腫瘍内科

がんの漢方治療

がんの漢方治療

1993年から1998年まで英国オックスフォード大学博士課程に留学し免疫学でオックスフォード大学の医学博士 (D.Phil.) を取得しました。そして帰国後にセカンドオピニオン外来を本邦で最初に保険診療で大学病院にて行いました。同時に漢方薬の勉強を始めて、なんと四半世紀が経過しました。

僕の使命のひとつはがんに効く漢方薬の探究でした。漢方薬は生薬の足し算です。まず、三和生薬株式会社の十全大補湯の保険病名にはなんと今でも「白血病」が記載されています。白血病に対して十全大補湯が効くことになっています。しかし、白血病そのものを退治する効果があるのか、または白血病に合併する症状を楽にするかなどのデータは添付文書に一切記載されていません。この理由は、漢方薬が実は西洋薬剤の保険収載に必須とされている臨床試験を経ずに保険収載されているからです。1980年頃までに製造メーカーから申請され、そして認可されたものは超法規的に臨床試験を経ずに、「経験的に漢方薬は効いていたから」という認識のもと保険収載されたのです。

僕が医師になったのは1985年です。その頃の血液内科の授業では、白血病の原因も不明で、分類も治療に則したものではありませんでした。「ひとつの細胞からいろいろな細胞が分化する」という今では当然のストーリーさえ否定されていた授業でした。その当時、十全大補湯を白血病に使用してなんらかの御利益があったために保険収載となっています。残念ながら、白血病そのものに十全大補湯が有効と思っている血液内科の専門医はいないと思います。

僕が外科医をこころざした1985年は抗がん剤治療の夜明け前でした。第1回のノーベル物理学賞に輝いたレントゲン博士は放射線のX線を発見しました。このX線に抗がん作用があることは当時から知られていましたが、現在のようにがんの3大治療(外科治療、抗がん剤、放射線治療)のひとつにはなっていませんでした。外科治療のみが固形癌の治療の王道で、いかに外科治療を工夫してがん患者さんの予後を改善するかが望みの綱でした。

抗がん剤の起源は、第2次世界大戦で使用された毒ガスであるマスタードガスに抗がん作用があると偶然に解ったからです。その後、いろいろと抗がん剤は研究開発されましたが、固形癌に有効とは僕が外科医になった当時、多くの外科医は思っていませんでした。

ところが乳がんで抗がん剤の効果が確認され、そして乳がんは局所の病気と言うよりも全身病であるとの説を唱えたフィッシャー医師の考え方を支持する人が1980年以降増えていきます。外科治療を工夫しても局所の対応しかできません。むしろ全身のがん細胞の芽を摘む抗がん剤の適切な使用が大切だという現在では当たり前の考え方です。そして乳がん領域では1998年にHER2タンパク質に対する分子標的薬であるハーセプチンが登場し、21世紀に向けた新しいがん治療の幕開けとなりました。

21世紀になり、外科治療(手術)の死亡率は以前に比べて激減し、放射線治療の機械も格段に進歩し、また抗がん剤も多種多様になりました。そんな中で僕は明らかに抗がん作用がある漢方薬を「外科医xサイエンティストx漢方医」の立場から懸命に探していました。白血病の保険病名を有する十全大補湯は確かにがん患者さんのいろいろな症状の緩和には役に立つことが多いという事実は体感しました。しかし十全大補湯が明らかにがんに効くという実感も得られず、また十全大補湯を含めた漢方薬が直接がんに有効だとする臨床試験もまったく登場していません。

米国腫瘍学会のエビデンスピラミッドは5段階になっています。わかりやすくザックリと説明すると、一番エビデンスレベルが低いもの、つまり上から5番目は動物実験です。いくら動物に効いてもヒトに実際に有効かは解らないのです。しかし、動物実験からヒントを得て薬剤の開発は進みます。エビデンスレベルの上から4番目は1例報告です。あるヒトに効いたという実臨床の経験です。しかし、僅か1例なので他の要因による効果の可能性も否定できず、説得力には欠けるのです。エビデンスレベルが上から3つ目は、たくさんの症例数で治療を行った群と行わなかった群を分けて比べるものです。これは1例報告よりは遙かに説得力があります。問題点は、ランダム化されていないことです。ランダム化とはクジ引きのことで、患者さんや医療サイドは、ある治療を行うとそれが効いたと思いたくなるのです。そんな恣意的な印象を排除するためにランダム化された臨床試験が必須とされます。エビデンスレベルが上から二つ目は症例数のすくないランダム化された臨床試験、エビデンスレベルの頂点は症例数が多いランダム化された臨床試験です。通常は1000例以上です。

さて、エビデンスレベルの最上位はランダム化された大規模臨床試験ですが、実はもっと上位のものがあります。それはす誰の目にも明確に有効な薬剤です。世界初の抗生物質であるペニシリンはランダム化された大規模臨床試験を行っていません。ペニシリンの大量生産が可能となって、第2次世界大戦の戦地にペニシリンが送られ、傷口からばい菌(細菌)が入って敗血症になって死ぬはずであった兵士が、みるみる回復したからです。ですから、思い込み(プラセボ効果とも言われます)を排除する必要がないほど抜群の効果を示せばランダム化された大規模臨床試験などは実は不要なのです。

さて、残念ながら、この四半世紀保険適用で抗がん作用のある漢方薬や生薬を必死に探究してきましたが、どれも症状や副作用の緩和には役に立つ程度の補助的に有効なものでした。ところが僕が偶然も重なって辿り着いた生薬フアイアはなんと1000例規模のランダム化された大規模臨床試験生存率で勝ち抜きました。肝臓がん手術後の患者さんをフアイア内服群と非内服群にクジ引きで割り付け、そして生存率で明らかに有効でした。この論文は2018年の一流英文誌「GUT」に掲載されました。その後乳がんでもランダム化された臨床試験を勝ち抜きました。これでフアイアは世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬(漢方薬)になったのです。当院は生薬フアイア単独またはフアイアに漢方薬を加えてオーダーメイド治療を行っています。薬代は1日1100円からです。そして副作用は希に起こる下痢のみです。

標準治療は「今ある最良の治療」です。がんの3大治療である外科治療、抗がん剤、そして放射線治療が主軸です。僕もまず標準治療をお勧めします。しかし、標準治療には実は近い将来の治療は含まれていません。サイエンティストとして思うことは医療の進歩です。その進歩はZeroから始まります。漢方薬や生薬もまったくがんに無効であたった時代から、なんとランダム化された大規模臨床試験で勝ち抜くものが登場する時代になりました。ですから最新のファーストチョイスは「標準治療+フアイア」です。益々の漢方の発展を期待して、そして僕自身も漢方と生薬の探究に今後も励んで、患者さんのお役に立てる仕事を精力的にしていきたいと思っています。

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まずフアイアを試してみたい時には

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