)

新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。

日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)

詳しいプロフィール

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早期がん、リンパ節転移のある進行がん、転移のあるがんで治療の目標を分け、腫瘍の量を減らして残りは免疫力で抑え、がんと共存するという考え方を示しています。陽子線・重粒子線、抗体薬物複合体、CAR-T、光免疫療法などの新しい治療にも触れ、治療を行って長生きできる場合にのみ積極的に治療をすべきだ、と医師の立場から主張するブログです。

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よくある質問

がん悪液質の診断基準は?

2011年の国際コンセンサスでは、過去6か月で5%を超える体重減少、BMI20未満で2%を超える体重減少、サルコペニアがあって2%を超える体重減少、のいずれかに当てはまる場合です。2023年にはアジア人向けに、3〜6か月で2%以上の体重減少かBMI21未満を軸にした基準も出ています。

がん悪液質は、食べれば治りますか?

通常の栄養療法だけでは完全には回復できないと定義されています。食べる量の減少に、エネルギー消費の増加や炎症などの代謝の異常が重なっているためです。ただし、適切な栄養サポートは重要とされています。

がん悪液質の薬はありますか?

日本では2021年1月にアナモレリン(商品名エドルミズ)が承認されました。対象は切除できない進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんのがん悪液質で、6か月以内に5%以上の体重減少と食欲不振があることなどが条件です。

不応性悪液質とは?余命はどれくらいですか?

悪液質の基準に加えて、体の分解が優位で治療に反応せず、全身状態(PS)が3〜4、予後予測が3か月未満の状態を指します。3か月未満はこの段階に分類するための条件で、一人ひとりの余命を示す数字ではありません。

食べられない家族に、無理にでも食べさせたほうがいいですか?

悪液質による体重減少は、食事だけでは完全には戻せないとされています。遺族への調査では、19.3%が本人に無理に食べさせたと感じ、41.4%が食欲不振と体重減少の理由の説明を望んでいました。理由の説明や栄養の支援を、医療者に求めることができます。

参考文献

  1. Fearon K, Strasser F, Anker SD, et al. Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus. Lancet Oncol. 2011;12(5):489-495.
    https://doi.org/10.1016/S1470-2045(10)70218-7
  2. 日本栄養治療学会「がん患者診療のための栄養治療ガイドライン2024年版 総論編」(2024年9月30日発行)
    https://www.jspen.or.jp/guidelline2024pdf
  3. Baracos VE, et al. Cancer-associated cachexia. Nat Rev Dis Primers. 2018;4:17105.
    https://www.nature.com/articles/nrdp2017105
  4. Arai H, Maeda K, Wakabayashi H, et al. Diagnosis and outcomes of cachexia in Asia: Working Consensus Report from the Asian Working Group for Cachexia. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2023;14(5):1949-1958.
    https://doi.org/10.1002/jcsm.13323
  5. 小野薬品工業「エドルミズ錠50mgの適正使用に関するお願い」(2021年1月22日策定)
    https://www.jrs.or.jp/information/file/20210122_adlumiz.pdf
  6. Katakami N, Uchino J, Yokoyama T, et al. Anamorelin (ONO-7643) for the treatment of patients with non-small cell lung cancer and cachexia: results from a randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter study of Japanese patients (ONO-7643-04). Cancer. 2018;124(3):606-616.
    https://doi.org/10.1002/cncr.31128
  7. European Medicines Agency. Adlumiz: Refusal of the marketing authorisation(2017年)
    https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/adlumiz
  8. Amano K, Maeda I, Morita T, et al. Eating-related distress and need for nutritional support of families of advanced cancer patients: a nationwide survey of bereaved family members. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2016;7(5):527-534.
    https://doi.org/10.1002/jcsm.12102
  9. Amano K, Morita T. 進行がん患者と家族の食に関する苦悩への緩和ケアと栄養サポート. Palliative Care Research. 2018;13(2):169-174.
    https://doi.org/10.2512/jspm.13.169

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