自己免疫疾患とは免疫システムが過剰に反応し、自分の組織を攻撃することによって生じる病気です。免疫、神経、ホルモンの3つが体全体の調節には必須のシステムです。
神経は電気信号で体に張り巡らされた電線のイメージです。その電線を通じて生きるために必要な信号のやりとりをしています。脳内の神経システムの解明はまだまだですが、脳以外の神経システムの解明はほぼ完了しています。自律神経は交感神経と副交感神経のことで、自律神経のネットワークもほぼ解明されています。
ホルモンは血液の中を流れる手紙のようなイメージです。差出人の細胞があり、受取手の細胞があります。ホルモンというタンパク質はほぼ同定され、ホルモンによる体の制御システムもほぼ解明されています。
そして免疫システムですが、こちらはまだまだ発展途上の段階です。100年後、2023年を顧みると「解っていないことがたくさんあった!」と言われるのだろうと思っています。免疫はからだを自分以外(非自己)から守るシステムの総和です。神経が電線で、ホルモンが書簡のイメージで説明可能ですが、免疫はいろいろなシステムの総和なので医療従事者でも理解するのが容易ではないのです。
人間のからだはいろいろな細胞でできあがっています。神経システムを担うのは神経細胞です。ホルモンシステムを担うのはホルモン産生細胞です。免役システムを担うのは免疫細胞です。主に自然免疫に関わる細胞群、B細胞、T細胞、そしてその他の免疫細胞が免役システムを構成するキャストです。
自然免疫は警察官のイメージで体の中の非特定な異物(非自己)を察知して、それを除去しています。B細胞とT細胞が関わる免役システムは獲得免疫と呼ばれて、特定の異物(非自己)を察知すると、その特定の異物に対応する細胞がたくさん増えて(クローン増殖して)、そしてそんな攻撃があったことを記憶して(メモリー細胞になり)、将来に亘ってしっかりと防御システムを強化するのです。ここで自己と非自己が大切なキーワードになります。B細胞とT細胞とも、いろいろなバリエーションのタンパク質に対する無限に近い攻撃システムを作り出して、そしてその中から自分のタンパク質(自己)に反応するB細胞やT細胞は消去されて(Clonal deletion)、自己を攻撃することがないようにセットアップされているのです。そしてClonal deletionをくぐり抜けた自己を攻撃する細胞は免疫制御細胞などにより自己に反応しないように抑え込まれています。
この自己を攻撃しないようにセットアップされている免役システムが異常をきたして、自己のタンパク質を攻撃するようになった病態が自己免疫疾患です。代表的な自己免疫疾患は、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(強皮症)、皮膚筋炎、多発性動脈炎、慢性甲状腺炎(橋本病)、重症筋無力症、自己免疫性肝炎、自己免疫性膵炎などがあります。
最近は免疫力をアップさせる薬剤が登場しました。免疫チェックポイント阻害剤で、この業績で開発者の本庶佑先生は2018年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。この免疫チェックポイント阻害剤の登場で、がん治療は新しい段階に入りました。「免疫力をアップさせる」という以前は怪しいと思われていた文言が、正しい文言として認識されました。そしてこの体の免疫力を全体としてアップさせる薬剤はほぼすべてのがんに有効と思われ、現在でもいろいろながんで臨床試験が進行中です。
そこで問題も生じました。免疫力を全体的にアップさせるので、いままでは自己には反応しない程度の存在であった細胞群が、自己に対する攻撃を開始することがあるのです。免疫チェックポイント阻害剤があまりにも有効であったがゆえに生じた副作用なのです。
免役システムはまだまだ発展途上です。そして西洋医学の発展に支えられて自己免疫疾患の発症機序が解明され、治療薬もぞくぞくと登場しています。基本的に自己免疫疾患治療の最前線での漢方薬の出番はありません。しかし漢方薬は西洋薬の副作用の防止や、諸症状の緩和には有効なことがあります。
ところが生薬フアイアは免疫チェックポイント阻害剤と同じような効果があります。免疫力を明らかにアップさせます。その明らかなエビデンスは2018年に英文医学雑誌GUTに報告されました。約1000人の肝臓がん手術後の患者さんをくじ引きでフアイアの内服群と非内服群に分けたところ、内服群は明らかに生存率が向上していました。このフアイアも現在たくさんのがんに対して大規模臨床試験が進行中です。このフアイアが興味深いところは、基本的に免疫力をアップさせるのですが、あるタンパク質に対する免疫力が過剰に反応している場合は、それを抑え込むことができるのです。アトピー、花粉症、喘息、IgA腎症、皮膚病の乾癬などにもフアイアは有効です。つまりフアイアは免疫を中庸に保つことができるのです。
ですから、自己免疫疾患で難儀している患者さんにも当院ではフアイアの投薬を行っています。自己免疫疾患が落ち着き、そしてがんにもなりにくいという理想的な状態(免疫の中庸)を誘導できると思われるからです。