抗がんエビデンスを獲得したフアイアの重要成分であるプロテオグリカンTPG-1

糖鎖は第3の生命鎖と呼ばれます。糖鎖にコアタンパク質が加わったものはプロテオグリカンと呼ばれます。そして、第1の生命鎖は核酸の連続であるDNAです。第2の生命鎖がアミノ酸の連続であるタンパク質です。

第一の生命鎖であるDNAはアデニン、グアニン、シトシン、チミンという4つの核酸が一列に繋がったものです。この核酸の連続である第一の生命鎖にアミノ酸の連続であるタンパク質の情報が組み込まれています。

ヒトのたんぱく質を構成するアミノ酸は20種類です。

アミノ酸のうち9種類は体内で合成できないので体外から摂取する必要があり、必須アミノ酸と呼ばれます。バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、スレオニン、ヒスチジンの9種類です。

他の11種類は体内で合成できるもので、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸です。

DNAは4種類の核酸の連続です。核酸の2個のセットでは4x4の16種類しか対応できません。3個セットであれば、4x4x4の64種類に対応可能で、実際にDNAは4種類の核酸の3個のセットでそれぞれのアミノ酸に対応しています。この3個1組の核酸配列をコドンと称しています。この中にはアミノ酸には対応せず「終了」を意味する終止コドンが3つ含まれています。

DNAの核酸の繋がりが相補的で、二重らせん構造であることを発見した功績で、1962年にワトソンとクリックにノーベル医学・生理学賞が与えられています。相補的とはアデニンとチミン、グアニンとシトシンが相対するので、1本鎖のDNAに相対するもう1本のDNAが対で存在しているのです。この対のDNAが分かれ、再び相補的なDNAができることで遺伝情報が分裂した細胞に次々に継承されることになります。

第3の生命鎖である糖鎖の研究は始まったばかりです。糖鎖はグルコース、ガラクトース、マンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、フコース、キシロース、シアル酸などの単糖類やマルトース、ラクトースなどの二糖類が繋がったものですが、こちらはDNAやタンパク質のような1本鎖ではなく、途中で枝分かれをする複雑な分子構造になっています。そのために21世紀に入るまで研究が進んでいませんでした。糖鎖研究の難しさは、質量分析器では長い糖鎖のすべてを解析できず、どの糖がどの順番でどのような構造で繋がっているかの解析が容易ではないことなどから、今後の課題になっています。

この第3の生命鎖である糖鎖にコアタンパク質が結合したものはプロテオグリカンと呼ばれ、プロテオグリカンのひとつであるTPG-1がフアイアの重要成分であるという論文が、2019年のJournal of Biochemistryという歴史があり由緒正しい英文誌に発表されています。Journal of Biochemistryは生化学の分野では必読の雑誌になっています。タイトルを和訳すると「医療用キノコであるフアイアから分離された免疫を刺激するプロテオグリカンはToll-like receptor 4を介してNF-kB とMAPK のシグナルを増幅させる」というものです(原文はこちら)。

肝臓がん手術後の1000例規模の大規模診療試験で、世界ではじめて抗がんエビデンスが明らかとなった生薬フアイアに関心が高まっています。この結果は2018年の英文誌GUTに掲載されました。フアイアはエンジュの老木に生えるキノコのなかで特に免疫調整作用が優れているTrametes robiniophila Murrを示します。天然のフアイアはほぼ取り尽くされ、現在ではフアイアの菌糸体を工場内で培養し、精製されたエキスがフアイア顆粒とて流通しています。1980年代に肝臓がんを消失させたことで一躍脚光を浴び、1992年には抗がん新薬として中国では認められました。フアイアの主成分はながくポリサッカライドと思われており、TP-1などが知られていました。

今回の論文では、糖鎖+コアタンパク質からなるプロテオグリカンであるTPG-1がフアイアから分離され、その分子構造や免疫調整作用が詳細に論じられています。まず分離されたTPG-1は分子量が約5万6000にも及び、炭水化物が約43.9%、そしてたんぱく質が41.2%です。そして、免疫調整作用の中心的機序はToll-like receptor 4(TRL-4)を介して自然免疫を調節することでした。TRL-4などが関与する自然免疫は免疫のフロントラインであると同時にB細胞やT細胞が関与する獲得免疫を調節する働きも担っています。ある意味免疫の司令塔を司るのが自然免疫のシステムです。自然免疫を担当する細胞がB細胞やT細胞に抗原提示をするからです。

それらにTRL-4を介して働くからこそフアイアで免疫調整作用が誘導されるのでしょう。いわゆる免疫が低下して生じる悪性腫瘍や感染症にフアイアは有効です。一方でステロイドの投与で軽快するような病態、つまり免疫が亢進している状態であるIgA腎症、皮膚病の乾癬、喘息、アトピー、不妊症などへの有効性も報告されています。

この論文では、TPG-1の動物を用いた抗がん作用も示されています。マウスを用いた実験で、TPG-1は実臨床で頻用される抗がん剤のひとつである5-FUと同程度の抗腫瘍効果を認めました。一方で、TPG-1には5-FUに認められた副作用である体重増加の抑制などはありませんでした。さまざまな領域で免疫の調節作用を目的として臨床応用されているフアイアの重要成分のひとつが、今回発見された糖鎖を含むプロテオグリカンに分類されるTPG-1という物質です。ますますの臨床応用が期待される結果です。

PAGE TOP