高濃度ビタミンCの点滴は、日本では自由診療です。
単独で使った場合の効果を比べた試験は、まだ報告がありません。
一方で、抗がん剤と組み合わせた試験はいくつも行われています。結果は分かれています。
この記事では、実際に行われた臨床試験を年代順にたどります。何が示され、何が示されなかったのかを、試験ごとに見ていきます。
この記事の内容
なぜ「高濃度」なのか?
口から摂るのと点滴とでは、血液中の濃度が桁違いになるからです。

出典:Padayatty SJ, et al. Ann Intern Med. 2004/Bodeker KL, et al. Redox Biol. 2024
口から摂ったビタミンCは、腸での吸収と腎臓からの排泄で調節されます。たくさん飲んでも、血液中の濃度はある水準で頭打ちになります。
点滴では、この調節を飛び越えます。2024年の膵臓がんの試験では、点滴で血液中のビタミンCがマイクロモル単位からミリモル単位まで上がったと報告されています(Redox Biology)。
桁にして1,000倍の差です。この濃度でなければ起きない現象がある、というのが「高濃度」の意味です。
なぜ、がんに効くと考えられているのか?
高い濃度では、ビタミンCが過酸化水素を生み出すからです。
2005年、米国国立衛生研究所の研究班が、その仕組みを報告しました。ミリモル単位のビタミンCは、組織で過酸化水素を発生させる前駆物質のようにはたらきます。それががん細胞を選択的に死なせる、という内容です(PNAS、2005年)。
2014年には、その先の経路も報告されました。ビタミンCが細胞のDNAを傷つけ、エネルギー(ATP)を枯渇させます。そして増殖にかかわる経路を止める、という流れです(Science Translational Medicine、2014年)。
ただし、ここまでは培養細胞とマウスの話です。人の体の中で同じことが起きるかどうかは、臨床試験で確かめるほかありません。
最初の臨床試験は、どうなったのか?
1970年代の2つの試験は、いずれも差を示せませんでした。
発端は1970年代です。スコットランドで、末期のがん患者に大量のビタミンCを使うと生存期間が延びた、という報告が出ました。
これを受けて、米国のメイヨー・クリニックが比較試験を行いました。
- 1979年:進行がんの患者さん150人を、ビタミンC(1日10g)の群と、味を似せた偽薬の群に無作為に分けました。症状にも生存期間にも差はありませんでした(NEJM、1979年)
- 1985年:抗がん剤を受けたことのない進行大腸がんの患者さん100人で、同じ比較を行いました。病気が進むまでの期間にも生存期間にも差はなく、腫瘍が縮んだ人もいませんでした(NEJM、1985年)
この2つで、ビタミンCは一度、がん治療の選択肢から外れました。
ただし、どちらも口からの投与です。点滴ではありません。ここが、後に議論が再開する理由になります。
なぜ、また調べられるようになったのか?
点滴なら、口からでは届かない濃度に達することが分かったからです。
2004年に、口からの投与と点滴で血液中の濃度がどれだけ違うかを調べた研究が出ました(Annals of Internal Medicine)。
1970年代の試験が否定したのは「口から10g」であって、「点滴で高濃度」ではなかった。この整理から、点滴での試験が改めて始まりました。
抗がん剤と組み合わせた試験は、どうだったのか?
3つの試験があります。結果は分かれています。
卵巣がん(27人、2014年)
新たに診断されたステージ3または4の卵巣がんの患者さんを、無作為に2つの群に分けました。標準の抗がん剤(カルボプラチン+パクリタキセル)だけの群と、点滴のビタミンCを加えた群です。
ビタミンCを加えた群では、抗がん剤による軽い副作用が少なくなりました。グレード1〜2のものです(Science Translational Medicine、2014年)。
ただし人数が少なく、盲検化もされていません。副作用の数え方にも偏りが指摘されています。
大腸がん(442人、第3相、2022年)
転移のある大腸がんの患者さんを、2つの群に分けました。抗がん剤(FOLFOX、必要に応じてベバシズマブ)だけの群と、点滴のビタミンC(1日1.5g/kgを3日間)を加えた群です。
主要な評価項目である無増悪生存期間に、差はありませんでした。奏効率、全生存期間、副作用も同程度です。あらかじめ決めていた一部の集団では、無増悪生存期間が長いという結果でした。RAS遺伝子に変異のある人です(Clinical Cancer Research、2022年)。
膵臓がん(36人、2024年)
転移のある膵臓がんの患者さんを、2つの群に分けました。抗がん剤(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)だけの群と、ビタミンC(1回75gを週3回)を加えた群です。
全生存期間の中央値は、16か月と8.3か月でした(Redox Biology、2024年)。
この3つを、どう読めばいいのか?
規模と設計が違うので、重みも違います。
最も規模が大きいのは大腸がんの試験です。442人を集め、主要な評価項目で差が出ませんでした。この結果は重く見る必要があります。
膵臓がんの試験は36人です。生存期間の差は大きく見えますが、統計の基準を緩く設定した探索的な試験です。同じ結果が大きな試験で再現されるかは、これからの話です。
卵巣がんの試験は、がんを小さくする効果ではなく、副作用を減らす効果を見たものです。目的が違います。
つまり、「効く・効かない」で一言にはできません。何を目的に、どのがんで、どの規模で調べたのかによって、答えが変わります。
単独で使う場合は、どうなのか?
比べた試験の報告が見当たりません。
ここまで挙げた点滴の試験は、すべて抗がん剤との組み合わせです。点滴のビタミンCだけを使い、使わない場合と比べた試験は、確認できた範囲では報告がありません。
自由診療で行われているのは、多くがこの単独の使い方です。組み合わせの試験の結果を、単独の使い方の裏づけにはできません。
副作用や、受けられない人はいるか?
おおむね体への負担は小さいとされていますが、条件があります。
臨床試験では、参加の条件として次の点が確認されています。
- G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)が正常であること。この酵素が足りない人では、赤血球が壊れるおそれがあります
- 腎臓や肝臓の働きが保たれていること
腎機能に障害のある人が点滴を受けて腎不全を起こした例も報告されています。始める前に、血液検査でこれらを確認する必要があります。
受ける前に、何を確かめればいいか?
目的、使い方、費用の3つです。
- 何を目的にするのか。がんを小さくすることか、抗がん剤の副作用を軽くすることか
- 単独で使うのか、抗がん剤と組み合わせるのか。試験が行われてきたのは、組み合わせのほうです
- G6PDと腎機能を調べたか。1回いくらで、総額はいくらか
そして、担当医に話してください。今受けている治療との兼ね合いは、主治医でなければ判断できません。
この記事は、この治療をやめさせるためのものではありません。どの試験で何が示されたのかを知ったうえで、選ぶための材料です。
限界:ここから先は、まだわかっていません
- 点滴の単独投与を比べた試験は、確認できた範囲では報告がありません
- 併用で最も規模の大きい試験(大腸がん、442人)は、主要な評価項目で差が出ませんでした
- 生存期間の延長を示した試験(膵臓がん、36人)は小規模で、探索的な段階です
- RAS変異の集団での結果は、仮説を作る段階のものです
- 作用の仕組みは、主に培養細胞と動物で調べられた段階です
この記事の数字
- 150人・100人:1970年代の2つの比較試験の規模(いずれも口から1日10g、差なし)
- 27人:卵巣がんで抗がん剤の副作用を比べた試験(2014年、副作用が減少)
- 442人:大腸がんで併用を比べた第3相試験(2022年、主要な評価項目で差なし)
- 16か月 対 8.3か月:膵臓がんの小規模な試験での全生存期間の中央値(36人、2024年)
監修

新見正則(にいみ まさのり)
新見正則医院院長。1985年慶應義塾大学医学部卒業。1998年、英国オックスフォード大学にて移植免疫学の医学博士(Doctor of Philosophy)取得。2020年まで帝京大学医学部博士課程指導教授(外科学、移植免疫学、東洋医学)。2013年イグノーベル医学賞受賞(脳と免疫)。外科医、免疫学者、漢方医として臨床と研究の両方に携わる。
日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 消化器外科指導医/日本東洋医学会 漢方専門医/アメリカ外科学会フェロー(FACS)
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「副作用が少ない」とうたわれる治療は少なくありません。では、副作用のない抗がん剤はあるのでしょうか。
副作用のない抗がん剤はあるの?
診察でよく受ける質問です。まず「抗がん剤」とは何かを定義するところから答えています。
よくある質問
高濃度ビタミンC点滴は、保険で受けられますか?
いいえ。日本では臨床試験の一部を除き、自由診療として行われています。治療費は全額が自己負担です。
1970年代に否定されたのではないですか?
否定されたのは、口から1日10gを飲む方法です(1979年、1985年)。点滴で血液中の濃度を上げる方法は、その後に改めて調べられています。
効果はあるのですか?
目的とがんの種類によります。抗がん剤の副作用を減らした報告(卵巣がん)と、生存期間が延びた小規模な報告(膵臓がん)があります。一方で、最も規模の大きい試験(大腸がん、442人)では差が出ませんでした。
参考文献
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