確かめることは3つです。どれだけの御利益があるか、どんな負担があるか、いくらかかるか。
がんの患者さんの44.6%が、何らかの補完代替療法を使っています。そのうち96.2%は健康食品やサプリメントです(Hyodo I, et al. J Clin Oncol. 2005)。それを選ぶかどうかを自分で決めるための、3つの物差しを整理します。
この記事の内容
なぜ、情報がこれほど食い違うのですか?
判断の材料が足りないまま、双方が結論を出しているからです。
日本の臨床腫瘍医への全国調査では、82%が健康食品類はがんに無効だと考えていました。ただし、その理由の第1位は「信頼できる情報がない」で、85%です。効かないと証明されたから、ではありません。84%が抗がん剤との相互作用を心配し、80%が「勧めることも、やめるよう言うこともできない」と答えています(Hyodo I, et al. Cancer. 2003)。
まとまった資料は、日本緩和医療学会の『がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版』です。この本は推奨度を設定しておらず、報告されているエビデンスを集めた資料集として作られています。推奨しないと書いた本ではありません。そして2016年6月の発行以降、改訂されていません。
患者の側は使っている。医師の側は判断材料がないと感じている。共通の資料は10年前で止まっている。だから自分で確かめる物差しが要ります。
何を確かめればよいのですか?
3つです。
| 物差し | 見るところ |
| エビデンス | どんな試験で、何を測って、対照群とどれだけ差がついたか |
| 副作用 | 対照群より何が増えたか。それが生活のどこに響くか |
| 費用 | 続けたときに、自分の生活が成り立つか |
見る順番は、副作用と費用が先です。その2つが小さければ、エビデンスが最高水準でなくても試す余地が残ります。どちらかが大きいなら、エビデンスを厳しく確かめることになります。
エビデンスは、どこを見ますか?
試験の型、評価項目、対照群との差の3点です。
試験の型には順序があります
もっとも強いのは、患者も医師もどちらの群かわからない二重盲検ランダム化比較試験です。盲検化のないランダム化試験、くじ引きをしない2群の比較、症例報告、動物実験と続きます。
ここが誤解されます。試験の型が強いことと、効いたかどうかは別です。型は結果の信頼できる度合いであって、結果そのものではありません。強い試験で効かないと示されたものもあります。
反対に、「効果が証明されていない」には2つの場合があります。まだ十分に調べられていない場合と、調べた結果、差が出なかった場合です。前者は、効かないことが証明されたわけではありません。後者も、そのがんの種類、その使い方、その評価項目で差が出なかったということで、別の条件での効果まで否定するものではありません。
1つの医療機関の集計は、比較試験とは違います
自由診療の案内には、その医療機関で治療を受けた人の奏効率や「進行を抑えた割合」が載っていることがあります。こうした集計には、比べる相手がいないことが多く、体力があって治療を続けられた人ほど集計に残りやすくもなります。良い数字が治療の効果である可能性はあります。ただ、その数字だけでは、もともと経過の良い人が多かったこととの区別がつきません。
評価項目は、測っている場所が違います
腫瘍が縮んだかどうか、大きくならない期間、再発しない期間、生きている期間。これらは全部ちがう指標です。
短い指標で差がついても、長く生きたかどうかは別に確かめる必要があります。実際、そうなった試験があとで出てきます。
数字の読み方は奏効率とは?生存率との違いで詳しく扱っています。
差の大きさも確かめます
統計的に有意であることと、差が大きいことは違います。試験の規模が大きければ、わずかな差でも有意になります。
副作用は、どう見ますか?
対照群との差で見ます。
比較試験では、何も足していない群にも症状は出ます。だから「この治療を受けた人の何%に出た」という数字だけでは判断できません。確かめるのは、対照群と比べて何がどれだけ増えたかです。
そのうえで、生活のどこに響くかを見ます。数日で治まる下痢と、何か月も続いて買い物や金銭管理に支障が出るしびれでは、同じ発現率でも意味がまったく違います。
飲み合わせも副作用のうちです
成分によっては、薬を分解する体内の仕組みに影響して、治療薬の効き方を変えることがあります。前述のとおり、臨床腫瘍医の84%がこれを心配しています。飲んでいるものは主治医に伝えてください。
品質も確かめてください
食品には、医薬品のような製造管理の義務がありません。同じ名前の製品でも、中身の構成が違うことがあります。
これは農作物では避けられない性質です。同じ品種のじゃがいもでも、育った場所や保管の状態で中身は変わります。同じ果物でも甘いものと酸っぱいものがある。だから生薬には規格試験があります。
ただし規格試験は、閾値の確認です。重金属が限度値を超えていないか、指標となる成分が規定の幅に入っているか。合格か不合格かを判定するもので、中身の構成そのものを示すものではありません。
製品を選ぶときに確認できることは、次のとおりです。
- 製造管理の認証(GMPなど)を受けた工場で作られているか
- 重金属や残留農薬の検査を行っているか
- 原料がどこから来て、どう管理されているか
- 成分量が表示されているか
- 健康被害が起きたときの補償があるか(食品は医薬品副作用被害救済制度の対象外です)
費用は、いくらまでなら妥当ですか?
金額では決まりません。その支出を続けたときに、生活が成り立つかどうかです。
同じ月3万円でも、人によって意味がまったく違います。だから一律の目安は作れません。確かめるのは、1年続けたときの総額と、それでも暮らしが回るかどうかです。
かたちによっても負担が変わります。点滴や注射は医療機関でしか受けられないので、通院のたびに費用が発生し、回数だけ積み上がります。飲むものは自宅で続けられます。
保険が使える治療と保険外の治療を同じ一連の診療で組み合わせると、原則として保険の部分まで全額自己負担になります。制度はがんの治療費はいくらかかるかにまとめています。
費用の負担が生活や治療の続け方に響くことは、治療の副作用になぞらえて「経済毒性」と呼ばれることがあります(Zafar SY, et al. Oncology. 2013)。自由診療では、副作用が出たときの治療費も自己負担になります(がん情報サービス 2025年)。
3つを、どう組み合わせますか?
副作用と費用の大きさで、エビデンスの確かめ方が変わります。
副作用が生活に響かず、費用も負担にならないなら、失うものが小さいので、エビデンスが最高水準でなくても試す余地があります。逆に、副作用が生活を変えるか、費用が家計を圧迫するなら、得られるものを厳しく確かめてから決めることになります。
そして、その天秤に納得できるかどうかを決めるのは本人です。同じ数字を見ても、長く生きることを最優先する人と、食べられる日々を大切にする人では、結論が違ってよいのです。
実際に当てはめると、どうなりますか?
主な取り組みを、同じ物差しで並べます。まず、何がわかっているかです。
| 取り組み | 試験の型 | 測ったもの | 対照群との差 |
| 運動 | ランダム化比較試験 | 無病生存(大腸がん術後) | 5年で80.3%対73.9% |
| 免疫栄養 | メタ解析 | 術後合併症・在院日数 | どちらも減少 |
| 高濃度ビタミンC(経口) | 二重盲検試験2件 | 生存 | 差は示されず |
| フコイダン | 二重盲検試験 | 病勢制御率(転移大腸がん) | 92.8%対69.2%。生存では差なし |
| 牛車腎気丸 | 二重盲検試験 | 末梢神経障害の予防 | 予防できず |
| フアイア | ランダム化比較試験(非盲検) | 無再発生存(肝細胞がん術後) | 96週で62.39%対49.05% |
次に、負担です。
| 取り組み | 副作用(対照群との差) | 費用 |
| 運動 | 筋骨格系 18.5%対11.5% | ほぼゼロ |
| 免疫栄養 | ガイドラインに特記なし | 栄養剤の費用 |
| 高濃度ビタミンC(経口) | ー | 製品による |
| フコイダン | 差を認めず | 製品による |
| 牛車腎気丸 | 神経障害 50.6%対31.2% | 保険適用 |
| フアイア | 有害事象 25.5%対22.8% | 自由診療 |
運動には、生存の差が出ています
大腸がんの術後補助化学療法を終えた889例を対象に、3年間の運動プログラムと健康教育を比べた試験です。中央値7.9年の追跡で、5年無病生存率は80.3%と73.9%。8年全生存率は90%と83%でした(Courneya KS, et al. N Engl J Med. 2025)。
保険で処方される薬ではありませんが、生存に差が出ています。費用はほぼかかりません。
ビタミンCは、経口では否定されています
進行がんを対象とした二重盲検試験が2件行われ、いずれも有効性は示されませんでした。その後、経口と静注では血中濃度が大きく異なることが示され、静注での再評価が進んでいます。抗がん剤と組み合わせた第3相試験(大腸がん、442人)では、主要な評価項目に差は出ていません(Wang F, et al. Clin Cancer Res. 2022)。静注だけを使う場合を比べた試験は、確認できた範囲では報告がありません。経口で差が出なかったことは、静注で効かないことの証明にはなりません。
フコイダンは、評価項目で結論が変わります
主要評価項目の病勢制御率では差がつきました。一方、全生存期間、無増悪生存期間、奏効率、生活の質には差がありませんでした。先ほどの図でいえば、短い指標では差が出て、長い指標では出なかったということです。
牛車腎気丸は、逆の結果が出ました
抗がん剤による末梢神経障害の予防を狙った試験で、予防できないどころか神経障害が多いという結果になり、試験が途中で中止されています。多成分だから安全とも、効くとも言えません。
フアイアは、盲検化されていません
肝細胞がんの根治切除後1,044例を対象とした試験です。無再発生存率は96週で62.39%と49.05%、差は13.34ポイント。全生存率の差は3.73ポイントでした。
独特の味が再現できずプラセボを作れなかったため、盲検化されていません。論文自身がこれを限界として挙げています。用量は1日60gで、日本で処方される量とは桁が違います(Chen Q, et al. Gut. 2018)。
品質は、論文に記載があります
多成分の製剤で臨床試験を組み、国際誌に載せるには、製造の管理まで示す必要があります。何がどれだけ入っているかがロットで動けば、他の研究者が同じ試験を再現できないからです。
フアイアの論文には、原材料の調製と品質管理にクロマトグラフィーによるフィンガープリント分析を用いて有効成分の一貫性を確保していること、各バッチがGMP基準で製造されていることが記載されています。規格試験が閾値の確認であるのに対し、フィンガープリントは中身の構成そのものを示すものです。
【最新の知見】2026年8月更新
補完代替療法のまとまった資料は2016年版が最新です。それ以降の試験は含まれていないため、個別の療法については発表年を確かめてください。
分類や区分は、その物が効くかどうかを示していません。確かめるのは、どんな試験で、何を測って、対照群とどれだけ差がついたか。そして、どんな負担といくらの費用を引き受けるのか。その天秤に自分が納得できるかどうかが、答えになります。
僕は、エビデンスと安全性については妥協しません。要件から外してよいのは、なぜ効くのかが完全に解明されているかどうかだけだと考えています。
監修者
新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
よくある質問
Q補完代替療法は、やらないほうがよいのですか?
一律には決まりません。副作用が生活に響かず、費用も負担にならないなら、試す余地はあります。どちらかが大きいなら、エビデンスを確かめてから判断してください。
Q医師に相談すると否定されるのはなぜですか?
調査では、臨床腫瘍医の82%が健康食品類は無効と考えており、その理由の第1位は「信頼できる情報がない」でした。また84%が抗がん剤との相互作用を心配しています。使っているものは伝えてください。
Q副作用の数字は、どう読めばよいですか?
対照群との差で見てください。何も足していない群にも症状は出るため、片方の数字だけでは判断できません。
Qエビデンスが強い治療は、必ず効くのですか?
いいえ。試験の型が強いことと、その試験で効いたかどうかは別です。強い試験で有効性が否定されたものもあります。
Qサプリメントの品質は、どこで確かめられますか?
製造管理の認証、重金属や残留農薬の検査、原料の管理、成分量の表示を確認してください。食品は医薬品副作用被害救済制度の対象外であることも、あわせて知っておいてください。
参考文献
- Hyodo I, et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J Clin Oncol. 2005;23(12):2645-2654.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15728227/ - Hyodo I, et al. Perceptions and attitudes of clinical oncologists on complementary and alternative medicine: a nationwide survey in Japan. Cancer. 2003;97(11):2861-2868.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12767101/ - 日本緩和医療学会『がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016年版』
https://www.jspm.ne.jp/publication/guidelines/individual.html?entry_id=92 - Courneya KS, et al. Structured Exercise after Adjuvant Chemotherapy for Colon Cancer. N Engl J Med. 2025;393(1):13-25.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40450658/ - Chen Q, et al. Effect of Huaier granule on recurrence after curative resection of HCC: a multicentre, randomised clinical trial. Gut. 2018;67(11):2006-2016.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29802174/ - Wang F, et al. A Randomized, Open-Label, Multicenter, Phase 3 Study of High-Dose Vitamin C Plus FOLFOX ± Bevacizumab in Unresectable Untreated Metastatic Colorectal Cancer (VITALITY Study). Clin Cancer Res. 2022;28(19):4232-4239.
- Zafar SY, Abernethy AP. Financial toxicity, Part I: a new name for a growing problem. Oncology (Williston Park). 2013;27(2):80-81,149.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23530397/ - 国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法 もっと詳しく」(2025年11月6日更新)
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html





